3 / 25
002
しおりを挟む
「それじゃ、自分の名前と生年月日、年齢。それと通っている学校とクラスを教えてください」
「私の名前は藤宮真子(ふじみやまこ)。二〇二二年七月四日生まれ、十四歳。伊河市立中央中学校の三年二組です」
真子は、目覚めたばかりの病室で、医師の質問に答えていた。
白衣の左胸には『木戸』という名札がついている。ここは伊河総合病院。市内でも一、二を争う規模の大きな病院だ。病室には、医師の木戸、女性看護士の横峰、それに駆けつけてくれた母・美由(みゆ)がいた。
時間が経つにつれ、体は自然に動くようになり、声も出せるようになった。意識もはっきりしてきたので、こうして簡単な検査を受けているわけだ。
木戸は眼鏡をかけ、鼻下には白髪交じりの髭を蓄えた中年男性。電子端末のタッチペンの尻で、真子の額をコツコツとつつきながら、質問を続けた。一方、横峰は真子の返答を手早く端末に打ち込んでいく。
「ふむ。それじゃ、好きな食べ物は?」
「えっと……宝来軒のラーメンです」
「そうなんですか。お母さん?」
木戸が真子の背後に立つ母に顔を向けた。
「ええ、はい。この子、宝来軒が大好きなんです」
美由が笑顔で答え、木戸は真子に視線を戻した。
「宝来軒って、どこにありますか?」
「伊河駅から、歩いて十分くらいのところです」
「何か、目印になるものは?」
「えーと……隣に二階建ての駐車場があります。いつもそこに停めてから食べに行ってます」
再び木戸が美由に確認をとると、美由も「はい、そうです」と頷いた。
「ふむ。簡単な診断ではあるけど、意識も記憶も問題なさそうですね。ただ――本当に覚えてないんですか?」
「はい……。私、どうしてここにいるんですか?」
自分の名前や年齢などはわかっているが、なぜ病院にいるのか、その理由が全く思い出せない。
「えっと、もう三日前になるのかな?」
木戸は横峰を見た。横峰は「はい、三日前です」と頷き、端末を操作しながら代わりに説明を始めた。
「藤宮真子さんがこちらに運ばれたのは、六月三日。午後九時二十三分、お母さんの美由さんが緊急通報。駆けつけた救急隊員が、大量出血で意識を失っていた真子さんを発見し、そのまま緊急搬送、入院となりました」
その説明に、真子は目を丸くした。
「大量出血? 私が!?」
思わず声が上ずる。美由がそっと真子の肩に手を置き、付け加えた。
「そうよ、真子ちゃん。お風呂に入りなさいって呼びに行ったら、部屋で血だらけになって倒れてたの。お母さん、本当にパニックになったのよ」
「な、なんで……血なんて……?」
真子の問いに、美由は困ったような顔を見せた。
真子は急いで自分の体を確かめたが、痛みもなければ、怪我らしい場所もない。そんな様子を見た木戸が口を開く。
「ああ、大丈夫。体に怪我はありません。傷もまったくないですよ」
「じゃあ、どうして大量出血を……?」
室内が一瞬、気まずい沈黙に包まれる。やはり、ここは木戸が説明するしかない空気だった。
観念したように、木戸が口を開いた。
「結論から言えば――鼻血です」
「えっ……?」
「藤宮さんは、鼻血を大量に出して倒れていたんですよ」
あまりに間の抜けた理由に、横峰と美由は思わずクスリと笑った。
「えぇぇぇぇえっっっ!? は、鼻血で!?」
思わず声を張り上げる。花も恥じらう年頃なのに、情けない理由に、怒りと恥ずかしさがないまぜになった。
「まぁまぁ。鼻血でも、大量に出すと貧血で倒れることはありますから」
木戸は軽く笑いながらも、すぐに真顔に戻った。
「ただ……今回、藤宮さんは鼻血を出す直前までパーソナルデバイスを使ってネットをしていたそうですね? お母さん?」
「はい、そうですが……それが何か?」
「今回、私たちが一番危惧したのは、鼻血ではなく“バーチャル症候群”の方です」
【バーチャル症候群】
コンピューター(電子情報端末機)を長時間使用することで発症する症状。めまい、吐き気、意識喪失、記憶障害、精神異常を引き起こす可能性があり、最悪の場合、突然死の事例も報告されている。
もとは長時間バーチャルゲームをしていた人に多発していたが、今ではゲームに限らず、長時間端末を操作するだけで発症することが判明している。
美由はニュースでこの症候群の危険性を知っており、真子にも注意していた。だが現代っ子にとって、端末はもはや生活必需品。四六時中いじってしまうのは避けられない。
