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ガリア王国王宮編
6. 2度目の謁見は退屈
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「キリ様、手をあげてみてください。はい、次は両手を」
右手―、左手ー、ばんざーい。ただいま、ハーネスのための採寸中です。
到着初日に身体を洗った後、エマさんによって採寸はされたんだけど、もっとちゃんと測る必要があるらしい。ジルも一緒に職人さんに採寸されてる。
仮で作られたオレのハーネスは、ハーネスというより丈の短いチョッキみたいな感じになってる。背中のところに金具がついていて、そこにリードをつけて、もう片方はジルに繋ぐが、ご主人が持つようにするそうだ。
次は試作品をつけて、動きを確認だ。
オレはその辺をたたたっと走ったら、後は前足をあげてみたり、ご主人の肩に乗ってみたり、寝転がってみたり、気になるところがないか、動いてみて検証中。
「キリ様、少し脇のあたりが当たっていませんか?」
「当たっているが気にならないそうだ」
「長時間になると擦れて傷になるかもしれません。少し調整を」
「はい。もう少し浅くして、身体に沿わせるようにしましょう」
ご主人はいいんじゃない?って感じだけど、エマさんのチェックが厳しい。長時間つけることになるのですからと譲らない。
ちなみに、エマさんが一番妥協しなかったのは、首回りだ。リボンが可愛く見えるのはどの形か、いろんな試作品と太さが様々なリボンをとっかえひっかえして、あーでもないこーでもないと議論している。
「なあ、フレッド、貴族っていつもこんな感じなのか?」
「何がだ?」
「お前が疑問に思ってないってことは、こんな感じなんだな」
庶民は採寸なんてしないし、仮縫いして合わせてみたりもしないからね。ご主人、既製品の服を着たことあるんだろうか。
オレのリボンだって、高々リボンというなかれ。どの長さと太さが一番可愛く見えるか、試着を重ねたからね。ご主人の服なんて完成しましたってお屋敷に届いたのを着てみて、さらに調整があるのだ。その数ミリ詰めるのなんか意味ある?って思うような調整が。
「お前のいつもの服ってどうしてるんだ?」
「母が用意している」
「マジかよ」
「フレデリク様はお召し物にこだわりをお持ちではありませんので、全て奥様がご用意されています」
この年になってまだ母親が用意してんのかっていう驚きと、冒険者になっても貴族の服なのかっていう両方の意味で、マジかよ、なんだと思う。
でもご主人はマザコンって訳じゃなくて、放っておくと適当な服を着ちゃうから、仕方なくお母さんが用意してるんだ。ご主人、少々サイズ違っても、似合ってなくても、穴開いてても、着れさえすれば気にしなさそうだもんな。
ところで、やっとオレの首元の形が決まったよ。エマさんの納得のいく形になったらしい。
それで次はジルを合わせる番だけど、ジルはどこまでいったのやら。ハーネスをつけて実際に走っておいでと言われてバビューンと飛び出したまま、どこかに行ってしまったんだよね。
「ジルー、帰っておいでー。ジル―。おかえり。気になるところはある?」
邪魔だけど、走ってたら気にならなくなった。
痛いところは?
