続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

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エピソード8

我慢の六カ月④

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 金曜に名古屋に主張と聞かされて寂しさが募っていた。木曜は定時で上がってその足で新幹線に乗ると言っていたけど、駅で電車に乗ろうとする誠くんを見かけたのは偶然だった。


(え……)


 足が止まったのはバレたらいけないとかそんな気持ちではない。黒髪の背の高い女の人が誠くんに手を振って近寄っていった。誠くんも警戒心もなくその人に近づいて微笑んでなんだか楽しそうに話し始める。女の人が誠くんに躊躇いなく肩に触れるから――。


(……まって、だれ?その人)


 大きめのバックを持って二人で改札の前で話しているとちょうど電車が着いたのかで改札に人の波が溢れて視界が邪魔される。


(出張だよね?仕事って言ってたよね?)


 その波の中で誠くんがチケットを取り出して渡そうとする姿が見えて嫌な想像が頭から離れない。


(前日入りするだけで日帰りだって言ってた、金曜には帰ってくるって)


 ドンっと人の体がぶつかってよろめく。誠くんを探すともう姿がなくて見失ってしまった。焦りと不安が一気に押し寄せてきてその場に入れなくなって逃げ出した。走ったせいか気持ちか、心臓がバクバクして胸を締め付けてくる。


(やだやだ、なに?あの人。仕事じゃないの?たまたま出会った人?でもそんな感じは全然しなかった)


 考えても考えても答えなんかは出ない。それでも考えずにいられなかった。
 金曜はとにかく不安に包まれて、でももう帰ってきてくれる、そう思っていた気持ちが夕方入っていたラインで裏切られた。


【地震で新幹線止まって帰れない。今日は名古屋に泊まる】


 ニュースでも地震速報が流れて嘘じゃないのはわかる。わかるけれど、本当に地震だけなのだろうかと疑ってしまう。

【夜、電話していい?】


 そう送ると19時過ぎに電話がかかってきた。

『最悪なんだけど』
 その言葉は本音に聞こえた。うんざりしたような疲れた声で、ウキウキした感じには聞こえない。

「大変だったね、大丈夫?」
『地震?まぁ揺れたけど。地下鉄乗ってたら怖かったかもな』
「新幹線まだ動かないの?」
『いや、なんか徐行運転しだしたみたいだけど、でももう駅も人すごいしとてもじゃないけどチケット取れない。会社の補助が出るホテル取れたしもう泊まるわ』
「……そっか、気をつけてね」
 なるべく明るい声で話してるつもりだけど、悶々した気持ちが溢れてくる。

「誠くん、あの……変なこと聞いていい?」
『うん?なに?』
「……あの、地震なかったら帰ってきてた?」
『……なんで?』
「仕事……だよね?」
『…………なんで?』


(聞いてるのはこっちなのに全部聞き返してくるしぃ!)


「な、なんでもない!気をつけてね!帰ってくるの待ってる!」
『……うん、また連絡する』
 そう言って電話を切った。不安を拭いたくて聞いたけどなにも解決せず終わった。


(素直にそうだよと言われたところでスッキリするかと聞かれたらそうでもないけど!でもさぁ!!)


 変な沈黙は何かを探っているのか、それとも察知してるのかと思うし、聞き返してくるのは向こうも疑っているのかと思うし。


(不安と疑いしか残らない電話だった……)


 精神的には強くなったはずだ。付き合いだした頃もこんなことはあったけど、あの時は自分には無理なんだとすぐ身を引こうとした。
 その時と今は違う。あの時みたいに私じゃダメなんだと諦めたくない、そう思えるほど自信はついてる。
 けど、怖いのは同じだ。もう一緒にいれないの?そう思う不安はあの頃よりむしろ大きい。

 だってあの頃より今はもっと彼を好きになっているんだから。



 ―――


 電話を切ってから会話を思い返す。


(変な質問だったな。なに?あれ)


 日帰りのつもりがまさかのトラブルでもう一泊することになった。地震は予測できないし、新幹線が止まった以上慌ててもどうしようもなく。
 佐藤が嫁とこっちに泊まると言っていて、マジかよと思っていたが本気で嫁はやってきた。駅でいきなり会って相変わらずの行動力を持ってるなと半ば呆れていたのだが。

