19 / 45
第四話 神聖アーステイム王国で夕食を
05.海宿
しおりを挟む
陽は沈み、辺りが暗くなるにつれて露店は店じまいを始めて、大通りが閑散しだした。
逆に宿場の窓から灯りと共に賑やかな声が漏れており、今日の出来事を肴に盛り上がっていた。
アーステイム王国の城下町の外れにある宿屋と酒場が兼業している「海原亭」は、ヨルムンガンド海賊団が常宿としている場所だった。
中年の夫婦と、大雑把ながらも明朗な看板娘(シャーリ)の三人で運営しており、王都にある宿屋にしては相場と比較して格安なこともあり、多くの旅人や駆け出し商人たちが利用していた。
その分、土壁にヒビが入っており、年期が入ったテーブルや椅子はガタがきていたが、客たちは我慢して使っていた。
ヴァイルは気兼ねなく入り口のバタ戸を押して入ると、酒場となっているスペースの奥でガウディたちヨルムンガンド海賊団が座しているのを見つけた。
「あ、ヴァイル様、いらっしゃい。お連れ様はあちらにいらっしゃいますよ」
この海原亭の主人が声をかけた。
「ああ」と軽く挨拶をして、指定席となっている中央の空いている椅子へと座る前で、足を止めた。
テーブルの上に料理が並べられていないことより、ヒヨリの姿が無かったことに心がざわついた。
「ヒヨリはどうした?」
「ヴァイル様の為に、厨房に居ますよ」
ラトフが含み笑みで答え、親指で厨房の場所を指した。
「そ、そうか」
ヒヨリが自分の元から去っていないと安息して、席に着く。
「それでセシル様と何と?」
「ああ、シュイットは暫くウチで預かることになった」
一同は特に驚きもせず、率先してガウディが訊ねる。
「やっぱりですか。それでいつまで?」
「ダーグバッドの首を挙げるまでだ」
その言葉に先ほどとは打って変わって一同はざわつき、渋い顔を浮かべた。
「ダーグバッドと!? これまたセシル様は面倒臭い要求を……」
「仕方ない。シュイットがあいつら(ダーグバッド)に捕まったのが悪い。まあ、そろそろ俺たちの手であいつらを片付けないと思っていところだし、ちょうど良い。てっことだ、覚悟は良いか?」
「シュイット様救出で、既に宣戦布告をしているようなものですよ。大丈夫です。今度こそヴァーン国の恥さらしを討たないとですね」
ガウディたちの目つきは、今から戦闘を開始しても良いほどギラついていた。
少数精鋭で、各々の戦闘力に信頼している。先の一戦でも戦っても良かったが、あの時は人質(シュイット)が居たから本格的な戦争ができなかった。
今度、海上で遭遇した時は、遠慮無く叩くつもりだ。
「よし、シュイットの件はここまでだ。それでガウディ、報奨金の方は?」
ガウディは三つの袋をテーブルに置いた。
「セール金貨305枚、ドロイア銀貨421枚、ヘク銅貨553枚でした」
「……また減ったみたいだな」
ガンダリア帝国船の撃退数や取り返した略奪品の内容によって報奨金が変動する。ヴァイルたちはヒヨリと出会う前にも三隻の帝国船を襲撃しており、船を沈めたり積み荷を奪い返していた。
危険な仕事なので見返りも大きいのだが、年々報奨金の額が下がっていたのであった。
普通に露店で物を売ったり、貿易するよりは大きな収入ではあるが、ヴァイルたちにとって自分たち以外の食い扶持を稼がなければならなかった。
「ええ、ガンダリアとの警戒などの軍備の出費が大きく、こちらの報奨額が下げられているらしいのです」
「それは、しょうがないが……。こっちも暮らしがあるからな……」
「セシル様には、このことは?」
「その話しはしていない。たださえ、ウチの特異の出のお陰で他の私掠海賊たちから変なやっかみを付けられたくないし、特別扱いは出来ないだろうしな」
「先のシュイット様救出の件で、それ相応の褒美が頂けたのでは?」
「あー……まあ……。それは、ダーグバッドが片付いてからだな」
対価としてヒヨリの故郷探しを依頼したとは、大っぴらには言えなかった。
ラトフはヴァイルの曖昧な態度に、何を話してきたのか……「きっと、あのお嬢様(ヒヨリ)のことだろう」と察した。
「ところで、ヴァイル様。ヒヨリ様のことですが、あの方は只者ではありませんね。ちゃんとした教育を受けているようです。さらっと計算をして答えてみたり、あと、場を取り仕切り判断力と豪胆さ。俺が言うのもアレですが、海賊の嫁に相応しいですよ」
露店での買い物での一件。この世界では異彩だった。
学校といった教育機関はあるにはあるが、いわゆる大学というもので、貴族や裕福な者たちしか通えなかった。庶民は生活の中(親や知り合いに教えられる程度)から学ぶしかなく、全体的に教育レベルが低いのだ。学力は読み書きが出来る程度で、暗算といった計算が出来る者は限られていた。
「まあ、逆に読み書きは不慣れ……というよりまったく知らない様子でしたので、やっぱり記憶を喪失しているから……という理由では無い感じでしたけどね」
この世界の文字は、アルファベットのような書体であるが、当然ヒヨリが読めるものではなかった。
「さあな。ヒヨリの出自に興味は無い。ただ、あいつが俺の側に居てくれるだけで良い」
「そうですか……」
いきなり嫁に迎え入れようとしているのだ、今さらヒヨリが何者かはあまり関係ない。
「で、ヒヨリはまだなのか? 厨房で何をしているんだ?」
「決まっているでしょう。美味い飯を作っているんですよ。多分、そろそろ出来上がるかと」
ラトフの視線に誘導されるように厨房へと繋がる入り口があるカウンターの方へと首を向けた。
