ミスティー・ナイツ

空川億里

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第35話 ラスト・スパート

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    雲村博士の研究所を襲撃するジェットヘリは、全部で5機。
    南美島から飛行機で飛んできた畠山はそのうちの1号機に、井口は2号機に乗りこんでいる。
    時刻は真夜中の零時を過ぎていた。都心なら街灯やネオンで明るいが、今ヘリの飛んでいる多摩地区の外れの方はそうでもなかった。
「全機、ミサイル攻撃開始」
 無線を構えた畠山の声が響き渡り、5機のヘリは一斉に、腹に抱えたミサイルを吐きだした。その時である。
    研究所の手前の地面から次々と、直方体のミサイル発射台が現れた。
 出現した発射台は一斉に、ミサイルの群れを射出する。
    それはまるでクジラを襲うシャチのように、ヘリの放った5発のミサイルに衝突し、空中で爆発させた。
 ジェットヘリは襲いくる地対空ミサイルに向けて機銃を掃射したが全てを撃ちおとせず、5機のうち3号機にミサイルが当たり炎上する。
 爆発直前、無線の向こうから3号機の乗員の悲鳴が響いた。
 まるで地獄から届いたような悲痛な叫びで、聞いただけでも全身が凍りつきそうになる。
 闇の世界で力をつけてきた畠山と井口もジェットヘリに乗るのは初めてで、勝手がよくわからない。
 元自衛官や民間のパイロットから集めてきた操縦士に全てを任せるしかないのが、畠山には腹立たしい。
(一体全体、ミスティー・ナイツってのは、どんだけすげえ連中なんだ。ここの設備もちょっとした軍隊なみだ)
 かろうじてミサイル攻撃をかわした他のジェットヘリは、散開しながら研究所に向かって飛んだ。その時である。
   驚く事に、研究所が動きはじめた。一瞬地震かと思ったらそうではない。
     研究所は3棟に分かれており、中央が8階建て、両脇がそれぞれ6階建てなのだが、8階建ての下部がいつのまにか巨大ロボットの両脚になり、左右の棟が、両腕となったのだ。
 畠山から見て右側の、巨大ロボットの左腕が伸び、一階部分の下から現れた金属製の左手が、先頭を飛んでいた5号機をわしづかみにした。
    5号機は巨大ロボットの拳の中で爆発する。畠山は、戦慄を感じた。
 まさか研究所が変形して、コンクリートと鋼鉄製の巨人になると思わなかったのだ。
 アニメや特撮番組ではありがちなシーンだが、自分がそれに殺されるかもしれないと思うと、洒落にもならない。
 爆発の勢いでロボットの拳にもダメージがあると想像したのだが、ぱっと見る限り、そんなものはないように見える。  
 一体どんな素材でできているか、見当もつかない。残った3機は巨大ロボットの窓ガラスに向かって機銃を掃射した。
 が、銃弾が命中する前に、ガラス部分はスライドしてきた鉄板に覆われてびくともしない。やがていつのまにか巨人の背後から3機のジェットヘリが現れ、こっちに向けて機銃を撃ちはじめる。
 攻撃は5号機の次に先行していた4号機に集中し、一瞬にして4号機は空中で爆音と共に炎上する。
 短時間のうちに残りのヘリは1号と2号の2機だけになっていた。ジェットヘリの数だけ見るなら3対2で、畠山達の方が不利だ。しかも敵勢は巨大ロボットの支援もある。
                   




