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一章 アリス・バース・デイ

ワンダーランズの力 その2

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「あ、アリスちゃん来た」
「あれ、ディーさん?」
 翌日。私がログインすると、エントランスでディーさんが本を読んでいた。予定の時間より早かったと思ったけど、もしかしてそんな事ない?でも、遅れたとして私が来るまでずっと待つつもりだったのかな……え、いつから待ってたんだろ。
「何を読んでたんですか?」
「これ?」
 ディーさんは手に持っている本を見て言った。
「僕達の力の源、『不思議の国のアリス』だよ。これは普通に現実世界でも売ってるようなただの本だけどね」
「買って読めばいいじゃ無いですか……」
「タダで読めるなら読んじゃうでしょ?それにしっかりと家にもあるから安心して」
「は、はあ……」
 そういう問題じゃ……いやうーん……もうこれ以上考えるのやめよ。
「で、なんで読んでたんですか?」
「暇つぶし以外にないよ?アリスちゃんも読む?」
 ディーさんからアリスの本を渡される。私は中身を見て驚いた。
「って、めっちゃ英語じゃないですか!」
「海外のゲームばっかり遊んでると、なんか読めるようになってきちゃうんだよねー。それでもなんとなくで読んでるから大体の英語は意訳だけど」
 実はワンダーランズのみんなって、私が思っている以上にすごい……?
「さて、そろそろ時間だしリラックスタイムは終わりにしよっか」
「あー、そうですね」
 ディーさんが私の手から本を取り、元の場所に戻す。なんだか強引に話を切られたような気がする。そんな事は気にせずに私はディーさんに着いていき、訓練場へと向かう。
「これから何度も使うようになるだろうから、場所を覚えておいてね」
「分かりました」
 と言っても、一部の扉には何かしらのテクノロジーでロックが掛かってるし、私達一般アバターが入れるような扉は思っているよりも少ない。だから迷わないと思うんだけど……
「ほら、ここだよ」
 しばらく歩いて、一つの扉の前で止まるディーさん。他の木製のドアと違って、鉄で出来ている。他にも一定間隔でドアがあり、その全てが鉄。ぱっと見で六つぐらいあるから、訓練場は全部で六部屋あるのかな?
「じゃ、入ろっか」
「お、おはようございまーす」
「おまたせ白ウサ君」
「よっ、アリス」
 ディーさんと一緒に訓練場に入っていくと、そこに白ウサさんが居た。
「白ウサさん、居るんですね」
「居たら悪いか」
「だって昨日、居たり居なかったりって言ってたじゃないですか」
「じゃあ言っておくが明日は来れない」
 私をおちょくるように白ウサさんがニヤニヤして言う。
「もう……」
「いやあ、アリスはいじってて楽しいなあ」
 白ウサさんは離れたところにあるスペースに行って、ベンチに座る。
「それじゃあ前半戦はディーとだ。よろしく頼むぜ」
「はいはーい」
 そう言ってディーさんが武器を構える。それに続いて、昨日の感覚を頼りに剣を顕現させる。
「ちなみに、昨日のは全然本気じゃないからね」
「……えっ」
 昨日のが、本気じゃない……?あれ以上の強さがディーさん達にはあるって事?本格的に私ついていけるかどうかわかんなくなってきたんだけど。
「僕達が使っている武器には名前が付けられてる。その名前を呼ぶ事で、武器の真価が解き放たれるんだ」
 と言う事は、私のこの武器にも名前が付いてるのか。
「でも、ただ名前を呼ぶだけじゃダメ。固有魔法習得とともに、その真価を解放することが出来るようになるんだ。だから、まだアリスちゃんはただの剣だね」
「そっかぁ……」
「まぁそう落ち込まないで。戦えないわけじゃないから。僕もみんなも固有魔法が無かったらただの武器だし。現にハッターちゃんもハートちゃんも戦えてたでしょ?」
「それはそうなんですけどー……」
 むしろそっちは実戦経験が豊富だから本気を出さずとも温存して戦えるってことで根本的に違うと思うんだけど。
「さて、本題に戻ろっか。と言っても、うーん、どうやって修行しよっか?こういうのはいつもダムがやってたからなあ」
「そうだな、ディーが適当に正面限定で攻撃する、ってのはどうだ?お前ならアリスに当てずに剣に当てに行く、って芸当ぐらいできるだろ」
「おっけー、ナイスアイディア!そうしよっか」
「え?え??え???」
 私抜きでとんとん拍子に話が進んだ。適当に攻撃って、どうやって防げと?
