続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

sae

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エピソード1

とまどいの一カ月②

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「今日飲んで帰らん?」
 同期の高宮が会議室の扉を開けつつ聞いてきた。

「あー、今日は無理」
「なんでよ」
「なんででも」
「なに?彼女できたん?」
「うるせぇな」
「えー、マジかぁ。いつから?どんな子?」
 な~教えろよぉ~と猫なで声でくっついてくるからマジでうざくて突き放す。

「いーなぁー、俺も彼女欲しー」
 高宮も前の彼女と別れてから半年くらい時間が空いている。

「どこで出会ったん、社畜のくせにそんな時間あるの、お前」
「社畜言うな」

 まだだれも会議室に来てないとはいえ声がでかい。高宮は俺よりもフランクで人当たりも良さそうなのに外面からは想像できないほど冷静で鬼畜なところがある。だから馬が合うのだけど。

「いーなぁーー」と、心底羨ましそうに言うから思わず吹き出した。

「別にお前こそ選り好みしなけりゃすぐ出来るだろ」
 外面は顔だって悪くない。

「いや、もう年齢的にさ、遊ぶのは面倒じゃん。若い子は可愛いけどさ、話すと馬鹿な子も多いし。承認要求ての?あれだけを大事にされてもねぇ。だからって年相応選ぶと重くなるじゃん。あれマジきつい、あの重い圧……私生活までストレスは勘弁」
「じゃあ年上は?」
「話聞いてた?もっとねぇわ」
 ぶったぎられた。

「今の子はなに?何が決め手だったわけ?年下?」
「ああ……」
 しまった、流れに乗せられてしまう。

「ふぅん、いくつ?久世のことだから25より下はないわな」
 なにを知ってると言いたいが図星なだけに言い返せない。

「三十にはなってない子のほうが付き合いやすいよな、お互いに。歩み寄る時間の猶予がほしいわ」
 理想的~、とプロジェクターの電源をつけて照明を落とした。高宮は同期入社だが浪人して年齢は俺より一つ上だ。

「もう遊べんよなぁ、でも落ち着きたいとかまでなるには相手によるしなぁ。結婚とか決めれるやつらマジすげぇよな。何で覚悟きめんだろ、想像つかん」
 ぞろぞろと人が集まりだして課長クラスのメンバーが顔を揃えだした。安全関係の話や人事の話でさほど上の空でもいいとはいえ、頭の中がさっきの彼女との時間で占められている。

 抱きしめていたはずなのに、気づけば彼女に抱きしめられていた。
 頭を撫でられたのなんか幼い頃以来で、心地よさと一緒に湧き上がった欲情にハッとして身を剝がすように離れた。あのままずっと腕の中にいたかった。でもいたらきっと、止められなくなると思った。

 抱きしめているだけじゃ、もう足りなくなっている。


 打ち合わせが終わりかけてきた頃、ぼんやりと先ほどの高宮の言葉を思い返していた。

 彼女を選んだ決め手、覚悟を決められる理由。言葉にするには悩むけれど漠然とした思いならある。
 それは彼女を手放したくない、その気持ちだ。

 仕事を辞めたいと告げた彼女が言ったあの時。

「君がいなくなると困る」
 そう伝えた言葉は仕事だけの意味じゃない。ただ単純に俺のそばから離れてほしくなかったし、離したくなかった。それが答え以外のなにものでもない。

 打ち合わせは18時半前に終わった。終わったのにまだ高宮に捕まっている。

「マジでもう帰らせろ」
「なぁ、お前忘れてない?あの時の貸し」
「は?貸しなんかねぇよ」
「あー、忘れたとかいう?なかったことにすんなよ」
 あの時、の言葉にハッとした。

「……あー、でもあれは」
「あの時俺が気づいてなかったら問題になってたと思うけどなぁ、間抜けな前課長さんのミス。実際監査厳しかったんだよ。去年ちゃんと出来てなかったからって数年前まで遡らされて結構粗探しされたんだぞ。そこに菱田ちゃんのことが出てきてたら尻ぬぐいしてるのは間違いなく久世だからな」
 あの時の作業手順書の明記問題は確かに高宮が一役かっている。

