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第一章
第一話 邂逅
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朝、アラームが鳴る前に起きて顔を洗い髪を梳かす。田舎の高校らしい制服に着替えて、朝食を用意して食べ、食器を片付けて家を出る。父は奥の部屋からでてこないし、祖母はもう散歩をしている時間だ。
まだどこか冷たさが残る空気の中、一人風に吹かれながら歩く。学年は上がり今日からニ年生だが、見慣れた面白みのない風景も、いつもの小学生たちの笑い声、おじいさんの挨拶も何一つ昨日と変わらないし、明日も変わらないだろう。
田舎町に辟易していることを押し込めて、人のいい顔を貼り付けて挨拶をする。何かしても、何もしなくてもここではすぐに噂話のネタにされるのだから、いつでもいい子でいなくてはいけない。
「久遠さんは何でも得意ですごいわね」
「椿ちゃん、これもやってくれない?」
「椿、こんな田舎の学校なんだから成績は一番でなくてはいけませんよ」
「この中で付き合うならやっぱ久遠だよな」
久遠椿、その名前を呼ばれるだけでも寒気がする。私の名前を軽々しく呼ぶな、と何度いいかけたかわからない。長い黒髪に切れ長の黒目、美人と称される自分の顔が嫌いだ。
生活に不満があるわけではない、父と母と祖母と三人暮らしで、東京に出た姉とは月に一、ニ回連絡を取っている。お金に困ることも、毒親ということもない、ただ少し祖母が厳しいだけだ。恵まれているとすら思うこともあるが、この田舎が嫌いであることはまた別の話。
教室に入り、クラスメイトと挨拶を交わして席に着く。窓際の前から三番目の席はまぶしいこと以外は快適で、騒がしいクラスメイトに話しかけられないように先週買った本を読む。物語に没頭しているときだけ、つまらない日常を忘れられるような気がしていた。
「ねえ椿ちゃん、愛菜が昨日見たことない人見たって言ってたんだけど、知ってる?この辺の人じゃないみたいなんだけど」
このように、本なんて読んでいてもあまり意味はない。別に人避けのためだけに読んでいるわけではないけれど。
「知らないな、見たことない人がいるなんて珍しいね。」
「だよね、なんか高校生くらいの茶髪の女の子だったんだって。お姉さんの知り合いかなとか思ったんだけど。」
姉は高校入学時に髪を金髪にして、卒業すると同時に東京に出た。髪を染めていたら姉の知り合いだとでも言うのか。
「何も聞いてないから、姉の知り合いではないと思うよ。」
「そっか、ありがと。」
いい笑顔で離れていったクラスメイトは、いつものグループで椿ちゃんと話しちゃった、なんて話をしている。慣れた反応だけれど、私を何だと思っているのだろう。
本の続きを読む気にもなれず、机にしまって窓の外を眺める。ちょうど桜が真っ盛りというころで、田舎の無駄に広い土地では至る所に植えられている。春らしいし美しいとは思うが、これも見慣れたものだ。
「何見てんの。」
急に後ろから聞こえたが、声の主がわかったので特に振り向いたりはしない。
「別に、ぼーっとしてただけ。」
彼、市ヶ谷翔は隣の家の幼馴染だ。まあ子供の数が少ない田舎では、みんな幼馴染のようなものだけれど。
「なんか知らんやつがいた話、知ってる?」
「さっき関根さんに聞いた、お姉ちゃんの知り合いかって言われたけど、私は知らないからね。」
「そうなん、俺はなんか外国人みたいだったって聞いたけど。」
こんな田舎に外国人なんて来るのか、わざわざぱっとしない外国の田舎を見に来るような物好きでもいたのか。
「はい皆さん、おはようございまーす。席に着いてくださーい。」
いつもの挨拶をしながら入ってきた若い担任は、いつもより少し楽しげな気がする。彼氏でもできたか。
「実は今日、転校生が来てるの。ベタな感じで紹介したかったから、今廊下にいてもらってるんだけどね。さ、入ってきてください。」