「それじゃあ行くよ!」
「ちょっ、待っ!」
 ディーさんが遠慮なく突っ込んでくる。しかもやけにニコニコしてるから相乗して怖い。
「ちょっとディーさん!私戦闘素人ですよ!」
「本当の戦闘はこんなもんじゃないからね!」
「スパルタすぎますって!」
 最初は単調な左右交互の連撃だったけど、ディーさんが楽しくなってきたのか昨日見たようなスタイルで読めない攻撃をしてくる。
 それは、まるで音楽が鳴っている中で優雅に踊っているようなスタイルで。
「どう?だんだん分かってきた?」
「こっちは一瞬の判断をしなきゃいけなくて大変なんですけど!仲間に殺されかけてるんですよ今!」
「大丈夫だって、アリスちゃんには当たらないようにしてるからさ」
「私の精神的に大丈夫じゃないです!」
 でも、私は私でなんだか体が軽い気がする。いつも以上に素早い感じ……まさか。
「お、やっと気づいたか。実はさっき、こっそりアリスに俺の固有魔法をかけておいたんだ」
「白ウサ君、ずるいよ!」
「ははは、ハンデだと思って頑張ってくれ」
 なるほど、なら……
「やあっ!」
「よっ、と」
「おお」
 頃合いを見て、頑張って反撃してみた。けど、あっさり避けられてしまった。
「やっぱりアリスちゃん、自信がつくと行動に移せるタイプだね」
「あー、そうかもです」
「まあ、白ウサ君の補助はちょっとずるいなって思ったけど……ハンデってことにしてあげる」
 よし、今なら行ける。
「それじゃ、再開!」
「はあぁぁぁっっっ!」
 さっきと同じように突っ込んできたディーさんに向かって、剣を振り下ろす。
(当たった?)
 けど、感触は無かった。
「ダメだよアリスちゃん。そんな見え見えの剣筋じゃ」
 前を見ると、ディーさんの姿は無く、後ろから声が聞こえた。
「!?いつの間に後ろに」
「実戦だったらやられちゃってるよ、訓練で良かったね」
 確実に当たる!って思って振り下ろしたのに、どうやって避けたんだろう。
「とっさの判断は評価点だね」
「ありがとうございます」
「でも、注意力はもっと付けたほうがいいかも」
 ディーさんは上を指差す。私もその方向を見ると……
「うわぁ……」
 空中に固定された、ディーさんが持っているものと同じ小刀。それも大量。
「さっき反撃される前にさりげなく設置しておいたんだけど、全然気付かないからさ」
「白ウサさん!なんで教えてくれないんですか?」
「実戦じゃ敵はどこに攻撃したかは教えてくれないだろ?そう言うことだ」
 確かにそうだけど……
「この状況、ほぼ確実に僕が勝つ状況だけど……どうする?」
「ディーさん、新人に厳しいですよ」
「降参、しちゃう?」
「はぁ……しますします、降参です……っと!」
 降参するふりをして、剣を思いっきりディーさんに向かって投げつける。
「うわっ!?危ないなぁ!」
「あー、やっぱ防がれちゃいます?」
「防がれちゃいます?じゃないよ!ひどいよだまし討ちなんて!」
 白ウサさんが大爆笑している声が聞こえる。
「なんとなく?あの小刀はハッタリな気がして……本物だったとしても負けだから、なんかしようと思って」
「じゃ、僕の勝ちって事で。ちなみに刀は本物だよ」
 ディーさんが指を鳴らすと、頭上の小刀達は一瞬にして消えてしまった。
「え?じゃあなんで消えたんですか?」
「本物は本物だけど、僕が今持っているこの小刀を本体にして分裂させただけの魔力の塊だからね」
「そんな器用なこともできるんですね」
「まぁね」
 最後に、その本体の小刀が光の粒子になって消えていく。これでディーさんとの訓練は終わりなのかな?
