夢の中にいさせて~今日からイケメンと添い寝生活始めます!~

sae

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第31話、安心できる場所

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 うっすらと目覚めたそこは知らない世界だ。

 (……イケメンがいる……)

 虚な瞳の中で視界の中に埋まるのは、私をジッと見つめているイケメン白王子。

 (あれ……これって夢?)

 夢と現実の境目が分からない、それくらい頭がボーッとする。まだ脳内の奥はグラグラと揺れるほど瞼もまだ重くてぱっちりと目が開けられない。それくらいまだ眠気眼……眠気眼!?

「え! 私寝た!?」
「ぐっすりね」
「ぎゃあ! 白鹿さん!」
「その悲鳴の上げ方ひどくない?」

 思わずベッドの上で飛び跳ねたら白鹿さんは眉を顰めて怪訝そうに見つめてくる。

「すす、すみません。ちょっとその、状況把握がすぐに出来なくて……そうか、そうだった……昨日はえっと」
「気分はどう?」
「え」
「俺にはよく眠れていたように見えたけれど……実際気分はどう? 少しはスッキリした?」
「あ……」

 目覚めて瞼をぱちぱちさせながらも脳内を覚醒させていく。目の前の白鹿さんを確認しつつも周囲を見渡してここがどこだったのか、昨夜私は……その記憶を辿ると自ずと答えが出る。昨夜……白鹿さんの腕に抱かれて、温かな熱に包まれて、いつのまにか眠気に襲われて気づいたら朝なのか。一度も起きることがなくまさに熟睡。

「私、どうして白鹿さんとだと寝られるんでしょうか」
「さぁね。HLA遺伝子の問題だろうか」
「えいち……え?」
「生き物ってさ、できるだけ自分とは違う遺伝子を持つ相手を探して見つけようとするっていうだろ? それが子供にもいいって」
「こ、子供……」

 子供という言葉に深い意味がないのは重々承知だが、変に意識してしまった。そして意識している自分に一番戸惑ってしまう。

「相性は体臭でもわかるっていうからね。女性は遺伝子レベルで免疫力の強い、より良い遺伝子を持つ子孫を残すようにインプットされているって聞くけど。男よりもよっぽど本能レベルが高くて嗅覚や感覚が優れてるって」
「へ、へぇ……」
「少なくとも俺に対しての生理的拒否反応はゼロ、かつ精神的にも安心できる心理的安全性が高いと判断した……結論眠れた」
「心理的……安全性?」

 またなんだか変な言葉を使うから首を傾げてしまう。白鹿さんはいちいち理論的に話を進めるから突っ込まずにはいられない。

「ここなら大丈夫、きっと平気だ……そんな風に人が安全な場所や状態を好む本能みたいなもの。本能的に危機を避けたくて安心できる場所を探してる。そこでやっと心が緩んで精神的な安心感を得られる。人が心から眠れるのは自分を守る必要がないと思えたからだ」
「危険がないってこと?」
「ちがう。何を言ってもどう思われてもここにいてもいいと思える場所のこと」
「……」
「守ってもらえる、と思ったわけじゃない。自分を否定されない、そう思えたからじゃない?」
「……」
「どこかで自分を責めてるよな。こうなった結果を、眠れなくなるストレスはきっと恐怖からだけじゃない。この原因を生み出してしまったことに後悔と自責の念がある。でもさ、そんな風に自分を責める必要なんかもうないんだ」

 白鹿さんの言葉が胸に刺さってじわりと言葉に出来ない思いで広がっていく。浅くなっていく呼吸が苦しい。それくらい、胸の奥からこみ上がってくる思い。

「男がストーカー化したのは君のせいじゃない。夢を形にしたくて手を伸ばしたことだって何も間違ってない。自分のせいだなんて、思うことないんだ」

(どうして……)

 どうしてそんな風に、私を救いあげるような優しい言葉を言ってくれるんだろう。
 
 だって後悔ばかりあったのだ。焦って目先の欲に飛びついた自分がいたのは事実だ。優しくされて自惚れて、勘違いして人の家庭に無意識に足を踏み入れていた。知らなかったは言い訳で、今さら言えることなどない。だからってなかったことに出来ない。だからこそ、もっと自分がちゃんと目の前を冷静に見られていたらこんなことにはならなかったのかもしれない。篠原さんとももっとちゃんとお別れも出来たのに……それを選ばなかったのは私だ。

 白鹿さんは、何も言わない。責めもしない。否定もしない。ただ、隣にいてくれる。それだけのことなのに、どうしてこんなに胸がいっぱいになるんだろう。どこにもぶつけられなかった気持ちが、胸の奥からこみ上げてきて小さく息を吐くと零れ落ちるように私はその言葉を吐いた。

「……ごめんなさい」

 誰に、とは言えない。でもそれは、きっと……あのときの自分へ。手放してしまったものへ。傷つけてしまった人たちへ。

 そして、ずっと許せなかった自分自身へ。

 目の奥がじんと熱くなる。泣きそうになる私の頭に、ぽんっと優しく触れるもの。
 
 たったそれだけのこと。言葉も何もなくても、その優しい熱に胸の奥のなにかがほどけた気がした。

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