逆に宿場の窓から灯りと共に賑やかな声が漏れており、今日の出来事を肴に盛り上がっていた。
アーステイム王国の城下町の外れにある宿屋と酒場が兼業している「海原亭」は、ヨルムンガンド海賊団が常宿としている場所だった。
中年の夫婦と、大雑把ながらも明朗な看板娘(シャーリ)の三人で運営しており、王都にある宿屋にしては相場と比較して格安なこともあり、多くの旅人や駆け出し商人たちが利用していた。
その分、土壁にヒビが入っており、年期が入ったテーブルや椅子はガタがきていたが、客たちは我慢して使っていた。
ヴァイルは気兼ねなく入り口のバタ戸を押して入ると、酒場となっているスペースの奥でガウディたちヨルムンガンド海賊団が座しているのを見つけた。
「あ、ヴァイル様、いらっしゃい。お連れ様はあちらにいらっしゃいますよ」
この海原亭の主人が声をかけた。
「ああ」と軽く挨拶をして、指定席となっている中央の空いている椅子へと座る前で、足を止めた。
テーブルの上に料理が並べられていないことより、ヒヨリの姿が無かったことに心がざわついた。
「ヒヨリはどうした?」
「ヴァイル様の為に、厨房に居ますよ」
ラトフが含み笑みで答え、親指で厨房の場所を指した。
「そ、そうか」
ヒヨリが自分の元から去っていないと安息して、席に着く。
「それでセシル様と何と?」
「ああ、シュイットは暫くウチで預かることになった」
一同は特に驚きもせず、率先してガウディが訊ねる。
「やっぱりですか。それでいつまで?」
「ダーグバッドの首を挙げるまでだ」
その言葉に先ほどとは打って変わって一同はざわつき、渋い顔を浮かべた。
「ダーグバッドと!? これまたセシル様は面倒臭い要求を……」
「仕方ない。シュイットがあいつら(ダーグバッド)に捕まったのが悪い。まあ、そろそろ俺たちの手であいつらを片付けないと思っていところだし、ちょうど良い。てっことだ、覚悟は良いか?」
「シュイット様救出で、既に宣戦布告をしているようなものですよ。大丈夫です。今度こそヴァーン国の恥さらしを討たないとですね」
ガウディたちの目つきは、今から戦闘を開始しても良いほどギラついていた。
少数精鋭で、各々の戦闘力に信頼している。先の一戦でも戦っても良かったが、あの時は人質(シュイット)が居たから本格的な戦争ができなかった。
今度、海上で遭遇した時は、遠慮無く叩くつもりだ。
「よし、シュイットの件はここまでだ。それでガウディ、報奨金の方は?」
ガウディは三つの袋をテーブルに置いた。
「セール金貨305枚、ドロイア銀貨421枚、ヘク銅貨553枚でした」
「……また減ったみたいだな」
ガンダリア帝国船の撃退数や取り返した略奪品の内容によって報奨金が変動する。ヴァイルたちはヒヨリと出会う前にも三隻の帝国船を襲撃しており、船を沈めたり積み荷を奪い返していた。
危険な仕事なので見返りも大きいのだが、年々報奨金の額が下がっていたのであった。
普通に露店で物を売ったり、貿易するよりは大きな収入ではあるが、ヴァイルたちにとって自分たち以外の食い扶持を稼がなければならなかった。
「ええ、ガンダリアとの警戒などの軍備の出費が大きく、こちらの報奨額が下げられているらしいのです」
「それは、しょうがないが……。こっちも暮らしがあるからな……」
「セシル様には、このことは?」
「その話しはしていない。たださえ、ウチの特異の出のお陰で他の私掠海賊たちから変なやっかみを付けられたくないし、特別扱いは出来ないだろうしな」
「先のシュイット様救出の件で、それ相応の褒美が頂けたのでは?」
「あー……まあ……。それは、ダーグバッドが片付いてからだな」
対価としてヒヨリの故郷探しを依頼したとは、大っぴらには言えなかった。
ラトフはヴァイルの曖昧な態度に、何を話してきたのか……「きっと、あのお嬢様(ヒヨリ)のことだろう」と察した。
「ところで、ヴァイル様。ヒヨリ様のことですが、あの方は只者ではありませんね。ちゃんとした教育を受けているようです。さらっと計算をして答えてみたり、あと、場を取り仕切り判断力と豪胆さ。俺が言うのもアレですが、海賊の嫁に相応しいですよ」
露店での買い物での一件。この世界では異彩だった。
学校といった教育機関はあるにはあるが、いわゆる大学というもので、貴族や裕福な者たちしか通えなかった。庶民は生活の中(親や知り合いに教えられる程度)から学ぶしかなく、全体的に教育レベルが低いのだ。学力は読み書きが出来る程度で、暗算といった計算が出来る者は限られていた。
「まあ、逆に読み書きは不慣れ……というよりまったく知らない様子でしたので、やっぱり記憶を喪失しているから……という理由では無い感じでしたけどね」
この世界の文字は、アルファベットのような書体であるが、当然ヒヨリが読めるものではなかった。
「さあな。ヒヨリの出自に興味は無い。ただ、あいつが俺の側に居てくれるだけで良い」
「そうですか……」
いきなり嫁に迎え入れようとしているのだ、今さらヒヨリが何者かはあまり関係ない。
「で、ヒヨリはまだなのか? 厨房で何をしているんだ?」
「決まっているでしょう。美味い飯を作っているんですよ。多分、そろそろ出来上がるかと」
ラトフの視線に誘導されるように厨房へと繋がる入り口があるカウンターの方へと首を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる