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第1話 女子寮の天使
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冷泉智香(れいぜん ちか)は、自分が通う赤羽大学の女子寮に住んでいる。寮は東京都の北区内にあった。
女子寮は同じ大学の構内にはなく、少し離れた場所にある。智香は今、自分の部屋にいた。
今日は4月23日の日曜なので授業はない。時刻は昼の12時だ。自室の窓から寮の敷地内が見える。
今日は気持ちよく晴れている。すでに4月だから暖かい。
窓には白いレースのカーテンが引いてある。
窓外に、同じ女子寮に住んでいる月島聖良(つきしま せいら)の姿が見えた。
聖良は可愛らしい女性だ。愛くるしい2つの目、白く透き通るような肌、まるで花が咲きほころんだようなスマイルを浮かべている。
身長は150センチぐらいだろうか。最初に彼女と会った時、まるで天使が現れたのかと感じたぐらいだ。
それほどピュアでノーブルな雰囲気をたたえていた。
聖良は今、この寮の設備関係のメンテナンスの仕事をしている西俣(にしまた)という男と話していた。
西俣は若い頃野球をやっていたそうで腕は筋肉質で太いが、現在はかなり腹も出ている。
白いヘルメットをかぶり、緑色の作業着を着ていた。
年齢は50歳前後ぐらいか。同じ設備会社の人と交代で、朝9時から翌朝9時まで24時間交代の勤務についていた。
寮に住む女子学生に誰彼構わずひっきりなしに声をかけるので嫌う者もいる。
なので寮生達は大抵、設備の不良が生じた場合、急ぎではない限り西俣が当番ではない日に修理を頼むケースが多かった。
智香も含めて西俣に声をかけられた時はつれなくする時が多かったのだが、人の良い聖良は、笑顔で西俣に対応していたのだ。
それも無理に合わせてるという感じではなかった。本当に相手との会話を楽しんでるという雰囲気である。
その時西俣のスマホが鳴ったらしく、彼は作業着のポケットからそれを取り出した。
聖良はそのタイミングでその場を離れ、智香のいる建物の方へ歩いてくる。智香は、自分の部屋を出た。
そしてスキップしながら聖良のいる方へ向かう。
「西俣さんは、あなたの事がお気に入りね」
建物内の共用部にある通路に来た聖良に対して笑いながら、智香が話した。
「そのうちプロポーズされるんじゃないの?」
「そんなわけないよ」
聖良がふきだす。
「万が一あったとしてもお断りします。年齢が離れすぎてるもん」
彼女が苦笑いを浮かべた。
「それよりも、聖良は何か悩みがあるんじゃないの?」
聖良が目を丸くする。口もまあるく開いていた。
「鋭いね。何でそんなのわかるの? 前から感じたけど、本当智香ちゃんって頭いいよね」
「そんなわけないよ。ただ、一緒の寮に1年以上もいるんだから何となくわかるって」
聖良も智香も大学2年だ。去年の春に入学して、1年ちょっとこの寮に2人共住んでいる。
「別に大した悩みじゃないんだ。そのうち解決すると思う。心配させて、ごめんね」
聖良は手をふりながらその場を離れ、自分の部屋へと立ち去った。
でも今考えれば、何が何でもその悩みを聞くべきだったのだ。今でも智香は、その件を後悔している。
悔やんでも、悔やみきれなかった。
聖良が立ち去った後、この寮の警備隊長をやっている卯原(うはら)という男がガードマンの制服姿で現れた。
若い頃から柔道を習ってたそうでガタイがいい。見る者を安心させる笑顔を浮かべている。
年齢は60代ぐらいだろうか。愛妻家らしく、よく妻子の話をしてくれた。
人当たりがよいので、寮生からも人気がある。
以前北区の赤羽駅の近くで聖良にからんでいた不良を、たまたま通りがかった卯原が救った時があり、それも卯原の評判を押しあげていた。
