もう遅い、勇者ども。万能支援職レオンは王国の柱となる

まっちゃ

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第二部 : 英雄と影の支配者編

第32話 「勇者の最期、そして支援職の裁き」

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王都グランフェルドの朝は静かだった。
冷たい霧の向こうにそびえる白亜の塔。
その最上階にある参謀執務室で、レオンは報告書を閉じた。

「……北部国境線、魔王軍残党の殲滅完了。
 だが、まだ“奴ら”が彷徨っているか。」

“奴ら”――かつての勇者パーティ。
アレンたちの消息は絶たれたままだが、数名が生き延び、盗賊のように各地で暴れているという。
食糧と金を奪い、レオンの名前を呪いながら。

レオンは小さくため息をついた。
「人間の底は、見苦しいものだな。」

***

その頃、王都郊外の森。
アレン、リリィ、そしてガイルの三人が息を潜めていた。
かつて世界を救うと誓った勇者の末路が、今や盗賊崩れとは皮肉なものだ。

「……金も、食い物もない。リリィ、魔法でどうにか……」
「無理よ……魔力なんて、もう残ってない……」
「チッ、クソが……! あのレオンのせいだ!」

ガイルが苛立ち紛れに木を蹴りつける。
だが、アレンは黙っていた。
虚ろな目で地面を見つめ、ただ呟く。

「俺たちが悪かった……全部、俺のせいだ……」

リリィはその姿に苛立ちを隠せず叫んだ。
「今さら後悔? あんたがレオンを追い出さなきゃ、こんなことには……!」
「やめろ、リリィ!」
ガイルが怒鳴るが、その声にも覇気はない。

その時、森の奥から馬の蹄音が響いた。
「……な、なんだ!?」

現れたのは、王国騎士団の紋章を掲げた一団。
その中央には、冷ややかな表情をした男――レオンがいた。

「見つけたぞ、元勇者たち。」

***

三人は反射的に武器を構える。
だが、その手は震えていた。
レオンの後ろには、精鋭の騎士十数名。
勝ち目など、どこにもない。

「……レオン、話を……!」
アレンが必死に言葉を紡ごうとするが、レオンは冷静に遮った。

「話なら、あの日にすべきだったな。」

「ち、違う! あの時は、お前がいなきゃ足を引っ張るって――!」

「そうだな。お前たちは、俺を“無能”と呼び、追放した。
 だが……お前たちの戦い方がどれほど“支援”に頼っていたか、ようやく理解したか?」

アレンは言葉を失った。
リリィは涙をこぼしながら叫ぶ。
「お願い、レオン! 謝るから! 助けて……!」

だが、レオンの表情は一切変わらなかった。
冷たい風が吹き抜け、彼のマントがはためく。

「王国を襲った罪、民を傷つけた罪――勇者であったお前たちには、その十倍の責任がある。」

「ま、待ってくれ……!」
アレンが膝をつく。
「俺は、もう戦いたくない……! ただ、償いたいんだ……! だから――」

レオンは剣を抜かず、ただ一言だけ告げた。

「償いなど、もう遅い。」

彼が手をかざすと、魔法陣が輝く。
支援魔法《審判の加護》。
かつて仲間を守るために使っていたその術を、今、裁きのために使う。

光が三人を包み、彼らの罪を映し出すように、過去の記憶が空に投影された。
村を救わず、命を奪い、民を見捨てた数々の行為。
それを見た騎士たちがざわめく。

「……これが“勇者”の正体か。」
「民を守るどころか、喰い物にしていたとは……」

アレンは地に伏した。
「やめろ……もうやめてくれぇぇぇ!」

レオンの声が冷たく響く。
「勇者という名に酔った報いだ。
 お前たちは世界を救えなかった。
 いや――“救う価値がなかった”。」

最後の光が収束し、三人はそのまま倒れ伏した。
命は奪わなかった。
だが、魔力も力も、全て封印された。
二度と“戦えない身体”に。

「これが、お前たちが俺に与えたものの、返礼だ。」

レオンは背を向けた。
アレンは泣き叫ぶ。

「レオンッ! もう一度だけ、チャンスを――!」

だが、彼は振り返らなかった。
ただ静かに呟く。

「支援職は、二度と裏切らない者のためにしか動かない。」

そして、冷たい朝の光の中、
“勇者パーティ”は――完全に、終わった。

***

王都へ戻る道すがら、レオンは騎士団の若い隊長に問われた。

「閣下、彼らを生かしたままで良かったのですか?」

レオンは少しだけ笑みを浮かべた。

「死よりも、無力の中で生きる方が、よほど辛い。
 ――ざまぁ、という言葉の意味を、奴らはこれから理解するさ。」

風が吹き抜け、朝日が昇る。
レオンのマントが金色に輝いた。

それは、かつて「支援職」と呼ばれた男が、
“真の英雄”として歩き始めた瞬間だった。
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