ないよ。リューとおそろいがいい。
「ないそうだ。リュードとお揃いにしてほしいと」
「よしよし、お揃いにしような。でもハーネスとお揃いってどうするんだ?」
「よろしければ、パーティーでシンボルマークを決めてはいかがでしょう?」
ハーネスを作ってくれる職人さんから提案があった。冒険者でもパーティーで同じマークを武器や武具に入れることがあるらしくて、そういうのを作ってはどうかというのだ。
「マークか。イタチでいいんじゃないか?」
「オオカミも入れたほうがいいだろう」
「じゃあ、イタチと」
「デザインは後日工房へ持って行きますので、今は入れる場所だけ決めていただけますか?」
イタチとオオカミに決まりかけたところで、このお屋敷の執事さんが口を挟んできた。会話を聞いて、こいつらに任せておけないと思ったんだろうな。
パーティー名の『ロビンバル』の由来は、3人がロビラン地方とバール地方の出身だからということで、ご主人たちが『イタチ』とつけようとしたのと大差ない。そういうところ、大雑把な奴ばっかり集まったな。
マークは執事さんが考えてくれるようなので、ジルは背中に、オレは背中と胸のところに入れることになった。
後は出来上がるのを待つばかりだ。
それから数日後には、王子様とお兄さんが到着した。といっても、王子様はお城に滞在なので、謁見の時まで会う予定はない。お兄さんは親戚だし、ご主人がいるから、こっちにお泊り。
「キリくん、元気だった?」
「兄上、お久しぶりです。旅でお疲れではありませんか?」
「フレデリク、元気にやっているようだね。キースも久しぶり」
お久しぶりー。元気だよ。でも、お兄さん、最初に声かけるのがご主人じゃなくてオレって、それでいいの?兄弟仲いいのに。
「キリくん、キースがフレデリクを泣かせていたら、代わりに殴ってくるように父上に言われてるんだけど、大丈夫かな?」
「父上……」
お父さんとお兄さんの合体過保護攻撃キターー!これはキース、地味にダメージを受けるね。
お兄さん、お父さんの代わりにオレが噛みついておいたから大丈夫だよ!
「キリ、そんなことしてたの……」
「キリくんは何て?フレデリク、話しなさい」
「……父上の代わりにキリが噛みついたから、大丈夫だそうです」
「ほお。キース、覚悟は出来ているかな?」
「あ、兄上、新しく仲間になった3人を紹介します。リーダーのキュリアン、ブノワと、リュードと使役獣のジルです」
キースへの攻撃を、割って入ったご主人が受け止めてそらした!キース、守られているだけでいいのか?!
あからさまな話の強引な方向転換に、キュリアンたちが俺たちを巻き込むなって顔をしているけど、貴族の前だからと何も言えないでいる。
お兄さんもちょっと仕方がないねって顔をして、ご主人の紹介を受けて挨拶をした。
「弟が世話になるね。世間知らずだから面倒を見てやって欲しい。ジルくん、キリくんと仲良くしてあげてね」
「は、はいっ……」
「ウォン!」
この空気をものともしないジルは大物なのか、あんぽんたんなのか、どっちだろう。オレの見立てだと両方だな。
お兄さんとキースの対決も見てみたいけど、キュリアンたちが可哀想だから、ジルとふたりでお兄さんを接待してあげよう。
ジル、行くよー。
オレの合図でジルはお兄さんに飛び掛かり、オレもお兄さんの首の周りに巻き付いてスリスリする。どうだ、オレたちの毛皮は極上だよ。撫でていいんだよ。
「ふふっ、仕方がないね。キリくんとジルくんに免じて今回は見逃してあげるよ。キース、次はない」
「はい」
次はない、のところ、声が真剣だったから、ホントになさそう。
キースがすごく神妙な顔で返事したけど、もうちゃんとご主人と話して和解したから大丈夫だよ。お兄さん、許してくれてありがとね。
ところでお兄さん、お母さんから美味しいお土産あったりしない?
