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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
長髪医師ジェイルナ・ユリネイラ
しおりを挟む長髪に目を向けると、またまた変わった映像達。
艶やかな髪は淡い紫色をしており、緩やかなウェーブが光を受ける度に煌めく姿が美しい。
ルルカラード元兄の映像から、長髪の映像に一変し、頭の中全てが色気によって埋め尽くされた。
私を殺す気か。
───いや、すぐに死ぬのだけども。
卵型の端正な顔に、黄金の垂れ目。
たまに見えるイヤリングが、彼の美貌を引き立たせる。
甘ったるさも重さもない、爽やかな色気が溢れて止まない彼。
名を、ジェイルナ・ユリネイラ、という。
学園や王宮で活動している穏和で柔和な医師。まだ若いのに腕があり、天才医師として才能を認められている。
孤児という噂が少しあったが、真相は分からないまま、噂だけが消えた。
前までは各家に赴き、貴族を相手に診療していたのだが。ある時、彼の神秘的な美貌が噂になり、『私は病だ』『頭が痛い』と彼を指名する嘘つき患者が後を断たなかった。
頭が痛いのは彼の方だったろう。
これでは埒が明かない、助けられる人も助けられない、と。大人達でそんな話になり、彼の職場は変わった。
学園や王宮でも、似たような事があったりもするのだが。学園にいたり王宮にいたりと、不規則に行動するので、粘って探って予想をつけても意味がなかったりする。
交代でいる医師が、『俺じゃ駄目なんだ……俺じゃ……』と、少し憂鬱になるくらいで、特に大きな問題も起きていない。
実はこの医師さん……。学園七不思議の一つになっている。
───誰もいない筈の教室から聞こえてくる声。
『俺じゃ……俺じゃ……』
ドアを開けて中を見るも、誰もいない───。
このオレオレ詐欺の様な七不思議の実態が彼であるという事は、ジゼレーナも知らなかった。七不思議の事自体、把握していないのでは。
なぜ私が知っているのかというと、ジゼレーナが見聞きしたと思われる映像や情報が、脳内に溢れているからである。どんなに些細な事でも、ジゼレーナにとって重要でない事でも、その情報や映像が頭にある。医師さんの情報が現れると共に、七不思議の情報が現れたのだ。
御愁傷様。医師さん。代々学園で語り継がれていくね。
医師さんの名前をジゼレーナは目にも耳にもしていないようだ。名前の情報が全くない。
というか学園があるんだ。あっ夢か。うん夢だ。あー夢だった。
「リリアベル嬢は来ないんだよね」
低めだが、穏やかで、心の臓を揺さぶる良い声。耳が震える。でもなんだか無機質で、心に響かないから、ダメージが少ない。
形の良い垂れ目に、微かに掛かる繊細な髪が、彼の麗しさを助長させている。
緩やかな軽いウェーブが、耽美さに拍車を掛けている。
こんなセクシーな医師が学園にいるとか駄目だと思う。
というか、こんなセクシーな人が医師とか駄目だと思う。
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