【読切短編】追放された軍師は辺境で復讐を誓う ~俺がいなくなった王国軍は、連敗してるらしい~

Lihito

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復讐の序曲

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「レイン・アッシュフォード。貴様を反逆罪で有罪とする」

軍法会議の場に、判決が響いた。

俺は黙って聞いていた。
鎖に繋がれた両手が重い。三日まともに寝ていないせいで、頭がぼんやりする。

「弁明はあるか」

裁判長の声。形式的な質問だ。どうせ聞く気はない。

周囲を見渡す。
証人席には、かつての上官——バルドー将軍が座っていた。俺を告発した張本人。
目が合うと、奴は薄く笑った。

(ああ、そういうことか)

全部、分かった。
奴は俺の手柄を横取りしたかっただけだ。ノルディア会戦の勝利、ガレス砦の奪還、リベルタス峠の防衛戦——全て、俺が立てた策だった。
でも、表向きの司令官はバルドー将軍。功績は全部、奴のものになっていた。

俺がいなくなれば、「優秀な参謀を使いこなした名将」の評価が確定する。
邪魔者は消えて、栄光だけが残る。

(くだらねえ)

証拠はない。俺が策を立てたという記録は、全て「紛失」していた。証言してくれる人間も、いない。
何を言っても無駄だ。この裁判の結果は、最初から決まっている。

「——弁明はない」

裁判長が頷いた。

「よろしい。レイン・アッシュフォードを王国軍より除籍、辺境のグレイヴァル領へ流刑とする」

グレイヴァル。
北の果て、荒れ果てた土地。まともな統治者がいないことで有名な場所だ。

(死ねってことか)

まあいい。どうせ、この国に未練はない。

俺は立ち上がった。
最後に一度だけ、バルドー将軍を見た。

「将軍」

「なんだ」

「次の戦、楽しみにしてますよ」

将軍の顔が歪んだ。意味が分からない、という顔。

(分かるさ。すぐにな)

俺がいなくなった軍が、どうなるか。
見物だ。

***

護送の馬車に揺られて、五日。

グレイヴァル領に着いた時、最初に思ったのは「ひでえな」だった。

灰色の空。荒れた大地。
建物はどれも古びていて、今にも崩れそうだ。
歩いている人間の顔に、生気がない。諦めきった顔だ。

「着いたぞ。降りろ」

護送兵に促されて、馬車を降りる。
鎖は外されていた。逃げる場所もないから、意味がないのだろう。

「お待ちしておりました」

出迎えたのは、白髪の老人だった。執事のような身なりをしている。

「私はセバス。この領地の管理を任されております」

「管理っつっても、管理するもんがあるのか? ここ」

皮肉が口をついて出た。

セバスは苦笑した。

「……厳しいご指摘ですが、その通りでございます」

正直な老人だ。嫌いじゃない。

「お前以外に、誰かいるのか」

「自警団が少々。団長のガルドが、後ほどご挨拶に参ります」

自警団。
正規軍じゃなく、自警団か。つまり、ここは王国からほぼ見捨てられている。

「……なるほどな」

俺は辺りを見回した。

その時——視界の端で、何かが光った。

これは、いつからか使えるようになった力。
行動の結果が「確率」として見える。

例えば、今この場で逃げ出したら——【成功率:3%】【死亡率:87%】
意味がない選択だと、数字が教えてくれる。

逆に、この領地を立て直そうとしたら——

俺は北の方角を見た。
ぼんやりと、数字が浮かんでいる。

【この土地の発展可能性:67%】

悪くない数字だ。
やり方次第で、化ける。

「セバス」

「はい」

「この領地の問題点、全部教えろ」

セバスが目を見開いた。

「……本気で、お聞きになるのですか」

「聞かねえで何が分かる」

「前の領主様方は、一度もそのようなことを——」

「俺は俺だ」

セバスは深く頭を下げた。

「……かしこまりました」

***

領主館で、セバスから説明を受けた。

人口は約二百人。
主な産業なし。かつては小規模な農業をやっていたが、土地が痩せて収穫量が激減。
治安は悪い。盗賊が時々現れる。自警団が対応しているが、人手が足りない。
若者はほとんど出ていった。残っているのは、出ていく体力もない老人と子供だけ。

