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目標のある幸せ ー卒業ー 第一話
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「私、グループを卒業しようと思うんです」
うららかな昼下がり。話がありますと言うと、一瞬いやそうな顔をした村雨取締役に、いつもの会議室に来てもらい、私はそう伝えた。
「やっぱりな。まあ、そうだと思った。でも、まだ駄目だ。もう少し、いや一年くらい後にしてくれ」
「何ででしょうか? おそらくですけど、そんなに待てって言われている人なんて今までいないでしょう」
「なんでって。こっちにも都合があるからだよ。言わないけど」
悪いが本当に一年くらいは余裕を見てくれよな。希望は聞いたから時期はその時に追って伝える、と言いながら会議室からさらっと出ていく。私としたことが、ついその背中に向かって、珍しく大きな声を出していた。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいって! なんで卒業するのを待たないといけないのか、それだけでも気になるから理由くらい言ってくださいぃぃぃ……」
誰もいなくなり扉が開いたままの会議室の中から、ミュージカルのセリフのように廊下に声が響いていたところで、我に返った。
「ああっ! 知りたい気持ちが強すぎて、卒業するって叫んじゃった」
私は自分の生まれ持った能力で他の人よりもできることが多かった。
やれば何でもできると思っていたし、私にとって何でもできると言うのは、何も目標とすることがないのと一緒だった。
本当は何かをずっと求めているのに、この人生を何事もなく過ごすことがすべてだと思いこむようになっていた。
目標に向かって頑張っている人を見ると、私は心の底ではうらやましかったのだと思う。
自分もそんな風になりたい、目標がある人はそれだけでも幸せだと。
そんな時、ヴァルコスマイルというアイドルグループをテレビでみて、このアイドルを知りたい、そう思って、グループのオーディションを受けた。そして私は今ここにいる。
これからライブのステージに上がる私に責任者の村雨部長が話しかけてきた。
「グループに入るときアイドルのことを知りたいと言っていたがどうだ? 分かったか?」
そう、私はアイドルとは何なのか? ヴァルコスマイルというアイドルのことがすべて知りたい。そのためにこのグループのオーディションに応募したと村雨部長に言ってアイドルになった。
村雨部長には、まだわからないことが一杯あるので、終わりがないかもしれないが、やりたいと思う事を全てやっていくのが今の目標だと答えると、それが目標なら全力で頑張って楽しめと言われた。
私の名前は相羽紗良。ヴァルコスマイルという自分が所属するアイドルグループでの初めてのセンターを務めたツアーのライブが今終わり、楽屋に帰ってきていた。
「紗良お疲れ様、よく頑張った」
リーダーの神室美咲さんが私の肩を叩く。
「あっという間だったようにも思いますが、緊張しましたし、疲れました。ヴァルコスマイルのセンターって本当に大変なポジションですよね」
「馴れよ馴れ、って言っても私は表題のセンターをしたことないから横で見ていてそう思うだけだけどね」
「そういうものですか。とりあえず経験させてもらえただけでもありがたいです」
「紗良はまたセンターをやりたいって思わないの?」
「やらせていただいたことで良い経験ができましたし、すごくありがたかったですが、私は特別センターをやりたいということは無いです。できれば全ポジションをやりたいと思います」
「ふーん、じゃあそのうちリーダーとかもやらないとね」
「何を言っているんですか。リーダーはなったりならなかったりするところじゃないですし、私はそういうまとめ役に向いていないので駄目です。美咲さんがいたら大丈夫だと思います」
「向いてないかなぁ、みんなのことをよく見ているし、私よりも向いているように思うけど」
ずっと「そうかなぁ」と言いながら「お疲れ様」と言って去っていった。
