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第3話 共犯者の指先
しおりを挟む崩れ落ちる。
そう思ったのに、硬い床には届かなかった。
ふわりと、身体が浮く。 脇の下に差し込まれた腕。
狩野さんが、僕を抱き止めていた。
「……軽い」
耳元で呟かれた言葉に、羞恥で頬が熱くなる。
男子高校生が、女子に抱き留められ、軽い、と言われる。
その事実が、僕の男としての尊厳を容赦なく削り取っていく。
けれど、抵抗する力は残っていなかった。 胸の先端を弄られた刺激が、腰の髄まで痺れさせていたからだ。
彼女はそのまま僕を引きずり、すぐ横のパイプベッドに放り出した。
きしり、とスプリングが音を立てて沈む。
仰向けになった僕を、狩野さんが見下ろしている。逆光で暗いその顔の中で、瞳だけが濡れたように光っていた。
「……やめ、て」
自分が出した声に、言葉に、僕は震えた。
やめて。
それって、なにを。
僕はなにを、想像しているんだろう。
「やめてって……何を?」
僕の思考をなぞったように、狩野さんは口角を持ち上げた。
答えられない。
小さく首を振っている僕の横、ベッドの淵に彼女は腰をおろした。
「ね。なに、を?」
言いながら、手を持ち上げる。
細くて白い指を、僕のほうへ差し向ける。
人差し指が、露わになっている僕のおなかを、こり、と削る。
「……ん」
漏れてしまった声に、口元を抑える。
自分のものではないような、甘く高い吐息。
「君って、さ。男の子なの? それとも……」
「……おと、こ」
やっとのことで絞り出した声に、狩野さんは小さな笑い声をたてた。
「男の子は、あんな声、出さない」
もう一度、おへその周りをくるりと、彼女の爪が巡る。
「……あ、ん」
「ね?」
彼女は僕の頭の横に手を突いた。顔を覗き込むように近づける。
長い黒髪がさらりと落ちて、僕の頬を撫でた。
「胸だけじゃないんでしょ……他も、変わってるの?」
心臓が止まった、と感じた。
彼女の視線が、ゆっくりと下へ移動する。
はだけたシャツ、乱れた呼吸をする腹部、そして……制服の、ズボンへ。
「……そこは、だめ……っ」
無意識に足を閉じ、手で股間を隠す。
いちばん知られたくない、いちばん見られたくない。、かつての証が萎んでしまった惨めな場所。
そして今は、得体の知れない熱と粘り気を孕んでいる場所。
「隠すと、余計に見たくなる」
狩野さんの手が、僕の手首を掴んだ。 強い。 僕の手はあっけなく跳ね除けられる。
「だめ……あ……!」
制止の言葉は、悲鳴に変わった。
彼女の手のひらが、ズボンの上から下腹部に押し当てられたからだ。
「っ……!」
背中が弓なりに反る。 布越しの感触。それだけで、頭が真っ白になるほどの快感が脳を揺さぶった。
熱い。彼女の手の冷たさがうらはらに、急上昇した僕の体温を浮き彫りにする。
「……やっぱり」
彼女が小さく息を吐いた。
掌で何かを確かめるように、ゆっくりと、撫でる。
「ちいさく、なってる……ぺたんこ」
事実を突きつけられ、目尻から涙が滲んだ。
男じゃない。もう、僕は男じゃない。
その絶望は、深い。
深いはずなのに、どうして。
彼女にそう断定された瞬間、どうして身体の奥が安堵したように緩んだんだろう。
「ふうん……日高、可愛い顔してると思ってたけど」
狩野さんの手が離れる。
失われた温もりに、名残惜しささえ感じてしまう自分が恐ろしい。
彼女は僕の顔にかかった前髪を払い、楽しそうに目を細めた。
「中身まで女の子になっちゃったんだ」
それは確認ではなく、宣告だった。
僕は荒い息を吐きながら、彼女を見上げることしかできない。
捕食者に見つかった小動物。 いや、違う。
これは、共犯に近い関係だ。
「誰にも言わないでいてあげる」
彼女の唇が、僕の耳に触れるほどの距離で囁く。
「その代わり……わたしの研究材料になってよ。その身体の変化、全部。わたしに見せて」
逃げられない。
その言葉が、鎖のように僕の心と身体を縛り付けた。
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