「この消えた武器ってどこに行くんですか?」
 魔法で出し入れするにしても、どこへ消えていくのかは興味がある。
「アバターカードに全部の力が集約されてるから。そこに消えてく感じかな。それは逆に言えば、アバターカードが無ければこの世界では生きている保証はないよ」
「ひっ……」
「まあまあ、そんな怖いこと言うなって。二人ともお疲れさん」
 白ウサさんが私とディーさんの肩を叩いて言った。
「ねえ、白ウサ君?」
「どうした?ディー」
「久々に、サシで勝負しない?」
「おぉ、目つきが怖い怖い。ダムが来るのはまだそうだから、それまでならいいぜ」
 なんだか、ピリピリした空気が流れてる……
「そんじゃ、アリス。さっき俺が居た場所に行ってくれ」
「は、はい……」
 白ウサさんに促されて、観覧席に移動する。ディーさん、もしかして怒ってる?なんかそんな感じするけど……
 一触即発の空気を感じたので、急いで言われた場所に行って座る。
「ルールはどうする?」
「いつも通り、三回攻撃を当てたほうが勝ち。それでいい?」
「いいぜ。久しぶりにやるからなぁ、手加減できねぇがいいか?」
「手加減なんて一度もしたことないくせに」
 二人は距離を取り、向かい合う。
「待たせた……なんだ、この状況は」
「あ、ダムさん。用事は終わったんですか?」
「ああ。ディーとの訓練は?」
 ちょうどいいタイミングで、ダムさんが訓練場に入ってきた。ダムさんが来るまでって話だったけど、二人は気づいてないみたい。
「なんかわからないんですけど、ディーさんが白ウサさんに怒ってるみたいで、決闘を……」
「またか……あいつ、穏やかそうに見えて喧嘩っ早いところがあるから厄介なんだ」
「また、なんですか……」
「俺も昔はよくディーに決闘を挑まれた。ことごとく潰してきたが、肉薄する時もあったな」
 いや、昔を懐かしんでる場合じゃないんだけど。止めてくれないの?
「止めないんですか?」
「ディーの本気が見れる。仲間内にしか本気を見せないからな、あいつは。ディーの強さがどのほどなのか知るといい」
 う、確かにそれは見てみたいけど……
「準備運動も済んだし、やるか」
「こっちは準備万端だよ……最初っから本気で行くよ、『ストラ・バリウス』!」
 ディーさんが叫ぶと、持っている小刀が光り始める。形が変質していき、刃の部分が長くなっていく。それに合わせて柄も伸びる。小刀から、ほぼ太刀ぐらいの長さになった。
「あれが、武器の名を呼んで力を解放させる、ということだ」
「すごい……」
「だがディーは一本の太刀で戦うやつじゃない」
 ダムさんが言った直後、ディーさんは武器を分裂させ、二刀流になる。
「その戦闘スタイルを見るのも……いや、決闘で見るのは久しぶりってだけで、ちょっと前に見たばっかだったな」
「白ウサ、君は本気出さないの?」
「んー、そうだな……アリスにいいとこ見せたいしな。俺も本気出しとくか。……『ダッシュラビット・フェイクロー』」
 今度は白ウサさんの両手両足が輝き始める。そういえば白ウサさんの武器は知らなかったはず。
「白ウサギは、徒手空拳で戦うやつだ。都合よく何か武道をやっていたのか、戦い方は洗練されている。それ故に、強化されるのは両手両足だ」
 白ウサさんの両手両足は、ただの腕と足じゃなく、化け物みたいな感じになっていく。指が長く鋭くなっていき、まるで爪みたいになる。白い衣装に映える赤で、まるで鎧をつけているかのように光沢を放っている。極め付けに、ちょっと地味だけど顔にモノクルがついている。
「二人とも本気を出した、面白くなりそうだ」
「なんでそんなにワクワクしてるんですか」
「ディスカーダーに本気を出すのは勿論。だが、仲間に本気をぶつける時に自信の課題が見えてくるというものだ」
 なんなら、今すぐに混ざりたいという気概さえ感じる……
「不甲斐ないよね、僕達。本気を出していながら負けるなんて」
「……おい、ディー。今なんつった」
「僕達はまだ弱いって言ってるんだよ!」
