目標のある幸せ

根来むそお

文字の大きさ
2 / 18

目標のある幸せ 第二話

しおりを挟む
「いってきます」

 学校の友達と用事があるからと言って、二次審査の会場に行った。
 休みなのに学校へ行く体で出た手前、制服のままだったが、大した服を持っているわけでもないし、あまり気負いすぎて落ちた時のことを考えると、これでいいかと思ったのもある。
 会場に着いて、何があるんだろうと想像をしながら待っていた。

「次のグループの人、入ってください」

 応募者数が多いこともあるのか、二次審査に来ている人も結構たくさんいるんだな、というのが印象だった。
 時間もいくつかに分けて呼ばれているらしいことが、案内を見るとわかる。
 書類審査だけで人を選別するのは難しいだろうから、二次審査からが本番で、できるだけ多くの人の中から選びたいというのが心情というものだろうか。
 周りを見てみるとみんなそれなりに整った顔をしていて、幾人かはもう出来上がっているなというくらいの雰囲気を持っている子もいた。

「これは、受からないだろうな」

 圧倒的な雰囲気にのまれて一次審査に受かったということで得た根拠のない自信が、だんだんなくなりかけていたときに自分たちの番が来た。

「それでは二次審査を始めさせてもらいます。とって食べようというわけではないので、あまり緊張しなくてもいいです」

 真ん中に座ったおじさんが私たちを見回しながら言った。

「こちらから見て左手の方から、順に名前と自己アピールをお願いします」

「山岸さなえです。ダンスが得意です。メンバーにあこがれて応募しました。よろしくお願いします!」

 可愛いし春代と同じ苗字だと思うと、ちょっと親近感がわく。

「申し訳ないけど時間があまりないから、簡単に動いてみせてくれる?」

「はい。分かりました」

 手拍子の中、彼女はヴァルコスマイルの代表曲のダンスを披露して、素人の私が見ても周りと全然違う雰囲気をもっていることがわかる。

「ああいう子が受かるんだろうな。良いものを見た」

 そう思いながら少なからず緊張が和らぐ感じがしてじっとみていた。
 それから隣の三人の自己紹介が終わって、いよいよ自分の番だ。

「次の人おねがいします」

 前の人の受け答えを見ることができたので、なんとなく状況はつかめていた。
 自己紹介と簡単な特技的な紹介をするだけですぐに終わってしまうので、アピールする時間なんて言うほどは無いんだなと思っていた。

「相羽紗良です。お願いします」

 私は立ち上がって、深々とお辞儀をした。
 ただ、どこまでなのか知らないだけで、そういうつもりはなかったが、後から聞いた話だとみんなが面食らうくらい、相当深々としたお辞儀だったようだ。
 姿勢を正して、目の前の審査をするおじさんに向かって言った。

「この前、初めてライブの映像を見てヴァルコスマイルでアイドルになってみたいと思いました。自分の容姿とかはどうかわかりませんが、多少運動ができると思うのと、記憶力は良い方なので、ダンスとかもすぐに覚えて気持ちで頑張れると思います。宜しくお願いします」

 正直ノープランだった。オーディションなんて初めてだったし、アピールしてくださいとはあったが歌を歌えばいいのか何なのか調べてもさっぱりだったし、自分では歌がうまいわけでもないと思う。
 本当に自分でもどうしてアイドルになろうかと思ったのか、だんだんわからなくなって、不思議な感じさえしていたから、体力と記憶力があるということで乗り切ろうというか、押し切ろうという結論だった。
 最初に挨拶をしたおじさんが隣の若い人に耳打ちして、若い人が訊いてきた。

「わかりました。記憶力が良いということですが、初めにダンスを見せてくれた子は見ていましたか?」

「はい。見ていました。可愛かったです」

「ははっ。それじゃあ彼女のダンスを思い出してその通りに踊ってみてくれる?」

「わかりました。彼女みたいにできるかどうかわかりませんが、頑張ってみます」
 私は可愛かった彼女の踊りをできるだけ忠実に再現しようと思ったので、実際のヴァルコスマイルの振り付けとは違うなと思いながらも彼女のダンスを踊って見せた。

「えーと。二人は知り合い?」

「いえ。初対面ですけど」

「ふーん。じゃあ。あのダンスがなんのダンスかは知ってるの?」

「ヴァルコスマイルの“逢いたい人がいる”のオープニングですよね」

「なるほど。知ってて振りが違うところまでまねをしたんだ」

「まねと言いますか、彼女のダンスを踊ってということでしたし、なにより振り付けがオリジナルより彼女に合っていて、すごくかわいかったから」

「そうですか。吉田さん何かありますか?」

 おじさんが一番端の女性に訊いた。

「申し訳ないけど、今ここで声を出してみてくれる」

「声?」

「あーだけでいいから、だんだん低いところから高いところまで上げてみて」

 発声練習みたいなやつかと思いながら言われたとおりに声を出した。

「はい、ありがとう」

 端の女性がそう言ってから結果は後日連絡するとのことだった。

「なんだか、わけがわからないうちに終わった」

 二次審査なんて流れ作業のようなものだから時間的にもこんなもんだろうと思いながら帰ろうとしていると、さっき二次審査で一緒だった子が話しかけてきた。

「あ、い、ば、さんっ!」

 私の前に回りこんで後ろ手にしながら微笑みかけてくる。

「山岸さんでしたか?」

「覚えていてくれたの? うれしい」

 可愛い仕草もアイドルになるのはこういう子なんだなと思わせる。

「そりゃもちろん。あれだけかわいいダンスを見せられたら覚えとかなくちゃと思います」

「えー。私のダンスよりもきれいだったじゃない」

「見させていただいたダンスが可愛くてすてきだったから同じように踊れただけです」

「敬語で、なんか他人行儀」

「いや、本当に他人ですし。なんですか?」

「つめたいなぁ。わたしは相羽さん受かると思うよ」

 紗良ちゃんて呼んでいい? わたしはさぁちゃんて呼んでねといいながら話している。

「なんで受かると思うのですか?」

 受かるか受からないかなんて、あの短い時間で分かりそうもないと思って訊いた。

「こう見えても私は子役とかもしたことあるし、オーディションも何回か受けたからわかるの。それだけじゃなくて、紗良ちゃんは向こうから指示されてたでしょ。あの流れ作業のようなオーディションで興味もなくそんなことをしないよ」

「興味がなくはないと思うけど、他の子だって言われたところがあったじゃないかと思う」

「紗良ちゃんのダンスの時の審査の人たちの目を見てなかったの? 驚いてたよ。特に真ん中の人」

 二次審査になんで居るのかわからないけど偉いマネージャーだよ、と言っていた。

「さなえさんのダンスを思い出して、体を合わせるのに必死だったからそこまでの注意はできませんでした」

「さぁちゃんて呼んでね。まあいいわ。あのアレンジしたところまで一回で覚えてあそこまできれいに踊られたら驚くわ」

 コミュニケーションアプリのIDを交換して、といわれたので基本的に既読しても無視ですけどと言ったが、それでも良いからと言われたので交換した。

「じゃあ、私こっちだから」ということで、それからすぐにバイバイと離れて行く。
 まるで風のようにさっていく様子に、何というコミュニケーション能力の高さだろう、見習うべきだろうかと思いながら、それにしてもかわいい子だったなという印象だった。
 それから二週間後、さなえの言ったように二次審査も通ったとの通知が手元に届いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

処理中です...