 美山は全部で3機あるミスティー・ナイツのジェットヘリのうちA号機に乗りこんでいる。
   ちなみに右翼のB号機の操縦席には海夢が着き、左翼のC号機は、怪我が治って東京で合流した春間が動かしていた。
 一方巨大ロボットに変形した研究所は恋花が、地下から地上にせりあがったミサイル・ランチャーは衣舞姫がコントロールしている。
    美山らはすでに、敵のジェットヘリを3機撃墜する快挙をなしとげていた。残りは2機だ。
 引き続き3機のヘリは敵に対して機銃掃射を浴びせたが、さすがに相手も左右にわかれて、攻撃を回避する。
「おれは右に行ったヘリを狙う。海夢と春間は、左に逃げた奴を追ってくれ」
 美山は指示を出しながら、右に逃げた敵を追った。
「ラジャー」
 海夢と春間の返事が、無線で聞こえてくる。命令通り、BとC二つのヘリは左に向かった敵機を追う。右に行ったヘリの横には大きく『1』と書かれており、左に去った敵機の横には大きく『2』と塗られていたので、おそらく敵は『1』の方を1号機、もう片方を2号機と呼んでいるのだろう。
 普通に考えれば1号機にリーダーが乗ってるに違いない。その1号機はローターの回転をやめ、ジェット噴射での推進に切りかえていた。
    三十六計逃ぐるにしかずといったところか。
    当然予想はついたので、すでに美山も自分の愛機をジェット・モードに変更している。
    1号機はジェット噴射に切りかえた途端、脱兎のごとく、猛スピードで逃げてゆく。
     美山のA号機も速度を上げて、後を追う。
    やがて敵機は途中で機首を上にあげ、そのまま宙返りを開始した。
    ミスティー・ナイツのリーダーも、機銃を掃射しながら一緒に宙返りして、その後を追う。見えない壁が襲ってくるかのような圧力のGが全身に襲いかかった。
    今まで何度もこんな時に備えて訓練してはいたが、絶対に慣れそうにない体験である。
    背面飛行していた敵機は13度から15度の迎え角を維持しながら途中で180度回転し、コクピットを上にした通常姿勢で飛行した。
    最初の時よりも高度が上に上がっている。いわゆるインメルマル・ターンだった。
     美山もそれにならって通常姿勢になる。結局2機共、研究所改め巨大ロボットの方へ戻る進路を取る形になった。 
    地上から浮上した研究所のミサイル発射台が前方の1号機に向けて、再び大量のミサイルを撃ってくるのがレーダーに映る。誘導ミサイルなので全てを回避できず、1号機はあっさりと炎上した。 
 そして周囲の大気を揺るがす巨大な轟音と共に爆発し、四散する。爆発の直前にコクピットが射出され、パラシュートの花が開いた。
    パラシュートの方は放っておいて、美山はヘリの向きを変える。海夢と春間の加勢に出るためだ。
 だがそっちも、勝負がついてるようなものだった。
    2機のヘリの攻撃を受け、すでに敵機は機体から白煙を出している。やがて美山の見ている前で、2号機のヘリは爆煙の花をまきちらした。
    こちらも爆音が響き渡る直前にコクピットが脱出し、同じくパラシュートが開く。
「どうする美山。逃げた連中を確保するか」
 無線で釘谷が聞いてくる。
「それよりいい考えがある。奴らを尾行して、敵のアジトをつきとめる」
                  




 脱出して着地した畠山はパラシュートを外し、自分が降下してくる前にやはり爆破寸前のジェットヘリから逃げ出した井口や他の仲間達と合流し、命からがら八王子の事務所に戻った。
 かれらの組織の事務所は、八王子のオフィスビルにある。そこにはやはり同じように脱出し、合流できなかった組織の仲間が集まっていた。
「大丈夫ですか兄貴」
「心配してたんです。無事でよかった」
 出迎えた舎弟達が口々にねぎらいの言葉をかける。
「大丈夫なんてもんじゃねえ。あっちはとんでもない最終兵器を出してきやがった」
 畠山は興奮を抑えきれない口調で話した。
「最終兵器っすか」
「ああ、そうよ。ミスティー・ナイツとかいうちんぴら共。いや、あいつらただのこそ泥なんかじゃねえ」
 その時である。どこからかヘリのローター音が聞こえてきた。防弾ガラス製の窓に近づいて外を見ると、深夜の空に、ジェットヘリの姿がある。
    キャノピーのすぐ下に『A』と大書されていた。
 他でもない、さっきまで畠山が交戦していたミスティー・ナイツのヘリである。
   次の瞬間、ジェットヘリの機銃が火を噴いた。無数の弾丸がけたたましい騒音と共に窓を突き破り、事務所にいた男達に襲いかかる。
 拳銃の銃弾を跳ね返す防弾ガラスも、ヘリの機銃には無力であった。
    聞くに堪えない悲鳴があがり、事務所は血まみれの肉体がいくつもいくつも横たわる凄惨な修羅場と化す。
    畠山の体にも無数の銃弾が突き刺さり、激しい苦痛が襲ってくる。やがて彼の意識は遠く、朦朧となってゆく。
                   




