俺達のヴォーカルが死んだ

1話

「Violet解散てマジ？」


「仕方なくない…？昌があんなことになっちゃってさ…メンタル的に無理でしょ…」


「それはそうかもしれないけど…解散は…昌だってして欲しくないんじゃないかな…」


「そんなの誰にも分からないよ、とにかくメンバーが決めたことだし、ウチらは見守ろ」


「うん…」


生徒がまばらになった放課後の教室で女子生徒達の会話を聞いていた町田は、机に伏せていた体を起こして伸びをした。


そして何も入っていないカバンを手に持って立ち上がると、まだお喋りを続けている女子生徒達の横を通って教室を出た。



向かう先は特別棟にある軽音部の部室。



町田はその途中にあるトイレへと寄って鏡を確認した。


「あ～マジでこの髪鬱陶しいわ、帰りに陽介さんとこ寄ろ～」


視界を遮断する黒い長い前髪を町田は手でぐしゃぐしゃとかきあげて、なんとか癖をつけようとするが、かなりの直毛なようで、すぐに元の位置に戻ってきてしまう。


「ま、今日はこのままでいいか」


町田は目がほとんど隠れた自分の顔を鏡でもう一度色んな角度から確認する。


「コイツ、顔は別に悪くないと思うんだけどなー」


一頻り確認さは終わると、町田はトイレを出て軽音部の部室へと再び歩き出した。


道すがら吹奏楽部の演奏の音や、運動部の掛け声が心地よい春の風と共に耳を通り抜けていく。


(あ、今日帰ったら一曲書けそう)



町田がそう思った瞬間、曲のパート別にどんどんとメロディが町田の脳内に溢れてくる。


その感覚に心地良さを感じ、無意識に微笑みながら歩いていると、あっという間に目的の軽音部へと到着してしまった。


いつもこの時間なら既に音出しをしているはずだが、部室からはなんの音も聞こえない。


町田は部室のドアノブを握って、一度大きく息を吐いてから「すいませーん」とドアを開けて中へと踏み出した。