俺達のヴォーカルが死んだ

空秋

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5話

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晶が町田として生活し始めてから1週間がたった頃、晶はあっという間に自宅謹慎処分となった。


理由は町田をイジメていた主犯格のグループを教室でボコボコにしてしまったからだという。


「あの馬鹿はなにやってんだ!」


「まあでも、いつかはこうなるとは思ってたよね。地味でイジメてた奴が急にあんな生意気な奴になったら、イジメてる側としたら普通ほっとかないでしょ」


ベースをケースにしまいながら樹が朝陽に返事をした。


「だからってなんで実力行使なんだアイツは!お陰でろくに練習も出来ねー!何が連帯責任だ、ふざけんな!!」


なけなしの高校生の小遣いを使い、カラオケでの練習を終えた朝陽と樹、暖はそのまま晶の居る町田の家へと向かった。


しかし、案の定晶は家におらず、結局最寄りのショッピングモールに居ることが分かった。


そしてメンバーが現地に到着する頃には、沢山のギャラリーに囲まれたその中心で、美しいピアノを奏でる晶の姿があった。



「アイツ…いつの間にピアノなんて…」


「これ新曲か?聞いたことないな」


「そうだ、まだ詞はつけてないけど」


朝陽と樹に暖が頷いた。


暖は晶が作曲した譜に詞を書いている。


晶が曲を弾き終わると、疎らに拍手がおき、制服姿の女子達が晶へと写真を求めたり、親子連れが曲のリクエストなどに駆け寄ってきたりとで中々3人が晶に近付けずにいると、ふと晶がコチラを振り向いた。


そして自分に群がってくる人々に一言二言なにか言ってその輪の中から抜け出してくると、真っ直ぐに朝陽達の方へと向かって来た。



「よ、偶然だな」


町田の感情が希薄そうな顔でニカッと晶が笑う。


「偶然なんかじゃねーよ、お前謹慎中なのになんで目立ってんだよ」



「トイッターでウチの生徒がお前の動画上げてたぞ」


朝陽と樹の言葉に、晶は「へー」と特に興味なさげに頷いた。


「晶、スマホないの?」


「無い」


樹の質問に、晶は謎にウインクする。


「つか、お前いつの間にピアノなんて弾けるようになったんだよ?」


「あーそれは俺じゃなくて町田が元々弾いてたみたいなんだよな。家にキーボードなんて何処にもなかったけど、古い楽譜と教則本はあった。指も柔らかいし、きっと最近まで弾いてたんだろうな」


「なるほど。じゃあ、晶は本当に町田をウチの…violetのキーボードにする気なんだね?」


「そ」


樹と晶の間て進んでいく話にストップを掛けたのは朝陽だった。


「ちょっと待てよ。それはお前が町田で居る内の話だよな?」


「いや、ずっと」


「ずっと?」


「このvioletでメジャーデビューする」


「はあ!?俺らはソイツのこと知らないのにか!?お前が消えた後、ソイツがバンド抜ける可能性とか考えろよ!!」


朝陽の言葉に暖が黙って頷く。


樹に至っては特に反対も賛成の色も見せない。


しかし晶は「抜けねーよコイツは」と断言した。


「コイツの家に古い楽譜かあったって言ったよな?それは市販のヤツじゃなくてコイツ自身が作曲した物だった。俺が消えた後、violetの曲はコイツに書いて貰う。そんで、ヴォーカルは朝陽だ」


「だからその話は…」


「俺が決めた。朝陽、お前の歌悪くねーよ。確かに俺ほど上手くはねーけど、そこら辺のヤツらよりは絶対上だからやれ」


「やれって…勝手なこと言ってんじゃねーぞ…」


「お前らだって勝手に俺のバンド解散させようとしてんなよ」


晶の言葉に、反対していた朝陽と暖がひるんだ。


樹はそんな二人を見た後、晶に「violetのヴォーカルは晶だけだから」とかなり端的なフォローを入れる。


「そんなの分かってる、当たり前のこと今更言うなよ。violetのヴォーカルは俺だけだ。俺はなにも朝陽にヴォーカルを譲るって話をしてるんじゃない、"俺が戻るまでの間"任せるって言ってんだ」


晶は言いながらメンバーの顔を順番に見つめた。


その黒目がちな瞳は町田のものだったが、その瞳に宿る強い意志は確かに晶のものだった。
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