上 下
11 / 21
一章 アリス・バース・デイ

先代の「アリス」 その4

しおりを挟む
「う、うーん……」
「起きたか」
 目が覚めると、すぐ目の前に魔女さんの顔があった。
「ひゃっ」
 慌てて起き上がる。どうやら膝枕をされていたっぽい。は、はずかしー……
「おめでとう、アリスちゃん。僕達、アリスちゃんとハートちゃんのお陰で勝ちまではいかなかったけど、引き分けには持ち込めたよ」
「いいや、ディー。あなたの指揮もよかったわよ」
「僕はアリスちゃん達を信じただけだよ。実際、僕はあまり役に立ててなかったし」
 褒められているのに、ディーさんは否定している。
「ディー」
「なに、ダム」
「自分で考え、他人に指揮を出し、仲間を信じる。この訓練で、その成長が見えた」
「なにが言いたいのさ」
「よく頑張った。ハッターも、白ウサギも、俺も感心した」
 そんなディーさんは、ダムさんに言われてやっとその事実を受け入れたようだった。
「にしても、アリス。よくあんなこと思いついたな?」
「信じてくれないかもですけど……剣が、剣の中に居るアリスさんが、教えてくれたんです」
「……そう、か」
 白ウサさんは、何か言いたげな表情だったけれど、深入りしないでおくことにした。
「すまん、先に戻る」
 そしてそのまま、白ウサさんは一足早くに訓練場を出て行ってしまった。
「追わなくていいんですか?」
「彼にも考える時間が必要なのよ」
 私の疑問に、ハッターさんが答えてくれた。これから先、私と、アリスさんと、白ウサさんを囲む問題に直面した時……私は、しっかり納得のいく結論を出せるのかな……
「引き分けだけど、今回は完全に僕達の負けだよー」
「魔女さんがもっと遅かったらどうなってたことか」
「そうだな。あのアリス君の時間が無かったら負けていた」
 少ししっとりした空気を、スリーエスさん達が打ち砕いてくれた。
「ハート君の固有魔法も厄介だが、改めてアリス君の固有魔法は汎用性が高いのがさらに厄介だな」
 クッキーを食べながら話す魔女さん。ほんの少しココナッツの香りがして、見ているこっちも食べたくなってくる。
「前のアリス君は指揮官をしながらその柔軟な思考で固有魔法を操り、名実ともに最強だったと覚えているよ。君も、その境地に至れたらいいな」
「頑張ります、アリスさんを目指して……!」
 剣を見つめて、私は言う。
――いい度胸してるじゃん?
「えっ」
「どうしたの?」
「今、アリスさんの声がまた聞こえて」
「……そう」
 今度はハッターさんが物憂げな顔をする。
「でも、魔女さんの本気はこんなもんじゃないからね?武器の名前すら呼んでないんだし」
 ヘンゼルさんの言葉で気づく。通常の状態でこれなら、本気を出したらどれだけすごいんだろう……前のアリスさんが日本支部最強の剣士なら、魔女さんは最強の魔女、なのかな?
「それじゃあ、今日の訓練は終いとしよう。私も……ふあぁ、ねむいのでね……『お菓子の家の魔女、ログアウト』」
 あくびをしながら、魔女さんは現実世界に戻って行った。
「じゃあ、僕達もお暇しよう」
「そうだね」
「『ヘンゼル、ログアウト』」「『グレーテル、ログアウト』」
 続いて、ヘンゼルさんとグレーテルさんも戻って行った。
「俺達はどうする?」
「そうね……私も帰ろうかしら」
「ダムはどうするの?」
「俺は上に報告をしてくる」
「そっか、じゃあそれを待ってるよ」
 ダムさんは今回の訓練の結果報告をしに行くらしい。
「あれ、ハートちゃんはどこ行ったんですか?」
 あと聞いてないのはハートちゃんだけだと思って見渡すも
居なかった。
「そういえば居ないわね……白ウサについていったのかしら?少し探してから帰ることにしようかしら」
「僕が探しておくよ、待っているの退屈だし」
「じゃあ、任せちゃおうかしら。『マッドハッター、ログアウト』」
 ハッターさんが戻っていき、三人が残った。
「アリスちゃんはどうする?」
「白ウサさんが心配ですけど……行ったら逆に邪魔ですかね」
「そうかもな。もしハートがそこにいるのなら、それ以上人数を増やしてもダメだろう。素直に帰ったほうがいい。疲れもあるだろうしな」
 ダムさんの言うことはもっともだ。慣れない力を解放して、疲れてるのは事実だし。
「じゃあ、後のことはお二人に任せますね」
「わかった」「うん、任せて」
 二人の返事を聞いてから、私は現実世界に戻った。
「『アリス、ログアウト』」
しおりを挟む

処理中です...