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第66話【映画のワンシーン】
洋子の店を出た幸は、一旦マンションに戻り、身支度を整えていた匠と合流した。
そしてそのまま、パーティーが行われるホテルへと向かう。
会場となるホテルには、黒田ホールディングスの重鎮たちが勢揃いしていた。
圭吾の祖父である黒田ホールディングス会長夫妻も、当然のように参加している。
圭吾も、婚約者の由紀を伴って出席していた。
圭吾は、幸と会ったあの日から、ずっと心の中で怒りの炎を燃やしている。
――水沢の奴、誰を伴ってくるんだ?
匠の元にも招待状が届いていることを、圭吾は知っていた。
こういったパーティーでは、社長や役員クラスは配偶者同伴が主流だ。
夫婦同伴は「安定」や「信用」を示す象徴でもある。
まだ結婚していない若手社長なら、一人での参加でも問題はない。
だが、婚約者や公に認められた恋人がいる場合は、一緒に参加することで、
その関係の誠実さを周囲に示すことができる。
圭吾は、疑いようもなく確信していた。
幸のような“ただの一般庶民の女”を、
水沢ホールディングスの御曹司でもあるあの男が伴ってくるはずがない——と。
匠が一人で来ようが、あるいは別の名家の令嬢を連れて来ようが、どちらにしても
”幸は公には連れて歩けない”という証明になる。
そうなれば、皮肉の一つでも浴びせてやろう——
圭吾は、そんな思惑を胸に抱きながら、密かにその瞬間を待ち構えていた。
そんな圭吾の隣で、由紀は満面の笑みを浮かべている。
「黒田社長は、こんな可愛らしい方と婚約されたんですね」
「由紀さんは、会うたびにますますお綺麗になられて」
「黒田社長と婚約だなんて、本当に羨ましいです」
由紀の周囲には、「綺麗」「可愛らしい」「羨ましい」と、賞賛の言葉が次々と
飛び交う。
美男美女のカップルとして、皆が口々に褒め称えていた。
圭吾の両親も、集まる賛辞を聞きながら満面の笑みを浮かべ、上機嫌だ。
そんな中——
招待客たちが次々と会場入りし、洋子も恋人の藤原信(ふじわらしん)を伴って姿を見せた。
洋子は会場を見回し、幸の姿を探す。
しかし、どこにも見当たらない。
――まだ来ていないのかな?
入り口付近で幸を待とうと、信の腕をとり歩き出そうとしたその時だった。
会場の入り口付近で、突然ざわめきが起こる。
皆の視線が、一斉に入り口付近へと向けられた。
そのざわめきの中心にいたのは、【水沢イノベーションズ】の社長、水沢匠と幸だった。
男性としての威厳と品格を兼ね備えた匠の隣には、完璧な美しさと透明感のあるオーラを放つ幸が、匠にエスコートされながら歩いている。
まるで映画のワンシーンがそのまま現実になったかのような二人の姿に、その場にいた全ての人が、一瞬で視線を奪われた。
特に、幸の“信じがたいほどの美しさ”は、女性でさえ思わず息を呑むほどだった。
「……なんて綺麗な方なの」
「モデルみたい。あのスタイル……」
嫉妬するレベルを超えた美しさは、女性でも見ていて楽しいもので、目の保養になる。
「ねえ、あの女性をエスコートしている男性……水沢ホールディングスの御曹司なんですって」
「やっぱり。一流の男性は、連れて歩く女性も一流なのね……」
人々は、幸が放つ気品とオーラに圧倒されていた。
取引先の社長たちも、幸の姿に気づくと、
「……西村さんか。なんと美しい……」
思わず感嘆の声を漏らす。
そして、幸の薬指で光る指輪に視線が吸い寄せられると、
「水沢社長と婚約したという噂……どうやら本当らしいな」
小さく囁き合った。
その指輪こそが、二人の関係を疑いようもなく証明していた。
匠が会場に姿を現したことで、まだ取引のない各企業の社長たちは、“今のうちに挨拶だけでも”と、我先に匠のもとへ歩み寄り、瞬く間に人だかりができていった。
その異様な熱気に気づき、圭吾と由紀も視線を向ける。
――有名な芸能人でも来たのか?
圭吾も由紀も、最初はそう思った。
興味深そうに人だかりを見つめていると、ざわめきの中心から、一組の男女がゆっくりと姿を現した。
その瞬間、圭吾の顔色がサッと変わる。
――まさか……嘘だろ。
端正な立ち姿。
周囲を圧倒する存在感。
その二つを目にしただけで、圭吾は一瞬で悟った。
――水沢匠!
そして、その隣に寄り添う女性は――
――幸!
紛れもなく彼女だった。
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