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3 婚活開始
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国王夫妻がボックス席の椅子に座ると、ダンスホールのテーブル席に飲み物と軽食が運ばれてきた。
ソフィーの向かいの親子は、飲み物を手に取ると、足早に席を離れて行った。
「何なのアレ……ああ、腹が立ってきた。ビンタくらいしといた方が良かったかな」
テーブル席に座ったソフィーが、立ち去る親子を睨み付けながら小声で呟いた。
「後で私が一発お見舞いしておきますよ、お嬢」
ソフィーの後ろからウィルの声が聞こえた。
ソフィーが振り向くと、ウィルは立ち去った親子の背中を目で追って、冷たく微笑んでいた。ウィルがこの顔をするときは、かなり怒っている証拠だ。
「冗談抜きでお願いしようかしら……って、やっぱりダメね。でも、ありがと、ウィル」
ソフィーが笑顔でウィルに言った。それを聞いたウィルも、いつもの笑顔に戻った。お互い顔を見合わせクスッと笑い合った。
ウィルのお蔭で少し気が紛れたソフィーは、ダンスホールを見渡した。
多くの貴族が席を立ち、あちこちで談笑していた。
たまたまソフィーが見たある若い男性は、身なりからしてかなり高貴な身分。宝石が散りばめられた赤い花飾りを、同じく身なりからして高貴な純白ドレスの若い女性に手渡していた。
その女性が花飾りを受け取ると、男性が女性の手を取り2人でダンスホールの中央に歩み出た。2人並んで国王のいる正面2階のボックス席に深々と一礼する。
周りで拍手が起きる中、2人は優雅に踊り始めた。
「あれは、大公のご子息と辺境伯のご令嬢。まあ、もともと婚約してるんだけどね」
いつの間にか、ソフィーの近くにグラスを片手に持った長身の男性が立っていた。
20代前半だろうか。切れ長の目に整った顔立ち。自信に溢れた不敵な笑み。胸のポケットには一輪の赤い花が差し入れられていた。
ソフィーが慌てて立ち上がった。切れ長の目の男性が笑みを浮かべながら、ソフィーに言った。
「王の盟友、南方騎士団長のご令嬢で合ってるかな?」
「は、はい。あ、あの、どこかでお会いしたことが?」
「いや、初めてだよ」
切れ長の目の男性が不敵な笑みを浮かべ、グラスの果実酒を一口飲むと、話を続けた。
「春分舞踏会は、国王陛下の御前で正式に婚約を披露する絶好の機会だからね。ほら、見てみな?」
ダンスホールの中央には、次々と若い男女が歩み出て、国王に一礼すると、周りの拍手の中、踊りに加わり始めた。
「ほとんどの貴族は、すでに相手が決まってると思うけど、新たな出会いを探してる者もいる」
ダンスホール中央で踊る男女を眺めながら、切れ長の目の男性がそう言うと、ソフィーにグラスを掲げた。
「君の家は何かと特別だ。お相手探しは色々苦労すると思うけど、ま、頑張ってね」
そう言うと、切れ長の目の男性はグラスの果実酒を飲み干した。そして、ソフィーに軽くウインクすると、クルリと背を向け、背中越しに手を振りながら去って行った。
「だ、誰だったんだろ」
「身なりからして大貴族でしょうが、何かの冷やかしですかね?」
ソフィーとウィルは、ダンスホールの人混みに消えていく男性の背中を見つめた。
† † †
「ああ、あの南方騎士団長のご令嬢ですか……」
舞踏会の中、ソフィーはウィルを伴い、胸元に赤い花のある貴族の若者にどんどんと声を掛け続けた。
しかし、相手の反応はイマイチ。大貴族には見下され、そんなに地位の高くない貴族や南方騎士団のことに詳しい貴族からは怖がられ、いずれも会話が長続きしなかった。
「はぁ、もうイヤになっちゃった……」
「お嬢、じゃなかった、お嬢様。他にも色々機会はあるはずですし、今日のところはそろそろ帰りましょう」
ヘトヘトになったソフィーとウィルが、人混みから離れた壁際に立って半ば諦めていると、向こうの方から従者を伴った若い男性が歩いて来た。
「お疲れのようですね。飲み物はいかがですか?」
若い男性がソフィーにそう言うと、近くの王宮使用人からグラスを2つ受け取り、そのひとつをソフィーに手渡した。
男性は、ソフィーより少し年上といったところ。甘いマスクに優しい笑顔。胸元には小さな赤い花のブローチを着けていた。
「初めまして。私はコンラート。キール公爵家の嫡嗣で、父の爵位のひとつ、ロストーク伯を名乗っております」
コンラートが優雅に会釈をした。ソフィーが慌ててお礼を言う。
「お気遣いありがとうございます。ロストーク伯爵閣下」
「はは、コンラートでいいですよ。お美しいレディ。どちらのご令嬢で?」
「あ、な、南方騎士団長の娘、ソフィーと申します……」
すっかり自信をなくしていたソフィーが、消え入るような小声で自己紹介した。それを聞いたコンラートが、嬉しそうにソフィーに言った。
「おお、あの有名な南方騎士団長のご令嬢ですか! お会い出来て光栄です」
「え?」
驚くソフィーに、コンラートが嬉しそうな笑顔で話を続けた。
「父が北海守護騎士団長も務めていまして、そこの騎士達からよく南方騎士団の武勇伝を楽しく聞かせてもらっていたのですよ。もしよろしければ、あちらのテーブルで少しお話しませんか?」
「ぜ、是非とも!」