お母さんのお土産はエマさんが持って来ている分で全部だったんだけど、ミリアルの王様から、王太子の側近が迷惑かけてごめんねって言う手紙を貰った。側近よりもあの底意地の悪そうな王太子にムカつくんだけど、表向きは側近がやらかしましたってことで終わらせるんだってさ。その辺りの大人の事情は分かるよ。
でも王太子が原因っていうのはみんな知ってて、いまちょっと第二王子に王位を継がせるべき?みたいな話も出ているらしい。第二王子っていうのが今ガリアに来ている王子様ね。
さて、謁見2回目です。
今回も、オレはご主人とお揃いのリボンを首に巻いているけど、尻尾にはジルとお揃いのリボンだ。ジルも首にはリュードとお揃いのマントのようなもので、尻尾はオレとお揃い。もふもふ on もふもふの威力を、お城でも発揮しないといけないからね。
でも謁見の間まではお兄さんの腕に抱かれている。お城の中なので一応リードがつけられているジルも伯爵が連れていて、貴族の保護下にありますよ、というのを見せつけているのだ。まあ2人は純粋にオレたちを可愛がってるだけだけどね。ジルと伯爵なんて、場所と服装を除けば、お散歩する休日のお父さんって感じだ。
キュリアンたちは、採寸して仕立てた豪華な服を着ている。キュリアンたちの服はガリアの流行でシュッとした感じで、ご主人たちの服はミリアルの流行でひらひらしてるけどガリアのテイストも取り入れてある今回用に仕立てられた服で、お兄さんがミリアルから持ってきたものだ。キースのサイズなんていつの間に測ってたんだろう。
「緊張してきた」
「大丈夫だ。黙っていれば終わる」
「そうなのか?」
「冒険者に喋らせようとはなさらないだろうから安心しなさい。何か聞かれて困ったら、フルラ伯爵に任せています、と答えればいい。そうすれば私が答える」
ご主人の雑な返答に、伯爵が補足を入れている。そういえば前回もお兄さんが全部答えてたもんね。
むしろ勝手に答えちゃう方が危ないからやめて欲しいんだそうだ。派閥争いとかで、親切そうに見せて引き抜きとかを画策される可能性もあるんだとか。
謁見の間に入って、オレはお兄さんの横でおすましお座りだ。ご主人はオレのすぐ後ろにいる。
ジルはリュードの横にぴたりとくっついている。この部屋に入るときに、リュードの緊張を感じ取ったのか、ジルがリュードの横に引っ付いて離れなくなったので、伯爵は残念そうにしていた。自分よりも日頃世話をしている家族のほうに懐いている犬を見て残念がるお父さんそのまんまだ。
「国王陛下、ならびに、ミリアル王国第二王子殿下のおなりです」
殿のおな~り~、っていう合図で頭を下げて待つ。合図があるまで上げちゃいけないんだけど、後ろでリュードがジルにまだダメだって言ってるのが聞こえて、笑いそうだよ。ジルが頭をあげたって、きっと誰も怒らないから。
合図があって、伯爵の長い口上の後、ガリアの王様からの質問に伯爵ときどきお兄さんが答えているけど、暇だ。座っているしかないから、仕方なく周りをぼーっと見ている。
前回はご主人の家の子でいていいよという許可をもらうためだったから頑張ったけど、今回は気に入らなければ他の国に行っちゃえって思う余裕がある。そういえば前回は途中でお父さんの腕の中で寝ちゃったんだったっけ。
あ、壁際に姫がいた。治癒術師仲間としての出席かな。お久しぶり!って尻尾を振ったら、ちょっと遠いけど分かってくれたみたいだ。
オレが飽きてるってことは、ジルも飽きてるってことだ。リュードがジルにもうちょっと座っててと言ってるけど、伏せてしまった。オレも伏せちゃおうかな。足短いから、あんまり体勢変わらないんだよね。
なーんて考えていたら、オレの話題で盛り上がってた。盛り上がると言っても悪い方向にね。
「獣が本当に治癒などできるのですか?」
「我が国の国王陛下と教皇猊下の判断を疑うと?」
「失礼ですが、ミリアル王国の教会は体制が一新されたばかりでは?」
つまりミリアルの言うことは信じられないと。なんかオレだけじゃなくてミリアルまで舐められてない?よし、あのハゲタヌキの仲間は治癒しないぞ。
「治癒術師のカリーナ、そなたはその使役獣と会ったことがあるそうだがどうだった」
「カリーナによりますと、治癒術師としてはカリーナよりも優秀だそうです。会ってまだまだ学ぶべきことがあると刺激を受けたと申しておりました」
姫、カリーナって名前だったね、そういえば。宰相さんの質問に、姫を後見しているんだろう隣にいる貴族の人が代わりに答えたけど、褒めてくれた。ありがとねー。
伯爵によると、姫を後見している貴族は、フルラ伯爵家の派閥とは別の派閥らしいけど、貴族の治癒の依頼は派閥関係なく受け付ける穏健なところらしい。
ハゲタヌキは冒険者の言うことなど信じられないとか、獣などしょせん獣だとか言ってる。
うーん、これってオレがどうのじゃなくて、治癒術師全般が気に入らないのかな?めんどくさ。あんたに認めてもらわなくてもいいから。もういいや。
