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目標のある幸せ おまけエピソード
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高校に入ってしばらくたった頃。
お昼の時間、春代は私とお弁当を食べるときもあるが、特に用事が無ければ他の子と食べている。
私はというと、学校ではもくもくと食事を済ませて本を読むので、春代としてはお昼の時間は情報収集の時間だとでも思っているのかもしれない。
そもそも家で春代といても大した会話をするでもなく、ただ二人でいるだけという感じなので、学校でもまあまあ会話はない。
私が一人でさみしそうに見えない程度に一緒にご飯を食べるタイミングは完璧だと思う。
今日の私は一人でご飯を食べている日だった。
「春代。春代ってば、聞いてるの?」
「ん? 何?」
「あんた、先輩にはるって呼ぶなってすごんだんだって? すごい顔して睨まれたって噂になってたよ。そんでもって私になんでか聞いて来い! って言われた」
「すごんではいないよ。私をはるって呼ぶのは私が認めた人だけだから、春代って呼んでくださいって強めに言っただけ」
「強めに言うからよ。春代って別に呼びすてでしょ。はるも変わらんじゃん」
「私は自分の名前をはる扱いしていいのは、この人と決めた人だけって考えてるから勝手に呼ばないでくださいって言った」
「そんなこと言ったって、春代をはる呼びしているのって相羽だけじゃん。結局相羽しか認めないってこと? 私の中では春代呼びが定着しているから、今更はるって呼ぶこともないけど」
「そんなことない。紗良に匹敵する人がいたら、すぐにはる呼び解禁するよ」
「春代と相羽に匹敵する関係なんてあるわけない。近所の幼馴染でしょ。まあそういうことだよね。先輩たちも春代とは仲良くしていたいから気になるんだって。私はなんとなく知ってたけど一応確認してからと思って。とりあえず春代は中二病なのでって伝えておくわ」
「ひどっ!」
小さいころ公園でいつものように春代が隣にいて、私は地面を観察しながら羽化しそうな蝉の幼虫のいる穴がないかと探していた。
「紗良ちゃん良く飽きないね」
「日々変化する状況を見ていて飽きるとかない。ほらあの葉っぱ見て。昨日はあそこにあったのに移動してる。私たち以外にこんな奥に誰か来たのかな」
「えー。枯葉の位置なんて風で変わるでしょ。大体どれの事?」
「風で変わったならもっと全体的に動いているはず」
「あっそう? 全然わからない。まあ私は紗良ちゃんを見ているだけで面白いけどね」
「何もしてないのに面白いの? 春代ちゃんも他の子と遊んだほうが良いと思うよ」
「ひどい。私は紗良ちゃんと一緒に居たいのに。ダメなの?」
「ダメなんて言ってないよ。私は別に話をしないし、春代ちゃんが良いのかな? って思うだけ」
「私は紗良ちゃんとずっと一緒にいるから」
春代は私が一人だと寂しいだろうと思っているのだろうか? 人といると面倒だし一人でも別にかまわないと思う。
「私と結婚でもするの? 女の子同士は結婚できないよ」
「結婚かぁ、それもありだね」
「まじめに考えないで。だから、できないって言ってるのに」
「それじゃあ、私のことをはるって呼び捨てして呼んでよ。ほかの子には私が認めた人以外は春代でしか呼ばせないから。私は……そうだなぁ紗良ちゃんは紗良しかないから紗良って呼ぶよ」
「それじゃあって意味わからない。まあ私は自分の呼び名なんてどうでもいいけど。それならそうすればいいよ」
「今呼んでみて」
なんだかなぁ、と思いながらもこんな私に積極的に絡んでくる春代にはかなわない。
「はる?」
「なに? 紗良、何か用があるの?」
私を見て嬉しそうにそう聞くが、普通にもう紗良なんだという印象と、春代が呼べと言ったのでしょうにとつっこむべきかという考えが同時に浮かんできた。それでも何か春代といるのは楽しいなと感じていたように思う。
春代と別れた後、蝉の観察をしに公園に戻ってずっと帰らなかったため、時間がかかるならどこに行くのか一言言ってから行けと、お母さんが鬼のようになって怒られた話はまたの機会に。
「私をはるって呼ばないでって言ったよね」
春代が向こうで同級生に言い放っているのが見える。相手の子は軽くはるちゃんと言っただけなのにという顔だ。それはそうだろう普通の人に春代は良いのにはるちゃんと呼んで機嫌が悪くなるなんて想像がつくものではない。春代ちゃんは良いのならはるちゃんも変わらないのでは?
