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第二部 : 英雄と影の支配者編
第34話 「神か魔か、レオンを奪う者」
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王都グランフェルドの空は、不穏に曇っていた。
薄い霧が立ちこめ、鐘楼が鳴るたびに人々の声が消えていく。
まるで、誰かが“何か”を仕掛ける前触れのように。
その中心――王宮の執務室では、レオンが一人、報告書を閉じた。
神殿からの通達。
「レオン・クロフォードを神の代理人として正式に任命する」
という書面だった。
(正式任命、ね。……俺を縛るつもりか。)
静かに笑う。
あの使者を追い返して三日。
神殿は懲りずに“信任”という名の鎖を送ってきた。
だが――それだけではない。
今朝、魔族からも密書が届いていた。
「調停官エリュシアの提案を受諾せよ。さもなくば、王都は血に沈む。」
レオンは紅茶を口にし、短く呟いた。
「……どちらも同じだ。神も魔も、自分の秩序しか見ていない。」
⸻
午後、王宮の回廊に一人の女が現れた。
白銀の髪を揺らし、清らかな装束をまとった聖女――セリーヌ。
かつて勇者パーティにいた、レオンの旧友でもある。
「レオン様……」
その声に、レオンの眉がわずかに動く。
「……セリーヌ。神殿がついに、あんたを使者に立てたか。」
彼女は一歩近づき、膝をついた。
「私は、あなたを“救いに”来ました。
神の加護を受け入れれば、あなたは再び天の庇護を得られます。
人々も、あなたを“神の英雄”と称えるでしょう。」
「神の英雄、か。……ふざけるな。」
レオンの声は低く響き、室内の空気が一変する。
「俺が救ったのは人間だ。神じゃない。
あの日、お前たちは祈るだけで村人を見殺しにした。
“神の加護”なんて言葉で、何人の命を見捨てた?」
セリーヌは震える唇で言葉を返す。
「違う……あの時は、私も――」
「違わない。」
レオンの声が鋭く突き刺さる。
「お前たちが信じた神は、勇者を狂わせ、仲間を追放させた。
その“加護”がどれほど呪いに近いものか、俺が一番知っている。」
沈黙。
セリーヌはうつむき、涙をこぼす。
その姿を見つめながら、レオンの心にわずかな痛みが走る。
だが――それを表には出さない。
「帰れ。神の意志を持ち込む場所ではない。」
そう告げて、彼は背を向けた。
だが、その瞬間――
部屋の空気が凍りつく。
「……おや、冷たいね。」
低く艶のある声。
闇の中から現れたのは黒衣の女、エリュシアだった。
「人間の女にしては、随分と神の言いなりじゃない。」
セリーヌが聖印を掲げる。
「魔族……!? 下がりなさい!」
「いいえ、あなたが下がりなさい。」
エリュシアが指先を動かすと、聖印は黒い炎に包まれ、灰となって消えた。
「レオン、あなたはどちらを選ぶの?
神に跪くか、それとも――私たちと新しい秩序を築くか。」
セリーヌが叫ぶ。
「そんな選択、許されません! 神の敵になるというの!?」
レオンは静かに二人を見つめ、目を閉じた。
そして、深く息を吐く。
「……どちらの味方もしない。俺は“支援職”だ。
必要とされれば力を貸すが、操られるつもりはない。」
その言葉に、エリュシアは微笑み、セリーヌは震えた。
「それがあなたの答えね。」
「……レオン様、神はお怒りになります。」
「好きに怒らせておけ。俺の神は、俺自身だ。」
その瞬間、雷鳴が轟いた。
王都の上空に巨大な魔法陣が現れ、聖光と闇がぶつかり合う。
神殿の加護を受けた天使の軍勢と、魔族の影の軍が同時に出現したのだ。
セリーヌが叫ぶ。
「彼らはあなたを奪い合っているのよ! 逃げて!」
「逃げる? 違うな。」
レオンはゆっくりと立ち上がり、手をかざす。
「支援職の真髄――“世界均衡の術式”。」
光と闇が弾け、轟音とともに双方の軍勢が押し戻される。
まるで天地が裂けるような衝撃の中、
レオンの声が冷たく響く。
「神も魔も、俺に手を出すな。
お前たちが作った秩序は、俺が終わらせる。」
聖光が砕け、闇が霧散した。
レオンの力――支援ではなく、もはや“支配”に近い。
沈黙の後、エリュシアが小さく笑った。
「……やっぱり、あなたこそ“境界の王”に相応しい。」
セリーヌは涙を流しながら祈った。
「どうか……堕ちないで……レオン様……」
だが、レオンはただ一言だけ、