ジル―、オレも飽きた。もふもふの毛に埋もれさせてー。
「キリ、もうちょっと頑張って」
だって獣に治癒なんてされたくないんでしょ。オレもしないからいいもん。ぷんすか。
あ、ジル待って、今日は綺麗にセットしてるから、毛づくろいはやめてー。
ジルにべろんべろんにされないように、ジルの後頭部に張り付く。これなら出来まい。
ジルの後ろを取ってご満悦で前を見たら、お兄さんも伯爵も、なんなら王様もオレたちを見ていた。
お、ここはもふもふの魅力をアピールする場面だな。キリくんとジルくんですよー。もふもふ2倍キャンペーン中ですよー。
「キリくん、治癒を見せてもらいたいんだけどいいかな?」
「キリ、お願い」
あれ、オレたちの可愛さに注目を集めているのかと思ったら違った。前の謁見の時のように治癒をして見せるようにお兄さんに言われたんだけど、イヤだ。あのハゲタヌキの仲間じゃない人ならいいけど、ハゲタヌキの仲間だったらイヤだ。
「キリ……」
「キリくんは何て?」
ご主人が言いよどんでいるのを見て伯爵も顔を寄せて来たので、周りに聞こえないように小さな声で、あの貴族の関係者の治癒はしたくないと言っていると伝えてくれた。
まあそうだろうな、とオレを撫でながら伯爵が苦笑している。多分ハゲタヌキはオレが会話の内容を理解していると思っていないんだろうけど、ばっちり分かってるからね。
「ムザリア公爵の関係者の治癒はしたくないそうです」
「な、なんだと?!獣ごときが何を!いや、フルラ伯爵、そのほうが言っているのだろう?!」
「キリは知能が高く、人の会話を理解しています。獣ごときと言われた相手の治癒はやりたくないそうです」
「ほお、それほどに知能が高いのか」
「最近は文字を勉強しておりますので、文字盤があれば、契約主以外とも話ができます」
伯爵が断ってくれたんだけど、お兄さんが追撃してくれた。
オレの優秀さに、周りがざわざわしているけど、オレすごいんだよ。奉っていいんだよ。教皇にならないかってスカウトされたくらいだからね。可愛いだけじゃないよ。
右手―、左手ー、ばんざーい。ただいま、ハーネスのための採寸中です。
到着初日に身体を洗った後、エマさんによって採寸はされたんだけど、もっとちゃんと測る必要があるらしい。ジルも一緒に職人さんに採寸されてる。
仮で作られたオレのハーネスは、ハーネスというより丈の短いチョッキみたいな感じになってる。背中のところに金具がついていて、そこにリードをつけて、もう片方はジルに繋ぐが、ご主人が持つようにするそうだ。
次は試作品をつけて、動きを確認だ。
オレはその辺をたたたっと走ったら、後は前足をあげてみたり、ご主人の肩に乗ってみたり、寝転がってみたり、気になるところがないか、動いてみて検証中。
「キリ様、少し脇のあたりが当たっていませんか?」
「当たっているが気にならないそうだ」
「長時間になると擦れて傷になるかもしれません。少し調整を」
「はい。もう少し浅くして、身体に沿わせるようにしましょう」
ご主人はいいんじゃない?って感じだけど、エマさんのチェックが厳しい。長時間つけることになるのですからと譲らない。
ちなみに、エマさんが一番妥協しなかったのは、首回りだ。リボンが可愛く見えるのはどの形か、いろんな試作品と太さが様々なリボンをとっかえひっかえして、あーでもないこーでもないと議論している。
「なあ、フレッド、貴族っていつもこんな感じなのか?」
「何がだ?」
「お前が疑問に思ってないってことは、こんな感じなんだな」
庶民は採寸なんてしないし、仮縫いして合わせてみたりもしないからね。ご主人、既製品の服を着たことあるんだろうか。
オレのリボンだって、高々リボンというなかれ。どの長さと太さが一番可愛く見えるか、試着を重ねたからね。ご主人の服なんて完成しましたってお屋敷に届いたのを着てみて、さらに調整があるのだ。その数ミリ詰めるのなんか意味ある?って思うような調整が。
「お前のいつもの服ってどうしてるんだ?」
「母が用意している」
「マジかよ」
「フレデリク様はお召し物にこだわりをお持ちではありませんので、全て奥様がご用意されています」
この年になってまだ母親が用意してんのかっていう驚きと、冒険者になっても貴族の服なのかっていう両方の意味で、マジかよ、なんだと思う。
でもご主人はマザコンって訳じゃなくて、放っておくと適当な服を着ちゃうから、仕方なくお母さんが用意してるんだ。ご主人、少々サイズ違っても、似合ってなくても、穴開いてても、着れさえすれば気にしなさそうだもんな。
ところで、やっとオレの首元の形が決まったよ。エマさんの納得のいく形になったらしい。
それで次はジルを合わせる番だけど、ジルはどこまでいったのやら。ハーネスをつけて実際に走っておいでと言われてバビューンと飛び出したまま、どこかに行ってしまったんだよね。
「ジルー、帰っておいでー。ジル―。おかえり。気になるところはある?」
邪魔だけど、走ってたら気にならなくなった。
痛いところは?
