お憑かれ令嬢、メイドになる。 -フューチャリング・おまいら-

マイネ

文字の大きさ
3 / 17

メイドになった方が良い、2つの理由。

しおりを挟む
⚪︎⚪︎⚪︎


『へー! レナたんって言うんだぁ! かわよっ! 子爵家のお嬢たまなんだ! これからもよろしくしてクレメンス! でへへ!』


『マッマもパッパも若すぎるンゴ! 6人の子持ちってマジでござるか! イッツミラコー!』


『妹マリアたんもかわえぇ!これはなかなかのキュートな魔性属性ですな!将来が楽しみですぞ!

 お勉強はイマイチで、マナーは嫌い。性格は典型的なお嬢様で、少し傲慢ですな!自分のことを可愛いとわかっているタイプでござるな…。

 ま、可愛いからオールOKですぞ!』


『弟エリックたんきゃわわ!其方が神か!?神なのですねぇ!!ピギャー!!笑顔がキャワイイから将来モテモテになりそうですな!』



『え!? この家、全然お金ないでござるな! 帳簿が真っ赤ですぞ!』


『むむ! こうなったのは1番目の姉君と、2番目の姉君と、3番目の姉君の嫁ぎ先が原因なのですな…』



『このままだと謀反を疑われるから、経済的援助は受けられないし、王家からは睨まれていて、他領から嫉妬の嫌がらせも受けている。

 な、なんだか大変でござるな…。
 ま、どうでも良いでござるな! そんなことより今日もレナたん可愛えぇ! チュッチュ!』



 お分かり頂けただろうか? 
 

 もうダメなのである。



 気が付いた時には、我が家の家族構成、内部情勢、経済状況、個人情報。

 貴族の間では絶対に守らなければいけない情報の数々が、何もかも知られてしまっている。



 この状況は、本当によろしくない。



 もしこの情報が外部に漏れれば、我が家は簡単に没落するだろう。



 もちろん私だって、こんなにも追い込まれた状況になるまで、何も対策をしなかった訳ではない。



 奇妙な声の主が悪魔や幽霊なのであれば、神聖なる場所は苦手だろうと、教会や神聖なる土地と呼ばれる場所へ、熱心に足を運び、真剣に女神様に祈りを捧げ、感謝を伝え、懇願し続けた。



 ちなみに「そんな回りくどい事をしないで、悪魔払いやお祓い、解呪をすれば良いのではないか?」と、思う人がいるかもしれないが、これは絶対に出来ない。



 戦場やダンジョンに行きもしない貴族の令嬢が、悪魔や幽霊が取り憑かれ、呪われていると噂になれば、貴族令嬢としての未来は永劫閉ざされる。



 良くて追放。悪くて火破り。

 もちろんどちらも没落とセットだ。



 だから、現状とれる最善の策が、聖地巡礼とお祈りという、もっとも手軽で、もっとも原始的な手段のみなのだ。




 けれど、そんな私の決死の努力も効果は虚しくて、

『教会!ステンドグラス綺麗!まじ神聖!涙出そうぴゃー!生えて良かったお』

『神官様カッケェ!!潔癖ぽいとこが堪らぬん!ムッハァー!!!いい匂いしそう!!』

『聖女たんとかもいるでござるか??会ってみてぇ!!』


 こんな感じで、毎回大はしゃぎをされている。



 …もちろん全て私の頭の中での話だ。



 聖地巡礼にはまるで意味がない事を悟る頃には、熱心な信仰が認められたのか、使える人が極めて少ない特異魔法である、“治癒”の魔法が……私に新しく生えた。


「女神様ありがとうございます。  
でも、そうじゃないのです。そうじゃないのです!
 治癒の能力など要りません!お返ししますから、どうか、どうか頭の中の変な奴を取り除いて頂きたい!!」と、声を大にして言いたかった。



 だが、もちろん口には出さなかった。いや、出せなかった。



 せっかくの女神様からのお恵みに文句を言い、女神様のご機嫌を損ねたりしたら、それこそ今後の(除霊や悪魔払いを行って頂けるであろう)可能性まで潰してしまうだろう。


 というか、「いきなり治癒魔法が生えるってそんな事あるの?」とは、思ったのだけれど、確かに使えるようになっていたのだから、そんな事があったのだろう…。



 何なら、変な声が頭の中に聞こえ続けるよりは、はるかに現実的な気さえしている。


⚪︎⚪︎⚪︎



 そんな訳で最近の私は、いきなり変なものが生え出して、訳がわからないおかしな状態になってしまっている。


 そしてそれは、厄介なことに、対処不能で、周囲にどんな影響が及ぶのかも予想が出来ない。


 言わば【未曾有の脅威】とも呼べる出来事が、私の身に起こっているのだ。



 そんな厄介な爆弾を抱えた私が、大切な家族と一緒にいて、「家族には、決して害を及ばさない」と、楽観視する事は、とてもではないが出来なかった。



 だから私にとって、外部へ働きに出る事はとても好条件であった。



 長くなったが、これが、私が働きに出るのが良い理由だ。



⚪︎⚪︎⚪︎




 もう一つの、王城で働くのが良い理由だが、こちらもやはり私の頭の中の変な声に起因している。



 これはあくまで噂なので、信憑性は定かではないのだが、この国の第二王子は呪われており、不気味な悪魔付きだという噂があるのだ。



 もちろん政治的な意図があったり、噂なので事実とは異なるかも知れないけれど、もしかしたら第二王子殿下は同じ悩みを抱える同志なのかも知れないのだ。



 1子爵家の令嬢であれば、王子殿下なんて死ぬまでに一目見れれば良い方であるが、王城で働くメイドであれば、話は変わってくる。


 王子の実家が、私の職場になるのだ。


 いくら王城が広かろうとも、顔を合わせる機会があるかもしれないし、なんなら奇跡が起こってお話しなんかも出来たりするかもしれない。
 
 呪われていようが、悪魔付きであろうが、腐っても王子なんだから国内最高峰の治療体制のはず。
 もしかしたら治療に便乗して…なんて事も出来るかもしれない。

 こちらは望み薄ではあるが、この可笑しな声から解放される可能性があるのであれば、どんなことでも挑戦するべきであろう。
 

 


 
 だから今回の就職で「家を出る事」と「王城で働ける事」は、私にとって、2つの意味で渡りに船と言えるのであったのだ。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

処理中です...