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ガリア王国王宮編
4. お久しぶり
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王都についた。
魔の森に行く前に少しだけ滞在したところだけど、姫と筋肉の印象しかない王都だ。
商会と別れたところで、まずは宿を取ろうと言うキュリアンを、ご主人が止めた。
「伯爵家で宿を用意しているかもしれないので、まずギルドに伝言がないか聞きに行ったほうがいい」
「そうなのか?」
「ああ。向こうの都合で呼び出す場合は、宿が用意されることが多い」
「なるほどな。貴族の対応はフレッドに任せる。俺たちにはルールがよく分からん。貴族がお抱えのパーティー持つのも分かるな」
たしかに。冒険者も貴族も、毎回お互いのルールの違いに戸惑うくらいなら、お抱えを作っておいた方が楽だよな。
冒険者ギルドに行くと、屋敷に来てほしいと言う伝言があったので、まずはお屋敷へ向かうことになった。
ロビンバルは、ジルを寄越せと言われる以外では、今まで貴族と関わってこなかったというか、避けていた。だから貴族の屋敷に行くのは初めてで、すでに緊張している。
「おいキース、作法とかどうすればいいんだ」
「俺に聞くな。失礼なことを言わなければ大丈夫だろ。向こうだって冒険者に完ぺきなマナーなんて求めてないさ」
「そういうものか?」
「他の貴族は知らんが、フレッドの親戚なんだ。変なことにはならないだろ。マナーはフレッドの真似をしてればいい」
「ジルは大丈夫かな?」
「飛び掛かりさえしなければ大丈夫なんじゃないか?」
大丈夫だよ。オレのことも撫でて可愛がってくれたから、いい人だよ。
そんな話をしながら歩いて、貴族街の一角にあるお屋敷についた。使用人が使う門に回って、門番の人にパーティー名を告げると、しばらくお待ちください、と一人が中に入って行った。
「これで裏門なのか?」
「おい、俺たちやっぱり別行動でいいんじゃないか?」
「ミリアルに行ったら侯爵家だぞ」
「フレッド、俺たちいきなり無礼だって斬られたりしないよな?」
「ない。無礼なことをしなければ大丈夫だ」
「いやその無礼っていうのが、何が無礼か分からないから困ってんだよ」
門の前でわちゃわちゃしている奴らを、門番の人がちょっと笑いながら見ている。ジルはその門番の人に愛想を振りまいているが、無視されてしょぼんとしている。さすがに仕事中には撫でられないんだろうから、落ち込むな。
そうこうしているうちに、中に入って行った人が使用人を連れて帰って来たけど、その1人が見覚えがある人だ。
エマさーーーん!ぐえっ!
「キリ……」
「まあまあ、キリ様、大丈夫ですか?」
首輪がジルと繋がってるの忘れて、エマさんに向けてダッシュしたら首が締まった。不覚。
ご主人が首輪を外してくれたので、今度こそエマさんに向かってジャンプ!お久しぶりー。会いたかったよー。
「エマ、どうしてガリアに?」
「ご無沙汰いたしております。奥様の命で王都にいらっしゃる間のキリ様のお世話に参りました。坊ちゃま方が野盗を討伐して下さって街道の行き来が安全になりましたので。キースさんもお久しぶりです」
キースと挨拶を交わした後、ご主人がキュリアンたちを紹介したら、3人ともぎこちなくお辞儀をしてる横で、ジルがエマさんに期待した目を向けている。めっちゃいい人だけど、いたずらしたらめっちゃ怖いからな。気をつけろよ。
まずはお部屋へとエマさんと一緒に来た、このお屋敷の使用人が案内してくれるので、歩きながらご主人が忘れないうちにと、オレのハーネスのことを話している。
「エマ、キリとジルのハーネスを作りたい」
「キリ様には首輪よりもよさそうですね。ご希望の素材はおありですか?」
「任せるが、柔らかい素材を使ってほしい」
「畏まりました」
「お、おい、ジルのもか?俺払えないぞ?」
「ご安心くださいませ。キリ様に関するものについては、全てヒラリク侯爵家でご用意いたします」
お父さん、お母さん、いつもありがとう!
