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遠江国掛川城死闘篇
米津常春という武将(6)
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問われて常春は、三秒呆れて、二秒苛ついて、六秒後には妙案かなと、腑に落ちた。
今川の姫と吉良の息子を縁組させれば、吉良ジュニアの身分は安泰で姫経由の教養を身に付けられるし、徳川は最高級の血筋をプール出来る。
(殿も認めるな、この話)
常春は得心するが返答が遅れたので、代わりに更紗が謙信に返答する。
「はい、その通りでございます。美朝姫様なら、上杉様のお眼鏡に適う人材でございます」
更紗が真面目に敬語を使ったので、えも言われぬ視線が徳川サイドから集中する。
「何よりである。私は見物を辞めて、今川に和睦を働きかける。それまで姫に刃が届かぬよう、努めてくれ」
その言葉の意味を、徳川サイドの大半は全く理解出来なかった。
意味が分かる者も、軍神の口から出るのかが、分からない。
言うだけ言って移動しようとする謙信の肩を、常春は思わず鷲掴みにして問い質す。
「どうして、城攻めが終わっていない前提で話されるのですか?」
謙信と目を合わせた瞬間、常春は貴人の肩に勝手に触れた非礼に気付いて、畏る。
謙信は、軒猿すら間に合わない動きで肩を掴んだ武将を、興味深く観察してから、咎めずに問いに答える。
「城主の朝比奈が開城を決意しても、大名の今川氏真が反対すれば、戦は終わらぬ」
「…あの無能な大名が、この段階でゴネると?」
そのあまりに馬鹿馬鹿しく愚かしい展開予想を、謙信は常春に詳しく断言する。
「この段階でではなく、この段階でもだ。無能者は、戦も政も降伏も命乞いも失敗する。攻める側が、そこまで慮ってやらないと、敵味方を無駄に巻き添えにして、自爆する」
次の台詞を言う謙信の目を、常春は見てしまった。
「本当に、ウンザリする。向いていないくせに戦と関わろうとする大名が、私の時間も無駄にしおる」
謙信の目が、虎のように獲物を求めて黒金の輝きを巡らせている。
人間に向けていい目ではない。
「私は、もっと高等な戦術を駆使出来る敵と戦いたいのに!
もっとマトモな戦略を考案出来る敵と見えたいのに!!
もっとキチンと戦争が出来る敵と何度でも戦いたいのに!!!!」
常春は、目の前の黒僧衣の軍神は、家康とは真逆の戦争愛好者であると知る。
こんなのに絡まれた武田信玄に、常春は初めて同情してしまった。
「無能な戦国大名の恐ろしさは、これから身に沁みて分かるだろう。彼奴等は、本丸で殺される最後の瞬間に至っても、無能だから殺されるまで無駄に戦い続けてしまったと言う過ちに気付かぬのだ。彼奴等の無自覚のせいで、戦国の世は無駄死の洪水が止まらぬ」
絶対強者による、敗者たちへの一方的な愚痴だった。
そこまで話して、謙信は吉良に一礼すると、最後の台詞を置いて行く。
「ではな、米津常春。君の次の仕事は、無能な戦国大名から、姫を守る事だ」
他国で他人の部下に勝手に命令しないで下さいと思う常春であったが、どうせ家康から押し付けられそうな案件なので、逆らわずに一礼して見送る。
「更紗。服部隊への繋ぎを、急いで頼む」
更紗は、常春の真後ろに、視線を送る。
釣られて振り返ると、服部半蔵が吉良から子息に渡す形見の品を確認している。
「茶道具は売らずに、総て譲渡、と」
「居たのかよ」
鬼面の忍者は、用事を済ませてから、常春に向き合う。
「後は、今川氏真を屈服させるだけです。このまま事を進めます」
「ふうん」
半蔵経由で家康が事態を見守っているならば、常春が気を遣う必要はない。
浅葱色の服を脱ぎながら、常春は懸念を確認する。
「で、本当に密約を反故にする気なの? 今川のアホ大名は?」
「まあ、仕方ないですよ。冷静に客観的に考え直して見れば、当方は…」