私はお父さんの相羽陸とお母さんの相羽紗弓との三人暮らし。
ヴァルコスマイルというアイドルグループの二期生のオーディションを受けたきっかけはテレビで見たからだが、 特にグループで歌姫といわれている高坂絵里奈がライブの映像に出てきたときは衝撃を受けた。
隣で一緒に見ていたお母さんに口を開けてどうしたのかと言われたくらいだ。
やろうと思えば何でもできることで、小さいころから本を読むことくらいしかすることのなかった私は、もっとこの自分に衝撃を与えたアイドルというものを知りたいと思い始めて、それを知るためにアイドルになった。
私は自分でも愛想が良くない(感情をそれほど表に出さないからかもしれないのだが)という自覚はしているのに、どうしてアイドルになろうと思ったのかと思うこともあるが、一度芽生えた知りたいという欲求は抑えられない。
それを満たすために、やるからには全力でやろうと超が付くほど苦手な笑顔の練習は欠かさないようにしている。
とはいえ生来の不愛想ぶりにファンからは愛想がないことを揶揄されることも多い。
他にあまり人には言っていないが、記憶力と動体視力を含めた運動能力が人よりもあるので、振り付けなどで困ることはほとんどない。私としては、アイドルになるまではそういう自分の能力を一生懸命に隠していたつもりだったが、実際には両親に少しずつバレていたらしい。
そんな私ではあるが、やればなんでもできるというだけで、芸能で一番必要な創造性が欠けていると思っているし、恐らくそうなので、グループのみんなを見ていると、みんなすごいな、自分はまだまだだなといつも感心している。本当にメンバーみんながすごいのだ。
ヴァルコスマイルというアイドルグループの一員になった私は、色々なことを経験させてもらいながら、グループのセンターまでさせてもらえるようになったのがついこの前。
センターになり初めての座長を務めたツアーは滞りなく終了し、今の私は高校卒業のために、自分で立てたスケジュールをもとに出席日数を稼ぐべく、高校へと通っている。
授業が終わり、家に帰ろうとしていると、いつものように幼馴染の山岸春代が話しかけてきた。
「紗良、一緒に帰ろ」
「いいよ。はるはいつも私と一緒に帰って大丈夫なの?」
「大丈夫って何よ? 大丈夫に決まってるでしょ。紗良と帰る以上に重要なことなんか私にはないよ」
春代は高校までの私の唯一と言っていい友達であり親友だ。今となっては家族に近い。気がつくとひとりぼっちになろうとする私を、いつもみんなと一緒にいさせるために気を使ってくれて、私を引っ張り出してくれる。
私が一緒に帰ってもいいのか? などと訊くので少し怒ったようなそぶりの春代を見て、いつもありがとうという気持ちでいた。
「そんなことより、紗良は修学旅行には行くの?」
「行ければ行こうと思ってる。修学旅行も単位に含まれているから」
「単位に含まれるとか、なんか紗良らしいけど。楽しみとかではないの?」
「楽しみ? どうかな、みんなと一緒だと気をつかうし、つかわれるから」
元来、仏頂面で感情の起伏も乏しい私は、人と一緒にいて普通にしていられるのは春代とだけだ。基本的に誘われても春代がいなければ付き合いではどこにもいかないし、もともと気を使うのが面倒だと思う性格で、イベント事にはあまり興味もないというのが本音だった。加えて今はアイドルという職業をしていることで、通常時の写真等にも気をつかわなければならなくなっていたので、そういった意味でもどうしようかという感じはあった。
それで、グループの責任者である村雨部長に訊いたことがある。
「相羽はやっぱりかわっているよな、学校行事の写真は写ってもいいのかって? そんなことを俺に訊いてきたやつはいないけどな、普通マネージャーに訊くから」
顎に手をあてて少し考えてから話し始めた。
「今時、写真を撮られたり写らないようにするほうが難しいだろう。まあ常識的なところで変な写真がネットに上げられないように願うしかないかな」
「そうですか」
「まあ、アイドルだから写真を一緒に撮りたいと思う子もいるだろうし、そうじゃない子もいるかもしれんしな」