「……ひでえな」

「申し訳ございません」

「お前が謝ることじゃねえよ」

俺は地図を見つめた。

北に山。東に川。南は王国の中心部に繋がる街道。
条件は悪くない。なのに、ここまで荒廃しているのは——単純に、まともな統治者がいなかったからだ。

「この川、水量は?」

「雨季にはかなりの水量になりますが、普段は——」

「井戸は?」

「以前はありましたが、枯れてしまいまして」

「場所は?」

セバスが地図を指さした。
俺は因果視を発動させる。

【この場所で井戸を掘り直した場合】→【成功率:12%】

駄目だ。ここじゃない。

地図上を視線で追う。
北の方、山の麓あたりで——数字が跳ね上がった。

【この場所で井戸を掘った場合】→【成功率:89%】

「……ここだ」

「は?」

「ここに井戸を掘る。水脈がある」

セバスが驚いた顔をした。

「なぜ、そのようなことが——」

「勘だ」

嘘だが、説明するのも面倒だ。

「明日から動く。人手を集めろ」

「か、かしこまりました」

セバスが出ていった後、俺は窓の外を見た。

(やるか)

どうせ失うものはない。
死んだように生きるくらいなら、何かやってみるのも悪くない。

それに——俺を追い出した連中が、どうなるか。
見届けてやりたいからな。

***

翌日、自警団の団長に会った。

「ガルドだ。よろしく頼む」

四十代半ばだろうか。短く刈り込んだ髪、日焼けした肌。体つきを見れば、元軍人だと分かる。
目つきが鋭い。俺を値踏みしている。

「レインだ。流刑者の新しい領主、ってやつだな」

「ああ」

ガルドは腕を組んだ。

「で、新しい領主様。今度はどのくらいで逃げ出す? 一ヶ月か? 三ヶ月か?」

「逃げねえよ」

「そうかい」

信じていない声だ。当然だろう。何度も同じことを言われてきたんだろうから。

「まあ、好きにしろ。俺たちは俺たちでやる。邪魔だけはしてくれるな」

「待て」

ガルドが背を向けかけたところで、俺は声をかけた。

「一週間だ」

「あ?」

「一週間で結果を出す。それまで待て。結果が出なかったら、好きに言え」

ガルドが振り返った。
俺を見る目が、少し変わった。

「……一週間だけだ」

「ああ」

「期待はしてねえ。——口だけの奴は、何人も見てきたからな」

そう言って、ガルドは去っていった。

***

井戸掘りを始めた。

場所は、因果視で特定した山の麓。
住民を数人雇い、道具を揃え、掘り始める。

「本当にここで出るのか?」

作業員の一人が、疑わしそうな顔で言った。

「出る」

「根拠は?」

「勘だ」

「勘って……」

溜息をつかれた。信じていない。
まあいい。結果を出せば黙る。

三日目。
一メートルほど掘ったところで、土の質が変わった。

「おい、なんか湿ってきたぞ」

「もう少しだ。続けろ」

四日目。
水が滲み出してきた。

「出た! 水だ!」

作業員たちが歓声を上げた。
俺は黙って見ていた。

【この井戸からの水量】→【領地の需要の約150%を賄える】

十分だ。

「……すげえな、あんた」

作業員の一人が、呆然とした顔で俺を見た。

「本当に勘か?」

「ああ」

「勘だけで、こんな正確に当てるのか」

「運が良かっただけだ」

嘘だが、本当のことを言っても信じないだろう。

***

一週間後。

井戸は完成し、水が安定して供給されるようになった。
ついでに、その水を使って小規模な農地の開墾も始めた。

「レイン様、今月の報告です」

セバスが帳簿を持ってきた。

「水の供給が安定したことで、住民の生活が改善されております。農地の準備も順調です。このペースなら、来季には——」

「ああ、分かった」

俺は窓の外を見た。
井戸の周りに、住民が集まっている。子供が水を汲んで走り回っている。
三日前までは、あんな光景はなかった。

「……悪くねえな」

「は?」

「いや、なんでもない」

その時、扉が開いた。

「——お邪魔するぜ」

ガルドだった。
いつもの不機嫌そうな顔だが、どこか違う。

「一週間経った」

「ああ」

「結果は見た」

ガルドは俺の前に立った。

「……少しは見直した」

それだけ言って、背を向ける。

「待て」

「なんだ」

「自警団の訓練、見せてくれ」

ガルドが振り返った。

「なんでだ」

「この領地を守るなら、戦力の把握は必要だろ。俺は元参謀だ。何か役に立てるかもしれん」

ガルドは黙って俺を見ていた。
数秒後、口元が緩んだ。

「……ついて来い」

***

自警団の訓練場は、領地の外れにあった。

団員は十五人ほど。年齢はバラバラだ。元軍人もいれば、農民上がりもいる。

「ガルドさん、そいつは?」

「新しい領主様だ。訓練を見たいとよ」

団員たちがざわめいた。
俺を見る目には、警戒と好奇心が混じっている。

「始めろ」

ガルドの号令で、訓練が始まった。

俺は黙って見ていた。

(……なるほどな)

