花嫁日和は異世界にて

和本明子

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第六話 妖精の女王《クローリアーナ》

05.That's The Way It Is

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 クローリアーナは、ヒヨリとヴァイルだけをその場に残して、残りの者たちを離れさせた。

 離れた場所でラトフが聞き耳を立てていたが、不自然な風で話し声がかき消さられてしまい、よく聞こえず口を尖らしていると、

「無粋の真似は寄せ、ラトフ」

 ガウディに咎められた。

「サリサ様にお伝えしないといけないんですけどね」

「それは理解しているが……謁見なのだ。わきまえろ」

「それもそうですね。しかし、何を話しているのやら」

 ガウディとラトフ、そしてシュイットはヴァイルたちを見守るように遠くから様子を伺った。

 ヒヨリたちはクローリアーナから食後のお茶……ハーブティーを振る舞われた。お茶から漂う香気は千代から内緒で飲まさせて貰った高級紅茶に匹敵するもので、その味も一口を飲むだけで草原を駆け抜ける風の如く爽快な味が広がる。

 ヒヨリはお茶の風味に恍惚し、このままティータイムをまったりと楽しみたいが本題……元の世界に戻れる方法についてを求めるように「あの、クローリアーナ様」と、おそるおそると声をかけた。

 優雅にお茶を飲み終えて、クローリアーナが話し始める。

「ふむ。さて、さっきもお主(ヒヨリ)に言ったが、ヒヨリはこの世界(ミッドガルニア)とは別の世界からやってきた者だ」


――ヒヨリはこの世界の者ではない――


 その言葉にヴァイルは平然としていた。

 これまでのやり取りやサリサからの話しで、ヒヨリが普通の者ではないと察していたし、そもそも異世界の者だからという偏見はなかったからだ。

「先ほどのお主から話しを聞いた限りでは、船の事故に遭い、“何か”に海底へと引きずり込まれたと。それが事実ならば、別世界から転移させるほど至大な魔力を持つ者の仕業や変事に巻き込まれたのだと考えられるのう」

「至大な魔力?」とヒヨリが言った。

「この世界の住人は魔力を宿しており、その魔力を操り万物に干渉を与えられる者がいる。つまり魔法を扱える者たちのことだ。わらわのような妖精(フェーリ)族や人間(ヒューマ)でも一部の特異な者たちも扱えたりする。ただ、異界の者を転移させるほどの魔力となると、よほどのことだ。わらわですら、この森を迷いの森に変えたりするのがやっとだからのう」

 それでも充分凄いのではと、ヒヨリは胸中で呟く。

 道を逸れただけでも彷徨ってしまう不可思議な事象原因は、クローリアーナの魔法によるものだった。巨大樹(ユグドラシル)は女王の城でもあるが、人間の城と違って城壁などの人工物は存在しない。魔法でセキュリティを高めているのだ。

「それで誰がヒヨリをこの世界に?」

 ヒヨリが異世界から転移されたという言うのなら、当然浮かぶ疑問がヴァイルから出た。

「それはわらわにも解らん。解ることは至大な魔力を持つ者の仕業か、ただの神の気まぐれ……偶然の変事に紛れ込まれたかだ」

 何かしらの力で異世界(ミッドガルニア)に転移されたのなら、

「それじゃ私を元の世界……地球に戻る方法はあったりしますか? クローリアーナ様が魔法とかで私を地球に戻したりできますか?」

「この世界に転移したのなら、逆も然り。至大な魔力を持つ者。それに匹敵する神秘なる力を使用して、チキュウに転移すれば良い。そうじゃな、ファムファタールと呼ばれる魔女に頼むのも一つの方法だな」

「ふぁむ、ふぁたーる?」

 その名にヒヨリは首を傾げるが、ヴァイルは怪訝な表情を浮かべていた。

「ファムファタールは魔法の扱いに長けている知恵者で、痴れ者だ。もしかしたら、お主を元の世界を戻せるかも知れない」

 痴れ者という不吉な言葉に気になったが、重要なのは元の世界に戻れるかどうか。

「本当ですか! そのファムなんとかさんにお願いすれば。その人は、今何処にいるんですか?」

「あやつは、わらわ以上に気まぐれ屋だからのう。定住している場所は無く、世界中を飛び回っておる。今何処にいるかは誰も解らん。前にここに訪れたことがあったが、その時は三年前だったかのう。まさしく風だけがあやつの場所を知っているよ」

「そんな……」

 今すぐにでも逢って地球に戻れるかを確認したかったが、所在不明ならばどうしようもない。
 すがるように期待するように、ヴァイルを見ると……ここでヴァイルがの渋い表情しているのに気付いた。

「ど、どうしたの?」

「……ファムファタールは、『災厄の魔女』とも『安寧の巫女』とも呼ばれているんだ。その名の通り、災いをもたらす者として忌み嫌われていたり、またある時は困窮した者に救いの手を差し伸べて恵みをもたらすとも知られている」