「それでは全く対象者が限定されていませんが? 結局のところどうなんです?」
「うーん、そうだなぁ、個人的には別に普通の写真ならいいとは思う。ただ、グループの責任者としては、男の子と一緒に写るのは避けるべきだと思ってはいるよ。特に二人でとか、隣でとかな」
「男の子ですか?」
「本当にそうなら問題は別にあるが、そうじゃなかったら変に切り取られたら面倒だからな。わざわざ何でもないのに否定するのも馬鹿馬鹿しいだろう」
「それはそうですね」
「そうなると、あまり写真には入らないようにする子が多いな、相羽に関しては普通にしていればそんな風に見られないかもしれないが、気をつけておいてくれ」
私は普通にしていたらそう見られないとはどういうことですか? という質問には答えず村雨部長は去っていった。
私の学校は二年生と三年生でのクラス替えはないので、受験で忙しくなる後期ではなく三年生の前期に修学旅行が行われる。学校に来られないことも多いので、あまりそういった行事の係をしていないことはちょっと申し訳ない。
私が所属するヴァルコスマイルというグループは、現在私を入れて二十九人で露出の多い表題曲を担当するチームアルファーと担当していないチームベータにほぼ均等に分かれている。
一般的にはチームアルファーが一軍、チームベータが二軍と思われているが、私はそんな違いを気にしたことは無いし、どちらのチームでも発見があるので楽しい。
新しいシングルの発表があり、前回はチームアルファーのセンターだったが、今回私はチームベータになった。
「今度はチームベータか、頑張るぞ」
そう言って帰ろうとすると、いつものように山岸さなえが絡んできた。
さなえは私と同じ二期生で、チームアルファー常連の子だ。私に対しては、いろいろと拗らせた感じだが、彼女は繊細で努力家の上に可愛くてアイドルになるために生まれてきたようだと本人には言わないが、心の中ではそう思っている。
「だから何で、紗良はチームベータなのよ、チームを行ったり来たりして、ライブ要員とかなわけ?」
「さぁちゃんは、よく毎回そうやって私に絡めますね」
「だっておかしいでしょ、この前まで紗良はチームアルファーのセンターだよ」
「そうだよね、チームアルファーのセンターは大変だった。でもチームベータになったからって何もかわらないと思う」
「大変だったかとかどうとか言ってないし。それに変わらないことはないでしょ」
「あなたたちいつもチーム編成の時に揉めてるけど、何話してるの?」
チームアルファーで何度もセンターをしている一期生の石田恵美さんが話しかけてきた。
「あっ恵美さん。聞いてくださいよ。紗良がまたチームベータだから、なんでだって言っていたんです」
「そんなこと紗良ちゃんに言ってもしょうがないでしょ。紗良ちゃんが選んでるわけじゃないし、ねぇ?」
そう言って私に微笑むので、私はそうですと頷いた。
「それに紗良ちゃん何処へ行っても楽しそうだもの、何処へ行っても何かしでかしそうだし」
最後は少し引っかかるものがあったが、記憶を辿るまでもない。しでかしていないということもなく概ねそうだなと思うので、
「私はグループの全てが好きなのでどこでも楽しめます」
と答える。
「私だってグループが好きよ。まあいいわ、じゃあ今度は一緒のチームになりなさいよね」
そう言って去っていったのをなんなのだろう? と見ていると、恵美さんがクスクスと笑っていた。
「あれは紗良ちゃんと一緒にいたいだけよね。あなたがいる時といないときで雰囲気が全然違うから」
その後、同期でグループ最年少の浦部美香がやってきて、
「紗良ちゃんが同じチームにいなくても私頑張るから見ていて」
と言って、何かご機嫌で去っていった。
美香は以前私と一緒にいたいといって泣いていたこともあるが、随分と精神的にも成長したようだ。
本当にかわいい子だと思うし、私以外の人と話しをするときは礼儀正しく堂々としていて一番の大物だと思っている。
とりあえずチームベータはチームアルファーに比べれば仕事的に融通がきくので、出席日数も稼ぐことができて、結果的に修学旅行も参加できるようになった。
