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46話:共闘の始まり
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セレナが涙を拭いた。
まだ目が赤いが、表情は落ち着いてきた。
「……ごめんなさい。取り乱した」
「いい。それより、聞きたいことがある」
俺は声を落とした。
「お前の父親と魔人が会っている場所。分かるか?」
「……城の東塔よ。最上階に隠し部屋がある。お父様はそこで……あの人と会ってる」
「いつ会う?」
「分からない。私は関与してないから……いつも急に呼び出されて、気づいたら終わってる。次がいつかなんて」
「……そうか」
俺は黙った。
場所は分かった。東塔の最上階。
だが、いつ密会が行われるか分からない。
証拠を押さえるには、その瞬間を捉える必要がある。
どうするか……
——そういえば。
ふと、月を見上げた。
本当に月の下で会ってるな。
予行で苦し紛れについた嘘が、まさか事実になるとは。
視線を戻すと、セレナが不安そうにこちらを見ていた。
月明かりに照らされた横顔。
金色の髪が風に揺れている。
——よく見たら、めちゃくちゃ綺麗だな。
「……心配しないで」
セレナが言った。
笑顔だった。
あの、完璧な笑顔。
「なんとかなるわ。私、頑張るから」
——また、その顔か。
「やめろ」
「え?」
「またその顔だ。無理するなって言っただろ」
セレナの表情が揺らいだ。
「……でも」
「一人で抱え込むな。俺がいるって言った」
セレナが俺を見た。
目が潤んでいる。
唇が少し震えている。
——お。
これは、刺さってるんじゃないか?
もしかして俺に——
「殿下」
背後から声がした。
サリだ。
「そろそろ限界です。これ以上は」
「……分かった」
タイミング悪いな。いいところだったのに。
「セレナ」
「……何?」
「また連絡する。例の紙で」
「分かったわ」
俺はバルコニーの縁に足をかけた。
——去り際に、何か言いたい。
「なあ」
「何?」
「寂しくなったら、月の下で待っててくれ。いつでも会いに来るから」
我ながら良いセリフだと思った。
セレナは一瞬きょとんとして、それから言った。
「……見つかる危険を冒してまで来る意味が分からないんだけど」
「いや、そういうことじゃなくて」
「作戦に関係ない接触は控えるべきでしょう。リスクが高いだけで何の意味もない」
正論だった。
「……ごもっとも」
俺は蔦を掴んで、逃げるように降りた。
***
宿屋に戻りながら、考えていた。
場所は分かった。
タイミングは分からない。
だが、タイミングを「作る」ことはできるかもしれない。
問題は、どうやって密約の証拠を押さえるか。
そして、どうやってそれを民に知らしめるか。
——透明インク。銀鏡。
広場で見せた「芸」が頭に浮かぶ。
「……見えてきた」
俺は足を速めた。
***
翌日。広場。
いつものように芸を披露した。
火蜥蜴の息吹。銀鏡の術。
民が集まり、歓声が上がる。
芸が終わった後、俺は声を張り上げた。
「皆、聞いてくれ!」
民が注目する。
「俺は一度この街を離れる。だが、必ず戻ってくる」
ざわめきが起きた。
「戻ってきた時には、今までで一番のとっておきを見せてやる。夜空に届くような、すごい芸だ」
子供たちが目を輝かせた。
大人たちも興味深そうに頷いている。
「だから待っててくれ。必ず戻る」
拍手が起きた。
俺は手を振って、広場を後にした。
***
国境の検問所。
「旅芸人? どこへ行く」
衛兵が俺を見た。
入る時と同じ衛兵だ。
だが、目つきが違う。
「シンラに戻ろうと思ってな。そろそろ次の街に」
「駄目だ」
「は?」
「最近、不審者の報告がある。旅芸人を装った間者がいるとか」
衛兵はじろじろと俺を見た。
「お前、本当にただの芸人か?」
「……見ての通りだが」
「念のため、しばらく出国は控えてもらう。宿に戻れ」
抵抗しても無駄だ。
ここで騒げば、本当に捕まる。
「……分かった」
俺は素直に引き返した。
***
夜、サリと合流した。
「裏道を使います。こちらへ」
サリの案内で、森を抜けた。
月明かりを頼りに、獣道を進む。
国境の柵を越えた時、ようやく息をついた。
「……さて、まずは兄上達への報告だな」
***
シンラ王都。
ヴァリウス兄上とリアン兄上を呼び出し、状況を共有した。
「——つまり、エンヴァ王は魔人と密約を結んでいる。民を差し出す代わりに、国の安全を保証されている」
二人の表情が険しくなった。
「……許せんな」
ヴァリウス兄上が低く唸った。
「民を売るなど、王のすることではない」
「問題は証拠です」
リアン兄上が腕を組んだ。
「密約の現場を押さえなければ、告発しても水掛け論になる。だが、いつ密会が行われるか分からないのでは……」
「やはり武力で制圧するしかないのではないか」
ヴァリウス兄上が言った。
「俺が兵を率いてエンヴァに入る。王を捕らえ、直接吐かせればいい」
「それでは駄目です」
リアンは首を振った。
「大義名分がない。他国への侵略と見なされます。それに、王を捕らえても魔人が出てくれば——」
「……確かにな」
ヴァリウス兄上が苦い顔をした。
沈黙が落ちた。
リアン兄上が眉間を揉んでいる。
ヴァリウス兄上は腕を組んで黙り込んでいる。
俺は二人を見た。
「兄上たち」
二人が顔を上げた。
「作戦があります」
まだ目が赤いが、表情は落ち着いてきた。
「……ごめんなさい。取り乱した」
「いい。それより、聞きたいことがある」
俺は声を落とした。
「お前の父親と魔人が会っている場所。分かるか?」
「……城の東塔よ。最上階に隠し部屋がある。お父様はそこで……あの人と会ってる」
「いつ会う?」
「分からない。私は関与してないから……いつも急に呼び出されて、気づいたら終わってる。次がいつかなんて」
「……そうか」
俺は黙った。
場所は分かった。東塔の最上階。
だが、いつ密会が行われるか分からない。
証拠を押さえるには、その瞬間を捉える必要がある。
どうするか……
——そういえば。
ふと、月を見上げた。
本当に月の下で会ってるな。
予行で苦し紛れについた嘘が、まさか事実になるとは。
視線を戻すと、セレナが不安そうにこちらを見ていた。
月明かりに照らされた横顔。
金色の髪が風に揺れている。
——よく見たら、めちゃくちゃ綺麗だな。
「……心配しないで」
セレナが言った。
笑顔だった。
あの、完璧な笑顔。
「なんとかなるわ。私、頑張るから」
——また、その顔か。
「やめろ」
「え?」
「またその顔だ。無理するなって言っただろ」
セレナの表情が揺らいだ。
「……でも」
「一人で抱え込むな。俺がいるって言った」
セレナが俺を見た。
目が潤んでいる。
唇が少し震えている。
——お。
これは、刺さってるんじゃないか?
もしかして俺に——
「殿下」
背後から声がした。
サリだ。
「そろそろ限界です。これ以上は」
「……分かった」
タイミング悪いな。いいところだったのに。
「セレナ」
「……何?」
「また連絡する。例の紙で」
「分かったわ」
俺はバルコニーの縁に足をかけた。
——去り際に、何か言いたい。
「なあ」
「何?」
「寂しくなったら、月の下で待っててくれ。いつでも会いに来るから」
我ながら良いセリフだと思った。
セレナは一瞬きょとんとして、それから言った。
「……見つかる危険を冒してまで来る意味が分からないんだけど」
「いや、そういうことじゃなくて」
「作戦に関係ない接触は控えるべきでしょう。リスクが高いだけで何の意味もない」
正論だった。
「……ごもっとも」
俺は蔦を掴んで、逃げるように降りた。
***
宿屋に戻りながら、考えていた。
場所は分かった。
タイミングは分からない。
だが、タイミングを「作る」ことはできるかもしれない。
問題は、どうやって密約の証拠を押さえるか。
そして、どうやってそれを民に知らしめるか。
——透明インク。銀鏡。
広場で見せた「芸」が頭に浮かぶ。
「……見えてきた」
俺は足を速めた。
***
翌日。広場。
いつものように芸を披露した。
火蜥蜴の息吹。銀鏡の術。
民が集まり、歓声が上がる。
芸が終わった後、俺は声を張り上げた。
「皆、聞いてくれ!」
民が注目する。
「俺は一度この街を離れる。だが、必ず戻ってくる」
ざわめきが起きた。
「戻ってきた時には、今までで一番のとっておきを見せてやる。夜空に届くような、すごい芸だ」
子供たちが目を輝かせた。
大人たちも興味深そうに頷いている。
「だから待っててくれ。必ず戻る」
拍手が起きた。
俺は手を振って、広場を後にした。
***
国境の検問所。
「旅芸人? どこへ行く」
衛兵が俺を見た。
入る時と同じ衛兵だ。
だが、目つきが違う。
「シンラに戻ろうと思ってな。そろそろ次の街に」
「駄目だ」
「は?」
「最近、不審者の報告がある。旅芸人を装った間者がいるとか」
衛兵はじろじろと俺を見た。
「お前、本当にただの芸人か?」
「……見ての通りだが」
「念のため、しばらく出国は控えてもらう。宿に戻れ」
抵抗しても無駄だ。
ここで騒げば、本当に捕まる。
「……分かった」
俺は素直に引き返した。
***
夜、サリと合流した。
「裏道を使います。こちらへ」
サリの案内で、森を抜けた。
月明かりを頼りに、獣道を進む。
国境の柵を越えた時、ようやく息をついた。
「……さて、まずは兄上達への報告だな」
***
シンラ王都。
ヴァリウス兄上とリアン兄上を呼び出し、状況を共有した。
「——つまり、エンヴァ王は魔人と密約を結んでいる。民を差し出す代わりに、国の安全を保証されている」
二人の表情が険しくなった。
「……許せんな」
ヴァリウス兄上が低く唸った。
「民を売るなど、王のすることではない」
「問題は証拠です」
リアン兄上が腕を組んだ。
「密約の現場を押さえなければ、告発しても水掛け論になる。だが、いつ密会が行われるか分からないのでは……」
「やはり武力で制圧するしかないのではないか」
ヴァリウス兄上が言った。
「俺が兵を率いてエンヴァに入る。王を捕らえ、直接吐かせればいい」
「それでは駄目です」
リアンは首を振った。
「大義名分がない。他国への侵略と見なされます。それに、王を捕らえても魔人が出てくれば——」
「……確かにな」
ヴァリウス兄上が苦い顔をした。
沈黙が落ちた。
リアン兄上が眉間を揉んでいる。
ヴァリウス兄上は腕を組んで黙り込んでいる。
俺は二人を見た。
「兄上たち」
二人が顔を上げた。
「作戦があります」
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