悪役令嬢より悪役な〜乙女ゲームの主人公は世界を牛耳る闇の黒幕〜

河内まもる

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 どう見ても子どもにしか見えないクライドは、実際に子どもだった。保健室まで付き添ったアタシに、クライドが自分の氏素性うじすじょうを語りだしたのさ。

「僕はまだ12歳だから、周りがお兄さんとお姉さんばっかりで、落ち着かないんです」

「するとクライドさまは教会関係者ですか」

「な、なんでわかるんですか!」

 そりゃわかるさ。たぶんクライドは『学園』の教会枠入学者だろ。教会枠で入学する場合には、特例として年齢制限がなくなる。理由は教会幹部を養成する『寄宿学校』が『学園』と同じように15歳での入学になるからさ。

 エリート神官になるには、『寄宿学校』卒業が最低条件だ。『寄宿学校』はエリート神官志望者にとってなによりも優先される。そのうえで『学園』にも通おうと思ったら、15歳までに『学園』を卒業しておかないと『寄宿学校』入学に間に合わない。

 そこまでして、どうして『学園』に通う必要があるのか?理由はかんたん、門閥もんばつ貴族にかかわるタイプの神官には、『学園』卒業者であるという信用が必要だからさね。

 この世界の門閥貴族ってのは、ハッキリ言うとじゃない。なのさ。『門閥貴族』は固有の領地をもつ伯爵家以上の貴族をさす言葉だ。700年前、帝国というかたちで人類がひとつにまとまる前までは、それぞれ独立国家の王族だった者たちさね。

 古来から王族ってやつは、自分たちは神の末裔まつえいだって主張する為政者いせいしゃの一族だ。神さまの血統だと主張することで、自分たちの権力を裏づけていた。それが今日こんにちまで続く門閥貴族の系譜けいふになる。

 平民が門閥貴族とかかわろうとしたら、本当に大変なんだよ。わかりやすく言えば、神さまと人間くらい身分が違うんだから。うちのグレッツナー家は、わりとゆるいけど、本当ならメイドとは口もきけないような高い身分なんだよ、アタシは。

 だから貴族とかかわる神官は『学園』を卒業して信用をつくる。ということはだ。逆に言えばクライドは、エリート神官の中でもとびっきりのエリートなのさ。たぶん父親は司祭クラスどころじゃすまないね。司教クラスの立場にいるだろう。

「まあ、頑張ってください。私たちの健康は、クライドさまのような神官にかかっているのですから」

 猫をかぶってアタシが言うと、クライドは頬を赤くして照れてた。いやいや、これがホントに、冗談じゃないんだよ。

 中世なみの文化レベルにもかかわらず、この世界の人類は平均寿命が70歳だ。理由は治癒術っていう魔法みたいなものがあるからさ。

 正式名称は『神聖治癒術』っていうんだけど、治癒術は中級レベルでも、たいていの傷をあっという間に治してしまう反則技さ。

 それでその治癒術を扱える医者みたいな存在が神官で、神官をたばねてる組織が教会だ。教会はたんなる宗教団体じゃないんだよ。というより、宗教色がやたら薄いんだ、この世界の教会は。

 700年前、ヴァイデンライヒって帝国をつくった高祖皇帝というひとがいる。標準語の普及、度量衡どりょうこうと通貨の統一とか、偉業はいろいろあるんだけど、アタシがいちばん感心したのは、宗教法をつくって宗教団体を規制したことさ。

 徳川家康の偉大さは、250年の平和を築いたことじゃなく、日本から宗教紛争をなくしたことだと思うんだよ。現代の日本人にはいまいちピンとこないだろうけど、日本だって400年くらい前までは、宗教団体が軍事力をもって戦争してたんだからね。ところが家康は、日本の宗教団体を、たんなる葬式屋にかえてしまった。

 そして高祖皇帝はこの世界で、家康と同じことをやったのさ。教会をたんなる病院に変えちまったってわけだ。おかげで教会の神官は、お医者さんくらいの社会的ステータスしかもってないんだよ。

 ちなみにこの世界の人間が、ゲルマン風の姓名をもっているのは、高祖皇帝が広めたからだっていわれている。色々合わせて考えると、高祖皇帝はアタシと同じ、転生者だったんじゃないかと思うんだけど━━まあ700年前の話だからね、確かめようがないさ。

 クライドを保健室まで送ったあと、アタシは自分の影に話しかけた。

「フリッツ、ちょっと妙だとは思わないかい?」

「妙、とは?」

 低く魅力的な声でフリッツが問い返してくる。どういう魔法で影に潜っているんだか知らないけど、姿が見えないどころか、その声すらもアタシにしか聞こえない。携帯電話がないこの世界じゃ、アタシはひとり言を繰り返すイタイやつだね。

「『学園』に入学してからまだ3時間も経っちゃいないんだよ?このままのペースでいくと、アタシゃ『学園』中の男前と知り合いになっちまうよ」

「はあ、男前ですか?」

 どうやらフリッツはピンとこない様子だ。コイツは妙に美醜にところがある。フリッツ自身、けっこう美形なんだけどね。

「ディートハルトにケヴィン、アルフォンスときて最後はクライドだ。全員が並外れた男前ってのはどういうワケだい?」

「…至急、裏影に調べさせましょう」

 なにか裏があるなら、それを調べるのが裏影の長であるフリッツの仕事だ。それがアタシに指摘されるまで気づかなかったんだから、ちょっとあわててるみたいだった。

 だけどアタシも焼きが回ったモンだよ。最後がクライドだと思ったんだが、それが最後じゃなかったんだよ。わずか15分後、アタシはこの日最後の美形と出会うことになる。

 魔道士、エルマー・フォン・シュレンドルフだ。

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