 叫んで、思いっきり突進していくディーさん。気のせいかな、ディーさんの言葉に白ウサさんが若干ピリついた気がする。
「……面白い。テメェの武器なんて粉々にしてやる」
 武器を手で止めながら、売り言葉に買い言葉、と……
「あの二人、何であんな燃えてるんですか?」
「少し前に大型ディスカーダーを取り逃がしてしまった。それのことを言ってるんだろう」
 二人の武器が激突する音を聞きながら冷静に言うダムさん。二人の気迫はすごくて、こっちまで圧倒されるほどだ。
「わ、なんですかあの技!」
 白ウサさんに吹っ飛ばされたと思ったら、空中を蹴ってまた突進していく。
「今度は消えた!?」
 もうちょっとで攻撃が届く距離、と思ったらディーさんの姿が消えた。けど、白ウサさんも白ウサさんで一筋縄じゃない。出てくる位置を予測してそこに攻撃をすると、ディーさんが出てきた。
「じ、次元が違いすぎませんかあの戦い」
「…………」
「ダムさん?ダムさーん!」
 すっかり夢中になってしまっているダムさん。多分終わるまで話しかけても答えてくれないんだろうなあ……
 二人に目線を戻すと、剣撃と拳撃が繰り広げられていた。ディーさんが二つの太刀で連撃を繰り返して手数で勝負する中、白ウサさんはそれを避けたり受け止めたりした後、空いている手や足で攻撃を仕掛ける。それはまるで剣豪と獰猛な獣が争っているかのような熾烈さだった。
 互いの武器が衝突するたび、高音とともに火花が散る。隙を見せないためか、どっちも攻撃の手を緩めない。
 そして、何度か攻防があった後、二人は距離を取った。
「あはっ、前より弱くなったんじゃないの?」
「ほざけ、その減らず口ごと切り裂いてやろうか」
 ……私が知らないだけで、この二人って仲悪いのかな?いやでも、うーん、そんなことはないと思いたいんだけど……
「じゃあ、一発で沈めてあげるよ」
「こっちも、ケリつけてやろうじゃねえか」
 すると、突如何かの構えになり、詠唱をし始めた。
「……まずい!訓練場が壊れるぞ!」
 それを見て何かを察したのか、ダムさんが急いで二人の元に向かう。
「『孤高の旋律、君へ向かうはレクイエム。冥界への土産にこの痛みを』」
「『お前の命の刻限が見える。俺が終わらせるが故に、目の前へと迫っている』」
「ひえぇ、ダムさん早く!」
 エネルギーが溜まっていき、下手したら私も巻き込まれてただじゃ済まないんじゃないかって思い始めてきた。
「『メロディア・デラ……』」「『リーピング・ライフ……』」
「待て!そこまでだ!」
 間に合った、よかった……
「……あ、ダム。いつから?」
「なんだ、居たなら止めてくれよ」
 ダムさんが止めた瞬間、一気にさっきの殺気が無くなり、いつもの二人に戻る。
「『ストラ・バリウス、おつかれ』」
「『戻っていいぞ、ダッシュラビット・フェイクロー』」
 次に武装を解除する。こうして見ると、白ウサさんの変わりようがすごいな、って思う。
「こんな屋内であんなものを放とうとするな」
「ごめんごめん、楽しくなっちゃって」
「あのまま続けてたらどっちが勝ってたと思う?」
「まったく、お前たちは……」
 頭を抱えて困っているダムさん。おっかなそうだったけど、あれは一体なんなんだろう……
「今二人が発動しようとしてたのってなんですか?」
「あれか?あれは『終極魔法』。強力な代わりに、完全詠唱をしなければならない。そして最大のデメリットが強力すぎるが故に半日は戦闘が出来なくなる」
「結構短いんですね?」
「現実世界換算で半日、だ」
「えーと……」
 私は昨日ハッターさんが言ってた時間換算を思いだす。「向こうで過ごす一日がこっちだと二日」だから、こっちの世界の一日ってことか……
「計算できたか?」
「はい、こっちの世界の一日、でいいんですよね?」
「正解だ。丸一日戦えないのというのはかなりの痛手、それをこいつらは……」
 ディーさんは鼻歌を、白ウサさんは口笛を吹いている。さては説教慣れしてる?