リュードたちが「貴族の金の使い方ってよく分かんねえな」と言っているけど、聞こえてるからね。
案内された部屋は、お屋敷の隅の方にあるお客さんとしてきた貴族の使用人が泊る部屋らしい。といってもその辺の普通の宿よりは豪華だよ。部屋にお風呂はないけど、リビングと寝室が分かれている。
「こちらのお部屋でよろしいでしょうか。ご希望でしたら本館の客室のご用意も可能です」
「こちらでよろしいです」
ご主人の視線を受けたキュリアンがおかしな返事をして全力で頷いているけど、首が取れそう。そんなに緊張しなくても大丈夫だってば。そんなに高価な調度品もなさそうだし。
使用人でこの部屋なのか、と部屋を見回している4人とは対照的に、ご主人はどうでもよさそう。ご主人、そういうところが浮世離れしてるって言われちゃうんだよ。
部屋分けは、キースとご主人で1部屋、キュリアンたち3人とジルで1部屋だ。
今日はゆっくり休んで疲れをとってから、明日伯爵と伯爵夫人に会う。
でもその前に、まずはジルのシャンプーだ。ジルは綺麗にしないと建物に入っちゃいけないと言われてリュードと外で待っているのだ。おふっろ~、おっふろ~。るんるん。
オレ用の桶に入って、エマさんの手で石鹸を泡立てて洗ってもらっているけど、やっぱりエマさんの手で洗ってもらうのは気持ちいい。
まだ生まれたばっかりだったころ、同じようにエマさんに世話をされていたの思い出して、懐かしい気持ちになった。
「キリ様、少し大きくなられましたね。後程リボンの長さを調整しましょうね」
「そうか?」
「毎日ご覧になっている坊ちゃまはお気づきになれないかもしれませんね」
え、ほんと?オレ成長したの?やったー。
オレがほのぼのと洗われているところから少し離れたところで、ジルもここのお屋敷の使用人に洗われている。リュードは自分が洗うって言ったんだけど、お客様ですのでとやんわり断られていた。そういうときの、やんわりと、でも有無を言わせない感じってすごいよね。ジルも何かを感じているのか、ぶるぶるも必死で我慢して大人しくしている。
「エマ、ジルの分も石鹸を用意して欲しい」
「畏まりました。キリ様、身体を拭きますね」
はーい。エマさん、ありがとう!今日はエマさんとお揃いのリボンがいいな。
優しくタオルドライの後は、ご主人の豪快な風魔法ドライヤーで乾燥だ。ちなみに俺が飛んでいってしまわないように、エマさんが押さえていてくれるのも、子どものころから変わらない。今はもう大きくなったから、飛んでいかないと思うけどね。
「キリはほんとにエマさんが好きだな」
「成獣するまではエマが世話をしてくれていたから、キリにとっては乳母なんだろう」
乳母っていうより、面倒を見てくれたお姉ちゃんだよ。大好き!