因果視で、各団員の動きを分析する。
癖、弱点、伸びしろ。数字となって浮かんでくる。

【この団員の潜在能力:68% 現在の発揮率:41%】
【この団員の弱点:左足の動きが遅い 改善可能性:高】
【この団員の……】

全員分のデータが、頭の中に蓄積されていく。

訓練が終わった後、ガルドが近づいてきた。

「どうだった」

「悪くない。だが、改善点はある」

「聞かせろ」

俺は一人一人について、気づいた点を伝えた。
ガルドの目が、どんどん鋭くなっていく。

「……あんた、本当に参謀だったんだな」

「ああ」

「なんで追放された」

「上官に嵌められた」

「……そうか」

それ以上は聞かなかった。
俺も、それ以上は言わなかった。

***

その夜。

領主館に戻る途中、視線を感じた。

振り返る。
誰もいない。

「……気のせいか」

歩き出そうとした時、また感じた。
右手の建物の影。誰かがいる。

俺は因果視を発動させた。

【この人物の敵意】→【低い】
【この人物の目的】→【観察】

敵ではなさそうだ。だが、何者だ?

「出てこい」

影が動いた。

現れたのは——女だった。

二十歳前後だろうか。黒いローブを纏っている。顔は見えない。

「……何者だ」

女は答えなかった。
ただ、じっと俺を見ていた。

「おい——」

俺が声をかけようとした瞬間、女は身を翻した。
驚くほどの速さで、闇の中に消えていく。

追いかけようとしたが、すでに姿は見えなかった。

「……なんだ、あれは」

因果視を発動させる。

【あの女に関わった場合の影響】→【不明】

不明。
初めて見る表示だった。

(厄介なのが来たな)

嫌な予感がした。
だが、今はどうしようもない。

俺は領主館に戻った。
背中に、まだ視線を感じながら。

***

二ヶ月が経った。

領地は少しずつ、形になり始めていた。
井戸の水で農地が潤い、最初の収穫が見え始めている。自警団の練度も上がった。住民の顔にも、活気が戻ってきた。

「レイン様、報告です」

セバスが執務室に入ってきた。

「どうした」

「王都から、情報が入りました」

セバスの顔が曇っている。
嫌な予感がした。

「バルドー将軍の件です。先月の北方遠征で——大敗されたとのことです」

「……そうか」

俺は窓の外を見た。

バルドー将軍。俺を追放した張本人。
俺がいなくなった軍が、どうなるか。予想通りだ。

「将軍は責任を問われ、現在は謹慎中とのことです」

「ふん」

笑いが漏れた。

「ざまあみろ」

俺の策がなければ、あの男は何もできない。
分かっていたことだ。分かっていたが——実際に聞くと、気分がいい。

「それと、もう一つ」

「なんだ」

「将軍が、この領地に刺客を送ったという噂があります」

空気が変わった。

「刺客?」

「はい。将軍は、自分の失態の原因がレイン様にあると考えているようで——」

「つまり、口封じか」

「そのように思われます」

俺は椅子に座り直した。

「いつ来る」

「分かりません。ただ、すでに領地の近くまで——」

その時、窓ガラスが割れた。

***

咄嗟に机の下に隠れる。
窓から投げ込まれたのは——煙玉だった。

「レイン様!」

「大丈夫だ、伏せろ!」

煙が広がる。視界が塞がれる。

足音が聞こえた。
複数。三人、いや四人か。

因果視を発動させる。

【この状況で正面から戦った場合】→【生存率:23%】

低い。相手は訓練された暗殺者だ。正面からやり合うのは愚策。

【窓から逃げた場合】→【生存率:67%】

まだ低い。外に仲間がいるんだろう。

【この煙の中で待機した場合】→【生存率:81%】

これだ。

「セバス、動くな。俺の合図まで待て」

「は、はい」

煙の中で息を潜める。
足音が近づいてくる。

(一人目、右側。二人目、左側。三人目、正面——)

