目標のある幸せ

根来むそお

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目標のある幸せ 第十七話(最終話)

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 しばらくたって、またニューシングルのリリースが近づきチーム編成の発表が行われた。
 さなえはまたチームアルファーになったので、私は頑張れと心の中で応援していた。

「だから、なんで紗良はチームベータなのよ」

「知らないし。別に良いじゃない。さぁちゃんはさぁちゃんで頑張って」

「紗良は私よりも人気があると思うし、もっと出てほしいの」

 そう言われた時、おもむろにさなえの肩をつかんだ。

「さぁちゃん。悪い癖が出てるよ。私のことを評価してくれるのは嬉しいけど、ありもしない物差しで自分を人と比較したら駄目」

「うっ。うん、わかった」

「さぁちゃんは恵美さんとかのようにセンターでやれるように頑張りなさい。私は私で頑張るから。それに学校もあるからチームアルファーとか忙しいから大変だよ」

 そう言って、事務所を後にした。

 さなえには物差しはないと言ったが、実際には握手会等の販売数とか、私たちにはそれなりの物差しがある。ただ、CMなどのスポンサーは握手会に来るわけではないし、そういう単一のものだけではなく、舞台やドラマなども見た目や雰囲気があっているかで担当する仕事の内容が変わってくるので、結局人気がでるということがどういうことかなんて誰にもよくわからないし、流動的なものだ。だから、どの現場でも一生懸命にすることで、みんなに認めてもらえるようにするしかないし、みんなが陰ですごい努力をしているということが、だんだんわかってきた。

 そういう私は仕事が落ち着いていたので学校にまめに通い、出席日数が足らないなどということが無いように頑張っていた。
 そんな中、いつも五時には見てくださいと事務所から言われているスマホを見ると、至急連絡が欲しいと坂上チーフマネージャーからメッセージが入っている。なんで真帆ちゃんじゃないんだろうと思いながら坂上さんに連絡を取った。

「もしもし、相羽です」

「あっ。やっと連絡が来た。緊急でお願いがあるんだけど」

 電話の内容は今回のシングルでセンターをしている恵美さんが過労で二日ほど休養するようにドクターストップがかかったので、歌番組の代打をしてくれないかという話しだった。

「代わりですか? 良いですけどどこに入れば良いのですか?」

「センター」

「はぁ? センターでなんて入れません。一つずつズレてもらえばいいじゃないですか。必要なら端に入りますから」

「そうはいかないんだ」

 今回のシングルのフォーメーションは背丈をだいたいシンメトリーでそろえてきれいに見えるようにしているので、センターの恵美さんの背丈に見合う人がセンターでないとバランスが取れないとのことだった。
 なんでそんなフォーメーションにするのかと思ったが、急なことで変更も難しく、とりあえず明日の夜は生放送なのでその時に間に合うようにできる人ということで、恵美さんから推薦されたらしい。

「振り入れと歌はどうするんですか?」

「明日朝一で来てくれ。振り入れの先生と歌の先生の二人がかりで三時くらいまでには覚えてもらうから。そのあとすぐにみんなでリハーサルするから」

「普通出来ないでしょうそんなこと。しかもセンターで」

「だから相羽しかいないんだって。できる?」

「できるのはできると思いますが、どうなるか責任は持てません」

「もちろん、相羽に責任をとれなんてことは言わないし、できるかどうかをこっちで見て判断して最悪センターなしでも考えるから、できるところまでやってほしい」

 初めからセンターなしで考えた方が良いのではないかと思ったが、やれることは全部やっておきたいということなのだろうと、翌日の時間を確認した。
 坂上さんから私のことを聞いたようだ。恵美さんから紗良ならできると思うからお願いしますとメールが来ていた。