「またやってる。あの子ははるって呼ばないでって先に言われてなかったのかな?」
春代ははると呼ばれることに異常に敏感だが、敏感なだけに瞬間的に「よ」をつけると回避できる。私の知る限りでは今のところ私か家族くらいしかその呼び方を許されていないと思う。
語感に何か聞き分けが必要な理由でもあるのだろうか? その名前で呼ばれると遠くからでも近づいてくるみたいな。今度検証のために小さい声で呼び分けてみるか? などといらないことを考えながら、あまり興奮するようなら止めに行こうと思っていた。
向こうも悪気があって呼ぶわけではなく、親しみもあってどうしても春代よりはるって呼ぶ方が簡単だからだろう。私なんかは名前なんてどう呼ばれても良いではないかと思う反面、子供のころにしたあの約束をあそこ迄かたくなに守ろうとする春代の意地と言うか、意思の硬さには頭が下がる。しかし呼び方を間違えただけでいちいち機嫌が悪くなるのはいただけない。
よくあれで普段仲良くみんなと付き合えるなと、ある意味感心する。あの名前の呼び方だけがダメな人なのだ。
春代は私のような人物と付き合っている割に、人付き合いが良く交友関係が広いし、面倒見がよくて頼られている。なんで私についてくるのか不思議に思う。もしかすると私と付き合えるということ自体がそういうスキルなのかもしれない。
どんな時もニコニコしているし、とてもフレンドリー。会話を含めて情報収集能力にたけており、勉強ができないと私によく言っているが、普通に頭も良いから私なんかよりよほど総合的にできた人間だ。あの言葉さえ踏まなければだが。
周りもだんだん春代のこだわりに気が付いてそのことに触れないようになるとともに、はる呼びを許されている私との関係を気にし始めるが、私自身人と話をしないのでそんなことを聞きに来ることは無い。
「私は逆に、はるって呼ばないと泣かれるのに」
もういい大人なんだから、私としてはどうでもよい小さなことで怒らないように注意しようと、すっかりご機嫌の悪くなった春代の後ろに立ち耳元でささやく。
「はる。もういいから、やめなさい」
春代がピタッと止まり落ち着いた。言われていた同級生は私を見ると若干震え気味? で怒っていた春代の手を掴んでいた。いや私止めに来たんですけど?
「あっ! 紗良。何? 用事?」
春代がいつもの満面の笑顔で私を見返すと、さっきまでの雰囲気は何だったのだろうかと、ジキルとハイドのようなものではないだろうな? ということを疑ったりもする。
「用事ではないです。名前の呼ばれ方で興奮するのはやめなさいと言っているんです」
「うん。そうだね。そうする。でもはるって呼ばないでねって釘は刺すよ」
「ああそうですか。良いですけど。私はまた本でも読みます」
それではと自分の席に戻ってみると、はるって呼ばないでねと言いながらも、あんなにぎすぎすした感じだったのに何事もなかったかのようになっていた。
どうやったらあのような風にすぐに何もなかったような付き合いができるのだろう。向こうは何とも思っていないのだろうか?
