俺達のヴォーカルが死んだ

空秋

文字の大きさ
5 / 15

5話

しおりを挟む


晶が町田として生活し始めてから1週間がたった頃、晶はあっという間に自宅謹慎処分となった。


理由は町田をイジメていた主犯格のグループを教室でボコボコにしてしまったからだという。


「あの馬鹿はなにやってんだ!」


「まあでも、いつかはこうなるとは思ってたよね。地味でイジメてた奴が急にあんな生意気な奴になったら、イジメてる側としたら普通ほっとかないでしょ」


ベースをケースにしまいながら樹が朝陽に返事をした。


「だからってなんで実力行使なんだアイツは!お陰でろくに練習も出来ねー!何が連帯責任だ、ふざけんな!!」


なけなしの高校生の小遣いを使い、カラオケでの練習を終えた朝陽と樹、暖はそのまま晶の居る町田の家へと向かった。


しかし、案の定晶は家におらず、結局最寄りのショッピングモールに居ることが分かった。


そしてメンバーが現地に到着する頃には、沢山のギャラリーに囲まれたその中心で、美しいピアノを奏でる晶の姿があった。



「アイツ…いつの間にピアノなんて…」


「これ新曲か?聞いたことないな」


「そうだ、まだ詞はつけてないけど」


朝陽と樹に暖が頷いた。


暖は晶が作曲した譜に詞を書いている。


晶が曲を弾き終わると、疎らに拍手がおき、制服姿の女子達が晶へと写真を求めたり、親子連れが曲のリクエストなどに駆け寄ってきたりとで中々3人が晶に近付けずにいると、ふと晶がコチラを振り向いた。


そして自分に群がってくる人々に一言二言なにか言ってその輪の中から抜け出してくると、真っ直ぐに朝陽達の方へと向かって来た。



「よ、偶然だな」


町田の感情が希薄そうな顔でニカッと晶が笑う。


「偶然なんかじゃねーよ、お前謹慎中なのになんで目立ってんだよ」



「トイッターでウチの生徒がお前の動画上げてたぞ」


朝陽と樹の言葉に、晶は「へー」と特に興味なさげに頷いた。


「晶、スマホないの?」


「無い」


樹の質問に、晶は謎にウインクする。


「つか、お前いつの間にピアノなんて弾けるようになったんだよ?」


「あーそれは俺じゃなくて町田が元々弾いてたみたいなんだよな。家にキーボードなんて何処にもなかったけど、古い楽譜と教則本はあった。指も柔らかいし、きっと最近まで弾いてたんだろうな」


「なるほど。じゃあ、晶は本当に町田をウチの…violetのキーボードにする気なんだね?」


「そ」


樹と晶の間て進んでいく話にストップを掛けたのは朝陽だった。


「ちょっと待てよ。それはお前が町田で居る内の話だよな?」


「いや、ずっと」


「ずっと?」


「このvioletでメジャーデビューする」


「はあ!?俺らはソイツのこと知らないのにか!?お前が消えた後、ソイツがバンド抜ける可能性とか考えろよ!!」


朝陽の言葉に暖が黙って頷く。


樹に至っては特に反対も賛成の色も見せない。


しかし晶は「抜けねーよコイツは」と断言した。


「コイツの家に古い楽譜かあったって言ったよな?それは市販のヤツじゃなくてコイツ自身が作曲した物だった。俺が消えた後、violetの曲はコイツに書いて貰う。そんで、ヴォーカルは朝陽だ」


「だからその話は…」


「俺が決めた。朝陽、お前の歌悪くねーよ。確かに俺ほど上手くはねーけど、そこら辺のヤツらよりは絶対上だからやれ」


「やれって…勝手なこと言ってんじゃねーぞ…」


「お前らだって勝手に俺のバンド解散させようとしてんなよ」


晶の言葉に、反対していた朝陽と暖がひるんだ。


樹はそんな二人を見た後、晶に「violetのヴォーカルは晶だけだから」とかなり端的なフォローを入れる。


「そんなの分かってる、当たり前のこと今更言うなよ。violetのヴォーカルは俺だけだ。俺はなにも朝陽にヴォーカルを譲るって話をしてるんじゃない、"俺が戻るまでの間"任せるって言ってんだ」


晶は言いながらメンバーの顔を順番に見つめた。


その黒目がちな瞳は町田のものだったが、その瞳に宿る強い意志は確かに晶のものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

処理中です...