「さっき設備の西俣がしきりに月島さんに話しかけてたけど、彼女迷惑じゃなかったのかな? もしよければ、俺からあいつに注意するけど」
心配そうに卯原が聞いた。
「大丈夫ですよ。聖良さん、そんなの気にする子じゃないんで」
「なら、いいけど。しかし西俣もしょうもない奴だなあ。相手は親子程年齢が違うのに。50歳過ぎても独身なんて、どっか問題あるんだよな。うちにも大阪の大学に行った娘がいるんで、あんな馬鹿にからまれてないか、心配だよ」
「あらこないだは娘さん、京都の大学に進学したっておっしゃってませんでしたっけ」
「そうだったっけ? ごめんごめん。こないだ多分言い間違えた。本当は大阪だよ」
「娘さんさびしがって、しょっちゅう電話やメールをくださるんじゃないですか?」
「それが、そうでもないんだよね」
卯原が声を落とした。
「あら。卯原さんから連絡はしないんですか?」
「してないね。あっ、そう言えば、今夜9時から応援者で磯山って若い奴が別の現場から夜勤で来るからよろしくね」
「そうなんですね。誰かやめて、その人がこれから勤務になるんですか?」
「いやそうじゃないけど、たまたま今夜は人員の手配がつかなくてね。以前僕がマンションで警備隊長をやっていた時部下だった20代の若手に今夜だけ働いてもらうんだ」
この女子寮では朝9時から翌朝9時まで24時間勤務の警備員が1人交代で勤務についている。
それに加えて夜9時から翌朝9時まではもう1人夜勤で働いているのだ。
年間通じて曜日関係なく、そのシフトは変わらなかった。
「本人には念を押しておくけど、万が一寮生にちょっかい出すような真似したら、教えてね」
「わかりました。ありがとうございます」
思わず笑顔になって、智香が答える。やがて卯原は警備室にある建物に向かって歩いて行く。
この寮がある敷地内には建物が3つある。
1つは寮のある棟、そして警備室のある建築物、そして設備担当が寝泊まりするプレハブだ。
この時の智香は、まさかあんなむごたらしい事件が起きるなどとは思わなかった。
良い天気の暖かな日曜で、今まで同様穏やかに過ぎてゆくと信じていたのだ。
女子寮は同じ大学の構内にはなく、少し離れた場所にある。智香は今、自分の部屋にいた。
今日は4月23日の日曜なので授業はない。時刻は昼の12時だ。自室の窓から寮の敷地内が見える。
今日は気持ちよく晴れている。すでに4月だから暖かい。
窓には白いレースのカーテンが引いてある。
窓外に、同じ女子寮に住んでいる月島聖良(つきしま せいら)の姿が見えた。
聖良は可愛らしい女性だ。愛くるしい2つの目、白く透き通るような肌、まるで花が咲きほころんだようなスマイルを浮かべている。
身長は150センチぐらいだろうか。最初に彼女と会った時、まるで天使が現れたのかと感じたぐらいだ。
それほどピュアでノーブルな雰囲気をたたえていた。
聖良は今、この寮の設備関係のメンテナンスの仕事をしている西俣(にしまた)という男と話していた。
西俣は若い頃野球をやっていたそうで腕は筋肉質で太いが、現在はかなり腹も出ている。
白いヘルメットをかぶり、緑色の作業着を着ていた。
年齢は50歳前後ぐらいか。同じ設備会社の人と交代で、朝9時から翌朝9時まで24時間交代の勤務についていた。
寮に住む女子学生に誰彼構わずひっきりなしに声をかけるので嫌う者もいる。
なので寮生達は大抵、設備の不良が生じた場合、急ぎではない限り西俣が当番ではない日に修理を頼むケースが多かった。
智香も含めて西俣に声をかけられた時はつれなくする時が多かったのだが、人の良い聖良は、笑顔で西俣に対応していたのだ。
それも無理に合わせてるという感じではなかった。本当に相手との会話を楽しんでるという雰囲気である。
その時西俣のスマホが鳴ったらしく、彼は作業着のポケットからそれを取り出した。
聖良はそのタイミングでその場を離れ、智香のいる建物の方へ歩いてくる。智香は、自分の部屋を出た。
