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7. ガリア王国の王都に到着

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 ガリア王国に入ってからは、ちょっとした魔物が出たりはあったものの、大きな事件もなく王都に着いた。
 王都の門には多くの馬車や旅人が並んでいて、オレたちの順番が来るまではまだまだかかりそうだ。
 ご主人の肩でちょろちょろしているオレは周りの人たちに注目されているので、サービスで尻尾を揺らしてあげたら、大うけだった。

「ねこしゃん?」
「ミルコ、それはイタチだよ」
「いたち?」
「キキッ」

 多分近くの村から収穫物を運んできたんだろう馬車というか馬付きリアカーに子どもがいて、退屈しているようなので、遊んであげている。
 オレはご主人から離れているが、周りの大人は俺のリボンを見て、誰かのペットなんだろうと思っているようだ。

 子どもの前で尻尾をふりふりすると、捕まえようと手を伸ばしてくるので、サッと逃げる。3回に1回は捕まってあげるが、オレのサラサラの毛に包まれた尻尾は子どもの手からするりと抜ける。
 子どもはきゃっきゃとはしゃぎながら、オレを身体を撫でたり尻尾を掴もうと手を伸ばしたり、楽しそうだ。ときどき加減なく胴体を叩かれるのがちょっと痛いけど、子どもだしね。

 その間も馬車は少しずつ進み、門がだいぶ近くなったところで、子どもの保護者に、そろそろご主人様のところへお戻り、と小さなリンゴのような果物をもらった。
 オレはその果物を前足で掴んで、後ろ足だけで走ってご主人のところまで戻った。少しの距離なら二足歩行できるのだ。

「キリ、どこからとってきたの」

 ご主人、いきなり窃盗疑惑はないでしょー。もらったんだよ。
 ちょっとトイレ、とご主人から離れてしばらく戻らなかったオレが、果物持って帰ってきたらそう思われても仕方ないのか?そこまでオレ食い意地張ってると思われてる?
 ご主人はオレに子どものところまで案内させて、わざわざ確かめた。

「使役獣が果物を頂いたようなのだが」
「ああ、うちの子と遊んでくれて助かったよ。それは売り物にならないのだから、お礼に貰っておくれ」
「感謝する」

 ほら、ちゃんともらってたでしょ。
 ぷりぷりしていたら、後からお金を払わなかったといちゃもんをつけて使役獣を取り上げるようなことが実際にあって、ご主人はそれを警戒しているのだとキースが教えてくれた。

 オレちょっと油断してたかも。
 いちゃもんもだけど、この小さなボディでは、あの時周りに悪い奴がいて攫われても抵抗できないし、ご主人も気付かない。こんな人目のあるところで、と思うのは日本が基準だからだ。
 お屋敷で可愛い可愛いと甘やかされて、平和ボケしすぎてたなと反省した。ご主人から離れないようにしよう。


 商会の番が来て、ご主人たちもギルドカードをチェックされ、オレはギルドにもらった使役獣のプレートを見せる。
 使役獣には契約主の名前が入ったプレートが配られて、見えるところにそれを着けていなければならない。着けていなくて攫われたり斬られたりしても文句は言えない。オレのプレートは、お母さんが首のリボンに簡単に通せるようにしてくれたので、毎朝リボンに通して一緒に着けている。
 商会の荷物のチェックも無事に終わって、王都に入った。

 商会の倉庫で護衛依頼は完了し、依頼完了の書類を貰って解散だ。
 帰る前に商会の人から、侯爵家に手紙を出すのであれば、商会の書類と一緒に運ぶので、いつでも持って来てくれと申し出があった。商会はご主人と家との関係を正確に掴んでいるのだろう。その時は頼むと返事をして、商会を後にした。


 ギルドは国を越えた組織だ。でないと国を跨いだ依頼が出せないから当然だが、ギルドカードに入っているお金も、どこの国でも引き出せる。
 サーバーはどこにあって、どうやってアクセスしているんだと聞きたくなるが、きっとファンタジーならなんでもありなんだろう。はあ、そんなクラウドがあればオレの日本での仕事ももっと楽だったのになあ。

