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第一話 異世界《ミッドガルニア》は突然に
01.始まりはいつも雨
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小降りの雨の中、若林日和(ワカバヤシ ヒヨリ)は両手に限度一杯ぎっしり詰まったビニール袋を持って、二つ結びのおさげ髪が上下とせわしなく揺れ動くほどに走っていた。
本日は日曜日。朝はお出かけにピッタリの快晴だったのに、昼過ぎてからは空模様が怪しくなり、曇天を割くように一筋の閃光が奔ると雷鳴が響いて、六月に相応しい生温い雨が降ってきたのだ。
出掛ける前に見た天気予報では、降水確率が十パーセントだったのにと恨めしく思う。
先月の十五歳の誕生日に買って貰ったよそ行きの洒落た服を着て、本土まで買い物へ来たのに雨で濡れてしまい、少し損した気持ちが心を覆ったが、ヒヨリは多種多様な食材や調味料が詰まっているビニール袋の中身を確認すると若干気が晴れた。
知り合いから買い物を頼まれ、その目的は成し遂げていたので、あとは帰るだけだ。
両手が塞がっているので傘をさせない。どこかで雨宿りをするべきだが、連絡船の出航時間が迫っていたのである。
ヒヨリの家は本土から連絡船で二十分ほどで着く離島(島名は飛芽島)で、県内で唯一の村となっている。つまり田舎なのだ。その為、船の便数も少ない。
なので逃してしまったら、次の便まで長時間待たなければいけなくなる。時間が長く感じる学生にとって重要な問題なのだ。
時折強い風が吹き抜けていくが、ヒヨリの駆け足は緩むことなく連絡船乗り場へ向かった。その結果、ずぶ濡れにはならず出航時間に余裕を持って到着した。
のだけど――
「え……。出航は、一時見合わせですか?」
「そうなんだよ、海が時化っているみたいでね。それで念の為に一時見合わせ中なんだよ」
乗船券売り場の職員が窓側に顔を向けると、ヒヨリも誘導される。
窓の外は雨は先ほどよりも強く降りだしており、広がる海は波飛沫が絶え間なく弾けている。その先にはヒヨリが暮らす飛芽島が霞んで見える。
しかし、沖合の方はそれほど荒れているように見えなかった。
「大丈夫なんじゃないですか?」
「今はそんな風に見えるかも知れないけど、時折強い風が吹いてきているからね。念の為だよ」
「そんな……。せっかく走ってきたのに……」
ヒヨリは乗船券売り場の窓口前で、へろへろと力無くその場に膝をついてしまった。
「待ち合い場のベンチにでも座って、ゆっくり待っていてください。出航できるようになりましたらアナウンスしますので」
職員は愛想よく笑い、慣れた素振りでベンチがある場所を指し示す。
そこには自分と同じ島出身者……見慣れた島民が数人いた。大半はベンチに座っては備え付けのテレビを見たり、部屋の隅にある古いゲーム機で遊んでいる大人と、それを観る子供が暇を潰していた。
ヒヨリはしょうがないと携帯電話(スマートフォン)を取り出し、帰宅時間が遅くなると母親にメールを送ろうとすると――
「おや、ヒヨリちゃんじゃないか。どうしたの、こんな所で?」
「あ、茂さん!」
声をかけてきたのは、漁業用ウェア――プロ仕様の雨合羽を着用している若い男性。近所に住む気の良いお兄さん―立花茂(二十九歳)―だった。といっても実の兄ではない。
茂は関東出身者で、三年前に定住支援制度でヒヨリの島に移住してきた他所の人だ。
「買い物で来ていたんですけど、時化で足止めされて……」
「ああ。それで、その大量の荷物な訳か」
ヒヨリの足元に置かれている二つのビニール袋に目がいく。
「そういう茂さんは?」
「ふふ、よくぞ訊いてくれました。ものはついでだ。凄く良いモノを見せてあげるから、ついてきなよ!」