かつての仲間たちへ、世界そのものへ向けて呟いた。
「俺を追放した世界に、もう加護はない。――ざまぁだ。」
薄い霧が立ちこめ、鐘楼が鳴るたびに人々の声が消えていく。
まるで、誰かが“何か”を仕掛ける前触れのように。
その中心――王宮の執務室では、レオンが一人、報告書を閉じた。
神殿からの通達。
「レオン・クロフォードを神の代理人として正式に任命する」
という書面だった。
(正式任命、ね。……俺を縛るつもりか。)
静かに笑う。
あの使者を追い返して三日。
神殿は懲りずに“信任”という名の鎖を送ってきた。
だが――それだけではない。
今朝、魔族からも密書が届いていた。
「調停官エリュシアの提案を受諾せよ。さもなくば、王都は血に沈む。」
レオンは紅茶を口にし、短く呟いた。
「……どちらも同じだ。神も魔も、自分の秩序しか見ていない。」
⸻
午後、王宮の回廊に一人の女が現れた。
白銀の髪を揺らし、清らかな装束をまとった聖女――セリーヌ。
かつて勇者パーティにいた、レオンの旧友でもある。
「レオン様……」
その声に、レオンの眉がわずかに動く。
「……セリーヌ。神殿がついに、あんたを使者に立てたか。」
彼女は一歩近づき、膝をついた。
「私は、あなたを“救いに”来ました。
神の加護を受け入れれば、あなたは再び天の庇護を得られます。
人々も、あなたを“神の英雄”と称えるでしょう。」
「神の英雄、か。……ふざけるな。」
レオンの声は低く響き、室内の空気が一変する。
「俺が救ったのは人間だ。神じゃない。
あの日、お前たちは祈るだけで村人を見殺しにした。
“神の加護”なんて言葉で、何人の命を見捨てた?」
セリーヌは震える唇で言葉を返す。
「違う……あの時は、私も――」
「違わない。」
レオンの声が鋭く突き刺さる。
「お前たちが信じた神は、勇者を狂わせ、仲間を追放させた。
その“加護”がどれほど呪いに近いものか、俺が一番知っている。」
沈黙。
セリーヌはうつむき、涙をこぼす。
その姿を見つめながら、レオンの心にわずかな痛みが走る。
だが――それを表には出さない。
「帰れ。神の意志を持ち込む場所ではない。」
そう告げて、彼は背を向けた。
だが、その瞬間――
部屋の空気が凍りつく。
「……おや、冷たいね。」
低く艶のある声。
闇の中から現れたのは黒衣の女、エリュシアだった。
「人間の女にしては、随分と神の言いなりじゃない。」
セリーヌが聖印を掲げる。
「魔族……!? 下がりなさい!」
「いいえ、あなたが下がりなさい。」
エリュシアが指先を動かすと、聖印は黒い炎に包まれ、灰となって消えた。
「レオン、あなたはどちらを選ぶの?
神に跪くか、それとも――私たちと新しい秩序を築くか。」
セリーヌが叫ぶ。
「そんな選択、許されません! 神の敵になるというの!?」
レオンは静かに二人を見つめ、目を閉じた。
そして、深く息を吐く。
「……どちらの味方もしない。俺は“支援職”だ。
必要とされれば力を貸すが、操られるつもりはない。」
その言葉に、エリュシアは微笑み、セリーヌは震えた。
「それがあなたの答えね。」
「……レオン様、神はお怒りになります。」
「好きに怒らせておけ。俺の神は、俺自身だ。」
その瞬間、雷鳴が轟いた。
王都の上空に巨大な魔法陣が現れ、聖光と闇がぶつかり合う。
神殿の加護を受けた天使の軍勢と、魔族の影の軍が同時に出現したのだ。
セリーヌが叫ぶ。
「彼らはあなたを奪い合っているのよ! 逃げて!」
「逃げる? 違うな。」
レオンはゆっくりと立ち上がり、手をかざす。
「支援職の真髄――“世界均衡の術式”。」
光と闇が弾け、轟音とともに双方の軍勢が押し戻される。
まるで天地が裂けるような衝撃の中、
レオンの声が冷たく響く。
「神も魔も、俺に手を出すな。
お前たちが作った秩序は、俺が終わらせる。」
聖光が砕け、闇が霧散した。
レオンの力――支援ではなく、もはや“支配”に近い。
沈黙の後、エリュシアが小さく笑った。
「……やっぱり、あなたこそ“境界の王”に相応しい。」
セリーヌは涙を流しながら祈った。
「どうか……堕ちないで……レオン様……」
だが、レオンはただ一言だけ、
かつての仲間たちへ、世界そのものへ向けて呟いた。
「俺を追放した世界に、もう加護はない。――ざまぁだ。」
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