 朝一で事務所に向かうと入り口で坂上さんが待っていた。

「時間よりも早いね」

 私を案内しながら「来てくれてよかった」と言ってエレベーターのボタンを押した。

「坂上さんこそずっと待っているつもりだったんですか?」

 中に入りながらそう訊いた。

「こっちではどうにもならないから、じっとしてることもできなくて。期待してるから頑張ってほしい」

「そうですか。坂上さんだけでなく恵美さんの期待に応えるためにも全力で頑張ります」

 昨日振り付けと歌パートの動画を送ってもらったので、一通り頭には入っていた。

「宜しくお願いします」

 振り付けの先生に私の両端に位置する生徒さんの間に入るように言われて、鏡の前に立った。
 音楽が始まり、昨日覚えた振り付けをできる限り再現するように踊ってみる。

「すごいじゃない。昨日代打を聞いたんでしょ」

「いつ聞いたのか関係なく、恵美さんの動画も見ましたけど同じようにできているとは思えません」

「同じようにも何もこれだけ覚えていれば問題ないわ」

 手の微妙な角度だとか、周りの人との入れ替わりのタイミングなどをおさらいして、動画をチェックをしながらとなるとそれでもかなりの時間を要した。

「相羽さん。この振り付けの最後のところ。決めだから。必ずカメラで抜かれるからしっかりとカメラの方を意識してバシッと止めて。あなたならできるわよね?」

「そうですか。わかりました」

「もう振り付けは大丈夫だと思う、私たちは他の子を見ないといけないから先に移動するわ。また、リハーサルで会いましょう。これから相羽さんは歌の指導があるそうだから頑張って」

 あわただしく出ていく先生たちと入れ替えに坂上さんが入ってきて、すぐに歌のレッスンをするから移動してと言われた。
 先生がピアノのところできたきたと言って「すぐに発声練習をします」と挨拶もそこそこにレッスンを始めた。

「歌は覚えてきた?」

「覚えてきました」

「よし。それじゃあ、通しで一回やってみましょう」

 今回の楽曲は大好きだった人がいなくなっても、悲しみを乗り越えて強く生きるという人の私にとっては難題極まりないテーマの楽曲だった。

「相羽さんは強く生きるのは得意でしょう?」

「得意かどうかはわかりませんが、恐らく弱くは無いと思います。でも乗り越えるべき悲しみというものが見当たりません」

「できれば唄う時までに見つけて乗り越えてほしいところだけど」

「そもそも今回の歌は誰に向かって唄えばいいのでしょうか? この前は聴いてほしい人ということでしたが」

「それは、そうねぇ。いなくなった人に私は強く生きていくっていう意思を伝えたいということだから、いなくなった人でしょうね。だから、悲しみだけじゃないと思うのよね。強く生きていくから見ててみたいな決意というか」

「それでは、いなくなったお父さんに私の成長を見ててください、という感じで良いでしょうか?」

「相羽さんのお父さんいなくなったの?」

「いえ、家で健在です」

「……まあいいか。歌詞を書いた人の想定しているのは多分恋人だと思うけど、聴いている人にはそこまではわからないから。それで感情が歌にのせられるなら」

 それじゃあ続けましょうということでレッスンをしばらく続けた。

「歌割の把握も完璧だし。勿論自分のパートも問題ない。本当に勘がいいわよね」

「褒めていただいてありがとうございます」

「自分でどう思っているのかわからないけど、私はあなたの唄っている姿が大好きよ。ライブのときとか本当に感動したもの。大丈夫。頑張っていってらっしゃい」

 時間がないからと背中を押されるようにして番組のスタジオに送り出された。

「あっ紗良が来た」

 スタジオに着くと美咲さんがやってきた。

「遅くなって、すみません」

「何言ってるのよ、こっちこそ無理に来てもらったんじゃない。準備は大丈夫? ほかの出演者の人もいるから通しで二回くらいしか合わせられないの」

「大丈夫だと思います。お願いします」

「そう。それじゃあ始めようか」

 みんなにはじめるからと声をかけ、お願いしますとスタッフの人にも声をかけてリハーサルを開始する。
 最初は周りとの距離感が分からずぎこちなかったが二回目は完璧にこなして見せた。
 合わせるのが早かったのでもう一回だけカメラテストも含めてお願いし、リハーサルができたところで、次のグループが入りますと言われ、本番まで楽屋へと戻ると、みんなが集まってきた。