「まさか、私のためにアルファーとベータの所属を調整しているなんてことはないよね」
メンバー一人のためにそんなことするはずないか、そう思い直して修学旅行の準備をした。
うららかな昼下がり。話がありますと言うと、一瞬いやそうな顔をした村雨取締役に、いつもの会議室に来てもらい、私はそう伝えた。
「やっぱりな。まあ、そうだと思った。でも、まだ駄目だ。もう少し、いや一年くらい後にしてくれ」
「何ででしょうか? おそらくですけど、そんなに待てって言われている人なんて今までいないでしょう」
「なんでって。こっちにも都合があるからだよ。言わないけど」
悪いが本当に一年くらいは余裕を見てくれよな。希望は聞いたから時期はその時に追って伝える、と言いながら会議室からさらっと出ていく。私としたことが、ついその背中に向かって、珍しく大きな声を出していた。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいって! なんで卒業するのを待たないといけないのか、それだけでも気になるから理由くらい言ってくださいぃぃぃ……」
誰もいなくなり扉が開いたままの会議室の中から、ミュージカルのセリフのように廊下に声が響いていたところで、我に返った。
「ああっ! 知りたい気持ちが強すぎて、卒業するって叫んじゃった」
私は自分の生まれ持った能力で他の人よりもできることが多かった。
やれば何でもできると思っていたし、私にとって何でもできると言うのは、何も目標とすることがないのと一緒だった。
本当は何かをずっと求めているのに、この人生を何事もなく過ごすことがすべてだと思いこむようになっていた。
目標に向かって頑張っている人を見ると、私は心の底ではうらやましかったのだと思う。
自分もそんな風になりたい、目標がある人はそれだけでも幸せだと。
そんな時、ヴァルコスマイルというアイドルグループをテレビでみて、このアイドルを知りたい、そう思って、グループのオーディションを受けた。そして私は今ここにいる。
これからライブのステージに上がる私に責任者の村雨部長が話しかけてきた。
「グループに入るときアイドルのことを知りたいと言っていたがどうだ? 分かったか?」
そう、私はアイドルとは何なのか? ヴァルコスマイルというアイドルのことがすべて知りたい。そのためにこのグループのオーディションに応募したと村雨部長に言ってアイドルになった。
村雨部長には、まだわからないことが一杯あるので、終わりがないかもしれないが、やりたいと思う事を全てやっていくのが今の目標だと答えると、それが目標なら全力で頑張って楽しめと言われた。
私の名前は相羽紗良。ヴァルコスマイルという自分が所属するアイドルグループでの初めてのセンターを務めたツアーのライブが今終わり、楽屋に帰ってきていた。
「紗良お疲れ様、よく頑張った」
リーダーの神室美咲さんが私の肩を叩く。
「あっという間だったようにも思いますが、緊張しましたし、疲れました。ヴァルコスマイルのセンターって本当に大変なポジションですよね」
「馴れよ馴れ、って言っても私は表題のセンターをしたことないから横で見ていてそう思うだけだけどね」
「そういうものですか。とりあえず経験させてもらえただけでもありがたいです」
「紗良はまたセンターをやりたいって思わないの?」
「やらせていただいたことで良い経験ができましたし、すごくありがたかったですが、私は特別センターをやりたいということは無いです。できれば全ポジションをやりたいと思います」
「ふーん、じゃあそのうちリーダーとかもやらないとね」
「何を言っているんですか。リーダーはなったりならなかったりするところじゃないですし、私はそういうまとめ役に向いていないので駄目です。美咲さんがいたら大丈夫だと思います」
「向いてないかなぁ、みんなのことをよく見ているし、私よりも向いているように思うけど」
ずっと「そうかなぁ」と言いながら「お疲れ様」と言って去っていった。
私はお父さんの相羽陸とお母さんの相羽紗弓との三人暮らし。