転校生なんて、こんな辺鄙な田舎に何処から越してくるんだ、そうみんなが驚く教室に入ってきた彼女が前を向く。
碧と、目が合った気がした。
まだどこか冷たさが残る空気の中、一人風に吹かれながら歩く。学年は上がり今日からニ年生だが、見慣れた面白みのない風景も、いつもの小学生たちの笑い声、おじいさんの挨拶も何一つ昨日と変わらないし、明日も変わらないだろう。
田舎町に辟易していることを押し込めて、人のいい顔を貼り付けて挨拶をする。何かしても、何もしなくてもここではすぐに噂話のネタにされるのだから、いつでもいい子でいなくてはいけない。
「久遠さんは何でも得意ですごいわね」
「椿ちゃん、これもやってくれない?」
「椿、こんな田舎の学校なんだから成績は一番でなくてはいけませんよ」
「この中で付き合うならやっぱ久遠だよな」
久遠椿、その名前を呼ばれるだけでも寒気がする。私の名前を軽々しく呼ぶな、と何度いいかけたかわからない。長い黒髪に切れ長の黒目、美人と称される自分の顔が嫌いだ。
生活に不満があるわけではない、父と母と祖母と三人暮らしで、東京に出た姉とは月に一、ニ回連絡を取っている。お金に困ることも、毒親ということもない、ただ少し祖母が厳しいだけだ。恵まれているとすら思うこともあるが、この田舎が嫌いであることはまた別の話。
教室に入り、クラスメイトと挨拶を交わして席に着く。窓際の前から三番目の席はまぶしいこと以外は快適で、騒がしいクラスメイトに話しかけられないように先週買った本を読む。物語に没頭しているときだけ、つまらない日常を忘れられるような気がしていた。
「ねえ椿ちゃん、愛菜が昨日見たことない人見たって言ってたんだけど、知ってる?この辺の人じゃないみたいなんだけど」
このように、本なんて読んでいてもあまり意味はない。別に人避けのためだけに読んでいるわけではないけれど。
「知らないな、見たことない人がいるなんて珍しいね。」
「だよね、なんか高校生くらいの茶髪の女の子だったんだって。お姉さんの知り合いかなとか思ったんだけど。」
姉は高校入学時に髪を金髪にして、卒業すると同時に東京に出た。髪を染めていたら姉の知り合いだとでも言うのか。
「何も聞いてないから、姉の知り合いではないと思うよ。」
「そっか、ありがと。」
いい笑顔で離れていったクラスメイトは、いつものグループで椿ちゃんと話しちゃった、なんて話をしている。慣れた反応だけれど、私を何だと思っているのだろう。
本の続きを読む気にもなれず、机にしまって窓の外を眺める。ちょうど桜が真っ盛りというころで、田舎の無駄に広い土地では至る所に植えられている。春らしいし美しいとは思うが、これも見慣れたものだ。
「何見てんの。」
急に後ろから聞こえたが、声の主がわかったので特に振り向いたりはしない。
「別に、ぼーっとしてただけ。」
彼、市ヶ谷翔は隣の家の幼馴染だ。まあ子供の数が少ない田舎では、みんな幼馴染のようなものだけれど。
「なんか知らんやつがいた話、知ってる?」
「さっき関根さんに聞いた、お姉ちゃんの知り合いかって言われたけど、私は知らないからね。」
「そうなん、俺はなんか外国人みたいだったって聞いたけど。」
こんな田舎に外国人なんて来るのか、わざわざぱっとしない外国の田舎を見に来るような物好きでもいたのか。
「はい皆さん、おはようございまーす。席に着いてくださーい。」
いつもの挨拶をしながら入ってきた若い担任は、いつもより少し楽しげな気がする。彼氏でもできたか。
「実は今日、転校生が来てるの。ベタな感じで紹介したかったから、今廊下にいてもらってるんだけどね。さ、入ってきてください。」
転校生なんて、こんな辺鄙な田舎に何処から越してくるんだ、そうみんなが驚く教室に入ってきた彼女が前を向く。
碧と、目が合った気がした。
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