「紗良は昨日聞いたんでしょ。すごいよね、完璧だったよ」

 絵里奈がそう言ってくれた。

「ありがとうございます。でも昨日の段階で動画も送ってもらいましたので、時間は結構ありました」

「そうかなぁ」

 納得いかないという感じで話していると、美咲さんが一つ心配があるけどといってきた。

「紗良はインタビューされると思うけど大丈夫?」

 みんなが顔を見合わせる。

「美咲さんが受け答えしてくれるのではないのですか?」

「もちろん受けるとは思うけど、紗良はテレビで初めてセンターやることはMCの人も知ってるから、当然何か訊かれると思うよ」

「それは困ります。丁寧に答えるのは問題ないですが、愛想まで並行してとなるとなかなか」

「ライブとかでは問題ないじゃない」

「それはそうですが、何というか練習量というか」

「確かに紗良はそれだけはすごい練習してるよね」

「自分の笑顔がよくわからないんです。特にMCとか楽曲と関係ない時の感情なんて場面設定がありませんから」

「場面設定って、私たちは紗良が時々見せる笑顔で癒されるよ」

 真由美がさなえとそう言って頷き合っていた。

「時々です。皆さんみたいにずっと微笑んでいられたらいいですけど」

「それが紗良の個性といえば個性だけど短時間のテレビインタビューじゃ伝わらないのよね」

 美咲がどうしようかなと手を組んで悩んでいるのを見て、さなえが提案した。

「そういえば劇をやったときとかは、ずっと柔らかい表情してたじゃない。そういうふうにしたら?」

「あれはその人になりきっているから、そうなっているので……」

 しばらく悩んだがあの手しかないと思った。

「わかりました。大丈夫です。出来ると思います」

 みんながなんだなんだと言うようにこっちを見るので「恵美さんにお願いします」と言ったら、わけがわからないという感じで、まあ紗良が大丈夫だというならということで着替えをしようか、となった。
 着替えも終わり自分たちの出番が近づいたため、みんなで円陣を組む。
 美咲が手を前に出して「あんまり大きい声を出したら駄目だよ」と言った。

「それじゃあいくよ。夜空に見える星の輝きは私たちの笑顔、永遠に輝くー」

「「ヴァルコスマイル」」

 スタジオの隅でスタンバイしているとき私は一人でぶつぶつ言っていた。

「ねぇ、さなえ。紗良は何ぶつぶつ言ってるの?」

「近くによったら、目を瞑って私は恵美さんって唱えてた」

「何それ?」

「紗良の考えていることなんて私たちにはよく分からないよ」

「そうだよね」

 真由美がそういいながら順番を待っていると、それではヴァルコスマイルさん出ますと言われて全員でスタジオに入った。
 私を含めて全員で笑顔での挨拶をする。

「私たちヴァルコスマイルです!」

「今日はセンターの恵美さんは体調がよくないということで欠席されてますけど、具合はどうですか?」

「ご心配かけてすみません。疲れが出たということで休ませてもらいましたけど、すぐによくなると思います」

 MCの人に美咲さんが、申し訳なさを含んだ満点の表情で答えているのを見ると、さすがだなと感心した。

「そうですか。その代わりというかセンターはどなたが?」

「この相羽紗良が務めさせてもらいます」

 はいどうぞこちらですという感じで、表情を作り上げている私の腕が美咲さんに引っ張られていた。

「相羽さんは表題曲のセンターは初めてと伺いましたが、緊張されてますか?」

「そうですね。緊張しますが一生懸命頑張ります」

 後ろのほうでさなえたちが紗良ちゃんめっちゃ笑顔じゃんと言っていた。

「じゃあ今回の楽曲のことを訊いてもいい? 今回の楽曲はどういう楽曲なの?」

「今回の楽曲は好きな人がいなくなってしまった悲しみと、それを乗り越える決意をした人の歌なのですが、私もその強い決意を聴いていただける人に伝えられたらと思います」

「さなえ。あの話をするときに髪を上げるしぐさ見て」

「あの癖、恵美さんじゃない? さっきぶつぶつ言っていたのは…そうか紗良は恵美さんに成りきってるんだ」

 私がインタビューの受け答えをすると歌へとのカンペが出てMCの人が歌のステージへ行くように促された。
 いよいよ本番だ。私は振り付けと歌の先生の言葉を思い出して集中する。

 楽曲も終盤に差し掛かり、勝手にいなくなったお父さんを思いながら、私はこれからも頑張っていくという気持ちを込めて唄ったまでは良かったが、気持ちが途中でどんどん高まってしまい、涙が出てきた。
 振り付けの先生に言われた最後の決めにこれはまずいと、もう一度恵美さんのことを考えて何とか笑顔で終わることができたが、涙までは止められなかったので、涙を流しながらの笑顔がアップで抜かれて終わった。

