オコジョに転生したので、可愛い飼い主の夜を覗いてます

犬派だんぜん

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ガリア王国王宮編

5. 雨降って地固まる。降らせたのはオレ

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「その、キース、今夜は……」
「フレッド、悪い。さすがに貴族の屋敷ではハードルが高い」
「そうだ、な。悪かった。もう休もう」

 ご主人が務めて明るく返しているけど、落胆は隠せていない。
 ここよりもさらに高級な調度品に囲まれて育ったご主人とオレからするとなんとも思わないけど、庶民のキースにはそもそも貴族の屋敷っていうだけで、心理的にハードルが高いのかもしれない。
 ベッドに入って、ご主人の頬をそっと撫でて額にキスをするキースからは愛情が伝わってくるが、今までもっと強引に求められるばっかりだったご主人は戸惑っている。ほんとにキース、どうしちゃったんだろう。

 翌日、朝から元気のないご主人が、オレを抱きしめて、オレにしか聞こえないような小さな声で言った。

「キースは私に飽きたんだろうか……」

 違うと思うよ。ちょっとキースの鬼畜成分が留守にしているだけだよ。冒険者ギルドとかでご主人に近寄ろうとする野郎どもを牽制しているのは前と一緒だから、ご主人への想いに変化があった訳じゃないと思う。
 でもほんと鬼畜成分どこ行っちゃったんだろう。オレが浄化しちゃった?


 その日の昼、部屋でご主人に言葉を教えてもらってる最中に、エマさんがご主人を呼びに来て一緒に部屋を出て行った。オレはどっちでもいいって言われたので、キースと残った。
 なんでって?このわからんちんに言いたいことがあるからだよ。文字の一覧を順に前足で指してキースに示す。

「ふあん、はなす。ん?お前の不安を聞いてほしいのか?」

 ちがーう。そうじゃなくて、キースの不安でもなくて、話すのはキースだけど。
 何度も首を縦や横に振った後に、やっと正解にたどり着いた。

「フレッドが不安になってるから話しをしろってことか」

 そうだよ。今まであれだけご主人の身体を好き放題してきたのに、いきなり普通になったらご主人が不安になるだろう。っていうか、ご主人はキースしか知らないんだから、今のほうが普通ってことが分からないんだよ。もうちょっと気を遣え、おたんこなす。

「不安ね。はあ……、知ってるか?俺はフレッドとお前に寄生しているって言われてる。まあ自分でもそう言われても仕方ないと思うが」

 え?そうなの?ミリアルでは、冒険者としての評価はキースのほうが高かったよね?
 オレのどういうこと?という首をかしげたアピールにキースが教えてくれた。

 もともと魔力が多かった上にオレが魔力回復するので上級魔法をバカスカ撃てるご主人は、冒険者の魔法使いとしてはトップクラスへと一気に躍り出た。しかもそれなりに剣も使えるから、使役獣のオレを含めると、ひとりで前衛から後衛かつ回復もできる。ご主人は今を時めく冒険者になった。
 そんなご主人を独り占めしているキースに対する風当たりは、オレたちの目に入らないところではけっこう強いらしい。キースは剣士としてはまあ強いほうだが、それくらいの冒険者は辺境にはそれなりにいる。実際、1対1で戦ったらキュリアンとブノワのほうが強い。
 キースがギルドからも周りの冒険者からも重宝されているのはご主人のオマケだからであって、稼げるのもロビンバルに入れたのもご主人のおかげだと言われるそうだ。
 オレの言葉でまとめると、キースはご主人のヒモという評価ってことだな。へえ。

「お、おい、いきなりなんだ!いたっ!かじるな、こらっ」

 不安なのはキースのほうだったのか。前にも貴族の生活のほうがいいんじゃないかとか言ってたけど、ご主人に釣り合う自信がないんだな。

 だとしてもだ。
 お父さんにご主人を幸せにするって言った癖に、今更何言ってるんだ。根性を見せろ!ぼけなす!

 キースに噛みついていたら、ご主人が帰って来た。

「キリ、明日ハーネスを作るために職人が来てくれることになったよ。どうした?キースと遊んでるのか?」
「いや、なんか噛みつかれてるんだが、助けてくれ」
「え、どうした?キースが何かした?」

 ご主人、キースがご主人のこと幸せにする自信がないとか言い出したから、こんな根性無しはやめて次行こうよ!きっとご主人にもっと相応しい人がいるよ!

「キリ、それは……」

 キースに噛みつくオレを抱きあげたご主人に、もうこんな奴捨てちゃえって言ったら、ご主人が固まった。あ、ご主人が泣きそう。
 失敗した!違うよ、キースはご主人のことが好きだよ、嫌いになった訳じゃないよ。ごめんなさい。

「フレッド、どうした?おい、大丈夫か?」
「私の何がダメなんだ。どうすればいい?どうすれば……」

 違うよ、ごめんね。ご主人が悪いんじゃないよ。キースにちゃんと聞いて。
 そこのすっとこどっこい、ちゃんと話せ!今すぐ話せ!きりきり話せ!さあ話すんだ!