 美山は自分の乗るA号機が発射した弾丸の群れが、事務所にいた全員を虐殺したのに満足すると、すぐヘリを上昇させ、ジェット・モードに切りかえて、その場を離れた。
 そして光学迷彩で機体が見えなくなるように、周囲の夜空に溶けこませる。
    早くもサイレンを鳴らしたパトカーや消防車や救急車が、現場に駆けつけるのが下に見えたが、光学迷彩で見えなくなった上空のジェットヘリには気づかぬようだ。
 この機体もスカイ・カーと同じくステルス仕様なので、当然レーダーにも映らない。
    開発してくれた雲村博士様様である。美山はジェットヘリを研究所に向けて飛ばした。
 研究所は何もなかったかのように巨大ロボットの状態をやめ、元の位置に収まっている。
 撃墜した5機のヘリは鋼鉄とコンクリ製の巨人が手で土に埋めていた。
 美山のジェットヘリが近づくと、廃ビルに偽装した研究所から少し離れた地面がポッカリと四角に開いた。
 美山は愛機をヘリモードにして、そのまま垂直に機体を地下に下降させる。地下のヘリポートに機体を着陸させると、頭上の地上とつなぐハッチが再び閉じた。
 コクピットから降りると、衣舞姫が彼を待ちうけている。
「朗報だよ。乙成とかいうオヤジから連絡があって、鶴本の追求記事を書くんだってさ。明日発売の月刊カオスで発表される」
「そいつはよかった」
 美山はその話を聞いて、天まで昇るような気持ちになった。もっとも、単純に喜べないのも確かである。
 検察は記事を黙殺して、起訴には至らないかもしれない。
 他のマスメディアも知らんぷりを決めこんでしまうかもしれぬのだ。
 一部の野党と一部のメディアが追及する程度で終わるかもしれない。
 いや、その可能性が高かった。仮に鶴本が追放されても、また別の人間が似たような地位を占めるだけなのだろうが。
                    




 やがて待ち遠しい翌日が訪れる。美山はゆうべは一睡もできなかったのだ。
 研究所から車で1番近くにある書店に行くと、その本屋が朝10時にシャッターを開いたのを待ちかねるように、スイッチを入れたばかりの自動ドアの隙間から、中に入った。
 そして雑誌コーナーの平積みから『月刊カオス』を手に取ると、レジに歩いて購入する。
 袋はもらわず、中身を読みながら外に出る。『月刊カオス』の特集記事は鶴本だけではなく、明定に対しても向けられていた。
 鶴本と明定が過去に手を染めた悪事の数々が暴露されていたのである。その日のうちにテレビやネットに後追いのニュースが報道された。
 明定はその日の夜に記者会見を開いて、記事は事実無根であると主張したが、王冠とカジノの売上金を盗まれた責任を取って、美術館の館長兼カジノの支配人を辞職したと発表する。
 鶴本もやはり同じ日に記者会見を開いて、月刊カオスが暴露した過去の悪行はでっちあげの誤報だと主張した。
 ただ高齢で体調が優れないので次の衆院選には出ず、引退すると会見で発表したのだ。
                    




「少しは、気分が晴れましたか」
 一連の報道を研究所のテレビで一緒に観ながら、海夢が声をかけてきた。
「ああ……ほんのちょっぴりだけどね」
 テレビ画面に映しだされた鶴本の顔を見ながら美山が答えた。さすがに現在の状況は鶴本にとって不本意ではなかったようで、普段は傲岸不遜な顔がこわばり、銅像になったかのようだ。
「おれもこれで、心おきなく引退できるよ。普通のオジサンにやっと戻れる」
「本当ですか……またそのうち、強盗の血が騒ぐんじゃないですか」
「そうかもな。その時はまた、一緒に頼むぜ」
 美山は海夢の肩を叩いた。
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