ないよ。リューとおそろいがいい。
「ないそうだ。リュードとお揃いにしてほしいと」
「よしよし、お揃いにしような。でもハーネスとお揃いってどうするんだ?」
「よろしければ、パーティーでシンボルマークを決めてはいかがでしょう?」
ハーネスを作ってくれる職人さんから提案があった。冒険者でもパーティーで同じマークを武器や武具に入れることがあるらしくて、そういうのを作ってはどうかというのだ。
「マークか。イタチでいいんじゃないか?」
「オオカミも入れたほうがいいだろう」
「じゃあ、イタチと」
「デザインは後日工房へ持って行きますので、今は入れる場所だけ決めていただけますか?」
イタチとオオカミに決まりかけたところで、このお屋敷の執事さんが口を挟んできた。会話を聞いて、こいつらに任せておけないと思ったんだろうな。
パーティー名の『ロビンバル』の由来は、3人がロビラン地方とバール地方の出身だからということで、ご主人たちが『イタチ』とつけようとしたのと大差ない。そういうところ、大雑把な奴ばっかり集まったな。
マークは執事さんが考えてくれるようなので、ジルは背中に、オレは背中と胸のところに入れることになった。
後は出来上がるのを待つばかりだ。
それから数日後には、王子様とお兄さんが到着した。といっても、王子様はお城に滞在なので、謁見の時まで会う予定はない。お兄さんは親戚だし、ご主人がいるから、こっちにお泊り。
「キリくん、元気だった?」
「兄上、お久しぶりです。旅でお疲れではありませんか?」
「フレデリク、元気にやっているようだね。キースも久しぶり」
お久しぶりー。元気だよ。でも、お兄さん、最初に声かけるのがご主人じゃなくてオレって、それでいいの?兄弟仲いいのに。
「キリくん、キースがフレデリクを泣かせていたら、代わりに殴ってくるように父上に言われてるんだけど、大丈夫かな?」
「父上……」
お父さんとお兄さんの合体過保護攻撃キターー!これはキース、地味にダメージを受けるね。
お兄さん、お父さんの代わりにオレが噛みついておいたから大丈夫だよ!
「キリ、そんなことしてたの……」
「キリくんは何て?フレデリク、話しなさい」
「……父上の代わりにキリが噛みついたから、大丈夫だそうです」
「ほお。キース、覚悟は出来ているかな?」
「あ、兄上、新しく仲間になった3人を紹介します。リーダーのキュリアン、ブノワと、リュードと使役獣のジルです」
キースへの攻撃を、割って入ったご主人が受け止めてそらした!キース、守られているだけでいいのか?!