「それで先生……真子は、大丈夫なんでしょうか?」
美由が不安そうに訊いた。
「ええ。今の診断や検査結果を見る限り、心配ありません。意識もはっきりしていますし、質問にも的確に答えられている。それに――夢を見ていたんですよね」
「夢?」
診断の質問の内容の一つに『寝ている間に夢を見たか?』という項目があった。真子はあの真っ白な夢‥‥猫に会ったという夢を見たことを話していた。
木戸は続けた。
「バーチャル症候群を発症した患者は、夢をまったく見なくなる傾向があります。でも、藤宮さんは夢を見た、と言っている。なら、重篤な症状はないと見ていいでしょう」
初めて聞く判断基準だったが、美由はほっと胸を撫で下ろした。
「ただ、倒れた時の記憶が無いことや、三日間の昏睡状態は少し気になります。念のため、明日、精密検査をしておきましょう」
「はい、お願いします」
美由が即答した。木戸は古びた腕時計をちらりと見て、言った。
「もう七時を過ぎていますからね。横峰君、MRIなどの使用予約を頼みます」
「はい、わかりました」
横峰が端末で手早く手配する。
一通りの診断が終わったところで、木戸が真子に声をかけた。
「さて、藤宮さん。何か質問は?」
「えっと……」
ここがどこなのか、なぜここにいるのか――疑問はほとんど解消していた。特にないです」と答えようとしたとき、ふと思い出す。
「そうだ。ここって……猫とか飼ってるんですか?」
「「猫?」」
木戸、横峰、そして美由までもが驚いた声をあげた。
「私、目を覚ました時、お腹に猫が乗ってた気がするんです」
突飛な話に、木戸は顎に手をあてながら考え込んだ。
「いや、病院だからね。猫は飼っていないよ……。そういえば、夢に猫が出てきたんだよね?」
「あ、はい」
「だったら、寝ぼけていたんじゃないかな」
夢と現実がごっちゃになった結果、そう感じたのかもしれない。木戸の言葉に、真子も「そうかも」と頷く。
ただ、ひとつだけ――横峰が端末を操作するたびに、微かに体に伝わる振動が気になったが、これも気のせいだろうと自分に言い聞かせた。
三日ぶりに目覚めた体は、まだ少し重かった。
本日の診断は、ここで終了となった。
「私の名前は藤宮真子(ふじみやまこ)。二〇二二年七月四日生まれ、十四歳。伊河市立中央中学校の三年二組です」
真子は、目覚めたばかりの病室で、医師の質問に答えていた。
白衣の左胸には『木戸』という名札がついている。ここは伊河総合病院。市内でも一、二を争う規模の大きな病院だ。病室には、医師の木戸、女性看護士の横峰、それに駆けつけてくれた母・美由(みゆ)がいた。
時間が経つにつれ、体は自然に動くようになり、声も出せるようになった。意識もはっきりしてきたので、こうして簡単な検査を受けているわけだ。
木戸は眼鏡をかけ、鼻下には白髪交じりの髭を蓄えた中年男性。電子端末のタッチペンの尻で、真子の額をコツコツとつつきながら、質問を続けた。一方、横峰は真子の返答を手早く端末に打ち込んでいく。
「ふむ。それじゃ、好きな食べ物は?」
「えっと……宝来軒のラーメンです」
「そうなんですか。お母さん?」
木戸が真子の背後に立つ母に顔を向けた。
「ええ、はい。この子、宝来軒が大好きなんです」
美由が笑顔で答え、木戸は真子に視線を戻した。
「宝来軒って、どこにありますか?」
「伊河駅から、歩いて十分くらいのところです」
「何か、目印になるものは?」
「えーと……隣に二階建ての駐車場があります。いつもそこに停めてから食べに行ってます」
再び木戸が美由に確認をとると、美由も「はい、そうです」と頷いた。
「ふむ。簡単な診断ではあるけど、意識も記憶も問題なさそうですね。ただ――本当に覚えてないんですか?」
「はい……。私、どうしてここにいるんですか?」
自分の名前や年齢などはわかっているが、なぜ病院にいるのか、その理由が全く思い出せない。
「えっと、もう三日前になるのかな?」
木戸は横峰を見た。横峰は「はい、三日前です」と頷き、端末を操作しながら代わりに説明を始めた。
「藤宮真子さんがこちらに運ばれたのは、六月三日。午後九時二十三分、お母さんの美由さんが緊急通報。駆けつけた救急隊員が、大量出血で意識を失っていた真子さんを発見し、そのまま緊急搬送、入院となりました」
その説明に、真子は目を丸くした。
「大量出血? 私が!?」