 依頼完了の手続き後、国境を越えて最初の街のギルドマスターからもらった紹介状を受付で出したところ、会議室に案内された。

「お待たせしました。当ギルドの受付の責任者のパルメロです。今日はギルド長も副ギルド長も不在のため、私が対応いたします」
「突然で済まない。ミリアルで活動していた剣士のキースと魔法使いのフレッド、フレッドの使役獣のキリだ。アラトロの街のギルドマスターに、まず最初にこれをギルドに渡すように言われた。しばらくこの国で活動したいが、この国について何も知らないんだ」
「黒剣と氷姫が来てくれるとは嬉しいですね」

 二つ名キター!キースが黒剣で、ご主人が氷姫か。ご主人、姫って感じじゃないけど美人だしな。
 ご主人が氷姫って誰だ?って首をかしげているけど、貴方ですよ。クールビューティーなフレッドさん。

「俺は男だし、氷魔法は得意ではないが」

 うん、違うからね。そっちの氷じゃないからね。
 オレもそのうち二つ名着くかなあ。何がいいかなあ。慈悲深い可愛いオコジョ。うーん、思いつかない。オレの中の眠れし闇の能力は眠ったままのようだ。

 オレが自分の二つ名を考えているうちに、話は進んで、最初はギルド側から問題なさそうな依頼をあっせんすること、指名依頼は全て断ることなどが決まっていた。
 まだこの国で名の売れていないオレたちに指名依頼が入るとすれば、それはオレの治癒能力目当てだろうから、まだ治癒術師としての活動に慣れていないオレたちでは対応できないだろうというギルドの配慮だ。

 この国の北には、魔の森と呼ばれる瘴気が渦巻く森があり、そこには強い魔物がいる。その入り口となる街が魔の森関連の依頼が多く、冒険者には人気だ。次に
依頼が多いのはやはりここ王都だ。ただ、王都のすぐ近くには魔物もあまり出ないので、王都で受けて地方へ行って魔物の素材などを取ってくるという依頼が多い。
 ふたりの能力なら魔の森で活躍できそうだが、治癒魔法も求められるだろうから慣れないまま行くとトラブルになりかねない。

 まずは、冒険者の治癒術師と会って、それから活動方針を決めたほうがいいので、それまでは王都で治癒魔法の絡まない依頼を受けることになった。

「冒険者の治癒術師はそれなりにいるのか?」
「王都を拠点にしているパーティーで1人いますが、この国全体でも10人はいないでしょう。それに使える魔法もまちまちで、治癒魔法に特化しているのは、王都にいるその1人だけです。彼女は戦闘はできませんが治癒の腕は高い。ただ戦闘が出来ないので、魔の森では浅い部分でしか活動できなくて、王都を拠点にしています」

 戦えないのはオレも一緒だけど、オレの場合はご主人のベルトについたバッグに隠れていられるから、小ささと可愛さの勝利だな。
 このバッグ、お母さんとエマさんが改良を重ねて作ってくれたものだが、外側はなんとワイバーンの皮でできている。魔法にも物理的な攻撃にも強い素材だ。ご主人のマジックバッグといい、貴族の財力ってすごいね。

「この国の貴族に伝手はありますか?氷姫はミリアルの貴族ですよね」
「俺は貴族の籍は抜けているが、フルラ伯爵家に挨拶に行くようには言われている」
「貴族からの囲い込みの対策のためにも早めにご挨拶しておいたほうがいいでしょう。さきほどの治癒特化の冒険者も貴族の後ろ盾を受けています」

 やっぱり治癒術師はここでも人気なのか。フルラ伯爵家と言うのは、お母さんの従妹が嫁いでいる家だそうで、家から先に連絡が行っているはずだ。

 最後にご主人がオレのために、使役獣がいるパーティーも紹介してもらえるようにお願いしてくれた。ありがとう。
 どんなもふもふに会えるのか、楽しみだなあ。
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