ヴァルコスマイルというアイドルグループの二期生のオーディションを受けたきっかけはテレビで見たからだが、 特にグループで歌姫といわれている高坂絵里奈がライブの映像に出てきたときは衝撃を受けた。
隣で一緒に見ていたお母さんに口を開けてどうしたのかと言われたくらいだ。
やろうと思えば何でもできることで、小さいころから本を読むことくらいしかすることのなかった私は、もっとこの自分に衝撃を与えたアイドルというものを知りたいと思い始めて、それを知るためにアイドルになった。
私は自分でも愛想が良くない(感情をそれほど表に出さないからかもしれないのだが)という自覚はしているのに、どうしてアイドルになろうと思ったのかと思うこともあるが、一度芽生えた知りたいという欲求は抑えられない。
それを満たすために、やるからには全力でやろうと超が付くほど苦手な笑顔の練習は欠かさないようにしている。
とはいえ生来の不愛想ぶりにファンからは愛想がないことを揶揄されることも多い。
他にあまり人には言っていないが、記憶力と動体視力を含めた運動能力が人よりもあるので、振り付けなどで困ることはほとんどない。私としては、アイドルになるまではそういう自分の能力を一生懸命に隠していたつもりだったが、実際には両親に少しずつバレていたらしい。
そんな私ではあるが、やればなんでもできるというだけで、芸能で一番必要な創造性が欠けていると思っているし、恐らくそうなので、グループのみんなを見ていると、みんなすごいな、自分はまだまだだなといつも感心している。本当にメンバーみんながすごいのだ。
ヴァルコスマイルというアイドルグループの一員になった私は、色々なことを経験させてもらいながら、グループのセンターまでさせてもらえるようになったのがついこの前。
センターになり初めての座長を務めたツアーは滞りなく終了し、今の私は高校卒業のために、自分で立てたスケジュールをもとに出席日数を稼ぐべく、高校へと通っている。
授業が終わり、家に帰ろうとしていると、いつものように幼馴染の山岸春代が話しかけてきた。
「紗良、一緒に帰ろ」
「いいよ。はるはいつも私と一緒に帰って大丈夫なの?」
「大丈夫って何よ? 大丈夫に決まってるでしょ。紗良と帰る以上に重要なことなんか私にはないよ」
春代は高校までの私の唯一と言っていい友達であり親友だ。今となっては家族に近い。気がつくとひとりぼっちになろうとする私を、いつもみんなと一緒にいさせるために気を使ってくれて、私を引っ張り出してくれる。
私が一緒に帰ってもいいのか? などと訊くので少し怒ったようなそぶりの春代を見て、いつもありがとうという気持ちでいた。
「そんなことより、紗良は修学旅行には行くの?」
「行ければ行こうと思ってる。修学旅行も単位に含まれているから」
「単位に含まれるとか、なんか紗良らしいけど。楽しみとかではないの?」
「楽しみ? どうかな、みんなと一緒だと気をつかうし、つかわれるから」
元来、仏頂面で感情の起伏も乏しい私は、人と一緒にいて普通にしていられるのは春代とだけだ。基本的に誘われても春代がいなければ付き合いではどこにもいかないし、もともと気を使うのが面倒だと思う性格で、イベント事にはあまり興味もないというのが本音だった。加えて今はアイドルという職業をしていることで、通常時の写真等にも気をつかわなければならなくなっていたので、そういった意味でもどうしようかという感じはあった。
それで、グループの責任者である村雨部長に訊いたことがある。
「相羽はやっぱりかわっているよな、学校行事の写真は写ってもいいのかって? そんなことを俺に訊いてきたやつはいないけどな、普通マネージャーに訊くから」
顎に手をあてて少し考えてから話し始めた。
「今時、写真を撮られたり写らないようにするほうが難しいだろう。まあ常識的なところで変な写真がネットに上げられないように願うしかないかな」
「そうですか」
「まあ、アイドルだから写真を一緒に撮りたいと思う子もいるだろうし、そうじゃない子もいるかもしれんしな」
「それでは全く対象者が限定されていませんが? 結局のところどうなんです?」