あからさまな話の強引な方向転換に、キュリアンたちが俺たちを巻き込むなって顔をしているけど、貴族の前だからと何も言えないでいる。
お兄さんもちょっと仕方がないねって顔をして、ご主人の紹介を受けて挨拶をした。
「弟が世話になるね。世間知らずだから面倒を見てやって欲しい。ジルくん、キリくんと仲良くしてあげてね」
「は、はいっ……」
「ウォン!」
この空気をものともしないジルは大物なのか、あんぽんたんなのか、どっちだろう。オレの見立てだと両方だな。
お兄さんとキースの対決も見てみたいけど、キュリアンたちが可哀想だから、ジルとふたりでお兄さんを接待してあげよう。
ジル、行くよー。
オレの合図でジルはお兄さんに飛び掛かり、オレもお兄さんの首の周りに巻き付いてスリスリする。どうだ、オレたちの毛皮は極上だよ。撫でていいんだよ。
「ふふっ、仕方がないね。キリくんとジルくんに免じて今回は見逃してあげるよ。キース、次はない」
「はい」
次はない、のところ、声が真剣だったから、ホントになさそう。
キースがすごく神妙な顔で返事したけど、もうちゃんとご主人と話して和解したから大丈夫だよ。お兄さん、許してくれてありがとね。
ところでお兄さん、お母さんから美味しいお土産あったりしない?
お母さんのお土産はエマさんが持って来ている分で全部だったんだけど、ミリアルの王様から、王太子の側近が迷惑かけてごめんねって言う手紙を貰った。側近よりもあの底意地の悪そうな王太子にムカつくんだけど、表向きは側近がやらかしましたってことで終わらせるんだってさ。その辺りの大人の事情は分かるよ。
でも王太子が原因っていうのはみんな知ってて、いまちょっと第二王子に王位を継がせるべき?みたいな話も出ているらしい。第二王子っていうのが今ガリアに来ている王子様ね。
さて、謁見2回目です。
今回も、オレはご主人とお揃いのリボンを首に巻いているけど、尻尾にはジルとお揃いのリボンだ。ジルも首にはリュードとお揃いのマントのようなもので、尻尾はオレとお揃い。もふもふ on もふもふの威力を、お城でも発揮しないといけないからね。
でも謁見の間まではお兄さんの腕に抱かれている。お城の中なので一応リードがつけられているジルも伯爵が連れていて、貴族の保護下にありますよ、というのを見せつけているのだ。まあ2人は純粋にオレたちを可愛がってるだけだけどね。ジルと伯爵なんて、場所と服装を除けば、お散歩する休日のお父さんって感じだ。
キュリアンたちは、採寸して仕立てた豪華な服を着ている。キュリアンたちの服はガリアの流行でシュッとした感じで、ご主人たちの服はミリアルの流行でひらひらしてるけどガリアのテイストも取り入れてある今回用に仕立てられた服で、お兄さんがミリアルから持ってきたものだ。キースのサイズなんていつの間に測ってたんだろう。
「緊張してきた」
「大丈夫だ。黙っていれば終わる」
「そうなのか?」
「冒険者に喋らせようとはなさらないだろうから安心しなさい。何か聞かれて困ったら、フルラ伯爵に任せています、と答えればいい。そうすれば私が答える」
ご主人の雑な返答に、伯爵が補足を入れている。そういえば前回もお兄さんが全部答えてたもんね。
むしろ勝手に答えちゃう方が危ないからやめて欲しいんだそうだ。派閥争いとかで、親切そうに見せて引き抜きとかを画策される可能性もあるんだとか。
謁見の間に入って、オレはお兄さんの横でおすましお座りだ。ご主人はオレのすぐ後ろにいる。
ジルはリュードの横にぴたりとくっついている。この部屋に入るときに、リュードの緊張を感じ取ったのか、ジルがリュードの横に引っ付いて離れなくなったので、伯爵は残念そうにしていた。自分よりも日頃世話をしている家族のほうに懐いている犬を見て残念がるお父さんそのまんまだ。
「国王陛下、ならびに、ミリアル王国第二王子殿下のおなりです」
殿のおな~り~、っていう合図で頭を下げて待つ。合図があるまで上げちゃいけないんだけど、後ろでリュードがジルにまだダメだって言ってるのが聞こえて、笑いそうだよ。ジルが頭をあげたって、きっと誰も怒らないから。
合図があって、伯爵の長い口上の後、ガリアの王様からの質問に伯爵ときどきお兄さんが答えているけど、暇だ。座っているしかないから、仕方なく周りをぼーっと見ている。