思わず声が上ずる。美由がそっと真子の肩に手を置き、付け加えた。
「そうよ、真子ちゃん。お風呂に入りなさいって呼びに行ったら、部屋で血だらけになって倒れてたの。お母さん、本当にパニックになったのよ」
「な、なんで……血なんて……?」
真子の問いに、美由は困ったような顔を見せた。
真子は急いで自分の体を確かめたが、痛みもなければ、怪我らしい場所もない。そんな様子を見た木戸が口を開く。
「ああ、大丈夫。体に怪我はありません。傷もまったくないですよ」
「じゃあ、どうして大量出血を……?」
室内が一瞬、気まずい沈黙に包まれる。やはり、ここは木戸が説明するしかない空気だった。
観念したように、木戸が口を開いた。
「結論から言えば――鼻血です」
「えっ……?」
「藤宮さんは、鼻血を大量に出して倒れていたんですよ」
あまりに間の抜けた理由に、横峰と美由は思わずクスリと笑った。
「えぇぇぇぇえっっっ!? は、鼻血で!?」
思わず声を張り上げる。花も恥じらう年頃なのに、情けない理由に、怒りと恥ずかしさがないまぜになった。
「まぁまぁ。鼻血でも、大量に出すと貧血で倒れることはありますから」
木戸は軽く笑いながらも、すぐに真顔に戻った。
「ただ……今回、藤宮さんは鼻血を出す直前までパーソナルデバイスを使ってネットをしていたそうですね? お母さん?」
「はい、そうですが……それが何か?」
「今回、私たちが一番危惧したのは、鼻血ではなく“バーチャル症候群”の方です」
【バーチャル症候群】
コンピューター(電子情報端末機)を長時間使用することで発症する症状。めまい、吐き気、意識喪失、記憶障害、精神異常を引き起こす可能性があり、最悪の場合、突然死の事例も報告されている。
もとは長時間バーチャルゲームをしていた人に多発していたが、今ではゲームに限らず、長時間端末を操作するだけで発症することが判明している。
美由はニュースでこの症候群の危険性を知っており、真子にも注意していた。だが現代っ子にとって、端末はもはや生活必需品。四六時中いじってしまうのは避けられない。
「それで先生……真子は、大丈夫なんでしょうか?」
美由が不安そうに訊いた。
「ええ。今の診断や検査結果を見る限り、心配ありません。意識もはっきりしていますし、質問にも的確に答えられている。それに――夢を見ていたんですよね」
「夢?」
診断の質問の内容の一つに『寝ている間に夢を見たか?』という項目があった。真子はあの真っ白な夢‥‥猫に会ったという夢を見たことを話していた。
木戸は続けた。
「バーチャル症候群を発症した患者は、夢をまったく見なくなる傾向があります。でも、藤宮さんは夢を見た、と言っている。なら、重篤な症状はないと見ていいでしょう」
初めて聞く判断基準だったが、美由はほっと胸を撫で下ろした。
「ただ、倒れた時の記憶が無いことや、三日間の昏睡状態は少し気になります。念のため、明日、精密検査をしておきましょう」
「はい、お願いします」
美由が即答した。木戸は古びた腕時計をちらりと見て、言った。
「もう七時を過ぎていますからね。横峰君、MRIなどの使用予約を頼みます」
「はい、わかりました」
横峰が端末で手早く手配する。
一通りの診断が終わったところで、木戸が真子に声をかけた。
「さて、藤宮さん。何か質問は?」
「えっと……」
ここがどこなのか、なぜここにいるのか――疑問はほとんど解消していた。特にないです」と答えようとしたとき、ふと思い出す。
「そうだ。ここって……猫とか飼ってるんですか?」
「「猫?」」
木戸、横峰、そして美由までもが驚いた声をあげた。
「私、目を覚ました時、お腹に猫が乗ってた気がするんです」
突飛な話に、木戸は顎に手をあてながら考え込んだ。
「いや、病院だからね。猫は飼っていないよ……。そういえば、夢に猫が出てきたんだよね?」
「あ、はい」
「だったら、寝ぼけていたんじゃないかな」
夢と現実がごっちゃになった結果、そう感じたのかもしれない。木戸の言葉に、真子も「そうかも」と頷く。
ただ、ひとつだけ――横峰が端末を操作するたびに、微かに体に伝わる振動が気になったが、これも気のせいだろうと自分に言い聞かせた。
三日ぶりに目覚めた体は、まだ少し重かった。
本日の診断は、ここで終了となった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
