もう遅い、勇者ども。万能支援職レオンは王国の柱となる

まっちゃ

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第二部 : 英雄と影の支配者編

第31話 「愚者の懺悔、英雄の無言」

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かつてレオンを追放した勇者パーティ。
その名を冠する「光の剣団」は、今や見る影もなかった。
かつて世界を照らすと称えられた四人の英雄は、
今では敗残の兵のように、泥と血に塗れていた。

「はぁ……はぁ……アレン、どうするの!? もう前に進めない!」
僧侶エミリアが叫ぶ。足を引きずりながら振り返ると、そこには無残な光景が広がっていた。
仲間の魔法使いリリィは腕を焼かれ、剣士ガイルは右目を失っている。
勇者アレンだけが、血塗れの剣を握りしめて立っていた。

「……っくそッ、なぜだ……なぜ俺たちが……!」
怒りと焦り、そして恐怖が混ざった声が夜の森に響く。
かつて彼らが軽蔑した男、レオンの不在が、今さらながら骨身に染みていた。

魔王軍との決戦は、完敗だった。
支援も、治療も、補助もない。
自分たちは“勇者パーティ”だと信じ込んでいたその奢りが、どれほど脆い幻想だったか。

――あの時、レオンを追放しなければ。

だが、後悔は遅かった。

***

同じ頃。
王都グランフェルドの王宮会議室には、平穏な空気が流れていた。
その中心に座るのは、青いマントを肩にかけた一人の男――レオン。

「……報告によれば、魔王軍の第二軍団を殲滅。損害は最小限とのことです」
淡々と報告を聞きながら、レオンは頷いた。
彼はいま、王国直属の参謀として、数多の軍を動かす立場にある。
かつて“支援職”と呼ばれ、軽んじられていた男が、今では王の右腕と称えられていた。

「よくやった。前線の兵たちにも報奨を与えよう」
「はっ!」

彼の声には、確かな威厳と温かさがあった。
部下たちは敬意を込めて頭を下げる。
――この国は、もうレオンなしでは回らない。

そんな彼の元に、一通の報告書が届いた。
封蝋には、見覚えのある紋章。
勇者アレンの所属していた「光の剣団」だ。

「……アレンたちが、消息を絶った?」

侍従が小さく頷いた。
「はい。魔王軍の追撃に遭い、壊滅状態とのこと。現在、北方の村にて生存者が確認されています」

レオンの瞳に、ほんの一瞬だけ影が差す。
だが、すぐに無表情に戻ると、淡々と命じた。

「救助の必要はない。王命としても、優先度は最低とする」

侍従は少し驚いたように眉を上げたが、すぐに深く頷いた。

「かしこまりました」

***

夜。
吹雪の荒野で、アレンたちは息も絶え絶えに焚き火を囲んでいた。

「……寒い……魔力が、もう……」
「リリィ、もう少しだけ耐えてくれ」
アレンが彼女の手を握るが、その瞳にはかつての自信も誇りもない。
代わりにあるのは、後悔と、焦燥だけ。

「……俺が、悪かったのか……?」
彼の脳裏に、あの日のレオンの顔が浮かぶ。
冷静で、常に全員を支え、危険を未然に防いでいた男。
だが、アレンは「地味で役立たずだ」と切り捨てた。
レオンがいなくてもやれる――そう信じて疑わなかった。

だが今、支援も戦略もない彼らは、ただの烏合の衆だ。

リリィが涙ながらに呟く。
「ねえ……レオンを……探そうよ。あの人なら、きっと助けてくれる……」
エミリアが首を振る。
「無理よ。あの人、今や王国の英雄。私たちみたいな裏切り者を、相手にしてくれるはずない……」

アレンは歯を食いしばり、雪に手を叩きつけた。
「それでも……! 俺は行く! 謝るんだ! レオンに……!」

***

数日後、王都の城門前。
傷だらけの勇者アレンは、門番に頭を下げていた。

「頼む……レオンに会わせてくれ。俺は……間違っていたんだ……!」

門番は冷たい目で答えた。
「お前がアレンか。……彼から伝言がある」

「……レオンが? な、なんて……!?」

門番は短く言い放った。

「――“今はもう、仲間じゃない” 以上だ」

アレンは膝から崩れ落ちた。
雪の上に落ちたその涙は、氷のように冷たかった。

***

一方、城の高みからその様子を見ていたレオンは、ただ静かに目を閉じた。

「……やっと気づいたか。だが、遅すぎるんだよ、アレン」

彼の背後には、今の仲間たち――新たな王国騎士団の面々が立っていた。
温かな笑みでレオンを支える彼らは、もう二度と裏切らない。

そしてレオンは、遠くに霞む雪原の勇者を見下ろしながら、呟いた。

「俺はもう、過去には戻らない。
 ――お前たちが切り捨てた“支援職”は、今、世界を支える柱になったんだ」

雪が舞い散る中、かつての勇者の影は、静かに小さく消えていった。
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