前回はご主人の家の子でいていいよという許可をもらうためだったから頑張ったけど、今回は気に入らなければ他の国に行っちゃえって思う余裕がある。そういえば前回は途中でお父さんの腕の中で寝ちゃったんだったっけ。
あ、壁際に姫がいた。治癒術師仲間としての出席かな。お久しぶり!って尻尾を振ったら、ちょっと遠いけど分かってくれたみたいだ。
オレが飽きてるってことは、ジルも飽きてるってことだ。リュードがジルにもうちょっと座っててと言ってるけど、伏せてしまった。オレも伏せちゃおうかな。足短いから、あんまり体勢変わらないんだよね。
なーんて考えていたら、オレの話題で盛り上がってた。盛り上がると言っても悪い方向にね。
「獣が本当に治癒などできるのですか?」
「我が国の国王陛下と教皇猊下の判断を疑うと?」
「失礼ですが、ミリアル王国の教会は体制が一新されたばかりでは?」
つまりミリアルの言うことは信じられないと。なんかオレだけじゃなくてミリアルまで舐められてない?よし、あのハゲタヌキの仲間は治癒しないぞ。
「治癒術師のカリーナ、そなたはその使役獣と会ったことがあるそうだがどうだった」
「カリーナによりますと、治癒術師としてはカリーナよりも優秀だそうです。会ってまだまだ学ぶべきことがあると刺激を受けたと申しておりました」
姫、カリーナって名前だったね、そういえば。宰相さんの質問に、姫を後見しているんだろう隣にいる貴族の人が代わりに答えたけど、褒めてくれた。ありがとねー。
伯爵によると、姫を後見している貴族は、フルラ伯爵家の派閥とは別の派閥らしいけど、貴族の治癒の依頼は派閥関係なく受け付ける穏健なところらしい。
ハゲタヌキは冒険者の言うことなど信じられないとか、獣などしょせん獣だとか言ってる。
うーん、これってオレがどうのじゃなくて、治癒術師全般が気に入らないのかな?めんどくさ。あんたに認めてもらわなくてもいいから。もういいや。
ジル―、オレも飽きた。もふもふの毛に埋もれさせてー。
「キリ、もうちょっと頑張って」
だって獣に治癒なんてされたくないんでしょ。オレもしないからいいもん。ぷんすか。
あ、ジル待って、今日は綺麗にセットしてるから、毛づくろいはやめてー。
ジルにべろんべろんにされないように、ジルの後頭部に張り付く。これなら出来まい。
ジルの後ろを取ってご満悦で前を見たら、お兄さんも伯爵も、なんなら王様もオレたちを見ていた。
お、ここはもふもふの魅力をアピールする場面だな。キリくんとジルくんですよー。もふもふ2倍キャンペーン中ですよー。
「キリくん、治癒を見せてもらいたいんだけどいいかな?」
「キリ、お願い」
あれ、オレたちの可愛さに注目を集めているのかと思ったら違った。前の謁見の時のように治癒をして見せるようにお兄さんに言われたんだけど、イヤだ。あのハゲタヌキの仲間じゃない人ならいいけど、ハゲタヌキの仲間だったらイヤだ。
「キリ……」
「キリくんは何て?」
ご主人が言いよどんでいるのを見て伯爵も顔を寄せて来たので、周りに聞こえないように小さな声で、あの貴族の関係者の治癒はしたくないと言っていると伝えてくれた。
まあそうだろうな、とオレを撫でながら伯爵が苦笑している。多分ハゲタヌキはオレが会話の内容を理解していると思っていないんだろうけど、ばっちり分かってるからね。
「ムザリア公爵の関係者の治癒はしたくないそうです」
「な、なんだと?!獣ごときが何を!いや、フルラ伯爵、そのほうが言っているのだろう?!」
「キリは知能が高く、人の会話を理解しています。獣ごときと言われた相手の治癒はやりたくないそうです」
「ほお、それほどに知能が高いのか」
「最近は文字を勉強しておりますので、文字盤があれば、契約主以外とも話ができます」
伯爵が断ってくれたんだけど、お兄さんが追撃してくれた。
オレの優秀さに、周りがざわざわしているけど、オレすごいんだよ。奉っていいんだよ。教皇にならないかってスカウトされたくらいだからね。可愛いだけじゃないよ。
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