「うーん、そうだなぁ、個人的には別に普通の写真ならいいとは思う。ただ、グループの責任者としては、男の子と一緒に写るのは避けるべきだと思ってはいるよ。特に二人でとか、隣でとかな」
「男の子ですか?」
「本当にそうなら問題は別にあるが、そうじゃなかったら変に切り取られたら面倒だからな。わざわざ何でもないのに否定するのも馬鹿馬鹿しいだろう」
「それはそうですね」
「そうなると、あまり写真には入らないようにする子が多いな、相羽に関しては普通にしていればそんな風に見られないかもしれないが、気をつけておいてくれ」
私は普通にしていたらそう見られないとはどういうことですか? という質問には答えず村雨部長は去っていった。
私の学校は二年生と三年生でのクラス替えはないので、受験で忙しくなる後期ではなく三年生の前期に修学旅行が行われる。学校に来られないことも多いので、あまりそういった行事の係をしていないことはちょっと申し訳ない。
私が所属するヴァルコスマイルというグループは、現在私を入れて二十九人で露出の多い表題曲を担当するチームアルファーと担当していないチームベータにほぼ均等に分かれている。
一般的にはチームアルファーが一軍、チームベータが二軍と思われているが、私はそんな違いを気にしたことは無いし、どちらのチームでも発見があるので楽しい。
新しいシングルの発表があり、前回はチームアルファーのセンターだったが、今回私はチームベータになった。
「今度はチームベータか、頑張るぞ」
そう言って帰ろうとすると、いつものように山岸さなえが絡んできた。
さなえは私と同じ二期生で、チームアルファー常連の子だ。私に対しては、いろいろと拗らせた感じだが、彼女は繊細で努力家の上に可愛くてアイドルになるために生まれてきたようだと本人には言わないが、心の中ではそう思っている。
「だから何で、紗良はチームベータなのよ、チームを行ったり来たりして、ライブ要員とかなわけ?」
「さぁちゃんは、よく毎回そうやって私に絡めますね」
「だっておかしいでしょ、この前まで紗良はチームアルファーのセンターだよ」
「そうだよね、チームアルファーのセンターは大変だった。でもチームベータになったからって何もかわらないと思う」
「大変だったかとかどうとか言ってないし。それに変わらないことはないでしょ」
「あなたたちいつもチーム編成の時に揉めてるけど、何話してるの?」
チームアルファーで何度もセンターをしている一期生の石田恵美さんが話しかけてきた。
「あっ恵美さん。聞いてくださいよ。紗良がまたチームベータだから、なんでだって言っていたんです」
「そんなこと紗良ちゃんに言ってもしょうがないでしょ。紗良ちゃんが選んでるわけじゃないし、ねぇ?」
そう言って私に微笑むので、私はそうですと頷いた。
「それに紗良ちゃん何処へ行っても楽しそうだもの、何処へ行っても何かしでかしそうだし」
最後は少し引っかかるものがあったが、記憶を辿るまでもない。しでかしていないということもなく概ねそうだなと思うので、
「私はグループの全てが好きなのでどこでも楽しめます」
と答える。
「私だってグループが好きよ。まあいいわ、じゃあ今度は一緒のチームになりなさいよね」
そう言って去っていったのをなんなのだろう? と見ていると、恵美さんがクスクスと笑っていた。
「あれは紗良ちゃんと一緒にいたいだけよね。あなたがいる時といないときで雰囲気が全然違うから」
その後、同期でグループ最年少の浦部美香がやってきて、
「紗良ちゃんが同じチームにいなくても私頑張るから見ていて」
と言って、何かご機嫌で去っていった。
美香は以前私と一緒にいたいといって泣いていたこともあるが、随分と精神的にも成長したようだ。
本当にかわいい子だと思うし、私以外の人と話しをするときは礼儀正しく堂々としていて一番の大物だと思っている。
とりあえずチームベータはチームアルファーに比べれば仕事的に融通がきくので、出席日数も稼ぐことができて、結果的に修学旅行も参加できるようになった。
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