言葉を選ぼうとして、服部半蔵は取り繕う手間暇を省く。
「強盗殺人をしに来たロクデナシの軍勢ですから」
「まあな」
米津常春は、浅葱色の服を、本来の持ち主に返す。
吉良義安は、目礼だけで力なく返事を返した。
今川の姫と吉良の息子を縁組させれば、吉良ジュニアの身分は安泰で姫経由の教養を身に付けられるし、徳川は最高級の血筋をプール出来る。
(殿も認めるな、この話)
常春は得心するが返答が遅れたので、代わりに更紗が謙信に返答する。
「はい、その通りでございます。美朝姫様なら、上杉様のお眼鏡に適う人材でございます」
更紗が真面目に敬語を使ったので、えも言われぬ視線が徳川サイドから集中する。
「何よりである。私は見物を辞めて、今川に和睦を働きかける。それまで姫に刃が届かぬよう、努めてくれ」
その言葉の意味を、徳川サイドの大半は全く理解出来なかった。
意味が分かる者も、軍神の口から出るのかが、分からない。
言うだけ言って移動しようとする謙信の肩を、常春は思わず鷲掴みにして問い質す。
「どうして、城攻めが終わっていない前提で話されるのですか?」
謙信と目を合わせた瞬間、常春は貴人の肩に勝手に触れた非礼に気付いて、畏る。
謙信は、軒猿すら間に合わない動きで肩を掴んだ武将を、興味深く観察してから、咎めずに問いに答える。
「城主の朝比奈が開城を決意しても、大名の今川氏真が反対すれば、戦は終わらぬ」
「…あの無能な大名が、この段階でゴネると?」
そのあまりに馬鹿馬鹿しく愚かしい展開予想を、謙信は常春に詳しく断言する。
「この段階でではなく、この段階でもだ。無能者は、戦も政も降伏も命乞いも失敗する。攻める側が、そこまで慮ってやらないと、敵味方を無駄に巻き添えにして、自爆する」
次の台詞を言う謙信の目を、常春は見てしまった。
「本当に、ウンザリする。向いていないくせに戦と関わろうとする大名が、私の時間も無駄にしおる」
謙信の目が、虎のように獲物を求めて黒金の輝きを巡らせている。
人間に向けていい目ではない。
「私は、もっと高等な戦術を駆使出来る敵と戦いたいのに!
もっとマトモな戦略を考案出来る敵と見えたいのに!!
もっとキチンと戦争が出来る敵と何度でも戦いたいのに!!!!」
常春は、目の前の黒僧衣の軍神は、家康とは真逆の戦争愛好者であると知る。
こんなのに絡まれた武田信玄に、常春は初めて同情してしまった。
「無能な戦国大名の恐ろしさは、これから身に沁みて分かるだろう。彼奴等は、本丸で殺される最後の瞬間に至っても、無能だから殺されるまで無駄に戦い続けてしまったと言う過ちに気付かぬのだ。彼奴等の無自覚のせいで、戦国の世は無駄死の洪水が止まらぬ」
絶対強者による、敗者たちへの一方的な愚痴だった。
そこまで話して、謙信は吉良に一礼すると、最後の台詞を置いて行く。
「ではな、米津常春。君の次の仕事は、無能な戦国大名から、姫を守る事だ」
他国で他人の部下に勝手に命令しないで下さいと思う常春であったが、どうせ家康から押し付けられそうな案件なので、逆らわずに一礼して見送る。
「更紗。服部隊への繋ぎを、急いで頼む」
更紗は、常春の真後ろに、視線を送る。
釣られて振り返ると、服部半蔵が吉良から子息に渡す形見の品を確認している。
「茶道具は売らずに、総て譲渡、と」
「居たのかよ」
鬼面の忍者は、用事を済ませてから、常春に向き合う。
「後は、今川氏真を屈服させるだけです。このまま事を進めます」
「ふうん」
半蔵経由で家康が事態を見守っているならば、常春が気を遣う必要はない。
浅葱色の服を脱ぎながら、常春は懸念を確認する。
「で、本当に密約を反故にする気なの? 今川のアホ大名は?」
「まあ、仕方ないですよ。冷静に客観的に考え直して見れば、当方は…」
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