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「あまがみのみこと」第三章:歌声が届ける希望
しおりを挟む「おばさん」から「それは苦しむ人の心を鎮め癒す光、人の痛みを和らげ涙を眠りへと変える尊い歌の力、使命なの」と告げられてから「あまがみ」の心の中には二つの感情が同居していた
ひとつは漠然とした重圧と知らぬ間に受け継いでしまった大きな力への戸惑い
もうひとつは希望あの夜の小さな奇跡がまた誰かを救えるかもしれないという予感が入り混じり
その二つが交互にせめぎ合い彼女の心を揺らし続けていた
この力を使って、あの小さな子どものように誰かの苦しみを和らげることができるのだろうか?
そしてその日、試練は訪れた「おばさん」の「尊い歌の力、使命なの」という言葉に背中を押され彼女は近所の老人会の集まりがあり
そこで歌を披露することになったのだ大勢の人の前で歌うのは初めてで胸がどきどきした子守唄とは違う
あの不思議な光と感覚は、また再び起こるのだろうか会場に足を踏み入れた
ざわつく会場の中を見渡すと多くの病気で苦しむ者ただ時を待つばかりの者
皆のその顔の表情には諦めや深い悲しみが刻まれている「本当に私に、この人たちを癒せるのだろうか……?」胸の奥で震える声がした
「それでは今日は「あまがみ」さんが歌を歌ってくれますよ」
司会者の言葉に促され「あまがみ」は重い足取りで中央へ進み壇上に上がった
ざわついていた会場が一瞬で、しんと静まり返る百もの人々の視線が彼女に突き刺さるように感じ思わず俯いてしまう緊張で手が震えそうに
なるのを必死で抑え、ゆっくりと息を吸い込み呼吸を整え意を決して心の中で
あの夜の子どもの寝顔を思い浮かべながら、そして一音
一音を慈しむように静かに歌い始めた願うのは、ひとつ誰かの心を救いたい
「時が止まるまで~君を忘れない~」
その歌は光その歌は祈り、その歌声は最初の一音は
かすかな、さざなみのように、そして瞬く間に会場全体を波紋となって包み込み一人一人の心の奥底へと染み渡る
それまで老いと病に疲れた顔で、どこか虚ろだった老人たちの目に
ゆっくりと、わずかな生気が戻っていくのが分かった歌が進むにつれて彼らの表情に微かな変化が表れ始めた
これまでずっと険しく眉間に刻まれていた苦痛の皺が少しずつ
まるで氷が溶けるように緩んで、うつむいていた顔がゆっくりと静かに上がり、どこか遠い場所を見つめるような
しかし安らぎに満ちた眼差しへと変わっていった
そして幾人かの中には、知らず知らずのうちに頬を伝う涙を拭う者もいた
だがそれは悲しみの涙ではなかった長年心の奥底に沈んでいた後悔や孤独による寂しさ
そして病の苦痛が優しい歌声によってそっと洗い流されていく
まるで遥か昔の楽しかった日々を懐かしみ思いを馳せて穏やかな微笑みが自然と浮かんだのだ
長らく寝たきりだった老人が、かすかに指を動かす
その小さな動きは確かに希望の証だった彼らの心に巣食っていた苦痛や絶望が温かい光となって解き放たれていく会場全体が深い安らぎと言葉にできないほどの感謝の空気に満たされた
歌が終わった瞬間「あまがみ」の全身から力が抜ける感覚に襲われた膝から崩れ落ちそうになるのを必死で耐える
だがしかし会場は静まり返ったまま、それは沈黙ではなく誰もが息を潜め
まるで神聖な儀式が終わった後のように祈りに似た静けさ
ただ、それぞれの心の平穏に浸る、その静寂が「あまがみ」の心を強く打った
やがて、その沈黙を破り一人の老人が震える手を合わせるように小さくゆっくりと拍手を始めた一人また一人と波のように重なり合い次第にその乾いた音は瞬く間に会場全体に広がり響き渡っていき
やがて嵐のような拍手喝采と大歓声へと変わり「あまがみ」への感謝の声で満たされた
「あまがみ様だ…」「救いの声だ…」賛美称賛を口々にするその言葉に
「あまがみ」は胸を震わせ彼らの瞳には確かに希望の光が宿っていった
それは絶望を越えて、なお生きようとする力そして「あまがみ」自身の心をも照らす光だった
その日、歌声は奇跡となった、それは過去から受け継がれた力であり未来へと続く灯火「あまがみ」の歌は人々の心に希望を届ける
その真実を彼女は初めて全身で知ったのだった
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