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Q、魔法は何に使いますか?
しおりを挟む女中見習い達が退室すると、20人ぐらいがその場に残った。
思ったよりメイド見習いは少なかったらしい。
「皆さんはアカデミーに通い、魔法を習得していると確認しております。しかし、今後は皆さんが学んできた魔法は、ほとんど使いものにならないことを覚えておいてください」
ミセスマイヤーの言葉に周囲に動揺が走ったが、私は当然だろうと飲み込んだ。
アカデミーで習う魔法は、貴族が古来から魔物を倒してきた歴史の名残で、ほとんどが魔物に対抗する攻撃魔法ばかりであった。
どう考えてもメイドがファイヤーボールを放つ機会はないだろう。
それに私は、魔法が得意ではあるが、あまり好きではなかったので、これ自体はありがたかった。
戦場で魔物と戦う為の魔法を、温室で愛でられて育った令嬢達が使う機会は、基本的には生涯無い。
それでも令嬢達は将来、豊富な魔力を持った優秀な男子を産む必要がある為、無駄だと分かっていても皆が学んでいるのだった。
そんな圧倒的に低いモチベーションで、戦場に出ることのない暇を持て余した貴族子女が、魔法を覚えると何に使うのかと言うのは、想像に難くないだろう。
そう。本来の使い場所を失った魔法を使って行われるのは、大抵が陰湿なイジメと相場が決まっていたのだった。
そんな魔法が、私は得意ではあるものの、あまり好きになれなかった。
動揺する見習い達を無視して、ミセスマイヤーは説明を続けた。
「皆さんはお世話される側の立場から、お世話する側の立場に変わります。
よって、使う魔法も貴族が使う攻撃魔法から、使用人が使う生活魔法へと変わります。そのことを念頭に研修期間を過ごしてください。
ここはアカデミーではないので、手取り足取り魔法を教えることはしませんが、各自で学び適正に応じて習得してください。
取り急ぎ、よく使われる魔法のリストをお渡しします。適正に合わせて訓練するように。
以上ですが、今後の配属に大きく影響することを念頭に置いて励んでください」
解散が告げられ、ミセスマイヤーが退室するとホールは一気にガヤガヤと騒々しくなった。
貴族はお世話される側の立場で、使用人を使わずに自らの力で何かするのは、卑しい労働者階級がする事であり、貴人としては恥ずべき行為だと叩き込まれているので、ミセスマイヤーの言葉への周囲の困惑は手に取るようにわかったので、やむおえないとは思うけど…。
嘆いても喚いても状況は変わらないのに、場の混乱が収まる気配はなかった。
騒音に耐える必要もないし終わったのだから、さっさと部屋へ戻ってしまおうと、移動を始めると見計らったかのように頭に声がこだました。
『な、なんだと…ま、魔法がある世界…だと?ななななんてことだっ!!!!キタァー!!!!!魔法楽しみすぐる!!!!!!!レナたんの魔法見てぇ!!!』
しばらく黙っていたので忘れていたが、頭の中の声は平常運転ですこぶる元気そうだった。
その後、興奮して叫び続ける脳内が煩すぎて、少しでも落ち着かせようと部屋に戻り、練習と称し貰ったリストの魔法をいくつか試していたら、『んぬぅああー!!辛抱堪らん!!!!!ブゴヒャァ!!!』などと叫んで以降、大人しくなった。
私は静かになったことに満足して、夕食を取り、早速覚えたクリーン魔法を自分にかけて、早々に眠りについた。
腐ってもお嬢様育ちの私には、共同浴場はまだハードルが高かったので、魔法で済ませられたのは心底助かった。
一人暮らし、共同生活、使用人として人に仕える事、身分の低い同僚達、初めてのお仕事。
いろいろ考えて頭の中では納得しているけれど、本当はまだまだ飲み込み切れてないのは、誰にも言えない私だけの秘密だ。
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