 ステージからはけて振り付けの先生が最後の決めが最高だったと褒めてくれた。
 楽屋では、みんなが途中から紗良が泣いているので驚いたと言っている。

「何で泣いてたの?」

「歌の先生がいなくなった人への悲しみと前に進む決意を表現しろと言われましたので」

「それで歌うたびに自分が涙を流す人なんていないよ」

 絵里奈が本当に変わってると言いながら笑っていた。

「でも、インタビューの時はすごく笑顔でできてたよね。驚いちゃった」

 美咲さんがよかったぞと私の肩を叩いた。

「私たち知ってる。あれは恵美さんを演じてたでしょ」

 真由美がそう言って髪を搔き上げる仕草をする。

「素の私が出ないようにするために恵美さんならこうなっているだろう、と想像して対応しました。恵美さんのおかげです」

「インタビューの時に笑顔にするために恵美に成りきってたの? 本当によくわからないことをするわよね。でも良かった今日はどうなるかと思ったから」

 美咲さんはやれやれという感じでもう一度私の肩を叩く。

「私も肩の荷がおりました」

 家に帰るとお母さんが録画を見る? と訊いてきたので見てみると言って、出演部分を見返した。
 今回限りなのでどうにもならないが、もう少しこうすればよかったとか反省する点も所々にあることが分かったので個人的に少し悔やまれる。
 この放送を今はお風呂に入っているお父さんと見ていたらしく、その時の状況をお母さんがお父さんが今いないからと教えてくれた。

「始まったときはね。それはうれしそうにしてたの。あんな笑顔で受け答えしてかわいいなって、それでね」

 お母さんは笑いが止まらない感じで続ける。

「曲の途中であなたが涙を流し始めたでしょ。それからが大変だったのよ。感情移入しすぎて大号泣。紗良、お父さんはここにいるぞーって。恋人への唄じゃないの? って言ったんだけど、本当に面白いし良い人だわ。だから最後の紗良さんの笑顔で決めたところとかまともにみられてないわよ」

 お父さんには私の想いが伝わったらしい。
 お父さんには内緒でということで、心の中で本当にお父さんがいなくなったことを想像して唄ったので、お父さんは間違ってはいないと言ったら、そんなこと絶対に本人に言ったら駄目と言われた。
 私は反省するところが多いと思っているが、世間では歌詞に合わせて涙を流して最後に笑顔で唄っていたことも話題になり私の代打の評判はよかったらしく、坂上チーフも喜んでいた。


 梅雨も開けて、またニューシングルのチーム編成発表が行われることとなった。
 今年は夏にツアーをするということで、このシングルのセンターはツアーでも要所要所でセンターを務めることになる。
 私は恵美さんか絵里奈がやるのだろうかと誰になるのか楽しみにしていた。

 発表が始まり、村雨部長にチームアルファーのメンバーが読み上げられる。
 今回は美香が途中で呼ばれたので、うれしいのか悲しいのかよくわからない表情で私を見て神妙な顔で前に出ていったが、私は顔を見て声を出さずに頑張れと言ってあげた。

 十四人になったので、これで終わりだろうと思っていると最後に私の名前が呼ばれる。
 さなえにまた私がいる時だけ十五人だといわれるな、と思いながら返事をして前に出ていく。

「今回は以上の十五名がチームアルファーになります。最後にセンターを発表します」

 みんなが誰だろうと息をのんだ。

「新センターは相羽紗良」

 メンバーの視線が私に集まった気がする。一瞬聞き間違いだと思ったが、すぐにさっきのことを頭の中で再生するとどう考えても私の名前だった。
 絶対言ってる。でもそんなはずは。みんなに迷惑をかけないようにと努力はしてきたけど。いや、そういうことではなく。真ん中なんかに行ったらみんなを見られないし。いやそれも違うか、知りたいと言っても限度と言うものが。普通に隠れて生きていくつもりだったのに。迷惑では? ああでも、いいのだろうか? 昔のように避けられたりするようになるのでは?
 オーディションを受けたときにダンスを見てもらってうれしかったし、受かった時はそれ以上だった。今ではライブが楽しいと思える。心の底では誰かに見てもらいたい。輪の中に入られる人達がうらやましいという気持ちも自分にはあったのだろう。できることを自慢したいわけではない。ただ知りたいとみんなの中に入れてもらえただけでなく、一人の人間として認めてもらえる自分がここにいるとは。

 今存在して生きているということを実感できる。これが、私が考える目標があると言うことだ。

「何を一人戸惑って早口でぶつぶつ言ってるの? 教えてあげる。紗良は認められてそこにいるんだよ。そこにいていいんだから。早く。ほら」

 隣のさなえが背中を押すので勢いで前に出た。

「えっっと、どこまでできるか分かりませんが、皆さんに迷惑をかけないように、頑張りますのでよろしくお願いします」

 そう言ってお辞儀をするとみんなの拍手が聞こえてくる。

「紗良、おめでとう」

「華さん、ありがとうございます」

「あなたみたいにアルファーとベータを行ったり来たりする人なんていないから、しかもセンターなんて。私たちの希望なんだから頑張って」

「紗良、おめでとう」

「恵美さん、ありがとうございます。私で大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫も何も、この前だってしっかりとやってくれたじゃない」

