楽将伝

九情承太郎

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第二章 君を守るために僕は夢を見る

六十六話 ディズニーランド二個分(3)

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「今の道薫どうくんにあるのは、戯言と寝言、あとは夢ですな」
「足りとるわ」
 荒木道薫どうくんの出したものに苦笑しつつ、秀吉はまだ話の矛先を向けたまま。
「では、戯言を聞こうか。此処に建つ大坂城は、攻略可能か?」
「誰も攻めに来ないので、不落かと」
 その言い方に、秀吉が引っ掛かる。
「難攻不落ではなく、不落? 難攻は何処に行った?」
「この場所は、十万以上の大軍なら、包囲可能です。実際、石山本願寺が在った頃は、織田軍が囲んで詰んでいたではありませぬか」
「…」
「まあ、大坂城の主が天下人のうちは、誰も十万の大軍を集められないでしょうが」
「お前、わしが死ぬと、政権交代が起きる前提で話をしておらぬか?」

荒木道薫どうくん「え?(世継ぎ、いないじゃない、あんた。今更?)」

細川忠興ただおき「え?(各大名から養子取っているのに? あれは形式だけか?)」

千宗易「え?(ハーレム拡大しとるし、そのうち当たるやろ)」

金森長近ながちか「え?(お前、一発屋だって自覚がなかったのか、秀吉?)」

羽柴秀吉「え? 普通、そういうのは思っても、忖度しない? しないか? しないの? お祝いなんだから、嘘でも
『城の存在価値は分からぬが、えらく大した巨大城塞じゃのう』
 とか、
『この城さえあれば、秀吉の天下は磐石だね』
 くらいは、言ってくれてもええじゃないかええじゃないか、振る舞い酒喰らっておいて、何だよもう」

 いじける秀吉に、金森長近ながちかがフォローを吹き込みに近寄る。
「あ、金森の師匠が、悪い事を吹き込む時の顔だぎゃあ」
「羽柴様、羽柴様。死後の政権交代が不安でも、安心な保険がありまするぞ」
「やだー、聞きたくないー」
 石田三成が秀吉の両耳を掌で塞ごうとするが、長近ながちかが三成を上手投げで放り投げてから、悪い考えを吹き込む。
「徳川殿を政権の後見人にすれば、安泰ですぞ」
 秀吉の顔に、理解と恐怖が浮かぶ。
「ええええええ、でもおおおおお」
 妙案だが秀吉の死後は、子沢山で用意周到な家康が、政権を完全に乗っ取るだろう。
「あの方、桶狭間の近くを通過する時は、今でも今川義元の墓に手を合わせる程に、義理堅いですぞ」
「だああああけえええええどおおおおおおお」
 秀吉の築き上げた羽柴家は、織田家のように飼い殺しの境遇に落とされる。
「今川家の残党にも、織田家の遺児にも、武田家の遺臣たちにも公平で優しいですからね。あれこそ、死後の政権や財産管理を任せて大丈夫な方です」
「ううううううううんんんんんんん、でもわしの築き上げているものはあああああああ」
「あの世まで持って行けない物は、委託しちゃいなさい」
「持って行きたいいいいい~~~~離したくないよおおおおお~~此処までレベルアップしたのに」
 悩む秀吉に追い込みを掛けようとする長近ながちかを、石田三成がスライディングタックルで転倒させる。
「私が居るので、徳川殿はサポートだけで充分です」
 長近ながちかは三成の足を取って転がすと、4の字固めをかける。
「君では無理だ。人望も軍事力も足りない」
 激痛に耐えながら、三成はギブアップしない。
「金森殿が羽柴の陣営に残ったのは、その考えを殿に吹き込む為ですね?」
「そうだよ。羽柴と徳川の対立は、不毛な消耗戦になる。手を組ませるには、味方のふりをして調略するに限る」
「あんた、昔より怖いな、師匠」
 秀吉が、三成にかけられた4の字固めを解いてやる。
「佐吉。邪魔するな」
「はい」
 不満そうな顔で、三成は傍に控え直す。
 秀吉は、長近ながちかの顔を見据えて、言い渡す。
「…その手は喰わないぞ、金森。おみゃあさんは、竹ちゃんがこの秀吉に殺されないようにしたいだけだぎゃあ」
 長近ながちかは済ました顔で、受け流し、聞き返す。
「徳川に負けた場合を、想定していますか?」
 周囲の側近たちが息を呑むが、秀吉は動じない。
「いつかは徳川と一戦して、おみゃあの予想を覆してやるだぎゃあ。見とれよ。
 わしの軍勢は、既に織田も徳川も超えているだぎゃあ!!!!
 徳川抜きで、天下を治めてみせる!」
 大見得を切って、場を沸かす。
 秀吉のホームコートである。
 長近ながちかの意見に同意する者は、表向きはいない。

 秀吉が飲み直しに場を移してから、細川忠興ただおき長近ながちかに確認する。
「両方を救う気、であるか?」
「弟子同士の対決だからね。双方の出血を、最低限にしておきたい」
「やりたい事は察するが、逆効果やもしれぬぞ」
 一手を間違えたばかりに滅亡した一族を見飽きているので、忠興ただおきは心配してやる。
 忠興ただおきが手にかけた妹婿も、明智光秀の勧誘に一度乗ってしまった為に、秀吉に敵認定されて破滅した。
「細川殿も、考えておいてくれ。無益な戦いでは、本気を出さない事を」
 長近ながちかの方も、同じ心配を忠興ただおきに返す。
「一考は、しておく」
 細川忠興ただおきは無愛想に返事をすると、千宗易のいる方向に一礼してから、大坂城の採石奉行として小豆島に戻る。


 催しが終わり、茶道具等の片付けをする中。
 荒木道薫どうくんの心底から安堵した顔に、千宗易は笑みを浮かべる。
「なんや、吹っ切れたかいな?」
 荒木道薫どうくんは、大坂城の本丸(建築中)を見ながら、師匠に返答する。
「あいつも、最後には全部失うのかと思うと、楽になっちまった。あいつの大躍進も、夢のまた夢」
「なんちゅう縁起でもない生悟りや」
 千宗易は苦笑して、弟子の安らぎに対し、厄除けの手振りをする。
 荒木道薫どうくんは、この建築中の巨大城塞が炎上する様を夢想しながら、背伸びをして身体を労わる。



 荒木道薫どうくんは、堺で気ままに過ごし、三年後に普通に死んだ。
 享年五十二歳。
 勝ち逃げとも負け犬とも違う、奇妙な余生を過ごしたこの人物の法名(戒名)は、道薫どうくんだった。
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