春代に話しかけているだけで身構えられる自分のことは棚に上げて、そんなことを考えながら、彼女の為にも今度二人の時にはると呼ばれても、もう少しやんわりと断りなさいと後で説教でもしようと思ったのだった。
お昼の時間、春代は私とお弁当を食べるときもあるが、特に用事が無ければ他の子と食べている。
私はというと、学校ではもくもくと食事を済ませて本を読むので、春代としてはお昼の時間は情報収集の時間だとでも思っているのかもしれない。
そもそも家で春代といても大した会話をするでもなく、ただ二人でいるだけという感じなので、学校でもまあまあ会話はない。
私が一人でさみしそうに見えない程度に一緒にご飯を食べるタイミングは完璧だと思う。
今日の私は一人でご飯を食べている日だった。
「春代。春代ってば、聞いてるの?」
「ん? 何?」
「あんた、先輩にはるって呼ぶなってすごんだんだって? すごい顔して睨まれたって噂になってたよ。そんでもって私になんでか聞いて来い! って言われた」
「すごんではいないよ。私をはるって呼ぶのは私が認めた人だけだから、春代って呼んでくださいって強めに言っただけ」
「強めに言うからよ。春代って別に呼びすてでしょ。はるも変わらんじゃん」
「私は自分の名前をはる扱いしていいのは、この人と決めた人だけって考えてるから勝手に呼ばないでくださいって言った」
「そんなこと言ったって、春代をはる呼びしているのって相羽だけじゃん。結局相羽しか認めないってこと? 私の中では春代呼びが定着しているから、今更はるって呼ぶこともないけど」
「そんなことない。紗良に匹敵する人がいたら、すぐにはる呼び解禁するよ」
「春代と相羽に匹敵する関係なんてあるわけない。近所の幼馴染でしょ。まあそういうことだよね。先輩たちも春代とは仲良くしていたいから気になるんだって。私はなんとなく知ってたけど一応確認してからと思って。とりあえず春代は中二病なのでって伝えておくわ」
「ひどっ!」
小さいころ公園でいつものように春代が隣にいて、私は地面を観察しながら羽化しそうな蝉の幼虫のいる穴がないかと探していた。
「紗良ちゃん良く飽きないね」
「日々変化する状況を見ていて飽きるとかない。ほらあの葉っぱ見て。昨日はあそこにあったのに移動してる。私たち以外にこんな奥に誰か来たのかな」
「えー。枯葉の位置なんて風で変わるでしょ。大体どれの事?」
「風で変わったならもっと全体的に動いているはず」
「あっそう? 全然わからない。まあ私は紗良ちゃんを見ているだけで面白いけどね」
「何もしてないのに面白いの? 春代ちゃんも他の子と遊んだほうが良いと思うよ」
「ひどい。私は紗良ちゃんと一緒に居たいのに。ダメなの?」
「ダメなんて言ってないよ。私は別に話をしないし、春代ちゃんが良いのかな? って思うだけ」
「私は紗良ちゃんとずっと一緒にいるから」
春代は私が一人だと寂しいだろうと思っているのだろうか? 人といると面倒だし一人でも別にかまわないと思う。
「私と結婚でもするの? 女の子同士は結婚できないよ」
「結婚かぁ、それもありだね」
「まじめに考えないで。だから、できないって言ってるのに」
「それじゃあ、私のことをはるって呼び捨てして呼んでよ。ほかの子には私が認めた人以外は春代でしか呼ばせないから。私は……そうだなぁ紗良ちゃんは紗良しかないから紗良って呼ぶよ」
「それじゃあって意味わからない。まあ私は自分の呼び名なんてどうでもいいけど。それならそうすればいいよ」
「今呼んでみて」
なんだかなぁ、と思いながらもこんな私に積極的に絡んでくる春代にはかなわない。
「はる?」
「なに? 紗良、何か用があるの?」
私を見て嬉しそうにそう聞くが、普通にもう紗良なんだという印象と、春代が呼べと言ったのでしょうにとつっこむべきかという考えが同時に浮かんできた。それでも何か春代といるのは楽しいなと感じていたように思う。
春代と別れた後、蝉の観察をしに公園に戻ってずっと帰らなかったため、時間がかかるならどこに行くのか一言言ってから行けと、お母さんが鬼のようになって怒られた話はまたの機会に。
「私をはるって呼ばないでって言ったよね」
春代が向こうで同級生に言い放っているのが見える。相手の子は軽くはるちゃんと言っただけなのにという顔だ。それはそうだろう普通の人に春代は良いのにはるちゃんと呼んで機嫌が悪くなるなんて想像がつくものではない。春代ちゃんは良いのならはるちゃんも変わらないのでは?