翌日、ご主人とキースはお母さんがミリアルで用意してくれた服を、キュリアンたち3人は昨日のうちに使用人が用意してくれたちょっと小綺麗な服を着て、伯爵と伯爵夫人とご対面だ。オレはご主人とお揃いのリボンだよ。
前回の時はお母さんの従妹である伯爵夫人にしか会っていないので、伯爵に会うのはオレたちも初めてだ。
ご主人のお父さんとお兄さんの間くらいの年齢に見える、がっしりしていて威厳がある感じの人だった。
「楽にしてくれ。わざわざ来てもらって悪いな」
「お招き有難うございます。お初にお目にかかります。冒険者の」
「ああ、よいよい。キリくんは聞いていたが、もう1匹増えているな。ジルくんおいで。ほら、おやつをやろう」
伯爵がもふらーだった件。
キュリアンが一生懸命練習していた口上を遮って、ジルに干し肉を見せて呼び寄せようとしているが、ジルは許可を待ってリュードを見上げている。
「リュード、ジルに許可を」
「あ、え?ああ……、ジル、いいぞ」
リュードの許可が出るとすぐに、わーい!とジルが干し肉に飛びついた。つまり、伯爵に飛びついた。リュードは慌ててジルを止めようとしているし、メイドさんが悲鳴をあげそうになっているし、場が騒然としているけど、1人と1匹は楽しそうだ。
「美味いか?」
「ワッフ!」
「おおそうか、よしよし、いい子だ。キリくんの物はヒラリク侯爵家で用意するそうだが、ジルくんの物はうちで用意しよう」
伯爵、厳つい顔のジルを躊躇いなく呼び寄せるあたり、けっこう重症なもふらーっぽい。
あーあ、ジルが伯爵の手をべろんべろんに舐めてから、顔もべろんべろんしている。伯爵は満面の笑みだけど、リュードの顔が真っ青になってるよ。
「キリくん、元気にしていましたか?ビスケットがありますよ」
「キッ!」
はーい!ビスケットいただきます!ぽりぽり、うまうま。
「ルフェラ様、ありがとうございます」
「フレデリクも元気そうで安心しました。この国にはもう慣れましたか?」
「はい。キュリアンたちが助けてくれましたので」
ほのぼの動物交流会をしていたら、ジルを撫でている伯爵から思わぬ話が出た。
「キリくんを誘拐しようとした子どもの家は潰しておいた。それとは別に、陛下に謁見することになった。ジルくんもおめかししような。よしよし」
「謁見……、私たちもですか?」
「全員だ。ミリアルから第二王子殿下もいらっしゃる。ハルキス殿も来るぞ」
おお、お兄さんも来るんだ。
王様に謁見ということでキュリアンがビビっているけど、伯爵曰く、ガリアとミリアルの混合チームというのを強調するためにも、ガリア出身のキュリアンたちの出席は必須らしい。なるほど、オレがどっちの国とも仲良くしていますよっていうアピールね。
フルラ伯爵家は、それなりに名家ではあるけど、同じ伯爵家の中でも小さいほうで大貴族って訳じゃない。伯爵がミリアルに留学していた時に伯爵家ご令嬢だった奥さんと知り合って、結婚するために奥さんがガリアに来たんだけど、それも国の力関係とかに気にしなくていい家同士だからすんなり出来たことだそうだ。
それが、ここに来ていきなり注目の家になってしまった。
奥さんと隣国の侯爵家夫人であるお母さんが従姉妹っていう、近くはないけど遠くもない親戚関係があるから、なんかあったら使えるかもねくらいの重要度だった家が、いきなりオレという重要人物じゃなくて重要動物の後見をすることになったのだ。
前回オレたちがよろしくお願いしますって挨拶して魔の森に移動してから、国境の野盗討伐でオレが治癒魔法乱発した噂が王都に届いて、その後見がフルラ伯爵家だと知れて、貴族の力関係的にはひっそりと大騒動になっていたらしい。
そんな中、派閥の力関係とか全く無視してぼんぼんがオレにからんじゃったから、ぼんぼんの家が属する派閥はトップがわざわざ挨拶に来たらしいよ。
そんな騒動がついには王様の耳にも入って、謁見をという話になったんだけど、冒険者とはいえもともとミリアルの貴族のご主人の使役獣ということで、ミリアルの王子様も来ることになったんだとか。
多分もっといろいろ駆け引きがあったんだろうけど、よく分からないし、知らなくても困らないからね。
そんなこんなで王子様がつくまで待たないといけない。それまで服の採寸とか謁見の準備が終われば自由にしていいそうだから、しばらくはのんびりしよう。
ジル、きっとここのご飯は美味いぞ。
魔の森に行く前に少しだけ滞在したところだけど、姫と筋肉の印象しかない王都だ。
商会と別れたところで、まずは宿を取ろうと言うキュリアンを、ご主人が止めた。
「伯爵家で宿を用意しているかもしれないので、まずギルドに伝言がないか聞きに行ったほうがいい」
「そうなのか?」
「ああ。向こうの都合で呼び出す場合は、宿が用意されることが多い」
「なるほどな。貴族の対応はフレッドに任せる。俺たちにはルールがよく分からん。貴族がお抱えのパーティー持つのも分かるな」
たしかに。冒険者も貴族も、毎回お互いのルールの違いに戸惑うくらいなら、お抱えを作っておいた方が楽だよな。
冒険者ギルドに行くと、屋敷に来てほしいと言う伝言があったので、まずはお屋敷へ向かうことになった。
ロビンバルは、ジルを寄越せと言われる以外では、今まで貴族と関わってこなかったというか、避けていた。だから貴族の屋敷に行くのは初めてで、すでに緊張している。
「おいキース、作法とかどうすればいいんだ」
「俺に聞くな。失礼なことを言わなければ大丈夫だろ。向こうだって冒険者に完ぺきなマナーなんて求めてないさ」
「そういうものか?」
「他の貴族は知らんが、フレッドの親戚なんだ。変なことにはならないだろ。マナーはフレッドの真似をしてればいい」
「ジルは大丈夫かな?」
「飛び掛かりさえしなければ大丈夫なんじゃないか?」
大丈夫だよ。オレのことも撫でて可愛がってくれたから、いい人だよ。
そんな話をしながら歩いて、貴族街の一角にあるお屋敷についた。使用人が使う門に回って、門番の人にパーティー名を告げると、しばらくお待ちください、と一人が中に入って行った。
「これで裏門なのか?」
「おい、俺たちやっぱり別行動でいいんじゃないか?」
「ミリアルに行ったら侯爵家だぞ」
「フレッド、俺たちいきなり無礼だって斬られたりしないよな?」
「ない。無礼なことをしなければ大丈夫だ」
「いやその無礼っていうのが、何が無礼か分からないから困ってんだよ」
門の前でわちゃわちゃしている奴らを、門番の人がちょっと笑いながら見ている。ジルはその門番の人に愛想を振りまいているが、無視されてしょぼんとしている。さすがに仕事中には撫でられないんだろうから、落ち込むな。
そうこうしているうちに、中に入って行った人が使用人を連れて帰って来たけど、その1人が見覚えがある人だ。
エマさーーーん!ぐえっ!
「キリ……」
「まあまあ、キリ様、大丈夫ですか?」
首輪がジルと繋がってるの忘れて、エマさんに向けてダッシュしたら首が締まった。不覚。
ご主人が首輪を外してくれたので、今度こそエマさんに向かってジャンプ!お久しぶりー。会いたかったよー。
「エマ、どうしてガリアに?」
「ご無沙汰いたしております。奥様の命で王都にいらっしゃる間のキリ様のお世話に参りました。坊ちゃま方が野盗を討伐して下さって街道の行き来が安全になりましたので。キースさんもお久しぶりです」
キースと挨拶を交わした後、ご主人がキュリアンたちを紹介したら、3人ともぎこちなくお辞儀をしてる横で、ジルがエマさんに期待した目を向けている。めっちゃいい人だけど、いたずらしたらめっちゃ怖いからな。気をつけろよ。
まずはお部屋へとエマさんと一緒に来た、このお屋敷の使用人が案内してくれるので、歩きながらご主人が忘れないうちにと、オレのハーネスのことを話している。
「エマ、キリとジルのハーネスを作りたい」
「キリ様には首輪よりもよさそうですね。ご希望の素材はおありですか?」
「任せるが、柔らかい素材を使ってほしい」
「畏まりました」
「お、おい、ジルのもか?俺払えないぞ?」
「ご安心くださいませ。キリ様に関するものについては、全てヒラリク侯爵家でご用意いたします」
お父さん、お母さん、いつもありがとう!
