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第2章 悪役令嬢がメイドになって
優しいルルカと震えるマリー
しおりを挟む「───少し熱があるようだが。吐き気はあるか?目眩などは……」
バクバクと煩く拍動していた心臓が止まった。頭も動かない。
ルルカの手が、私の額に触れている。
何が起きているのか、よくわからない。
体が固まって動かない。
「辛そうだな。待っていられるようなら、医者───」
必死に聞き取った途切れ途切れの声の中。聞こえたその言葉に、本人の意志とは関係なくマリーの手が飛び出し、ルルカの服を掴んだ。
そして意識が追い付く。
勢い良すぎて、怪し過ぎるのでは……。
不安になりながら、そのまま窺い見たマリー。
無意識の上目遣い発生、二人の目が合う。
「貴方を連れて行く方が───」
マリーを気遣って提案を変更してくれたルルカには感謝するが、とんでもない。
医者から逃げて、医者へ辿り着くなんて。
「少し……休めば、落ち着くので……」
緊張で狭まる喉から出たのは、細くか弱い声だった。ジゼレーナとは結びつかない庇護欲の湧く声。
怪しまれてはいない様なので、体調不良を装い下を向く事で顔を隠す。
無言の間が怖い。
「それなら座って休むといい。固い床よりはソファの方が楽だろう。本当は、医者に診てもらうのが一番だが。立てるか?」
袖を握ったまま震える手を、ルルカは優しく包んで外した。その手は包まれたままだが、全く手の感覚がない。
立とうとしたが立てなかった。力が入らない。腰が抜けている。
小さく首を振り謝るマリーに、ルルカがより近付いて、そのまま持ち上げた。
お姫様抱っこだ。
近い。心臓が止まりそう。もちろん恐怖で。
ジゼレーナだと気付かれてしまったら……。
考えただけで身体が震えた。
自分がこんなにビビりだったとは。知っていたけど。生まれてこの方ずっとそんな感じだけど。
こっそり怯えている間に、いつの間にかソファに到着していた。移動中の記憶はない。なんともよく分からない小さめの絵画の下に、二、三人座れる大きさの穏やかな色合いのソファが一つ。目的のソファは、こちらのようで、ルルカはマリーをそっと優しく座らせてくれた。
素敵だが怖い。
「横になってもいい。遠慮はしない様に」
と、手触りの良さそうな布を持って来て渡した。
気持ちの良い触り心地である。
「何か飲んだ方がいいだろう。温かい物と冷たい物。どちらなら飲めそうか」
その素敵な声が耳から脳に届いた頃には、私は布に包まれていた。私は私を布で包んだ覚えはないが。記憶が飛んだようだ。早く逃げたい。
「ありがとうございます。お手間でなければ温かいものをお願いします」
バレぬ事を願いながら、消え入りそうな声を出すメイド。図らずも、その声からは恐縮感と体調不良感が出ていた───。
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