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第65話【美容室】
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黒田ホールディングス主催の年末チャリティーパーティー当日。
幸は、洋子が経営する美容室で、パーティーに向けて身支度を整えていた。
幸のヘアメイクを担当するのは、世界大会で優勝経験を持つ本店の店長。
鏡の前の椅子に腰かける幸の隣では、洋子もまた、チーフスタイリストに手際よくヘアメイクを仕上げてもらっている。
実は今日のイベントには、洋子自身も参加することが決まっていた。
もともと招待状は朋美ママ宛てに届いていたが、当の朋美ママは予定が立て込んでいて参加が難しい。
そのため、山川家の代表として洋子が代わりに出席することになったのだ。
そんな事情もあって、ふたり並んでヘアメイクの施術を受けているわけなのだが――
「ねぇ、幸。……あの黒服の男たちって、もしかしてボディーガード?」
女性客が多い美容室の中で、体格のいい黒服の男性三人組はどう見ても異質で、
目立つ。
「そう。圭吾のことを警戒して、匠さんがボディーガードをつけてくれたの」
「そうなんだ……。最初、黒服三人組を見た時は、文お祖母様も一緒に来てるのかと思っちゃったわよ」
洋子がクスッと笑い、ちらりと幸を見る。
「でも、その彼……幸のこと、本当に大事にしてくれてるんだね」
洋子の言葉に、幸の胸にふわりと温かさが広がった。
「そうなの。いつでも私のことを気遣ってくれるから……。匠さんといると、心が穏やかでいられるの」
匠の話をするだけで、幸の心は幸せで満たされる。
「本当にいい人なんだね。それにしても、早かったよね。幸がこんなに早く婚約するなんて、私もビックリしちゃったよ」
「実は、私自身が一番驚いてるの……。だから、洋子が驚くのも無理ないかも」
婚約が決まった時、幸は電話で簡単な報告だけはしていた。
けれど、こうして顔を合わせるのは久しぶりだから、話題は次々とあふれ、会話が尽きることがない。
近況を話し、笑い合い、積もる話をひとつひとつ語り合う。
そうこうしているうちにヘアメイクは仕上がり、幸も洋子も、持参したパーティードレスに着替えるため、着付け室へと移動した。
小さい頃からずっと、洋子は幸を見てきた。
だから誰よりも、幸の美しさを知っている——そのはずなのに。
その洋子ですら、
「……幸……」
思わず息をのんだ。
言葉が続かない。
ドレスに身を包んだ幸の姿は、息を呑むほど美しく、圧倒的だった。
淡くくすんだダスティローズのシルクサテンは、光を受けるたびに柔らかな艶を放ち、幸の白い肌をいっそう引き立てる。
甘さと落ち着きが同居するその色合いは、幸がもつ上品な雰囲気と驚くほど調和していた。
身体に沿うように滑らかに描かれたラインは、幸のスタイルの良さを品よく際立たせ、立ち姿をしなやかに、美しく整えている。
洋子をはじめ、周囲のスタッフまでもが見とれてしまうほどだった。
匠が用意したアクセサリーは、ひと目で最高級品とわかる精巧な輝きを放ち、
それを身に着けた幸の装いは、まさに“完璧”という言葉がふさわしい。
「幸、本当に綺麗だよ。……もう、幸が私の親戚で親友だってことが、心の底から誇らしいよ」
洋子は目を輝かせながら、惜しみなく幸を褒め称えた。
そのやり取りを聞いていた店長が、ハッと何かを思いついたように顔を上げ、
「社長、西村様のお写真を撮らせていただいてもいいですか? お店のホームページに載せたいんです!」
真剣な目で頼み込んできた。
続けて、スタッフたちも興奮気味に声をそろえる。
「SNSに西村様のお写真を載せたら、間違いなく“バズ”ります!」
「問い合わせが殺到するの、絶対ですよ!」
スタッフ皆で、お願いの嵐。
スタッフの熱い視線にたじろぎながら、
「いや、でもそれは……」
洋子は、困り顔で幸へと視線を向ける。
「えっ……ど、どうすれば……」
幸も戸惑うばかりだ。
「お店の、いい宣伝になると思うんです。ぜひお願いします!」
店長が深々と頭を下げてくる。
そこまで頼まれると、断るのは難しい。
洋子にはいつもお世話になっているし、洋子のお店の役に立てるなら——。
「……わかりました。私でよければ」
幸は、お願いを受け入れた。
そこから、スタッフに何枚か写真を撮ってもらった。
「幸、ありがとうね」
洋子がお礼を言う。
その洋子の周りで、店のスタッフたちも頭を下げた。
幸は、微笑みを浮かべ、