「仕事漬けのお前がどうやって知り合えんのかくらい教えてくれてもいいじゃん。俺も真面目に出会いが欲しいわけよ」
「それだよ」
「どれ」
「だから……その彼女」
「……え?菱田ちゃんなわけ?」
 沈黙を肯定ととった高宮は目を見開いて驚嘆した。

「うーわぁーー。まじかぁ」

(どういう意味だ)

「羨ましすぎる」

「は?」
「いや、お前、マジ?もうマジで付き合ってんの?」
 眉間に皺を寄せるとまたまとわりついてくる。

「いつから?もうヤッた?」
「死んでも言いたくない、お前に」
「えーー、めっちゃいい、めっちゃ羨ましい。俺あの子好きなんだけど」
「はぁ?」

(堂々と言うな)

「一回飯誘ったことあるのにさ、すんげーうまくかわされちゃって。会うと可愛いねって言ってもさらっとスルーするんだよ。まぁ男いるわなぁって思ってても可愛いから見るとつい構っちゃうんだけどさ。なんだよ、男いなかったわけ?」
 さらっと色々言うな、と思っていたらまだ言ってくる。

「そんで久世?えーなんでお前が付き合えるわけ?」
 ずりー、と嘆かれて思わず噛みつく。

「うるせぇよ」
「入社してきたときも開発部にあんな若い子入ってきたの久しぶりでめちゃくちゃ沸いたからな」
「……へぇ」
 当然そのころ俺は本社にいたから知らないわけで。

「あんなガード固そうな子、よく落としたな。何した?上司の立場で脅した?」
 めちゃくちゃなことを言う。

「辞めるっていうから、引き留めただけだよ」
「うそ、辞めたいって?なんで?あの子いなくなったらお前の部署仕事まわんないじゃん」
 高宮があっけらかんと笑った。
 仕事しているヤツにはわかるのだ、何も俺が特別に過大評価しているわけでもなく、事実として仕事の結果が出ている。それを彼女自身が認められていないだけだ。

「鬼上司に逃げたくなったのに捕まえたの?おっそろしいな、お前」
「だから脅してねぇわ」
「へぇー菱田ちゃんかぁ。しかしよく落とせたな。媚び売ってくるタイプでもないだろうに」
「むしろ噛みついてくるぞ、あいつ」
「マジで?」と、笑われた。

「じゃあお前知ってて手出したの?」
「……何を?」
「知らないの?杉崎部長のお気にいり説」

(なんだそれ)

「前から有名よ?杉崎部長のお気にいりで囲われてるって。愛人よりは娘かな?可愛がられてるって……なんでお前は同じ部署にいるのに知らないんだよ、ってだから口説いてんだよな、なるほど」勝手に納得された。
「いーなー、そんでこのあとは上司と部下じゃなくなるわけぇ?なんかエロー」
 しつこい高宮はもう放置して会議室を出た。後先考えずに高宮に彼女のことを勝手にこぼしてしまったことを彼女には伝えた方がいいか。

(ペラペラ人に話す奴じゃないけど、会えばからかわれるかもな)

「媚び売ってくるタイプじゃない」高宮の言う通り、彼女は自分を売ったり靡くタイプじゃない。
 部下として働きたいと告げた通り、職場でも徹底して部下の顔をしている。本当に二人きりだとわかる定時後くらいしか気を緩めない。それが余計可愛かったし、好きだと思った。むしろ俺の方が、日に日に上司ではいれなくなっている気がしている。

 仕事も山ほど振って、教えられることはすべて教えてやろうと思っている。そうすれば、彼女はきっと今まで以上に仕事にハマっていく。それだけじゃなく俺にも深入りしていくだろう。

 俺のことしか見えないくらい、余所見もできないくらい没頭させたかった。

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