「あまがみのみこと」

あまがみのみこと

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「あまがみのみこと」「失われた名前とリーネ」第一章:リーネと証明者

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夜明け前の静寂まだ誰も知らぬ深い裂け目が世界と世界の狭間に

ひそやかに口を開いていた、そこは夢と現実の境界にあり幾億よりも遥か無限に広がる並行世界の記憶が絡み合い一つの声に還ろうとする場所

その深淵から一人の少女が歩み出た銀の髪を持たぬ彼女の姿

少女の目は虚空を映していた「アッシュ」が心の底に焼き付けた妹「リーネ」と酷似していた

いや酷似ではない少女の瞳の奥には確かに、かつての妹が残した祈りの残響が宿っていたのだ

「兄上……」彼女が初めて口にしたその言葉は彼女自身の記憶ではなく滅び去った世界から流れ込んだ魂の断片の記憶に導かれたものだった

彼女の真の名は故郷の炎と共に消え「リーネ」ではない

だが無数の世界を渡る過程で魂の淵源にある彼女の中に刻まれた別の世界の記憶「リーネ」の声が

まるで古いフィルムのように焼き付き彼女自身の存在を覆い尽くしてしまった彼女は自身が誰かの妹であるという認識を持つ様になった

その誰か「アッシュ」の姿を初めて見た瞬間には彼女の虚ろな心に一つの声がこだまする「兄上……」

だから彼女は出会った瞬間に「アッシュ」を兄上と呼び「アッシュ」もまた彼女を妹と認めてしまった互いに錯覚しているのではなく互いの魂に残された残響が必然のように重なり合ったのだ

彼女は、ある並行世界からやって来た、そこでは王族と太古の魔族の盟約が露見し故郷は炎に呑まれ民は裁定者たちにより修正という名の破滅に巻き込まれた

その世界で彼女はただ一人生き残った裁定者の介入を目の当たりにし

その手に刻印のように残った革の腕輪は世界を越える時に彼女の存在を繋ぎ止めた唯一の証だった

彼女は知っている裁定者がただの兵ではなく歴史そのものを削り取り選別する存在であることを

王族らが理想を掲げながらも、それをどのように都合よく操作してきたかを

そして自分の一族がその理想の犠牲になった事を

だからこそ彼女は戦場で叫ぶ「偽りの理想を信じるな真の敵は王族と彼らの背後に潜む契約そのものだ」と

その叫びは彼女自身の怒りで、あると同時に、かつて「アッシュ」の妹が言えなかった言葉で魂による代弁でもあった

彼女は決して「アッシュ」の妹ではない、だが彼女の中には妹の犠牲と「銀髪の歌姫」の魂の欠片が交わり彼女自身の存在理由すら塗り替えられてしまった

だから彼女は自らの意志と憎しみを武器に世界を渡り「アッシュ」と「あまがみ」の前に現れたのだ

夜空を渡る飛行船の影を見上げるたび彼女の脳裏にはあの言葉が蘇る歴史の修正者が滅びゆく世界で囁かれたその名を彼女は忘れた事がなかった彼らは神に選ばれ設計と構築された存在であり歴史の汚濁を削ぎ落とす刃で同時に

それもた新たな歪みを生む存在だった「リーネ」は

ただ復讐のために剣を取ったのではない彼女の使命は証明だった自らが生き残りとなった世界の悲劇を別の世界で繰り返させないために

だが、その使命は彼女をますます「アッシュ」の妹「リーネ」の影に縛りつけていく彼女は夜ごと夢を見る

そこでは幼き日の「アッシュ」が自分の名を呼ぶ「リーネ」と

だが夢が醒めれば、その声は自分のものではなく

別の世界に生き別の運命を歩んだ少女のものだと知る

それでも彼女は抗えない、その声に導かれ「アッシュ」を兄上と呼び続ける

「私は……誰のために戦っているのだ……」

彼女の胸に宿る疑問は「あまがみ」の歌声に触れるたび

かすかに震えを帯び始める、その歌声は彼女の中の「リーネ」の魂を呼び覚まし、かつての自分ではない己を

より鮮烈に浮かび上がらせるのだ彼女は異邦からの来訪者であり記憶の亡霊であり復讐者であり

そして証明者だからこそ彼女は「アッシュ」と「あまがみ」の物語に不可欠な影として現れた

詩のように重なる声がある兄上、妹よ、それは真実ではない

しかし真実以上に重い余韻が血を分け合った証ではなく魂が互いに染み込ませ銘打った呼び名その称呼と呼称が彼らの運命を絡めとり

やがて神すらも揺さぶる真実の扉へと導いていく「リーネ」は歩みを止めない彼女の前に待つものが赦しであれ断罪であれ彼女はその名を背負って戦場に立ち続けてゆく彼女が妹と呼ばれ続ける限り

その存在は世界の境界にゆらぎ、ながらも確かな痛みと共に生き続けるのだ夜空に輝く星々を見上げながら彼女は静かに誓う魂の偽りであったとしても
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