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2 攻略対象キャラ1

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 『学園』に入学して3時間━━アタシゃこの世界が何者かの予定調和だって説を信じたくなったよ。

「これで勝ったと思うなよっ」

 新入生代表として入学式の挨拶を済ませ、講堂を出たところで生意気そうな小僧が話しかけてきた。背丈は175センチといったところだろうか、白銀の髪に紫水晶の瞳が鮮やかな美男子さ。スーツを着せたらホストで食っていけるだろう。

 その小僧はアタシにしてみりゃ、もとれない赤子同然の年齢だったけど、どこの誰だかわかりゃしないし、いちおう猫をかぶって頭を下げた。

「どなたさまかは存じませんが、失礼があったようなら謝罪いたします」

「…この俺を知らんだと?」

 すると小僧は気を悪くするでもなく高らかに笑い声をあげた。

「面白い女だ。名前を覚えておいてやろう。ハンナ・グレッツナー」

 代表挨拶のときに覚えたんだろうアタシの名前を呼び、小僧は笑いながら去っていった。

 なんだありゃ。

 呆れたアタシの背後から、今度は天をつくような大男が現れる。ブレザーの制服姿だが、鎧がよく似合いそうな無骨な男さ。こっちも負けず劣らずの二枚目で、ブラウンの髪と同色の瞳に優しい色をたたえている。

「すまなかったな」

「…と、いうとはお連れさまですか?」

 大男が苦笑した。

なんて言うもんじゃない。彼はこの国の皇子さまだよ」

「ああ、ディートハルト皇子…」

 さすがにそれくらいの情報は入学前におさえている。顔までは知らなかったけどね。するとこの大男は━━。

「私の名はケヴィン・バルツァー。騎士科の1年だ」

「なるほど、ディートハルト殿下と親しい近衛騎士団長のご子息というのは貴方のことでしたか」

 ちょっと騎士団と聞けば大したことなさそうだが、近衛騎士団ってのは帝室がかかえる固有の戦力で、その数は10万にもおよぶ。国軍の師団ひとつに匹敵する強大な武力集団さね。その団長ともなりゃ、公爵家と同格の立派な門閥貴族だ。だからこの男は、いずれ騎士団長を継ぐ可能性が極めて高い、帝国の最重要幹部候補のひとりってわけさ。

「くわばらくわばら…」

「クワーバーラ?なんの呪文だ?」

 おっと危うく日本語が出てしまった。アタシは笑ってごまかしておいて、目の前の若人わこうどに忠告をひとつくれてやる。

「個人的な友情に口をはさみたくはありませんが…あなたのような立場のかたが、第3皇子と仲良くするのはいかがなものでしょう。近衛騎士団は皇帝陛下の剣。その子息と弟が仲良くしていれば、いずれ皇帝になるべき第1皇子がひがむでしょうね」

 ケヴィンが瞠目どうもくした。

「君は…本当に面白いな。女の子なのに政経科にトップ入学するだけのことはある」

「えっ」

 女の子なのに?どういう意味だいそりゃ。アタシの顔色を読んだらしいケヴィンが、呆れ顔になる。

「…知らなかったのか?君は女性初の政経科入学者だぞ?ふつうの女の子はみんな教養科に入る。しかも君は新入生代表だろう?ディートハルト…殿下が負け惜しみを言っていたのはその件だ」

━━これで勝ったと思うなよっ。

 ああ、そういうことか。入学試験の成績で負けたのが悔しくて…。って、いやいやいや、それどころじゃないよ。アタシゃ、義務的に『学園』に入っただけで、卒業できればそれでよかったんだ。それが女性初だって?どうりで周りが男ばっかりだと思ったよ。こりゃあ悪目立ちしちまうよ、面倒な。

「ディー…殿下はあれで悪い人間じゃないんだ。君が気を悪くしていたなら、殿下に代わって謝りたかった。私の用件はそれだけだ。だけど君と知り合えて良かった、ハンナ嬢。新入生同士、これからもよろしく」

 色々言って、ケヴィンは立ち去っていった。スポーツマンっぽいさわやかな男さ。気づけばアタシの周りで女生徒たちがキャアキャア言っていた。そりゃあ、ああいう手合いは女にモテるだろう。女性関係にそうなところが、いっそう女をきつけるんだ。

 ディートハルトとケヴィンのせいで、アタシはまたしても悪目立ちしてしまったわけだが、受難はこれで終わらなかった。

 アタシの影からアタシにしか聞こえない声がする。

「御前さまに対して、なんと無礼な小僧どもでしょうか。とくにあのディートハルトめ…。ご命令があれば、少々痛めつけてまいりますが」

 その声はアタシに忠誠を誓った者のそれだった。影にひそみ、アタシのために暗躍する諜報機関の頭領さ。ようするに忍者のかしらさね。

「15の小僧っ子相手に、『裏影』の頭領が出てくるのかい。大人げないにもほどがあるよ」

「はあ…」

 諜報機関の名が『裏影』さ。そして裏影の頭領がこの影の声のぬし、フリッツ・ギンスターだ。フリッツはなおもアタシに語りかける。

「ですが御前さま、男は始末してもよろしいでしょう?」

「あの男?」

「物影からこちらの様子を窺っている男です」

 フリッツに言われて周囲を見回すと、講堂の建物の影から、こちらを見つめている怪しげな男がいた。素人丸出しのそのそぶりからすると、おそらく暗殺者のたぐいではないだろう。

「何者だい?」

 アタシの問いかけに、フリッツはあっさりと答えた。

「アルフォンス・フォン・ラングハイムでございますよ」

 それはつい先日、アタシがぶっ潰した帝国宰相ラングハイム公爵の息子の名前だった。
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