大貴族の嫡男からの誘いを受け、疲れが一気に吹き飛んだソフィーは、コンラートの誘いに元気良く返事した。
ソフィーの向かいの親子は、飲み物を手に取ると、足早に席を離れて行った。
「何なのアレ……ああ、腹が立ってきた。ビンタくらいしといた方が良かったかな」
テーブル席に座ったソフィーが、立ち去る親子を睨み付けながら小声で呟いた。
「後で私が一発お見舞いしておきますよ、お嬢」
ソフィーの後ろからウィルの声が聞こえた。
ソフィーが振り向くと、ウィルは立ち去った親子の背中を目で追って、冷たく微笑んでいた。ウィルがこの顔をするときは、かなり怒っている証拠だ。
「冗談抜きでお願いしようかしら……って、やっぱりダメね。でも、ありがと、ウィル」
ソフィーが笑顔でウィルに言った。それを聞いたウィルも、いつもの笑顔に戻った。お互い顔を見合わせクスッと笑い合った。
ウィルのお蔭で少し気が紛れたソフィーは、ダンスホールを見渡した。
多くの貴族が席を立ち、あちこちで談笑していた。
たまたまソフィーが見たある若い男性は、身なりからしてかなり高貴な身分。宝石が散りばめられた赤い花飾りを、同じく身なりからして高貴な純白ドレスの若い女性に手渡していた。
その女性が花飾りを受け取ると、男性が女性の手を取り2人でダンスホールの中央に歩み出た。2人並んで国王のいる正面2階のボックス席に深々と一礼する。
周りで拍手が起きる中、2人は優雅に踊り始めた。
「あれは、大公のご子息と辺境伯のご令嬢。まあ、もともと婚約してるんだけどね」
いつの間にか、ソフィーの近くにグラスを片手に持った長身の男性が立っていた。
20代前半だろうか。切れ長の目に整った顔立ち。自信に溢れた不敵な笑み。胸のポケットには一輪の赤い花が差し入れられていた。
ソフィーが慌てて立ち上がった。切れ長の目の男性が笑みを浮かべながら、ソフィーに言った。
「王の盟友、南方騎士団長のご令嬢で合ってるかな?」
「は、はい。あ、あの、どこかでお会いしたことが?」
「いや、初めてだよ」
切れ長の目の男性が不敵な笑みを浮かべ、グラスの果実酒を一口飲むと、話を続けた。
「春分舞踏会は、国王陛下の御前で正式に婚約を披露する絶好の機会だからね。ほら、見てみな?」
ダンスホールの中央には、次々と若い男女が歩み出て、国王に一礼すると、周りの拍手の中、踊りに加わり始めた。
「ほとんどの貴族は、すでに相手が決まってると思うけど、新たな出会いを探してる者もいる」
ダンスホール中央で踊る男女を眺めながら、切れ長の目の男性がそう言うと、ソフィーにグラスを掲げた。
「君の家は何かと特別だ。お相手探しは色々苦労すると思うけど、ま、頑張ってね」
そう言うと、切れ長の目の男性はグラスの果実酒を飲み干した。そして、ソフィーに軽くウインクすると、クルリと背を向け、背中越しに手を振りながら去って行った。
「だ、誰だったんだろ」
「身なりからして大貴族でしょうが、何かの冷やかしですかね?」
ソフィーとウィルは、ダンスホールの人混みに消えていく男性の背中を見つめた。
† † †
「ああ、あの南方騎士団長のご令嬢ですか……」
舞踏会の中、ソフィーはウィルを伴い、胸元に赤い花のある貴族の若者にどんどんと声を掛け続けた。
しかし、相手の反応はイマイチ。大貴族には見下され、そんなに地位の高くない貴族や南方騎士団のことに詳しい貴族からは怖がられ、いずれも会話が長続きしなかった。
「はぁ、もうイヤになっちゃった……」
「お嬢、じゃなかった、お嬢様。他にも色々機会はあるはずですし、今日のところはそろそろ帰りましょう」
ヘトヘトになったソフィーとウィルが、人混みから離れた壁際に立って半ば諦めていると、向こうの方から従者を伴った若い男性が歩いて来た。
「お疲れのようですね。飲み物はいかがですか?」
若い男性がソフィーにそう言うと、近くの王宮使用人からグラスを2つ受け取り、そのひとつをソフィーに手渡した。
男性は、ソフィーより少し年上といったところ。甘いマスクに優しい笑顔。胸元には小さな赤い花のブローチを着けていた。
「初めまして。私はコンラート。キール公爵家の嫡嗣で、父の爵位のひとつ、ロストーク伯を名乗っております」
コンラートが優雅に会釈をした。ソフィーが慌ててお礼を言う。
「お気遣いありがとうございます。ロストーク伯爵閣下」
「はは、コンラートでいいですよ。お美しいレディ。どちらのご令嬢で?」
「あ、な、南方騎士団長の娘、ソフィーと申します……」
すっかり自信をなくしていたソフィーが、消え入るような小声で自己紹介した。それを聞いたコンラートが、嬉しそうにソフィーに言った。
「おお、あの有名な南方騎士団長のご令嬢ですか! お会い出来て光栄です」
「え?」
驚くソフィーに、コンラートが嬉しそうな笑顔で話を続けた。
「父が北海守護騎士団長も務めていまして、そこの騎士達からよく南方騎士団の武勇伝を楽しく聞かせてもらっていたのですよ。もしよろしければ、あちらのテーブルで少しお話しませんか?」
「ぜ、是非とも!」
大貴族の嫡男からの誘いを受け、疲れが一気に吹き飛んだソフィーは、コンラートの誘いに元気良く返事した。
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