地球に優しい? 侵略者

空川億里

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第6話 新天地での出会い

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 戦艦の下方から地面に向かって光の束が放たれるとガシャンテと、彼にナイフを突きつけた日本人に命中した。次の瞬間、2人は艦内に移動する。
「ガシャンテ閣下、よくぞこの艦を訪問された。自分はショードファ宇宙軍ワランファ准将だ」
 ガシャンテの眼前に白い肌をした1人の人物の姿がある。肌と言ってもチャマンカ人や地球人のような肌ではない。
 もっと硬質な、ちょっと見ただけではプラスチックでできたようなボディだがプラスチック程もろくはなく、自分の意思で硬軟自在に変化できるのをガシャンテは知っていた。
 ワランファの声は低い男の声だ。
 知的生命体によっては男の方が女より声の低い種族もいるが、ショードファ人はチャマンカ人や地球人同様男の方が一般的に低い。
 顔にガチャガチャのカプセルのような大きさと形をした真っ白な目が2つあって、その奥がピンクに光っていた。
「やはり貴様らか」
 ガシャンテは鼻を鳴らした。
「プラズマ・ナイフも宇宙戦艦も、地球人が入手するのは無理だ。機械オタクの貴様らには簡単だろうが」
「機械オタクの捕虜になった気持ちはどうだ」
 ワランファが嘲笑の言葉を放った。
「少しは貴様らの侵略で辛酸をなめつくしたショードファ人の気持ちがわかったか」
「わしを殺したければ殺すがいい。が、チャマンカ帝国の威光は微動だにせんわ」
 怒髪冠を衝く勢いで、ガシャンテがつばをとばした。怒りのあまり全身が、燃え盛るように熱くなる。
「どこまでそんな、口が聞けるか見ものだな」
 横から口をはさんだのは、花束を持ってきた日本人の男だ。
 ナイフのように鋭い目が氷河のように冷ややかに、ガシャンテの顔を見ていた。
 彼の手にしたプラズマ・ナイフの切っ先は、ガシャンテの喉元に突きつけられたままである。
 改めて見ると、筋肉質の素晴らしい体をしている。
「今日のパレードを観たか」
    ガシャンテは、諭すように話しはじめた。
「多くの日本人……いや多くの地球人が、わしらの統治に感謝しておる。偉大な帝国の統治のおかげで過労死がなくなり、警察の追及を逃れていた犯罪者達も逮捕され、冤罪も戦争もなくなり、圧政をしいていた独裁政権は倒れ、尊厳死も認められるようになった。我々がCО2を減らしたおかげで地球の平均気温も下がり、温暖化にストップがかかった。原発の放射性廃棄物も全て無毒化し、大気や水の汚染物質も全部除去した。いい事ずくめではないか」
「地球の政治をどうするかは、おれ達地球人が決めるべきだ」
    日本人の男は怒声を放った。
「政策の是非はともかく、あんたのようなクマ野郎に、いいようにされてたまるか」
「それでショードファ人と、手を組むのか。おめでたいな」
    ガシャンテは、全身が白いプラスチックの塊のような男の方を指さした。
「気がついたらお前ら地球人はハイテク・オタクの奴隷にされてるのがオチだ。我々の統治に疑問があるなら意見は聞くぞ。奴らと組むのはやめた方がいい」
 ガシャンテは、不敵な笑みを浮かべている。