「だって暇だったし!名古屋いいじゃん!と思って。いつでも会社に振り回されて安定の社畜だね!」
 うるせぇよ。

「本社より今のが仕事抱えてんでしょぉ?そんな楽しいの仕事。自分から抱え込んでさぁ、プライベートちゃんと持ててる?またつまんないって彼女に振られるよ?てか、今彼女いるの?出来た?」
「……会って早々喋り過ぎ」
「だって久世くんと会うの久しぶりだしー。でもなんか相変わらずって感じだね!本当に!無機質ロボット!みたいな感じ!」
 バンバン肩を叩かれてイラっとする。変わらないのはお前もだよ、と言いたいところを飲み込んだ。こいつ――夏目なつめに口で勝てたことはない。

「ねぇ、修二と改札で待ち合わせてたんだけど、一緒じゃなかったの?」
「もう来ると思う。これ、チケット、連番で取られてるしこっち乗れば?」
「うそ!いいの?めっちゃ嬉しい~ありがと!」
「いいよ、夏目のちょーだい」
 そうこうしてたら佐藤が合流して三人で改札を抜けた。夜一緒に飯でもどうかと誘われたけど夫婦の仲を割り込むつもりもなかったし断った。

 ホテルに一人戻ってぼんやりと千夏のことを考える。


(仕事かとなぜ聞いてきたんだろうか、仕事に決まっているのに)


 質問に解せなくて考えてみるものの答えがでない。帰るつもりがなかったんじゃないかというような問いも腑に落ちない。


(ん?金曜には帰るって言ったよな?言ってないっけ?いや、日帰りって言ってる、絶対言ってる)


 脳内で会話しつつテレビをつけるとニュースは地震の影響のことばかりで、新幹線は通常に動き始めたと言っている。明日は予定通り朝にこちらを出れるだろう。昼には千夏に会えるかな、会ったらどうしようか。仕事の目処が立って感じていたストレスが少し落ち着いたところもあるし、なにより理性がもうブチ切れそうだ。

 今ここに千夏がいればいいのに。そんなことを思いつつ名古屋の夜が更けていった。



 ―――



【朝イチの新幹線取れたから昼には帰るよ】

 ラインを確認してホッと息を吐いた。朝一番に帰ってきてくれるという言葉にどこか安堵した。名古屋にゆっくり過ごすわけじゃない、一緒に過ごした人が仮にいたとしても早くに別れてくれるのか。


(いやまてまて。見かけたのは最寄駅なんだから名古屋で別れるわけじゃないか?え、結局昼まで一緒てこと?)


 考えたら考えただけ沼に落ちていてもたってもいられなくなった。


(改札で待ち合わせてたんだから同じ駅として、また改札で別れるかもしれない)


 もう隠れて見ていたくなかった、嫌な女でもいい、直接話がしたかった。別れたくないから嫌な女になる、その目で見て言いたい事を言う、その覚悟を決めた。
 いつもより念入りにメイクしてお気に入りの服を着た。背の高くてスタイルのいい人だった。顔は見えなかったけど綺麗な髪の毛はゆるく巻かれて後ろ姿だけでも色気のある感じがした。私はその人とは似ても似つかぬ系統だし、自信があるわけじゃない。

 でも――。


(誠くんを好きな気持ちは私だって負けずにある)


 駅には十一時半くらいに着くとラインが入ったが、駅と書かれてハタと気づく。


(あれ、駅って家からの最寄り駅か?二人が出会ってた駅は会社の最寄り駅だから降りる場所は違う……ん?ということは一緒には降りてこない?乗った駅と降りる駅は違うもんな)


 その事実に直前で気づいてどうしようか迷った。どうする?どこで待つ?迷っていても時間は過ぎるから降りる駅を聞いたら家からの最寄り駅だった。
 一緒にはいないのか、電車に乗って会社の最寄駅まで行くつもりだったけれど改札を抜けるのをやめて出入り口で待つことにした。そこまで混雑のない日曜の午後。私のことはすぐに見つけられるはず。


(会ったら何から聞けばいいのかな)


 不安がないといえば噓になる。そのまま聞いていいだろうか、誠くんの出方を待つ方がいいだろうか頭の中でグルグル考えていたら声をかけられた。


「千夏?」


 ハッと顔を上げると考えていたその人が立っていた。


「駅まで迎えにきてくれてたの?」
 少し驚いた様子、でも嫌そうではない。

「待ってられなくて。お帰りなさい」
「……ただいま」
「……ひとり?」
「…うん、ん?なんで?てか、昼食った?」
「ううん」
「食う?駅弁」
「え!」
 差し出されたビニール袋の中を覗くと有名店の味噌カツ弁当。

「ええ!食べる!」
「んじゃ帰ろ」
 手を引かれて胸がギュッと潰される。


(浮気してるなんて思えない、思えないけど、じゃああの人はなに?)


 家について玄関の扉を閉めたらもう気持ちが耐えられなくなって爆発させてしまった。


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