ディオとの約束

空川億里

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1話完結

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 シラは元々地球の植民星だ。独立し共和制を採用したが、ディオ将軍がクーデターで大統領を殺害し、全権を掌握する。
 猜疑心の強い男で、一緒にクーデターを起こした同志も次々粛清された。
 彼を批判すると逮捕され、銃殺される恐怖政治が生まれたのだ。
 俺は故郷のシラに民主主義を取り戻すため、将軍の暗殺を考えた。
 懐にレイガンを忍ばせ、軍事パレードで手を振る奴に撃ちこんだ。
 ディオ将軍は倒れ、俺は護衛に捕まった。俺はなぜか警察署じゃなく、将軍の官邸に連行される。
 驚く事に、殺したはずの将軍がいた。
「残念だな」
 ディオは嬉しさを隠せぬ笑顔を浮かべていた。
「殺されたのは影武者だ。悔しかろう。だが貴様の勇気に免じ、殺す前に1つだけ望みを叶えてやる」
「だったら地球に行かせてくれ。妹の婚礼がある。地球時間で3日後に戻る。その間親友のセスを身代わりにおいていく」
 俺の言葉に将軍は爆笑した。
「そんな戯言を信じると思うか。その男が身代わりにならんだろうし、仮に来ても貴様は地球に行ったまま戻らんだろう。だがこれも、余興と思えば楽しいかもな。早速セスとやらを呼んでみろ」
 俺は官邸の3Dフォンから、セスに連絡した。
「すぐ、来るそうだ」
 俺の言葉にディオは驚愕の色を浮かべた。やがてセスが現れると、独裁者の驚きに磨きがかかったようである。
「貴様は、この男を本当に信用するのか」
 将軍の問いに、セスはうなずいた。俺はすぐ官邸を出て、宇宙船で地球にワープする。
 地球に着いた翌日、妹の結婚式に出た。
 参加できると思わなかったので、まるで夢のようである。ディオ将軍暗殺未遂事件は、地球じゃ報道されてなかった。
 情報の統制された独裁国家だから、無理もない。
「悪いが、これで失礼する。シラで大事な用があるんだ」
 披露宴の後、俺は妹夫妻に話した。
「いつまでも、幸せにな」
「まるで永遠にお別れみたいな言い方ね」
 妹は笑顔で答えたが、その顔には不安の影がよぎっていた。その残像を焼きつけながら、俺は宇宙船に乗りこんで、シラをめざす。
 シラの近くにワープアウトした時だ。突如3隻の軍艦が、近くの宙域にワープアウトし、俺の船にビーム攻撃をしかけてきた。
 俺の船はAIの指令で、回避行動を取る。それでもビームの一発が船体に当たり、衝撃が襲う。
 船のAIが反撃を開始した。ありったけのビームと光子魚雷を投げつけて、3隻のうち1隻が爆発し、無音の宇宙に四散した。
 俺の船はワープで逃げたが、その時受けた攻撃でエンジンが損傷し、長距離のワープも、速度を上げるのも無理になる。
 シラに着くのが予定より遅れるが、それでも期限の時刻までには着きそうだ。先程の軍艦は何だったのか。
 ディオが雇った刺客の可能性もある。俺はシラに通信を送った。
「正体不明の軍艦の攻撃を受け到着が遅れているが、期限までに間違いなく、そちらに着く」
 操縦室のコンソールに将軍の顔のホロ映像が浮かぶ。冷酷で下品な笑みをはりつけている。
「貴様も甘ちゃんだな。私が約束を守るとでも思ったか。すでに貴様の親友は、ついさっきこの官邸の庭先で、銃殺刑に処されたわ」
「あんたこそ、甘ちゃんだな。まさか俺が本物の親友を身代わりにすると思ったか。セスはアンドロイドでね。銃で撃たれると、俺が設定した時間の後、体内の爆弾が起動して、官邸ごと吹き飛ぶしかけになってるのさ」
 独裁者の顔が青ざめた。次の瞬間スピーカーから爆発音が飛びだして、ディオ将軍のホロ映像は炎の海に包まれて、通信自体がとぎれてしまい、その映像も消失する。
 その日のうちに潜伏していた民主派の活動家達が蜂起して、シラの独裁政治は倒れ、共和政が回復した。


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