55 / 60
第2章 悪役令嬢がメイドになって
ルルカとマリーの出会い
しおりを挟むルルカと出会ったのは、今日のような快晴の日。
私は今日と同じようなメイド服を着て、今日と同じように周囲に気を配りながら、日々の職務を全うしていた。
いつもなら。
事前に気付き、遭遇せぬよう、その場から離れたり、相手の方に背を向けたり、頭を下げて顔を隠したり。
なんだかんだと避ける事が出来た。
だがその日は何の因果か。運命の悪戯か。
お昼休憩だー!と気が抜けてしまった私は、一人の医師の呼び止める声を聞くまで、ユリ先生に気付かなかったのだ。
あの色気に気が付かなかったのだ。
きっと、視界に入っていただろうに。
その淡い紫の髪を視界の端で捉えながら、気取られぬよう、決して直視せぬよう、少し下を向いて道を進み、近くにあったドアノブを掴み、私は中へと入った。
心臓をバクバクさせながら。
医師二人を目に捉えながら、大きな音が出ぬようドアを閉める。そのまま肩で壁に体を預け、ドアに頭を当て体を支える。
一先ず危機を逃れた。目を閉じ、浅い息を吐き出して、心臓を落ち着かせようと試みる。
ドクドクと、迫る様な激しい音が煩い。呼吸がしづらく、少しだけ息が荒い。連動してか、体が熱くて、汗が出ているのを感じる。
取り敢えず、心身共に落ち着くまでここにいよう。
椅子を求めて部屋の中を歩くのも面倒なくらいの疲れで、せめてもと、ドアの前ににしゃがみ込み、膝に額を乗っけて、ドアに体重を預けた。目を閉じて、万が一にも奴らがここに来たりしない事を祈って。
「大丈夫か」
男性の声。優しい声音。
私の入った部屋には、既に人がいたらしい。
出入り口を塞ぐ私が邪魔なのかもしれない。申し訳ない。
それまで、私は先客に気付かなかった。少し雑多な部屋だからか。動揺していたのも一つの理由かもしれない。
彼の足音にも気付かなかったが、煩い心臓の音が私の耳を塞いで、足音が聞こえなかった可能性が高い。
顔を上げ、目に入る情報。
見覚えのある色味、造形、眼鏡。
形の違う双方の眼鏡を通して、視線が合う。
「熱い?少し触る───」
いや、もう、混乱。
至近距離で浴びる視線。心地良い声。私の体調を伺い、慮る瞳。
映像の中にあるのかもしれないが、ジゼレーナには一度も向けられた事のない瞳。
様子のおかしい私を心配する、優しい声音と瞳の男。
元義兄ルルカ。
ルルカラード・ディティリア。眼鏡を掛けた藍色の髪の男。決して仲良くはなかった、ジゼレーナの元お義兄様が、そこにいた。
0
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
誤解は解きません。悪女で結構です。
砂礫レキ
恋愛
オルソン家の伯爵令嬢エリカ。彼女は亡き母がメイドだった為に異母姉ローズとその母によって長年虐げられていた。
二人から男好きの悪女の噂を流布され、それを真に受けた結婚相手に乱暴に扱われそうになる。
その瞬間エリカは前世の記憶を思い出した。そして今の自分が「一輪の花は氷を溶かす」という漫画のドアマットヒロインに転生していることに気付く。
漫画の内容は氷の公爵ケビン・アベニウスが政略結婚相手のエリカを悪女と思い込み冷遇するが、優しさに徐々に惹かれていくという長編ストーリーだ。
しかし記憶を取り戻した彼女は呟く。「そんな噂を鵜呑みにするアホ男なんてどうでもいいわ」
夫からの愛を求めない新生エリカは悪女と呼ばれようと自分らしく生きることを決意するのだった。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる