九情承太郎の「この映画を勧めるぜ」

娘は戦場で生まれた

娘は戦場で生まれた

　この作品をどう紹介すればいいのか、全く分からなかったので、このエッセイでは扱わずにいました。
　既に世界的に有名なドキュメンタリー映画であり、俺が言うべき事は、無いかなと言うか、茶化してばかりの俺がコメントするとか、ちょっと余計かなとか、軽く扱える題材ではないとか、色々と気を回した結果、今日まで寝かせていました。
　
　気が変わったのは、先日『赤い闇』を観たからです。
　世間の無関心に、僅かでも傷を入れられるのであれば、無駄にはなるまいと。
　ジョージ・ウェルズが主人公にしたアドバイス「正しい文脈で伝えねば」に従って。


　シリアで内戦が起きているというニュースを、覚えているだろうか？
　２０１０年代の国際ニュースでは、結構頻繁にシリアでの内戦の様子が取り上げられていた。
　特にアレッポでの包囲戦は、民間人への非人道的な攻撃が行われており、破壊されていく都市の様子が何度か放送され、国際社会が抗議していると報道された。
　何のニュースも、第三者が外側から見た情報の集まりだった。
　遠くからの、記録でした。
　『娘は戦場で生まれた』は、このアレッポで生き抜いたワアド・アルカティーブ監督が撮影し続けた、真実の記録です。
　将来に希望を持つ学生が撮った、
　使命に燃えるジャーナリストが撮った、
　母親となり我が子を守りながら撮った、
　病院で人を救い続ける夫の激務を撮った、
　罪のない人々が殺され続ける現実が忘れ去られないように撮った、
　真実の記録です。

　そこには、戦禍でも消えない様々なユーモアが有る。
　絶望的な状況から生還した奇跡がある。
　病院すら標的にする凶悪な絶望がある。
　家族の死に狂乱しながらも、撮影を促す悲憤がある。

　生活している都市が戦争に磨り潰されていく恐怖の六年間の記録は、どれほど貴重でしょうか？
　この映画の存在は、希望です。


　今回は、後編を書きません。
　興味があれば、作品を見ていただくだけで充分です。