「でも、あれは一度きりですし」

「あー聞いたわよ。私に成りきってやったってこと。今度は紗良のセンターを見せてよ」

「仏頂面の私ですか?」

「それだけじゃない。それを含めて全部紗良なんでしょ。やるからには周りに遠慮などせずに全力でやりなさいよ。ちょっとくらいなら仏頂面でもいいじゃない。それが紗良のセンターなんだから」

「そういうものなのでしょうか?」

 その後他のメンバーからも代わる代わるおめでとうといってもらった。
 美香がまた離れ離れかと思ったと泣きながら言うので、私の方が不安なのだからしっかりして助けてくださいというと、「分かった任せて」と元気よく答える。自分の初チームアルファー就任よりも私と一緒かどうかのほうが気になるとは本当に大物だと改めて思う。そして変わらずに接してくれるのだなとも。

 帰りに村雨部長に不安しかないと言ったら、珍しいと言われた。

「相羽は人のために何かするときは不安とか感じてるようなことがないのにな」

「私自身の気持ちは整理できたのですが、私のせいでヴァルコスマイルに、メンバーのみんなに迷惑をかけることにならないか? ということが不安なんです」

「わけがわからない。今までだって色々やらかしてきたろう。その分助けてもくれたが」

「そうかもしれませんが、それはあくまでも結果でして」

「俺が一人で決めたわけじゃないぞ。みんなが相羽なら出来ると思って決めた。できないのか?」

「それはやってみないと分からないですが……」

「答えが出ているじゃないか。不安だ何だと言っても結局はやらないと誰にもわからないことだ。それなら全力でやれ」

 そうだ。やってみないと分からない。

 私らしくもない、知らないことを全部知ってやる。

 私は歌番組などの場数を踏むことで少し優しい顔というのを習得し、全面的に仏頂面になるのを回避しながらツアーのPRを行った。CDもそれなりに買ってもらえて、元々人気のあるヴァルコスマイルのライブチケットは完売となっていた。

 ツアー初日のライブが始まる前にみんなに準備ができているか確認していると、村雨部長がいつものように話しかけてくるのだが、なんとなく身構えてしまう。

「笑顔を忘れるなよ。今日はセンターなんだからな」

「ライブなので大丈夫だと思います。でも仏頂面の私も好きだって言ってくれる人もいますけど」

「それは少数派だろ。どう考えても相羽が微笑んだ時のほうがいいだろう」

 まだ時間があるかなと時計を見ながら話を続けた。

「相羽ならみんなと肩を並べてやれるようになると、はじめに見抜いた俺の目は確かだったな」

「本当ですか? それで審査の時にダンスをずっと躍らせたんですか?」

「相変わらず古いことをよく覚えているな。あの時あんまりダンスがきれいだったから止めるのを忘れてたんだよ」

「本当にそうですか? それならそういうことにしておきます」

 村雨部長に自然と微笑みかける。

「おっ、その笑顔だぞ」

 そう言って、ついでに教えてくれと言われた。

「オーディションの審査の時にアイドルのことを知りたいと言っていたがどうだ? 分かったか?」

「まだわからないことが一杯あるみたいです。それに色んな事をやってみたくなりました。知るためにやりたいと思う事を全てやっていくのが今の目標です。そんなことしたら終わりがないですかね?」

「誰のためでもない、自分の目標なんて終わりがなくてもいいだろ。その時に全力で頑張って楽しめたら」

「紗良ちゃーん。始めるよー」

 美香が円陣を組むのを催促に来たので、村雨部長に失礼しますと言ってみんなのところに駆け寄った。

「みんな揃ったね。それではセンターの紗良お願いします。」

 リーダーの美咲さんから私に振られたので、自分の中で思い切れと念じた。

「今日は初めてセンターでツアーの座長を務めさせてもらいます。私も忘れがちな笑顔を忘れないようにしますので、みなさんも笑顔を忘れず怪我などしないようにお願いします。それではいきますよー」

 手を前に出すとみんなも一緒に手を前に出す。

「夜空に見える星の輝きは私たちの笑顔。永遠に輝くー」

「「「ヴァルコスマイル!!」」」

 みんなで手を高く上げライブの成功を誓った。


 オーバーチャーが流れファンからの声援が聞こえてくる。

「さあ、始まるよ。行こう」

 このステージの階段を上ればまた新しいライブが始まる。
 ずっと何でもできると思って何もしなかった私は、このグループに出会って、いろんなことをやってみたいという私になれた。

 私は、今、幸せだ!



(「目標のある幸せ ー卒業ー へ続く」)
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