 蒼介は『新天地』での労働にすっかり慣れた。彼だけではない。
 ここへ来る時『仕事をした経験がない』と話してた女性も、最初はあまり口をきかなかったが、最近ではすっかり周囲に打ち解けていた。
    ちなみに彼女は蒼介より10歳下の30歳で、諸戸心春(もろと こはる)という名前だ。
「あの心春ちゃんって子に気があるの?」
 『新天地』の工場にある従業員用の食堂で一緒に食事をしていた男が突然聞いてきた。名字は穂刈(ほかり)だ。
    下の名前は知らないし興味もなかった。正確な年齢も知らないが50代の男性で、話し好きの男である。
    何かスポーツをやってたのか体格はいい。
「そんなんじゃないっすよ。年も離れてるし、興味ないです」
「早くいい子探さないと、おれみたいに50過ぎても独身だぞ」
「それでも、別にいいです」
 思わず笑って答えた。正直蒼介はチャマンカ人が来て以来あまりの生活の激変ぶりに戸惑い、恋愛とか結婚とかに気が向かない感じである。
    気になる女も特にいない。蒼介にレジスタンスをけしかけていた雫石結菜は、すでにここを離れていた。
 噂では『新天地』で同志を得られなかったため、地球で働く気になったらしい。
    チャマンカ人からは地球で働くなら、別にここをいつ辞めてもいいと言われていた。
    今のところ、どこまでも寛容な支配者だ。
 蒼介達地球人に怒鳴ったり、暴力をふるう事もない。パワハラやセクハラも皆無である。
「結菜ちゃんだ」
 誰かの声が聞こえてきてそっちを観ると、食堂にあるテレビのホロ映像に、久々に観る彼女の姿があった。
「全地球上のみなさん」
 テレビのスピーカーから、結菜のよく通る高い声が響いてくる。
「我々は『アース・パルチザン』です。この星の今を憂う愛国の志士の集まりです。現在この星は、チャマンカ人に統治されています。確かにかれらは一滴の血も流さずに、この星を征服しました。また、いくつかの点で見るべき政策があるのも確かです。が、だからと言って、奴隷の平和に甘んじて良いのでしょうか」
(何だよ。そのアース・パルチザンって)
 思わず蒼介は、心中でつぶやいた。結菜の態度は堂に入ったものである。
     苦手な女だったが、そういう所は認めねばなるまい。
「みなさんが観てるこの映像は、地球上のある場所から放送し、強制的にみなさんが使用してる端末に割りこんでいます。ちょうどチャマンカ人がこの星へ来た時やったのと同じ方法です。そんな真似ができるのも、かれらの中にも圧制に心を痛める人々がおり、かれらの協力を得たからです。そして我々は、チャマンカ帝国軍のガシャンテ大将を拘束しました」
 ホログラムは彼女の代わりに、後ろ手に縛られたガシャンテ将軍を映しだす。「我々はチャマンカ軍に、地球からの撤退を要求します。撤退しなければ、ガシャンテ将軍の生命を保障するとは限りませんので、そこんとこよろしく」
 なぜか結菜はウィンクしながら投げキッスした。その直後映像は消失し、ホログラムは、普段のテレビ番組に戻った。
「結菜ちゃん、すげーな」
 隣にいた穂刈が、驚いた声をあげる。
「これで大総督府がどう出るかだな。しかしまさか、将軍1人拉致しただけで、チャマンカ軍が撤退するわけねえだろうし」
 チャマンカの大総督府は、ニューヨークの元国連本部に存在していた。
 世界各国に大総督府の指示で動く総督府があり、日本は東京に1か所あった。
「パレードがあった時拉致されて、ワープしてきた宇宙戦艦に連れ去られたんでしたよね」
 蒼介が、穂刈を見た。
「あの戦艦が、チャマンカ人の反政府ゲリラの物なのかな」
「ちいっと面白くなってきたぜ」
 穂刈がまるで彼の好きなアクション映画でも観てるかのような口調で話した。
「あたし、やだ」
 突然、聞きなれない女性の声があたりに響いた。驚く事に声の主は、諸戸心春だ。
    普段小声でそもそもあまりしゃべらないので、一瞬誰の声かわからなかったのだ。
    いつもの彼女には考えられないきっぱりとした口調である。
「あたし、チャマンカの方がいい」
 彼女はまるで射るかのように、すでに元の映像に切り替わったテレビを見ていた。
                   
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