スガヲノ忍者 リチタマ騒動記2

九情承太郎

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4章 コンカフェに 雨が滴る 歌の市

六十四話 季節限定アンサー(11)

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【サンダーサボテンズ専用マイクロバス 車内】

 チーバーの海浜地帯から山道を越えて、反対側の東海岸沿いに入ると、サラサはダックリバーの隣町での休憩を選ぶ。
 大きな漁港側の魚市場に、一般観光客として駐車すると、サラサは背伸びと欠伸とストレッチで疲労を紛らわそうとする。
 まだ午前九時前だが、サラサは休憩時間を長めに取ると決めた。
「十時半まで時間を潰してから、出発する。サラサは、仮眠。起こした奴は、半裸の抱き枕カバーを販売される刑」
 ラフィーさんが目を輝かせたが、シマパンを履き直したリップからガン睨みされて、自粛する。
 ユーシアは、引き離されたシマパンを名残惜しそうに見送りつつ、忍者の常で周辺の情報を精査する。
「リップ。そこの浜辺は、まだ泳げないけど、散歩は出来る」
「歩くだけ?」
「浜辺は、歩くだけで充分」



【ヴィクトリー漁港側海水浴場(遊泳禁止期間中)】

 水着での立ち入りは禁じられ、梅雨間近の曇天。
 魚市場目当てで来た観光客の内、ごく少人数だけ、浅瀬で足を濡らしに近寄っている。
「ふっふっふっふ」
 リップは波打ち際の十メートル手前で靴下と靴をイリヤに預けると、裸足で波を体感しに歩みを進める。
 ユーシアも裸足になると、リップの周辺に気を遣いながら、波を感じに行く。
 波の寄せ返しを裸足で堪能しているリップの横から、ユーシアはリップの脚の様子をガン見する。
 ここ一ヶ月は武術の鍛錬をする機会が増えたので、再会時より逞しさを増している。
「ふう~~~。波だけで、満足しちゃうね。しかも飽きない。呆れたコンテンツだね、海は」
 これだけで満足してくれて安堵するユーシアに、リップが爽やかに追い討ちをかける。
「夏の海水浴シーズンでも快適に波を味わおうと思ったら、プライベートビーチが必要だね。金をかけるべきか、今回の旅でコネを発掘するか」
 リップは、波水で濡れた足で、ユーシアの足の甲を撫でる。
「二人っきりで、夏の海辺を満喫する道筋を、今から練ってね、ユーシア」
「練りに練ってみせるので、水着は縞模様のビキニでお願いします」
「うるさい、あたしの水着に指図するな」
 リップがユーシアに重ねた足を、邪険に踏む。
「指図じゃないもん、魂の叫び!」
 踏まれても踏まれても、ユーシアは己の性癖を曲げなかった。
 ユーシアの魂を圧し折る為に、リップの攻撃は鯖折りに変化する。 
 周辺の散歩客は、
「まあ、若いカップルが、熱烈に抱き合って」
「婆さん、わしらも、激ってきましたのう」
「くっ、あんなガキどもに負けてたまるか!」
 と、誤解したが、間近で見ているイリヤとエリアスは誤解しなかった。
 本気で肋骨を絞め上げにきたリップに対し、ユーシアは胴体部分に武鎧『佐助』を巻いて抵抗している。
「お庭番の武鎧、再支給されていたのね」
「食費が嵩むから、お願いした。後でその分の仕事を任されると思う」
「気付いていないの? お庭番だった頃より、仕事が増えているよ」
「処理速度は上がっているから、捌けるよ」
 ユーシアは、武鎧を引き剥がそうとするリップに対し、お姫様抱っこで対抗する。
 そのまま浜辺を、波を踏み越えながら走ってみる。 
 リップは大喜びだったが、ユーシアは三分で疲れた。
「疲れた。食べに戻ろう」
「そこいら辺に、ワカメとか浮いていなイカ?」
「地元の海産物を試食しろと、海風が俺に命令している」
「あたしより海風を優先させた罪は、食後に贖って」
「喜んで」
 若い主人公カップルが波打ち際から離れると、海面下で出番を伺っていた半魚人が、背後からイリヤに声を掛けてくる。
「ねえねえ、そこのシマパンがブルーストライプな安産型の彼女~。卵細胞に、俺のを…」
 イリヤは居合斬りで大太刀を一閃させると、半魚人の足元の海を、底が見える程に深く俊烈に斬り裂いて見せた。
 鯨が跳ねたかのような水柱が盛大に巻き上がり、周辺の人々が仰天する。
「出直すであります」
 キッパリと断りつつ、自らの巻き起こした水柱で全身濡れてしまったイリヤは、バスの中で笑われに戻る。
「出直しますぎょ」
 半魚人は、最敬礼をして、海に戻った。



【サンダーサボテンズ専用マイクロバス 車内】

 市場で海鮮丼を喰らい、リップを再びお姫様抱っこしてバスに戻ると、イリヤが私服を脱いで水着に着替えていた。
 縞模様の、ビキニ水着である。
 ユーシアは顔を緩ませるが、見惚れはせずに席に座って視界から外す。
 リップは殺意を抑えてユーシアの上に座り、京極夏彦の新刊本を読み出す。
 イリヤはリップに言い訳しようとしたが、炎上しそうなのでヴァルバラが口に酢昆布を投げ込んで防いだ。
 この連中のノリに慣れたエリカリエとトモトが、イリヤの艶姿を撮影しまくる。
エリカリエ「豊作、豊作」
トモト「谷間がミキミに匹敵するヤバさだね」
イリヤ「それを拡散したら、怒るでありますよ?」
エリカリエ「顔は隠します。信じて」
トモト「観るのが乳ソムリエじゃなきゃ、分からないって」
イリヤ「ミキミが離反するのは、乳絡みの問題でありますか?」
エリカリエ&トモト「「違うよ!!」」
 途轍もなくどうでもいい理由が発掘されそうで、イリヤは追及を控えた。

 サラサが人員を確認してから、発車を伝える。
「次は、ミキミと最後に連絡が取れた場所に行く。最悪の場合、武装漁船が衝突し、ヤンチャな漁師さん達とスクラム勝負し、シュワちゃんがロケットランチャーを発射する修羅場になるから、諦めよう。
 ジ・エンド・オブ・センチュリー」
「ミキミの説得に失敗したら、遊びながらメンバー候補を探す。それ以外の事態が起きたら、逃げる」
 ユーシアが、サラサのアドリブには付き合わないと言い返し、サラサは舌打ちしながらバスの運転を再開する。
「♪次は地獄~ 地獄~ もちろん地獄~」
 サラサがアホな歌を歌い出したので、エリアスがカラオケ設備を起動させ、ユーシアがマイクを握る。
「偶には、俺も歌います。主人公だし。
 歌は至高の名曲
『ソルジャー・イン・ザ・スペース』」
 平均的な歌唱力だったが、まあまあ盛り上がった。
 歌い慣れていないので、一曲だけで喉が疲れた。
「代わりなさい、素人」
 リップがユーシアと、本とマイクを交換する。
「エリアス、次の歌は
『Z・刻を越えて』」

 めっちゃ凄い歌唱力だったので、誰もリップの後で歌おうとしなかった。
トモト「トモトにこれだけの歌唱力があったら、ピンでデビュー出来るのに…」
エリカリエ「…くわ~~…」
 サンダーサボテンズは、その後、リップには敬語を使うようになる。


 これがサンダーサボテンズ専用マイクロバスの、最後の休憩になった。
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