そしてスキップしながら聖良のいる方へ向かう。
「西俣さんは、あなたの事がお気に入りね」
建物内の共用部にある通路に来た聖良に対して笑いながら、智香が話した。
「そのうちプロポーズされるんじゃないの?」
「そんなわけないよ」
聖良がふきだす。
「万が一あったとしてもお断りします。年齢が離れすぎてるもん」
彼女が苦笑いを浮かべた。
「それよりも、聖良は何か悩みがあるんじゃないの?」
聖良が目を丸くする。口もまあるく開いていた。
「鋭いね。何でそんなのわかるの? 前から感じたけど、本当智香ちゃんって頭いいよね」
「そんなわけないよ。ただ、一緒の寮に1年以上もいるんだから何となくわかるって」
聖良も智香も大学2年だ。去年の春に入学して、1年ちょっとこの寮に2人共住んでいる。
「別に大した悩みじゃないんだ。そのうち解決すると思う。心配させて、ごめんね」
聖良は手をふりながらその場を離れ、自分の部屋へと立ち去った。
でも今考えれば、何が何でもその悩みを聞くべきだったのだ。今でも智香は、その件を後悔している。
悔やんでも、悔やみきれなかった。
聖良が立ち去った後、この寮の警備隊長をやっている卯原(うはら)という男がガードマンの制服姿で現れた。
若い頃から柔道を習ってたそうでガタイがいい。見る者を安心させる笑顔を浮かべている。
年齢は60代ぐらいだろうか。愛妻家らしく、よく妻子の話をしてくれた。
人当たりがよいので、寮生からも人気がある。
以前北区の赤羽駅の近くで聖良にからんでいた不良を、たまたま通りがかった卯原が救った時があり、それも卯原の評判を押しあげていた。
「さっき設備の西俣がしきりに月島さんに話しかけてたけど、彼女迷惑じゃなかったのかな? もしよければ、俺からあいつに注意するけど」
心配そうに卯原が聞いた。
「大丈夫ですよ。聖良さん、そんなの気にする子じゃないんで」
「なら、いいけど。しかし西俣もしょうもない奴だなあ。相手は親子程年齢が違うのに。50歳過ぎても独身なんて、どっか問題あるんだよな。うちにも大阪の大学に行った娘がいるんで、あんな馬鹿にからまれてないか、心配だよ」
「あらこないだは娘さん、京都の大学に進学したっておっしゃってませんでしたっけ」
「そうだったっけ? ごめんごめん。こないだ多分言い間違えた。本当は大阪だよ」
「娘さんさびしがって、しょっちゅう電話やメールをくださるんじゃないですか?」
「それが、そうでもないんだよね」
卯原が声を落とした。
「あら。卯原さんから連絡はしないんですか?」
「してないね。あっ、そう言えば、今夜9時から応援者で磯山って若い奴が別の現場から夜勤で来るからよろしくね」
「そうなんですね。誰かやめて、その人がこれから勤務になるんですか?」
「いやそうじゃないけど、たまたま今夜は人員の手配がつかなくてね。以前僕がマンションで警備隊長をやっていた時部下だった20代の若手に今夜だけ働いてもらうんだ」
この女子寮では朝9時から翌朝9時まで24時間勤務の警備員が1人交代で勤務についている。
それに加えて夜9時から翌朝9時まではもう1人夜勤で働いているのだ。
年間通じて曜日関係なく、そのシフトは変わらなかった。
「本人には念を押しておくけど、万が一寮生にちょっかい出すような真似したら、教えてね」
「わかりました。ありがとうございます」
思わず笑顔になって、智香が答える。やがて卯原は警備室にある建物に向かって歩いて行く。
この寮がある敷地内には建物が3つある。
1つは寮のある棟、そして警備室のある建築物、そして設備担当が寝泊まりするプレハブだ。
この時の智香は、まさかあんなむごたらしい事件が起きるなどとは思わなかった。
良い天気の暖かな日曜で、今まで同様穏やかに過ぎてゆくと信じていたのだ。
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