ネコタマ-NEO-

和本明子

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 真子は、母・美由が運転する車の後部座席で、げんなりとした顔を浮かべながら座っていた。
 決して車酔いしたわけではない。

 本当の原因は──。

 隣に堂々と横たわる銀色の毛並みを持つ猫、“ギン”の存在だった。
 それも、ただの猫ではない。
 この猫は、真子にしか見えない。母にも、道行く人にも、誰の目にも映っていないのだ。

 自称──“電脳生命体”。

(なんで、付いてきてるわけ?)

 心の中でつぶやくだけで、ギンには伝わる。それがもう、気味悪さを通り越して鬱陶しい。

『仕方なかろう。わしとお主は、こうして繋がってしまったのだからな。離れたくとも、離れられぬ』

 ギンは寝そべったまま、尻尾をひょいと動かしてみせる。

 見ると、その銀色の尻尾が──真子のお尻、ちょうど尾てい骨あたりに、しっかりと繋がっていた。
 どんなに引っ張っても取れない。ちぎれない。
 感触こそないが、確かな“繋がり”がそこにあった。

(いやいやいやいや、何コレ‥‥)

 真子は思わず、両手で尻尾を掴んだままブルブルと震えた。

(これ、本当にヤバいやつじゃないの? 病院戻った方がいいんじゃ──)

『うむ。わしも、この状況については、どう説明したものか悩ましいところだ』

(アンタが悩んでどうするのよ!!)

 思わず、心の中で叫んでしまった。

(ていうか‥‥“電脳生命体”ってなんなの?)

『らしいな。まあ、その名称も、人間たちが勝手に付けたものだが』

 ギンは他人事のように言い、尻尾をふにゃりと揺らした。
 まるで自分の存在すら、興味がないような無頓着さだ。

(じゃあ、電脳生命体が、どうして私の身体に繋がってるの?)

『知らぬ。気付けば、こうなっておった』

 そっけない答え。
 真子はうなだれた。いやもう、何この理不尽。

 どうにかして尻尾を外そうと引っ張ったり、振り回したりしてみたが、ビクともしない。
 傍から見れば、車の中で謎のダンスをしている不審者だ。

 運転席では、母の美由がバックミラー越しにチラチラと真子を見ていた。

「ねえ、真子ちゃん‥‥。本当に退院して大丈夫だったの? まだ調子悪いんじゃない?」

「う、うん! 平気だよ! すっごく元気だし、大丈夫だから!」

 真子は必死に作り笑いを浮かべた。
 検査では異常なしと言われた。誰にもギンは見えない。
 だから、これ以上大事にはしたくなかった。
 ただでさえ、これ以上病院に長居したら、精神科に回されかねない。

(それは絶対イヤ!!)

 心の中で叫びながら、必死に平静を装った。

「‥‥そう? でも、さっきから、変な動きしてるように見えるけど」

「き、気のせい気のせい! ほら、ちょっと運動不足だから、こうやって体を動かしているなだけだから」

 笑顔を引きつらせながら、真子は勢いよく答えた。
 そんな娘を見て、美由は不安そうな顔を浮かべる。

「そうだ、真子ちゃん! 久しぶりに、宝来軒のラーメン食べに行かない?」

 美由が思いついたように言った。

 その瞬間──。

「えっ、本当に!? 行く行くっ!」

 真子の顔がパァッと明るくなった。
 ギンの存在も、尻尾の異常も、今この瞬間だけは頭から吹っ飛んだ。

(‥‥ラーメンは正義‥‥)

 真子は心の中で密かに呟いた。
 すべての悩みを、あの熱々のスープとモチモチの麺が一時的にでも忘れさせてくれる。
 そう信じていた。

『む‥‥ラーメンとはなんぞや?』

 ギンが脳内で問いかけてきたが、今はどうでもよかった。

(黙ってなさいっ!!)

 脳内で全力で叫び返しながら、真子は生き返ったような笑顔で、車窓の外を眺めた。

 少しだけ、世界がマシに見えた──気がした。
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