「それじゃ、洋子。会場で会おうね。」
「OK、また、後でね」
幸は、ボディーガードと共に、美容室を後にした。
幸は、洋子が経営する美容室で、パーティーに向けて身支度を整えていた。
幸のヘアメイクを担当するのは、世界大会で優勝経験を持つ本店の店長。
鏡の前の椅子に腰かける幸の隣では、洋子もまた、チーフスタイリストに手際よくヘアメイクを仕上げてもらっている。
実は今日のイベントには、洋子自身も参加することが決まっていた。
もともと招待状は朋美ママ宛てに届いていたが、当の朋美ママは予定が立て込んでいて参加が難しい。
そのため、山川家の代表として洋子が代わりに出席することになったのだ。
そんな事情もあって、ふたり並んでヘアメイクの施術を受けているわけなのだが――
「ねぇ、幸。……あの黒服の男たちって、もしかしてボディーガード?」
女性客が多い美容室の中で、体格のいい黒服の男性三人組はどう見ても異質で、
目立つ。
「そう。圭吾のことを警戒して、匠さんがボディーガードをつけてくれたの」
「そうなんだ……。最初、黒服三人組を見た時は、文お祖母様も一緒に来てるのかと思っちゃったわよ」
洋子がクスッと笑い、ちらりと幸を見る。
「でも、その彼……幸のこと、本当に大事にしてくれてるんだね」
洋子の言葉に、幸の胸にふわりと温かさが広がった。
「そうなの。いつでも私のことを気遣ってくれるから……。匠さんといると、心が穏やかでいられるの」
匠の話をするだけで、幸の心は幸せで満たされる。
「本当にいい人なんだね。それにしても、早かったよね。幸がこんなに早く婚約するなんて、私もビックリしちゃったよ」
「実は、私自身が一番驚いてるの……。だから、洋子が驚くのも無理ないかも」
婚約が決まった時、幸は電話で簡単な報告だけはしていた。
けれど、こうして顔を合わせるのは久しぶりだから、話題は次々とあふれ、会話が尽きることがない。
近況を話し、笑い合い、積もる話をひとつひとつ語り合う。
そうこうしているうちにヘアメイクは仕上がり、幸も洋子も、持参したパーティードレスに着替えるため、着付け室へと移動した。
小さい頃からずっと、洋子は幸を見てきた。
だから誰よりも、幸の美しさを知っている——そのはずなのに。
その洋子ですら、
「……幸……」
思わず息をのんだ。
言葉が続かない。
ドレスに身を包んだ幸の姿は、息を呑むほど美しく、圧倒的だった。
淡くくすんだダスティローズのシルクサテンは、光を受けるたびに柔らかな艶を放ち、幸の白い肌をいっそう引き立てる。
甘さと落ち着きが同居するその色合いは、幸がもつ上品な雰囲気と驚くほど調和していた。
身体に沿うように滑らかに描かれたラインは、幸のスタイルの良さを品よく際立たせ、立ち姿をしなやかに、美しく整えている。
洋子をはじめ、周囲のスタッフまでもが見とれてしまうほどだった。
匠が用意したアクセサリーは、ひと目で最高級品とわかる精巧な輝きを放ち、
それを身に着けた幸の装いは、まさに“完璧”という言葉がふさわしい。
「幸、本当に綺麗だよ。……もう、幸が私の親戚で親友だってことが、心の底から誇らしいよ」
洋子は目を輝かせながら、惜しみなく幸を褒め称えた。
そのやり取りを聞いていた店長が、ハッと何かを思いついたように顔を上げ、
「社長、西村様のお写真を撮らせていただいてもいいですか? お店のホームページに載せたいんです!」
真剣な目で頼み込んできた。
続けて、スタッフたちも興奮気味に声をそろえる。
「SNSに西村様のお写真を載せたら、間違いなく“バズ”ります!」
「問い合わせが殺到するの、絶対ですよ!」
スタッフ皆で、お願いの嵐。
スタッフの熱い視線にたじろぎながら、
「いや、でもそれは……」
洋子は、困り顔で幸へと視線を向ける。
「えっ……ど、どうすれば……」
幸も戸惑うばかりだ。
「お店の、いい宣伝になると思うんです。ぜひお願いします!」
店長が深々と頭を下げてくる。
そこまで頼まれると、断るのは難しい。
洋子にはいつもお世話になっているし、洋子のお店の役に立てるなら——。
「……わかりました。私でよければ」
幸は、お願いを受け入れた。
そこから、スタッフに何枚か写真を撮ってもらった。
「幸、ありがとうね」
洋子がお礼を言う。
その洋子の周りで、店のスタッフたちも頭を下げた。
幸は、微笑みを浮かべ、
「それじゃ、洋子。会場で会おうね。」
「OK、また、後でね」
幸は、ボディーガードと共に、美容室を後にした。
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