茂は満面の笑みを浮かべては、わざわざ雨が降りしきる外へと出ていったのである。ヒヨリは首かしげつつも後を追いかけていく。もちろん荷物を忘れずに。
本日は日曜日。朝はお出かけにピッタリの快晴だったのに、昼過ぎてからは空模様が怪しくなり、曇天を割くように一筋の閃光が奔ると雷鳴が響いて、六月に相応しい生温い雨が降ってきたのだ。
出掛ける前に見た天気予報では、降水確率が十パーセントだったのにと恨めしく思う。
先月の十五歳の誕生日に買って貰ったよそ行きの洒落た服を着て、本土まで買い物へ来たのに雨で濡れてしまい、少し損した気持ちが心を覆ったが、ヒヨリは多種多様な食材や調味料が詰まっているビニール袋の中身を確認すると若干気が晴れた。
知り合いから買い物を頼まれ、その目的は成し遂げていたので、あとは帰るだけだ。
両手が塞がっているので傘をさせない。どこかで雨宿りをするべきだが、連絡船の出航時間が迫っていたのである。
ヒヨリの家は本土から連絡船で二十分ほどで着く離島(島名は飛芽島)で、県内で唯一の村となっている。つまり田舎なのだ。その為、船の便数も少ない。
なので逃してしまったら、次の便まで長時間待たなければいけなくなる。時間が長く感じる学生にとって重要な問題なのだ。
時折強い風が吹き抜けていくが、ヒヨリの駆け足は緩むことなく連絡船乗り場へ向かった。その結果、ずぶ濡れにはならず出航時間に余裕を持って到着した。
のだけど――
「え……。出航は、一時見合わせですか?」
「そうなんだよ、海が時化っているみたいでね。それで念の為に一時見合わせ中なんだよ」
乗船券売り場の職員が窓側に顔を向けると、ヒヨリも誘導される。
窓の外は雨は先ほどよりも強く降りだしており、広がる海は波飛沫が絶え間なく弾けている。その先にはヒヨリが暮らす飛芽島が霞んで見える。
しかし、沖合の方はそれほど荒れているように見えなかった。
「大丈夫なんじゃないですか?」
「今はそんな風に見えるかも知れないけど、時折強い風が吹いてきているからね。念の為だよ」
「そんな……。せっかく走ってきたのに……」
ヒヨリは乗船券売り場の窓口前で、へろへろと力無くその場に膝をついてしまった。
「待ち合い場のベンチにでも座って、ゆっくり待っていてください。出航できるようになりましたらアナウンスしますので」
職員は愛想よく笑い、慣れた素振りでベンチがある場所を指し示す。
そこには自分と同じ島出身者……見慣れた島民が数人いた。大半はベンチに座っては備え付けのテレビを見たり、部屋の隅にある古いゲーム機で遊んでいる大人と、それを観る子供が暇を潰していた。
ヒヨリはしょうがないと携帯電話(スマートフォン)を取り出し、帰宅時間が遅くなると母親にメールを送ろうとすると――
「おや、ヒヨリちゃんじゃないか。どうしたの、こんな所で?」
「あ、茂さん!」
声をかけてきたのは、漁業用ウェア――プロ仕様の雨合羽を着用している若い男性。近所に住む気の良いお兄さん―立花茂(二十九歳)―だった。といっても実の兄ではない。
茂は関東出身者で、三年前に定住支援制度でヒヨリの島に移住してきた他所の人だ。
「買い物で来ていたんですけど、時化で足止めされて……」
「ああ。それで、その大量の荷物な訳か」
ヒヨリの足元に置かれている二つのビニール袋に目がいく。
「そういう茂さんは?」
「ふふ、よくぞ訊いてくれました。ものはついでだ。凄く良いモノを見せてあげるから、ついてきなよ!」
茂は満面の笑みを浮かべては、わざわざ雨が降りしきる外へと出ていったのである。ヒヨリは首かしげつつも後を追いかけていく。もちろん荷物を忘れずに。
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