悪役令嬢、メイドさんになる～転生先は処刑待ちの牢屋スタートです～

第２章 悪役令嬢がメイドになって

突然の衝突

　
　ウェルグリー城、廊下にて。
マリーは別の通路にいるルルカの姿を発見し、見つかる前に逃げようとした。
しかし、間髪入れず一人のメイドがマリーに衝突。メイドが手に持っていた箱が開き、宝飾品がきらきらと飛び出し、床に散らばり箱が転がる。衝突して来たメイドとマリーも床に転がった。

どう考えても目立つ。見つからない事なんて出来ない。だが、さっさと収拾しゅうしゅうして立ち去れば或あるいは。

瞬時に立ち上がりザッと宝飾品を見て位置を把握。メイドが倒れたまま動かないので、打ち所でも悪かったのかと近付くと彼女は体を起こした。痛かったのかすすり泣いている。目元が赤い。謝る彼女が立ち上がる様子だったので手を貸すと、無事立ち上がった彼女は散らばった宝飾品を見て軽く悲鳴を上げた。
私も悲鳴を上げたい。

「何があった」

ルルカラード・ディティリアの登場である。
その声に驚いたのか、崩れ落ちそうになった彼女を慌てて支えた。

「指輪にイヤリングにネックレスに。大変だ。もしかして盗み？泥棒かな」

ルルカの同僚のミシェルさんが宝飾品の入っていた箱を拾った。
武功を立てた先祖がいて、父が領地を持っている。ミシェルさんは次男で、三男と次女が今学園に通っていて、長女は嫁に行き長男は父の補佐をしている。手芸が趣味の母と同じ暗い緑色の髪がさらっさらの人。
ルルカの周囲の人間とか、早めに覚えさせられたな。メイド修行の頃を思い出し懐かしい気持ちになった所、腕の中のメイドが震える声を上げた。

「違います！これは、アンジェリーナ王女殿下が。私はただ、運ぶよう言われて」

ミシェルさんが箱に施された美しい装飾を指差してルルカに見せた。

「持ち主はそのようだね」
「アンジェリーナ王女殿下はいつまでこのような事をされるのか」
「いつまでもじゃないか。早く終わるといいけどね。大変だったね」

そう言ったミシェルさんがメイドに箱を渡すと、彼女は声を上げて泣き出した。何か喋っているが何を喋っているか分からない。どうしたら良いのか分からず適当にトントン叩いて撫でながら「頑張ったね」と声を掛けると抱き着かれた。この子、力が強い。

「ナンシー！お騒がせして申し訳ありません。王女殿下の命で運んでいました。離れなさいナンシー。マリー後をお願いね」

メイドのお姉さん方が訳を端的に説明し宝飾品と泣きじゃくるメイドを素早く回収して行った。
あまりに早い。彼女に付き添ってルルカから逃げるつもりだったのに。こっち見てるよ。ロックオンだよ。

「マリー。あれから体調はどうだ」
「知り合いなの？珍しいね」

幸いなのは、二人きりではない事か。