「悪い人なの? 良い人なの?」

 矛盾した評判に混乱してしまう。

「それが解らないから質(タチ)が悪いんだよ」

「……でも、私を地球に戻してくれる可能性があるんだよね。だったら、なんとしてでも会わないと」

 ヒヨリの嘆願は適当だ。しかし、あのファムファタールを探すだけなら、まだしもこちらの願いを叶えてくれるのか定かではない。

 ヴァイル自身もファムファタールの噂しか知らない。だが良い噂よりも悪い噂の方をよく耳にしていたのが気がかりだった。

「クローリアーナ様、ファムファタールに頼む以外の方法はございますか?」

「そうね。それ以外の方法となると今考えられるとしたら、九偉神の宝を全てを集めて願いを叶えることかしらね」

「九偉神の宝、か……」

 時々耳にしていた―九偉神―という言葉。改めてヒヨリが訊ねる。

「ねえねえ、ヴァイル。九偉神ってなんのことなの?」

「九偉神は……この世界(ミッドガルニア)には、アスルド神やヴァナイム神といった九柱の神が祀らわれている。その神たちが所持していた武具が存在しており、神具または宝具とも呼ばれている。その内の一つがシュイットのカールスナウトだ」

「神具……だから、シュイットはあの小剣(カールスナウト)を大切に持っているのね」

「ああ、国宝以上に神具な訳だからな。それで、その九偉神の宝を全てを集めると、どんな願いを叶えてくれるという伝説はあるが……お伽話だと思っていたが」

 ヴァイルは真相を確認するようにクローリアーナに視線を向けた。

「本当のことよ。わらわが知る限りでは過去二回ほどあるわ。全ての宝を集めて、願いを叶えられたことが」

 ヴァイルたちに衝撃が奔る。
 妖精の女王・クローリアーナは何百年も生きていると云われている。つまり生き字引であり、お伽話のような話しが事実だと信ぴょう性が高い。

「その神具は今に何処にあるの?」

 ヒヨリが訊ねると、クローリアーナが答える。

「ヴァイルも知っていると思うが。現在所在が判明している神具は四つ。アーステイム王国に二つ、ガンダリア国に一つ、そして我がアルフニルブ国に一つ。ヴァーン国にも有ったが、先の戦で紛失したらしいのう。つまり残り五つは、何処に在るかは不明なのだ。きっと何処かの国が所持しているのを隠蔽しているか、または深い洞窟の奥底に眠っているのかもしれない」

 それらを集めるということは途方もないことだった。
 だが――
 ヒヨリを見たら、ヴァイルは自分が成すべき意志が滾(たぎ)る。

「クローリアーナ様、貴国の神具をお貸し頂くことは可能ですか?」

「ふふ、そういうと思った。国の宝であり、神具だからのう。知己であるサリサの弟君でも過分の頼みだと理解しているだろう?」

「それでもです」

「気持ちは察する。ヒヨリの気持ちもな。そうさな。残り8つの神具を集めたのなら、貸与するのも考慮しても良い」

「本当ですね?」

「ああ」

 ヴァイルは僅かに口の端を上げた。僅かながらも神具を貸与して貰える可能性が生まれたからだ。

「とはいえ、神具を集めるよりもファムファタールを捜した方が簡捷(かんしょう)なのではないのかのう?」

「もちろんファムファタール捜しもしますが、ヒヨリの為に出来ることの全てをしておきたいのです」

 ヴァイルの熱い思いが伝わってきて、ヒヨリの頬が赤く染まってしまう。
 それはクローリアーナも感じ取っていた。

「あい、解った。ファムファタール捜しの方も我が国でも協力してやろう」

「本当ですか!?」

「異邦の料理を馳走になったからのう。その返礼でもある」

「感謝いたします。クローリアーナ様」とヴァイルが一礼すると、「ありがとうございます!」とヒヨリも深々と頭を下げたのであった。

「しかし……ヴァイル。良いのか?」

「何がです?」

 クローリアーナはちらりとヒヨリの方を向き、改めて口を開く。

「サリサの手紙で、その娘(ヒヨリ)を嫁にしたいのだろう?」

「はい」と、率直に肯定するヴァイル。

「ヒヨリは異世界の者。もし元の世界に戻れたとしたら、お前の元から居なくなるのではないか?」

 クローリアーナの指摘に、ヒヨリの心臓がドキッと跳ね上がってしまった。

 もし地球に戻れるとしたらヴァイルから求婚を逃れると企ていたので、まるで隠していた非行がバレたような後ろめたさ。それとヴァイルから嫌忌されたくない感情が心に乗っかってくる。

 ヴァイルは立腹する気配を微塵も感じさせず、落ち着き払い答える。

「……約束しましたから。ヒヨリの国を見つけて連れていくと。主神アルファズルと九偉神の名に誓ったからではなく、俺の信を通したいからです」

 ヴァイルの真意と決意が篭った言葉に、クローリアーナは優しく微笑んだ。

 それとは反対にヒヨリは蒼白し、針で心臓をチクチクと刺されるような痛みを感じていた。

 地球に戻れる方法が在ると判明し微かに光明が見えたのだが、その希望がヒヨリの気持ちに影を落としてしまっていた。
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