リュードたちが「貴族の金の使い方ってよく分かんねえな」と言っているけど、聞こえてるからね。
案内された部屋は、お屋敷の隅の方にあるお客さんとしてきた貴族の使用人が泊る部屋らしい。といってもその辺の普通の宿よりは豪華だよ。部屋にお風呂はないけど、リビングと寝室が分かれている。
「こちらのお部屋でよろしいでしょうか。ご希望でしたら本館の客室のご用意も可能です」
「こちらでよろしいです」
ご主人の視線を受けたキュリアンがおかしな返事をして全力で頷いているけど、首が取れそう。そんなに緊張しなくても大丈夫だってば。そんなに高価な調度品もなさそうだし。
使用人でこの部屋なのか、と部屋を見回している4人とは対照的に、ご主人はどうでもよさそう。ご主人、そういうところが浮世離れしてるって言われちゃうんだよ。
部屋分けは、キースとご主人で1部屋、キュリアンたち3人とジルで1部屋だ。
今日はゆっくり休んで疲れをとってから、明日伯爵と伯爵夫人に会う。
でもその前に、まずはジルのシャンプーだ。ジルは綺麗にしないと建物に入っちゃいけないと言われてリュードと外で待っているのだ。おふっろ~、おっふろ~。るんるん。
オレ用の桶に入って、エマさんの手で石鹸を泡立てて洗ってもらっているけど、やっぱりエマさんの手で洗ってもらうのは気持ちいい。
まだ生まれたばっかりだったころ、同じようにエマさんに世話をされていたの思い出して、懐かしい気持ちになった。
「キリ様、少し大きくなられましたね。後程リボンの長さを調整しましょうね」
「そうか?」
「毎日ご覧になっている坊ちゃまはお気づきになれないかもしれませんね」
え、ほんと?オレ成長したの?やったー。
オレがほのぼのと洗われているところから少し離れたところで、ジルもここのお屋敷の使用人に洗われている。リュードは自分が洗うって言ったんだけど、お客様ですのでとやんわり断られていた。そういうときの、やんわりと、でも有無を言わせない感じってすごいよね。ジルも何かを感じているのか、ぶるぶるも必死で我慢して大人しくしている。
「エマ、ジルの分も石鹸を用意して欲しい」
「畏まりました。キリ様、身体を拭きますね」
はーい。エマさん、ありがとう!今日はエマさんとお揃いのリボンがいいな。
優しくタオルドライの後は、ご主人の豪快な風魔法ドライヤーで乾燥だ。ちなみに俺が飛んでいってしまわないように、エマさんが押さえていてくれるのも、子どものころから変わらない。今はもう大きくなったから、飛んでいかないと思うけどね。
「キリはほんとにエマさんが好きだな」
「成獣するまではエマが世話をしてくれていたから、キリにとっては乳母なんだろう」
乳母っていうより、面倒を見てくれたお姉ちゃんだよ。大好き!