「またやってる。あの子ははるって呼ばないでって先に言われてなかったのかな?」
春代ははると呼ばれることに異常に敏感だが、敏感なだけに瞬間的に「よ」をつけると回避できる。私の知る限りでは今のところ私か家族くらいしかその呼び方を許されていないと思う。
語感に何か聞き分けが必要な理由でもあるのだろうか? その名前で呼ばれると遠くからでも近づいてくるみたいな。今度検証のために小さい声で呼び分けてみるか? などといらないことを考えながら、あまり興奮するようなら止めに行こうと思っていた。
向こうも悪気があって呼ぶわけではなく、親しみもあってどうしても春代よりはるって呼ぶ方が簡単だからだろう。私なんかは名前なんてどう呼ばれても良いではないかと思う反面、子供のころにしたあの約束をあそこ迄かたくなに守ろうとする春代の意地と言うか、意思の硬さには頭が下がる。しかし呼び方を間違えただけでいちいち機嫌が悪くなるのはいただけない。
よくあれで普段仲良くみんなと付き合えるなと、ある意味感心する。あの名前の呼び方だけがダメな人なのだ。
春代は私のような人物と付き合っている割に、人付き合いが良く交友関係が広いし、面倒見がよくて頼られている。なんで私についてくるのか不思議に思う。もしかすると私と付き合えるということ自体がそういうスキルなのかもしれない。
どんな時もニコニコしているし、とてもフレンドリー。会話を含めて情報収集能力にたけており、勉強ができないと私によく言っているが、普通に頭も良いから私なんかよりよほど総合的にできた人間だ。あの言葉さえ踏まなければだが。
周りもだんだん春代のこだわりに気が付いてそのことに触れないようになるとともに、はる呼びを許されている私との関係を気にし始めるが、私自身人と話をしないのでそんなことを聞きに来ることは無い。
「私は逆に、はるって呼ばないと泣かれるのに」
もういい大人なんだから、私としてはどうでもよい小さなことで怒らないように注意しようと、すっかりご機嫌の悪くなった春代の後ろに立ち耳元でささやく。
「はる。もういいから、やめなさい」
春代がピタッと止まり落ち着いた。言われていた同級生は私を見ると若干震え気味? で怒っていた春代の手を掴んでいた。いや私止めに来たんですけど?
「あっ! 紗良。何? 用事?」
春代がいつもの満面の笑顔で私を見返すと、さっきまでの雰囲気は何だったのだろうかと、ジキルとハイドのようなものではないだろうな? ということを疑ったりもする。
「用事ではないです。名前の呼ばれ方で興奮するのはやめなさいと言っているんです」
「うん。そうだね。そうする。でもはるって呼ばないでねって釘は刺すよ」
「ああそうですか。良いですけど。私はまた本でも読みます」
それではと自分の席に戻ってみると、はるって呼ばないでねと言いながらも、あんなにぎすぎすした感じだったのに何事もなかったかのようになっていた。
どうやったらあのような風にすぐに何もなかったような付き合いができるのだろう。向こうは何とも思っていないのだろうか?
春代に話しかけているだけで身構えられる自分のことは棚に上げて、そんなことを考えながら、彼女の為にも今度二人の時にはると呼ばれても、もう少しやんわりと断りなさいと後で説教でもしようと思ったのだった。
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