そして、天使は舞い降りた

空川億里

文字の大きさ
1 / 6

第1話 女子寮の天使

しおりを挟む
 冷泉智香(れいぜん ちか)は、自分が通う赤羽大学の女子寮に住んでいる。寮は東京都の北区内にあった。
 女子寮は同じ大学の構内にはなく、少し離れた場所にある。智香は今、自分の部屋にいた。
 今日は4月23日の日曜なので授業はない。時刻は昼の12時だ。自室の窓から寮の敷地内が見える。
 今日は気持ちよく晴れている。すでに4月だから暖かい。
 窓には白いレースのカーテンが引いてある。
 窓外に、同じ女子寮に住んでいる月島聖良(つきしま せいら)の姿が見えた。
 聖良は可愛らしい女性だ。愛くるしい2つの目、白く透き通るような肌、まるで花が咲きほころんだようなスマイルを浮かべている。
 身長は150センチぐらいだろうか。最初に彼女と会った時、まるで天使が現れたのかと感じたぐらいだ。
 それほどピュアでノーブルな雰囲気をたたえていた。
 聖良は今、この寮の設備関係のメンテナンスの仕事をしている西俣(にしまた)という男と話していた。
 西俣は若い頃野球をやっていたそうで腕は筋肉質で太いが、現在はかなり腹も出ている。
 白いヘルメットをかぶり、緑色の作業着を着ていた。
 年齢は50歳前後ぐらいか。同じ設備会社の人と交代で、朝9時から翌朝9時まで24時間交代の勤務についていた。
 寮に住む女子学生に誰彼構わずひっきりなしに声をかけるので嫌う者もいる。
 なので寮生達は大抵、設備の不良が生じた場合、急ぎではない限り西俣が当番ではない日に修理を頼むケースが多かった。
 智香も含めて西俣に声をかけられた時はつれなくする時が多かったのだが、人の良い聖良は、笑顔で西俣に対応していたのだ。
 それも無理に合わせてるという感じではなかった。本当に相手との会話を楽しんでるという雰囲気である。
 その時西俣のスマホが鳴ったらしく、彼は作業着のポケットからそれを取り出した。
 聖良はそのタイミングでその場を離れ、智香のいる建物の方へ歩いてくる。智香は、自分の部屋を出た。
 そしてスキップしながら聖良のいる方へ向かう。
「西俣さんは、あなたの事がお気に入りね」
 建物内の共用部にある通路に来た聖良に対して笑いながら、智香が話した。
「そのうちプロポーズされるんじゃないの?」
「そんなわけないよ」
 聖良がふきだす。
「万が一あったとしてもお断りします。年齢が離れすぎてるもん」
 彼女が苦笑いを浮かべた。
「それよりも、聖良は何か悩みがあるんじゃないの?」
 聖良が目を丸くする。口もまあるく開いていた。
「鋭いね。何でそんなのわかるの? 前から感じたけど、本当智香ちゃんって頭いいよね」
「そんなわけないよ。ただ、一緒の寮に1年以上もいるんだから何となくわかるって」
 聖良も智香も大学2年だ。去年の春に入学して、1年ちょっとこの寮に2人共住んでいる。
「別に大した悩みじゃないんだ。そのうち解決すると思う。心配させて、ごめんね」
 聖良は手をふりながらその場を離れ、自分の部屋へと立ち去った。
 でも今考えれば、何が何でもその悩みを聞くべきだったのだ。今でも智香は、その件を後悔している。
 悔やんでも、悔やみきれなかった。



 聖良が立ち去った後、この寮の警備隊長をやっている卯原(うはら)という男がガードマンの制服姿で現れた。
 若い頃から柔道を習ってたそうでガタイがいい。見る者を安心させる笑顔を浮かべている。
 年齢は60代ぐらいだろうか。愛妻家らしく、よく妻子の話をしてくれた。
 人当たりがよいので、寮生からも人気がある。
 以前北区の赤羽駅の近くで聖良にからんでいた不良を、たまたま通りがかった卯原が救った時があり、それも卯原の評判を押しあげていた。
「さっき設備の西俣がしきりに月島さんに話しかけてたけど、彼女迷惑じゃなかったのかな? もしよければ、俺からあいつに注意するけど」
 心配そうに卯原が聞いた。
「大丈夫ですよ。聖良さん、そんなの気にする子じゃないんで」
「なら、いいけど。しかし西俣もしょうもない奴だなあ。相手は親子程年齢が違うのに。50歳過ぎても独身なんて、どっか問題あるんだよな。うちにも大阪の大学に行った娘がいるんで、あんな馬鹿にからまれてないか、心配だよ」
「あらこないだは娘さん、京都の大学に進学したっておっしゃってませんでしたっけ」
「そうだったっけ? ごめんごめん。こないだ多分言い間違えた。本当は大阪だよ」
「娘さんさびしがって、しょっちゅう電話やメールをくださるんじゃないですか?」
「それが、そうでもないんだよね」
 卯原が声を落とした。
「あら。卯原さんから連絡はしないんですか?」
「してないね。あっ、そう言えば、今夜9時から応援者で磯山って若い奴が別の現場から夜勤で来るからよろしくね」
「そうなんですね。誰かやめて、その人がこれから勤務になるんですか?」
「いやそうじゃないけど、たまたま今夜は人員の手配がつかなくてね。以前僕がマンションで警備隊長をやっていた時部下だった20代の若手に今夜だけ働いてもらうんだ」
 この女子寮では朝9時から翌朝9時まで24時間勤務の警備員が1人交代で勤務についている。
 それに加えて夜9時から翌朝9時まではもう1人夜勤で働いているのだ。
 年間通じて曜日関係なく、そのシフトは変わらなかった。
「本人には念を押しておくけど、万が一寮生にちょっかい出すような真似したら、教えてね」
「わかりました。ありがとうございます」
 思わず笑顔になって、智香が答える。やがて卯原は警備室にある建物に向かって歩いて行く。
 この寮がある敷地内には建物が3つある。
 1つは寮のある棟、そして警備室のある建築物、そして設備担当が寝泊まりするプレハブだ。
 この時の智香は、まさかあんなむごたらしい事件が起きるなどとは思わなかった。
 良い天気の暖かな日曜で、今まで同様穏やかに過ぎてゆくと信じていたのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...