「ただ、一人規格外の奴が居てな……魔法、と付いている以上、その力の根源は魔力。戦闘が出来ないのは魔力の枯渇が原因でそれの回復を待たないといけないわけだが」
「つまり、どういうことです?」
「もし『魔力を自力で回復出来る手段がある』としたらどうなると思う?つまりそういうことだアリス」
 そうなると、それが出来る人が居る……とんでもない人だ。
「この衣装も魔力で展開されている。この世界で、この衣装でなくなった時は文字通り『死』の時だけだ」
「なるほど、完全に魔力が0になるんじゃなくて、1とか2ぐらい残るみたいなもんですか」
「物分かりいいねえアリスちゃん」
 ディーさんがニコニコで私を褒めてくる。この世界の仕組みについて説明されるたび、頭がこんがらがってくる気がする……
「さて、これからどうする?このまま俺と訓練を続けてもいいが……」
「是非お願いします」
「そうだな、では早速」
「邪魔するわよ」
 ダムさんが言いかけたところで、訓練所の扉が開いた。
「そろそろ訓練は終わった頃かしら?」
「ハッターさん!……と、ハートちゃんも居るね」
「どうしたハッター、それにハート。今日は来る予定じゃないんじゃなかったのか」
「ちょっとハートちゃんと一緒に準備をしててね。ワンダーランズの部屋に来てくれる?」
 準備……なんとなく、二人からお菓子みたいな匂いがするけど?
「この匂い……お菓子作ってたの?」
「おいおいディー。分かってても言うのは野暮だろ」
「自分で作ったのか?」
「勿論」
 ……?普通は自分で作るんじゃないの?
「それじゃあ、冷めちゃうし向かいましょうか」
「そうだな」
 まず最初に、ハッターさんとハートちゃん、そして白ウサさんが出て行く。
「そもそもの話、材料ってどこから調達するんですか?」
「簡単な話だ。ログインする時に持っている物はそのまま持っていける」
「そうなんですね」
 次に私達が訓練場を一緒に出る。
「もしかして、私の加入祝いだったりします?」
「ふふ、そうよアリス。せっかくだからすぐにお祝いしたいし」
「わあ、嬉しいです!」
 ちょっと自意識過剰だったかもしれないけど、予測が合っていてよかった。
「さっきの自分で作ったの?って質問、どういうことです?普通は自分で作るんじゃないんですか?」
「既製品を持ってきたってことじゃないの?僕はダムがそういう意図で聞いたと思ってたんだけど」
「それもあるが、あいつの力を借りたんじゃないかと思ってな」
「あー、『お菓子の家の魔女』か。あいつが他人の為に率先してお菓子を生み出してくれるようなやつか?あの気分屋が」
「そっか、そうだね」
 また新しいのが出てきた。『お菓子の家の魔女』ってことは、ヘンゼルとグレーテルの魔女さんだ。
「そいつが、さっき言ってた規格外のやつだ。近いうちに会うこともあるだろうな」
「どんな人なんだろう……今から会うのが楽しみです」
 私がそう言うと、みんな困った顔をする。昨日も多分別チームのこと言ってて、それで同じような顔してたけど、日本支部のチームみんなそんな対応に困るような人ばっかなの?どういうこと?
「……その顔見て聞きますけど、逆に対応に困らないチームってどこですか?」
 沈黙。え、嘘でしょ?そんなことある?
「しいて挙げるなら~~~~…………うーん…………」
「一番怖いところ、なら思いつくんだが…………」
「一番怖いところ?」
「『赤ずきん』のチームだ。日本支部代表がかつて所属していたチームだな」
 赤ずきん、かあ。元の話からして怖い要素あるけど、それが更に怖いの?
「俺達、まだ二回しか会ったことないんだよな」
「それでそんな怖いんですか!?」
 私が会ったら恐怖で逃げるよ、それ。
「あのチーム、ずば抜けて『ディスカーダーを殺す』って感じがするよね」
「特殊部隊のようで、俺は恐れつつも畏れている。あのような戦い方、少し憧れるんだ」
「俺はあんな人の心がないの嫌だぞ?まあ、ダムがそういう戦い方好きなのは知ってるが」
「一度だけ私、あのチームの部屋に行ったことあるんだけど……下手なお化け屋敷より怖かったわよ」
「じゃあ私は……無理です……」
 えー、みんなのその反応。逆に気になってきます。でもチームルームには行きたくありません、おばけ嫌いなので。
 と、そんな感じのことを道中話しつつ、私達は怖くもなんともないチームルームへと向かったのだった。
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