「フレッド、何もダメじゃない。俺がお前を不安にさせてるんだな。すまない」
「私のことを幸せにする自信がないから捨てるって」

 いや待って!捨てるのはご主人のほうで、キースが捨てられる側だからね。ご主人そこは間違わないでよー。

「私にはもう飽きたんだろう。だから夜も……」
「違う。フレッド、違うんだ。ちゃんと話すから、聞いてくれ」

 それから、キースが時間をかけて、辺境で自分が寄生していると言われていること、ご主人に釣り合うのか自信を無くしたことを説明した。カッコつけずに最初から言ってればよかったんだよ。まったくもう。
 不安気にしていたご主人も、キースの心が自分から離れたわけではないと分かって、安堵のため息をついた。

「私を嫌いになった訳じゃないんだな」
「俺は……、路地裏で客を取っていたような底辺の娼婦の子どもだ。生まれてすぐ孤児院に入れられたが、父親も分からん。お前のほうこそ俺でいいのか?キリ込みでお前を欲しがる奴はたくさんいるだろう?」
「……キースがいいんだ」

 俯いて蚊の鳴くような声で言ったご主人の耳が赤い。めっちゃ、可愛い。
 これはキース、いちころでしょう。これで落ちなかったら、本気で噛みつくぞ。
 ご主人の腕の中から飛び降りてあげたから、心置きなくご主人を抱きしめるんだ、キース!

「フレデリク、愛している。オレのそばで一緒に生きてほしい」
「ああ。私も」

 ご主人、そこで私も愛してるってちゃんと言わなきゃー。恥ずかしくて言えないのは分かるけど、でも言うところだよ!
 と思っていたら、ご主人をふわっと抱きしめたキースが、ご主人の耳元で囁いた。

「愛していると、オレにも言ってくれないのか?」
「……」
「やはり俺ではダメなのか?」

 真っ赤になってキースの胸元で顔を隠しているご主人が、可愛い。堪らなく可愛い!
 ご主人、ちゃんと言葉で伝えないとダメだよ!ほら、一言だけだから。愛してる、それだけだよ。がーんばれ!がーんばれ!

「……あいしてる」
「悪い、聞こえなかった。もう一度言ってくれ」

 キターーー!
 絶対聞こえてたよね。証拠にニヤニヤしてるよね。ひゅう!キースはそうでなくちゃね。鬼畜キース、お帰り!!

「フレデリク?」
「もう言わないっ。勝手にしろ!キリ、おいで」

 あ、ご主人がキレた。珍しい。
 悪かった、許してくれって言ってるキースを無視して、オレのことを抱き上げて撫でてくれるご主人の耳がまだ赤い。照れ隠しにキレちゃったんだね。ご主人、よく頑張ったよー。可愛かったよー。キースが意地悪で困ったねえ。分かるよー。ひどいねー。
 でもこれは、鬼畜キース再びの回が期待できますな。

 ちなみに夜のほうは、ご主人が何も知らないのをいいことに好き放題していたのを反省したらしい。
 はっきり言わなかったけど、どうもご主人が腰を庇っているのに気付いた誰かに無理させすぎだと言われたっぽいんだよね。キュリアンかな?
 翌日から討伐って夜は、討伐中の分だってキースが無理させてたからね。翌日に響いても、ご主人は恥ずかしくて意地でもオレに治してって言わないから、バレちゃったんだね。初日は森の浅いところまでしか行かないから、戦闘にならない限りはオレも治さなかったんだ。
 キースがはっきり言わなかったのは、多分キュリアンたちにバレてると分かったら、ご主人が翌日が休みの日以外は断るようになるからだろう。ご主人は知らないほうがいいよね!

 仲直りしたところで盛り上がって欲しいので、今夜だけは、涙を飲んで今夜だけは、ご主人とキースの二人だけにしてあげた。今夜だけだよ。その代わり次からは特等席で観察させてよね。今夜だけだからね。

 エマさーん、今夜は一緒に寝てくださーい。
 子どものころ、ご主人がいなくて寂しいときはよく一緒に寝てもらったんだ。エマさん、大好き!


 一時はどうなることかと思ったけど、まとまってよかった。
 最近はパーティーメンバーと上手くやれていたけど、ご主人はそもそも人間不信だし、対人関係に自信がないの忘れて、うっかり地雷を踏んじゃったよ。
 でも、誰しもミスはあるし、丸く収まったから結果オーライということで。どんまい、オレ。
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