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10話:異世界古書店②
しおりを挟む扉の開く音に柳はビクリと体を震わせ、息を飲んだ。
若葉の言う通り、現れるのが人間だとは限らない。
そう思うと、心臓がバクバクと盛んに鳴った。
【そこに居るのは分かってる、出てきなさい】
聞こえてきた低い声を無視し、若葉は本棚の影にサッと身を隠したが、柳はま正直に「ごめんなさい…」と声の方へと進んでいく。
「ばっ!」
若葉はそんな柳を止めようと一瞬手を伸ばしたが、すぐに諦めて腕を引っ込めた。
(そうだ、あんな奴どうなったっていいんだ)
【何故こんな所にいる?そして何故ずぶ濡れなんだ、こんな所で雨にでも振られたか?】
低い男の声に、柳はびくびくとしながら「あ…えっと…月を通ってきたらここに…」とか細い声で返す。
不思議なことに、狭間の世界では鮮明に景色を映し出していた柳の瞳は、現世と同じくらい不明瞭な視力へと戻っていた。
辛うじて男のシルエットが見える程度で、外見の詳細までは捉えることができない。
【お前…私が見えていないのか?】
怯えながらも、男の姿を捉えようとじっと自分を見つめる柳に、男は少し驚いたような声を出した。
「あ…目が悪くて…」
【そうか…それは気の毒に。それでは書物もろくに読めまい】
「書物…あ、はい。字は読めません」
【なんてことだ…書物も読めぬ生など退屈で仕方がないではないか】
「あ、でも点字があるので全く読めなくはないです!読み聞かせ出もらうこともありますし!」
過度に憐れまれるのが苦しくて、柳が明るく返すと、男は【点字?読み聞かせ?それはなんだ?】と興味津々な様子。
「えっと、点字っていうのは…」
【待て、話は店で聞こう。それとお前も奥で隠れている奴もずぶ濡れのままだと風邪をひく。人間は風邪で死ぬ事があるらしいからな、はやく風呂に入って着替えなさい、話はそれからだ】
柳が点字について説明をしようとした時、男はそれを遮り、奥に潜んでいる若葉へと声を掛けると、
次に柳の手を引っ張って書庫から出るなり、ふわふわの真っ白なタオルと黒いワンピースを投げつけるようにして渡してきた。
【はやく風呂を済ませて来なさい、でないと話が進まない】
「あ…はい…?」
柳は言われるがままに、男に導かれ、バスルームへと入った。
(いつも看護婦さんが見守ってくれるんだけど…まあ、大丈夫だよね…)
柳がゆっくりと服を脱ぎ、恐る恐るシャワーに手を伸ばした時、バタンっと音がしたかと思うと、「目、見ずらいんでしょ?仕方ないから手伝ってあげる」と若葉の声がした。
「ありがとう!実は一人でシャワー浴びるの初めてで、怖かったの」
「ほんと…子供みたい」
「へへへ…」
そうして若葉に入浴を手伝って貰い、2人が男のもとへ戻ると、そこには20代半ばくらいの女性がカウンターに散らかっている本を慌ただしく片付けながらお茶の準備をしているところだった。
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