位置を把握する。
因果視で、相手の動きを予測する。

【一人目が右に動く確率:78%】
【二人目が左に回り込む確率:89%】
【三人目が正面から突っ込む確率:65%】

「……今だ」

俺は机を蹴り飛ばした。

机が一人目に直撃する。同時に、俺は左に転がった。二人目の剣が、さっきまで俺がいた場所を斬る。

「セバス、窓から逃げろ! ガルドを呼べ!」

「し、しかし——」

「いいから行け!」

セバスが窓から飛び出した。

残りは俺と刺客三人。
煙が薄れてきた。相手の姿が見える。

黒装束の男が三人。
全員、剣を持っている。

「……一人か」

刺客の一人が言った。

「楽な仕事だな」

「どうかな」

俺は壁際に下がった。
背後に逃げ道はない。だが、それでいい。

「因果視」で見えている。
この状況での最適解が。

【三人が同時に斬りかかる確率:34%】
【二人が斬りかかり、一人が退路を塞ぐ確率:61%】

後者だ。

「来いよ」

刺客が動いた。

二人が前から、一人が横に回る。予想通り。

俺は——わざと隙を見せた。

「もらった!」

一人が突っ込んでくる。
その瞬間、俺は体を捻った。

刺客の剣が、壁に突き刺さる。
俺はその腕を掴み、引き寄せ——背後に投げた。

投げられた刺客が、回り込もうとしていた仲間にぶつかる。
二人がもつれて倒れた。

残りは一人。

「てめえ——!」

最後の一人が斬りかかってくる。

俺は横に飛んだ。
刺客の剣が空を切る。その隙に、俺は相手の懐に入り——膝を叩き込んだ。

刺客が膝をつく。
俺はその首に腕を回し、締め上げた。

「動くな」

他の二人に向かって言った。

「こいつの首を折る。それでいいなら来い」

刺客たちが止まった。

「……くそ」

数秒の沈黙。

その時——扉が蹴破られた。

「レイン! 無事か!」

ガルドだった。
自警団員を連れて、飛び込んできた。

刺客たちが顔を見合わせる。

「……撤退だ」

煙玉が投げられた。
再び視界が塞がれる。

煙が晴れた時——刺客たちは消えていた。

***

「怪我はないか」

「ああ、大丈夫だ」

俺は椅子に座った。
少し、手が震えている。久しぶりの実戦だった。

「……やるな、あんた」

ガルドが感心した声で言った。

「三人相手に、素手で。元参謀ってのは嘘か?」

「参謀も、前線に出ることはある」

「そうかい」

ガルドは窓の外を見た。

「あいつら、また来るぞ」

「ああ、分かってる」

バルドー将軍は諦めない。
自分の失態を隠すためには、俺を消すしかないと思っている。

「だが、今回で分かったこともある」

「なんだ」

「相手の手の内が見えた。次は——こっちから仕掛ける」

ガルドが笑った。

「いいね、そういうの。——手伝うぜ」

「頼む」

その時、視線を感じた。

窓の外。
あの女がいた。黒いローブの、謎の女。

目が合った。

女は——小さく頷いた。
そして、また闘の中に消えていった。

「おい、どうした」

「いや……なんでもない」

俺は窓から目を逸らした。

あの女は何者だ。
敵か、味方か。それすら分からない。

だが、一つだけ分かることがある。

「……静かに暮らすつもりだったんだがな」

そうもいかないらしい。

バルドー将軍の陰謀。謎の女。そして、この領地を狙う何者か。

厄介事が、向こうから押し寄せてくる。

(まあいい)

どうせ、このまま朽ちていくつもりはなかった。
来るなら来い。全部、叩き潰してやる。

これは、まだ始まりに過ぎない。
一人の男が、国を揺るがすまでの——長い物語の、序章に過ぎない。

【完】

ーーーーーーーーーー
最後までお読みいただきありがとうございます。
本作は読切として作りましたが、評価や感想などの反応次第で、長編化も考えています。

「領地経営×転生×戦略で成り上がり」がお好きな方は、こちらもぜひ。
→『【完結保証】科学で興す異世界国家~理不尽に死んだ技術者が、科学と運命点で優秀な兄たちを超えて七カ国を統べ、滅びの未来を書き換える建国譚~』
ーーーーーーーーーー
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みんなの感想(1件)

x32−jsk−sk
2026.01.31 x32−jsk−sk

短編ながら充実した内容でした😊
未来視というスキルも良いアイデアだと思います。
短編では、もったいない〜長編を出してほしいです!!

2026.01.31 Lihito

コメントありがとうございます!
「未来視が良い」というご意見、すごく参考になります!
似た系統の能力(運命点)を持つ主人公の長編も連載中なので、よければ覗いてみてください!

解除

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