翌日、ご主人とキースはお母さんがミリアルで用意してくれた服を、キュリアンたち3人は昨日のうちに使用人が用意してくれたちょっと小綺麗な服を着て、伯爵と伯爵夫人とご対面だ。オレはご主人とお揃いのリボンだよ。
前回の時はお母さんの従妹である伯爵夫人にしか会っていないので、伯爵に会うのはオレたちも初めてだ。
ご主人のお父さんとお兄さんの間くらいの年齢に見える、がっしりしていて威厳がある感じの人だった。
「楽にしてくれ。わざわざ来てもらって悪いな」
「お招き有難うございます。お初にお目にかかります。冒険者の」
「ああ、よいよい。キリくんは聞いていたが、もう1匹増えているな。ジルくんおいで。ほら、おやつをやろう」
伯爵がもふらーだった件。
キュリアンが一生懸命練習していた口上を遮って、ジルに干し肉を見せて呼び寄せようとしているが、ジルは許可を待ってリュードを見上げている。
「リュード、ジルに許可を」
「あ、え?ああ……、ジル、いいぞ」
リュードの許可が出るとすぐに、わーい!とジルが干し肉に飛びついた。つまり、伯爵に飛びついた。リュードは慌ててジルを止めようとしているし、メイドさんが悲鳴をあげそうになっているし、場が騒然としているけど、1人と1匹は楽しそうだ。
「美味いか?」
「ワッフ!」
「おおそうか、よしよし、いい子だ。キリくんの物はヒラリク侯爵家で用意するそうだが、ジルくんの物はうちで用意しよう」
伯爵、厳つい顔のジルを躊躇いなく呼び寄せるあたり、けっこう重症なもふらーっぽい。
あーあ、ジルが伯爵の手をべろんべろんに舐めてから、顔もべろんべろんしている。伯爵は満面の笑みだけど、リュードの顔が真っ青になってるよ。
「キリくん、元気にしていましたか?ビスケットがありますよ」
「キッ!」
はーい!ビスケットいただきます!ぽりぽり、うまうま。
「ルフェラ様、ありがとうございます」
「フレデリクも元気そうで安心しました。この国にはもう慣れましたか?」
「はい。キュリアンたちが助けてくれましたので」
ほのぼの動物交流会をしていたら、ジルを撫でている伯爵から思わぬ話が出た。
「キリくんを誘拐しようとした子どもの家は潰しておいた。それとは別に、陛下に謁見することになった。ジルくんもおめかししような。よしよし」
「謁見……、私たちもですか?」
「全員だ。ミリアルから第二王子殿下もいらっしゃる。ハルキス殿も来るぞ」
おお、お兄さんも来るんだ。
王様に謁見ということでキュリアンがビビっているけど、伯爵曰く、ガリアとミリアルの混合チームというのを強調するためにも、ガリア出身のキュリアンたちの出席は必須らしい。なるほど、オレがどっちの国とも仲良くしていますよっていうアピールね。
フルラ伯爵家は、それなりに名家ではあるけど、同じ伯爵家の中でも小さいほうで大貴族って訳じゃない。伯爵がミリアルに留学していた時に伯爵家ご令嬢だった奥さんと知り合って、結婚するために奥さんがガリアに来たんだけど、それも国の力関係とかに気にしなくていい家同士だからすんなり出来たことだそうだ。
それが、ここに来ていきなり注目の家になってしまった。
奥さんと隣国の侯爵家夫人であるお母さんが従姉妹っていう、近くはないけど遠くもない親戚関係があるから、なんかあったら使えるかもねくらいの重要度だった家が、いきなりオレという重要人物じゃなくて重要動物の後見をすることになったのだ。
前回オレたちがよろしくお願いしますって挨拶して魔の森に移動してから、国境の野盗討伐でオレが治癒魔法乱発した噂が王都に届いて、その後見がフルラ伯爵家だと知れて、貴族の力関係的にはひっそりと大騒動になっていたらしい。
そんな中、派閥の力関係とか全く無視してぼんぼんがオレにからんじゃったから、ぼんぼんの家が属する派閥はトップがわざわざ挨拶に来たらしいよ。
そんな騒動がついには王様の耳にも入って、謁見をという話になったんだけど、冒険者とはいえもともとミリアルの貴族のご主人の使役獣ということで、ミリアルの王子様も来ることになったんだとか。
多分もっといろいろ駆け引きがあったんだろうけど、よく分からないし、知らなくても困らないからね。
そんなこんなで王子様がつくまで待たないといけない。それまで服の採寸とか謁見の準備が終われば自由にしていいそうだから、しばらくはのんびりしよう。
ジル、きっとここのご飯は美味いぞ。
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