ネコタマ-NEO-

和本明子

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『どうした? さっきからぼーっとして』

 電子情報端末機を手にしたまま硬直している真子に、ギンが声をかけた。

「あ、ううん‥‥。そういえば、私、電脳生命体とか千代田佳那さんについて、調べてたなって思い出したの」

 ギンは静かに、真子をじっと見つめる。

「ねえ、ギン。あなた、電脳生命体なら何か知ってる? 電脳生命体って何なのかとか、千代田佳那とどんな関係があるのかとか」

『‥‥さあな。わしがどうして存在しているのか、わし自身にも分からん。千代田佳那に関しても、ネットに転がっている程度の情報しか知らんよ』

「も~、役に立たないんだから‥‥」

 記憶を辿り、意識不明だったあのときのことを思い出せたが、まだところどころが曖昧だった。肝心な直前まで何を調べ、何を見ていたのか、その詳細までは記憶に残っていない。

 真子は、再び端末機の電源ボタンを押してみる。だが、やはり反応はなかった。

「やっぱり壊れちゃったのかな‥‥」



 観覧履歴を確認したかったが、端末機が起動しないことにはどうしようもない。
 真子はため息をついて部屋を出ると、居間へ向かった。
 電子情報端末機には同期機能がある。他の端末機を使えば、自分のデータを確認できるかもしれないと思ったのだ。

「ねえ、お母さん。この端末、電源が入らないの。修理に出しておいてくれる?」

「えっ? 真子、何やってるの! お医者さんから、しばらくは端末機とかネットは禁止って言われたでしょ」

「だ、だって、ないと勉強もできないし、メールだってチェックできないし‥‥!」

「気持ちは分かるけど、ダメなものはダメ。パソコンも使っちゃダメってお医者さんに言われたでしょ」

「えー‥‥あっ!」

 美由は真子の手から端末機をさっと取り上げた。

「これはお母さんが預かっておくからね。修理にもちゃんと出しておくから、それまでは我慢。我慢!」

「‥‥はーい」

 真子はしぶしぶ従い、自分の部屋に戻っていった。

「あーあ‥‥これじゃ、何もできないじゃない」

 ベッドへと力なく倒れ込み、枕に顔を埋める。
 現代の若者にとって、電子情報端末機が手元にないのは、まるで世界との接点を失ったようなものだった。

 あの日のことを何とか思い出そうとしたが、頭の中は白い霧に包まれているようで、どうしても意識を失う直前の記憶にはたどり着けなかった。

 やがて、思考が滞りはじめた脳を、眠気が支配していった。
 真子はそのまま、静かに眠りに落ちていった。

 ――そして、夢を見る。

 そこは白い花が咲き乱れる世界。
 その中心に、銀色の毛並みをもつ猫が佇んでいた。

 知っている姿――ギンだった。

 ギンの体が陽炎のようにゆらめき、徐々に人の形を取りはじめる。
 次の瞬間、眩い光が弾け、世界全体を包みこんだ。

 気がつくと、真子の姿は――あの猫人間となっていたのだった。

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